中銀総裁と財務相交代をきっかけに9日は急騰したが10日は乱高下
〇トルコリラ円、12.46まで急落後持ち直し11日早朝には12.96まで切り返し
〇トルコ財務相に就任のエルバン元副首相「市場重視の変革で国内外起業家のために投資環境を改善」
〇11/19トルコ中銀金融政策決定会合、市場は現行の10.25%から12%程度への利上げを予想
〇アルメニアとアゼルバイジャンは10日、係争地ナゴルノ・カラバフをめぐる停戦に合意
〇10日早朝高値13.05超えからは13.20台を目指す上昇を想定
〇12.70割れからは10日夕安値12.46試し、底割れからは12.20前後への下落を想定
【概況】
トルコリラ円は11月6日深夜安値で11.99円(ベンダ-によっては12円割れは回避)まで史上最安値を更新し、7日にはトルコ中銀の更迭が報じられ、8日にはアルバイラク財務相が辞任を表明したことでトルコの金融財政政策がさらに混乱に陥るのではないかとの懸念から週明けはリラ安進行不安が強まっていたのだが、蓋を開けるとリラは急騰となり、9日夜には13円を超えるところまで大幅続伸して10日未明には13.05円まで高値を切り上げた。リラ安を見込んでいた弱気筋が狼狽的な買い戻しを余儀なくされたこと、米ファイザー社によるワクチン治験の高評価と早期申請見込み報道からNYダウが史上最高値更新へと急伸し、ドル円も連動して103円台序盤から105円台半ばまで急騰したことで円安にも持ち投げられたが、対ドルでのトルコリラも急伸しており、9日夜にかけてのドル全面安の継続と南アランドやメキシコペソ等の新興国通貨高もリラ反騰に寄与した印象だ。
しかし10日は乱高下に見舞われた。ドル円の急伸が一服となり、米長期債利回り上昇によりドル全面安にはブレーキがかかったことでポンド以外が軒並み下落ないしは新たな高値更新へ進めずに持ち合いに留まる動きとなったことでトルコリラの急伸も一服となり、今度は反動安で10日夕刻には12.46円まで急落、再び持ち直しで11日早朝には12.96円まで切り返したが13円には届かずという乱高下となった。
対ドルでのトルコリラは6日夜に8.57リラまで史上最安値を更新した後、9日の急騰で7.99リラまで上昇したが、10日夕刻には8.36リラまで反落、その後に8.10リラ前後まで反騰するなど乱高下となっている。
10日に発表された8月のトルコ失業率は13.2%となり市場予想の13.8%及び7月の13.4%を下回った。
【中銀総裁と財務相の交代によるトルコ経済政策への期待?】
中銀総裁の更迭は9月に利上げを実施したことへのエルドアン大統領による不満を具現化したものとして今後の利上げ期待が後退するものと受け止められて更迭発表直後はリラ安要因と思われた。しかし財務相も交代させたことでこれまでの経済財政政策の失敗から脱却する可能性も出てきたとして週明けはリラ高要因へと市場の評価も変わったと思われる。
エルドアン大統領は10日に「高金利・インフレ・為替レートという罠に追い詰めようとしている人々に対して歴史的な闘争を行っている」とトルコ共和国建国の父であるムスタファ・ケマル・アタテュルクを記念する式典で演説した。
トルコの財務相に就任したエルバン元副首相は10日、、市場を重視した変革を行い国内外の起業家のために投資環境を改善すると述べた。同氏は「制度強化が重要であり財政規律は現実的なリスク管理を通じて維持される」「今後は新型コロナウイルス流行の影響が低下して新たな機会が形成される回復期になるだろう」「マクロ経済の安定性を強化しつつミクロ改革を含む市場に優しい変革プログラムに注力する」と述べた。また「税制度の予見可能性を高める」とし、「生産プロセスを輸出に向けた構造に変えることにより国内の生産能力を高める」とも述べた。娘婿の前財務相よりも相当程度に優秀な人材ではあろうが、果たしてトルコを巡る外貨準備不足、実質マイナス金利状態の長期化、多方面での地政学的リスクによる国際的な批判という状況から脱却できるのかどうか手腕が試される。
11月19日にはトルコ中銀の金融政策決定会合が予定されている。市場は現行の10.25%から12%程度への利上げを予想しているが、新中銀総裁が期待に応えられるのかどうかもエルドアン政権によるリラ防衛姿勢を評価する上で重要だ。また金融財政当局のトップ交代により新たな規制や逆に緩和等の制度変更、市場へのプレッシャー等が変わるのか見定めてゆく必要があるだろう。
