円高の流れが定着するも新安値は来週か
〇先週のドル円、買い戻されたところではカウンターで売りが出てくるという動きが継続
〇米雇用統計の下方修正、日銀総裁引き締めスタンス継続確認、FRB議長の利下げ開始明言の3つが背景
〇円相場の方向性、ドル安・円高の流れが定着していくか
〇8月安値と戻り高値との78.6%押し143.32が目先のターゲット
〇同水準を下抜けると、来週の雇用統計に向けて、全戻しの141.67が視野に
〇今週は142.25レベルをサポートに、145.25レベルをレジスタンスとする週を見る
先週のドル円は、大きくうねりながらも連日上値の重さを感じさせ、買い戻されたところではカウンターで売りが出てくるという動きが続きました。材料としては、米国雇用統計の下方修正、植田日銀総裁の閉会中審査、ジャクソンホールでのパウエルFRB議長講演の3つでしたが、どれも今後の金融市場を考えていく上で重要な要素となってきますので、順に振り返って行きます。
(1) 米国雇用統計の下方修正
米国雇用統計は例年1月雇用統計の発表時(2月)に修正値が発表されていますが、それに先立って暫定値が年次改定推定値として米国労働省から発表されます。今回は21日の発表を前に大幅に下方修正される可能性が高いと言われ、60万人程度の下方修正が見込まれていました。
実際には3月時点で81.8万人の下方修正となり、月あたりー6.8万人となりました。これは、これまでの雇用者数平均+24.2万人から+17.4万人への大幅な下方修正で過去15年で最大の修正となりました。つまりこれまで雇用は強いと見られていたことに対して、実際はそこまで強くは無かったということになります。
このことが23日ジャクソンホールでのパウエルFRB議長の想定よりもハト派な発言につながったと見てよいでしょう。
(2) 植田日銀総裁の閉会中審査
日銀総裁の閉会中審査自体は珍しいとはいえ、黒田前日銀総裁時代にもありましたし、今回は追加利上げ後に金融市場が混乱したこともあり、鈴木財務相とともに衆参両院による閉会中審査で説明することとなったものです。
植田日銀総裁は、市場は引き続き不安定な状況にあり極めて高い緊張感を持って注視すると発言し、7月末の政策変更で一方的な円安の修正が進んだこと、市場ともコミュニケーションを取り、適切な金融政策を運営していくことを説明し、金融緩和の度合いを調整する基本的な姿勢は変わらないと、今後も引き締め方向の流れには変化は無いとしました。
想定内の内容だったことから大きな動きには繋がりませんでしたが、日銀の引き締めスタンス継続と日米金利差縮小による円高の流れを確認したと言えます。
(3) ジャクソンホールでのパウエルFRB議長講演
ジャクソンホールでのFRB議長講演はその後の金融政策運営を説明する場として使われることが多いのですが、今年は緩和への転換に言及があるかが注目されていました。
大方の予想通り、パウエルFRB議長は「金融政策を調整する時が来た」と9月からの利下げ開始を明言したと言えます。他にもインフレ率は2%の物価目標に持続的に向かっている、労働市場はかつての過熱状態からかなり落ち着いてきているがこれ以上の冷え込みや減速は望まないとし、インフレ再加速のリスクが減った一方で雇用が悪化するリスクは増大しているとの見方を示しました。
FRBはインフレと雇用が二本柱ですから、インフレが落ち着き雇用の悪化が見えてきている以上、9月からの利下げが適当であると事前に明言したことになりますが、利下げ幅やペースは今後のデータ次第と9月に0.5%の利下げを行う可能性も排除はしていないと見られます。
CMEのFEDウォッチャーでは、9月の利下げは0.25%が76%とコンセンサスですが、11月は0.25%が53%、0.5%以上が47%と見方が分かれています。12月時点での政策金利は4.25〜4.5%がコンセンサスとなっていることから、11月もしくは12月に0.5%の利下げを行う可能性が高いと見られています。
9月FOMCではドットプロット(金利見通し)が併せて発表されますので、その数字にも注目が集まりそうですが、おそらくFRBとしては3回(0.75%)の見通しを示してくる可能性が高いのではないかと思います。
ただ、先週のイベントをきっかけに年末に向けての日米金利差縮小を改めて確認したことで、円相場の方向性はドル安・円高の流れが定着していくこととなるでしょう。テクニカルにはいつもの日足チャートをご覧ください。
年初来(7月)高値と8月安値の38.2%戻しとなる149.42が戻り高値と重なったことで、現在は8月安値と戻り高値との78.6%押し143.32が目先のターゲット、同水準を下抜けると全戻し141.67を視野に入れる展開となります。ただ、今週よりも来週の雇用統計に向けて全戻しの動きを想定する展開になるのではないかと見ています。
今週は最初のターゲットを下抜けるものの141円台トライはお預けと見て142.25レベルをサポートに、上値は145円台では売りが出やすくなると見て145.25レベルをレジスタンスとする週を見ておきます。