【ナゴルノ紛争、ひとまず停戦】
アルメニアとアゼルバイジャンは10日、ロシア政府による仲介で係争地ナゴルノ・カラバフをめぐる停戦に合意した。アゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフにおいて今回の戦闘で制圧した地域を保持する一方、アルメニアは向こう数週間で進攻した複数の地域から撤退することに合意した。
ロシアは平和維持軍として前線警備に当たる。またアゼルバイジャンのアリエフ大統領にはトルコも平和維持プロセスに参加すると述べた。
アルメニアにとっては事実上の降伏であり、アルメニアの首都では停戦合意を批判して群衆が騒乱的な動きを見せているとの報道もある。
エルドアン大統領はこの合意について、アゼルバイジャンのシュシャがアルメニアの占領から救われたことにより喜びと希望が増したと述べつつも、カラバグ山岳(ナゴルノ・カラバフ)の占領が終わるまで戦いの旗は降ろさないとも述べている。
ロシアの停戦監視軍に対してトルコがどの程度コミットするのかは不明だが、シリア内戦では両国が停戦パトロールを合同で行ってきた経緯もある。ロシアとトルコはリビアやシリア、今回のナゴルノ紛争でも対立関係にあるものの天然ガスパイプラインやロシア製ミサイル導入等では協調しており、微妙なバランス感覚を保っている。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、11月9日の急騰により11月3日夜安値から3日目となる6日夜安値で直近のサイクルボトムを付けて強気サイクルに入った。高値形成期は9日午後から11日午後にかけての間と想定されたが、10日早朝高値でいったんサイクルトップを付けて10日夕刻へ下落したと思われる。新たな安値形成期は11日夜から13日夜にかけての間と想定されるが、10日からは乱高下でレンジの大きい三角持ち合いの様相でもあり、10日早朝高値を超えないうちは一段安余地ありとするが、10日早朝高値超えからは新たな強気サイクル入りとして13日早朝から17日朝にかけての間への上昇を想定する。
60分足の一目均衡表では9日の急騰で遅行スパンが好転、先行スパンを突破したが、10日夕刻への下落から乱高下しているため遅行スパンは実線と交錯に入っており、先行スパンの上限が下値を支える状況となっている。先行スパンを上回るうちは遅行スパン好転から上昇再開へ進む可能性を優先し、10日夕安値割れからは一段安入り及び先行スパンからの転落となるため遅行スパン悪化中の安値試し優先とする。
60分足の相対力指数は10日からの乱高下で50ポイントを挟んで方向感に乏しい。65ポイント超えから上昇再開を想定し、45ポイント割れからはもう一段安を警戒する。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、10日夕安値12.46円を下値支持線、10日早朝高値13.05円を上値抵抗線とする。
(2)12.70円以上での推移中は上向きとし、10日早朝高値超えからは13.20円台を目指す上昇を想定する。13.25円以上は反落注意とするが12.70円以上での推移なら12日は高値試しへ向かいやすいとみる。
(3)12.70円割れからは10日夕安値試しとし、底割れからは12.20円前後への下落を想定する。12.20円以下は反騰注意とするが、12.70円以下での推移なら12日も安値試しへ向かう可能性があるとみる。
【当面の主な経済指標等の予定】
11月11日
16:00 9月経常収支 (8月 -46.3億ドル)
11月12日
20:30 週次外貨準備高 11/6時点 (10/30 422.6憶ドル)
11月13日
16:00 9月鉱工業生産 前年比 (8月 10.4%、予想 7.2%)
16:00 9月小売売上高 前年比 (8月 5.8%、予想 3.6%)
11月19日
20:00 トルコ中銀金融政策決定会合 政策金利 (現行 10.25%、予想 12.0%)
20:30 週次外貨準備高 11/13時点
11月20日
16:00 11月消費者信頼感 (10月 81.9)
11月23日
17:00 10月観光客数 前年比 (9月 -59.4%)
11月24日
16:00 11月製造業景況感 (10月 108.1)
注:ポイント要約は編集部
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