このチャートは、ローソク足の足型をそのままに陰陽の着色のみを平均足と同様とすることで、短期的な方向性(白=上昇、黒=下降)を見やすくした独自チャートとなっています。
また、一目均衡表を併せて表示することで上下のチャートポイントもわかりやすく示しました。
今週の予定(時刻表示のあるものは日本時間)
今週注目される経済指標と予定をあげてあります。影響が少ないものはあえて省いています。FRB地区連銀総裁講演の内、2024年FOMCメンバー(ニューヨーク、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、サンフランシスコ)ではない地区連銀総裁はカッコ付で示しました。また、わかりやすさ優先であえて正式呼称で表記していない場合もあります。特に重要度の高いイベントに☆印を付けました。
8月26日(月)
17:00 ドイツ8月企業景況感
21:30 米国7月耐久財受注
8月27日(火)
15:00 ドイツ4-6月期GDP改定値
19:45 オランダ中銀総裁講演
22:00 米国6月住宅価格、ケースシラー住宅価格 ☆
23:00 ドイツ連銀総裁講演 ☆
23:00 米国8月リッチモンド連銀製造業景況指数 ☆
23:00 米国8月消費者信頼感
8月28日(水)
15:00 ドイツ9月消費者信頼感
15:45 フランス8月企業景況感
23:30 週間原油在庫統計
8月29日(木)
07:00 アトランタ連銀総裁講演 ☆
18:00 ユーロ圏8月消費者信頼感
18:15 レーンECB理事講演 ☆
21:00 ドイツ8月CPI速報値 ☆
21:30 米国新規失業保険申請数 ☆
21:30 米国4-6月期GDP改定値 ☆
21:30 米国7月卸売在庫
23:00 米国7月住宅販売保留件数
8月30日(金)
08:30 本邦8月東京区部CPI ☆
08:30 本邦7月失業率・有効求人倍率
15:00 ドイツ6月小売売上高
15:00 ドイツ7月輸入物価
15:00 英国8月住宅価格
15:45 フランス8月CPI速報値 ☆
15:45 フランス7月PPI、消費支出
15:45 フランス4-6月期GDP改定値
16:35 シュナーベルECB理事、フィンランド中銀総裁、他講演
16:55 ドイツ8月失業率
18:00 ユーロ圏8月CPI速報値 ☆、7月失業率
19:00 本邦介入実績公表
21:30 米国7月個人所得・消費支出 ☆
22:45 米国8月シカゴ購買部協会景況指数 ☆
23:00 米国8月ミシガン大消費者信頼感
前週の主要レート(週間レンジ)
(注)上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。
為替の高値・安値は東京午前9時ーNY午後5時のインターバンクレート。
先週の概況
8月19日(月)
週明けのドル円は東京市場では米金利低下と日経平均安とが重なって円買いが進行、後場には145.18レベルと145円の大台目前まで円高が進みました。その後は米金利が上昇に転じたことや値頃感からのドル買いも入り146円台半ばまで買い戻されて引けました。
8月20日(火)
東京市場のドル円は若干売りが先行後は日経平均上昇を見て買い戻しが入り、欧州市場序盤には147.34レベルの高値をつけました。セブンイレブンの買収に対して米国当局が反トラスト法で提訴する可能性があるといったことも前日円買いに動いた向きのポジション調整につながった様子でした。欧州市場以降は株式市場が下げ米金利も低下した動きを受け、NYの引けにかけては145.20レベルまで下げ安値引けとなりました。
8月21日(水)
ドル円は欧州市場前場までは株高の動きに沿って買い戻しが続き146円台前半でのもみあいでNY市場に入りました。注目の雇用者数年次改定を前にやや下げていたものの発表が遅れたことで買いも見られましたが、結果は今年3月までの数字が81.8万人の下方修正、月あたり約7万人の雇用が減少することとなり、ドル売り再開の動きとなりました。FOMC議事録は多くが9月利下げを適切と見ていることから一時144.45レベルまで水準を下げ、引けにかけては145円台前半を回復しました。
8月22日(木)
ドル円は東京市場では買いが先行した日経平均株価を見て、欧州市場では米金利上昇の動きからドル買い戻しの動きがNYまで続き、146円台半ばまで水準を切り上げました。NY市場では本日のジャクソンホールでのパウエルFRB議長講演を控えて146円台前半でのもあいのまま引けました。
8月23日(金)
植田日銀総裁の国会閉会中審査は利上げ後の金融市場混乱に対しての説明でしたが、想定内の内容で目立った反応は見られず、株式市場が下げて始まったことによる円高の動きから145円台前半へと押しました。その後は株式市場が堅調だったことからジャクソンホールを控えてのポジション調整で146円台半ばへと戻しました。パウエル議長は金融政策を調整する時が来たと、9月からの利下げを明示する発言をしたことから、米金利低下とドル安の動きとなり、144円台前半に押しての引けとなりました。
注:ポイント要約は編集部
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