値幅は期待できないが円高トレンド(週報8月第5週)

先週のドル円は、金曜の東京後場に思ったより急な首相の辞意表明が駆け回り、東京の金融市場は急速にリスクオフによる株安と円高での週末を迎えることとなりました。

値幅は期待できないが円高トレンド(週報8月第5週)

値幅は期待できないが円高トレンド

〇先週のドル円、金曜の首相辞意表明から株安と円高での週末を迎える
〇米国株式市場リスクオンで為替市場も思ったほど円高には行かない流れ
〇首相辞任表明、アベノミクス政策など基本的路線に変化なく金曜の反応はやや行き過ぎか
〇今週は米国雇用統計をはじめ、連日米国と欧州の経済指標目白押し
〇今週は104.80レベルをサポートに105.80レベルをレジスタンスとする流れ

今週の週間見通し

先週のドル円はジャクソンホールでパウエルFRB議長の講演直後に瞬間安値をつけたことを除くと金曜の昼まではドル買い戻しの動きが続いていました。テクニカルには20日高値106.22を上抜けたことでドル買いが加速する動きになったと言えます。しかし、金曜の東京後場に思ったより急な首相の辞意表明が駆け回り、東京の金融市場は急速にリスクオフによる株安と円高での週末を迎えることとなりました。

まず、パウエルFRB議長の講演ですが、インフレ率が2%を超えることがあっても許容する新たな方針を示しました。長期的に平均で2%というターゲットにより、これまで低かった期間を埋め合わせるまでインフレ率が上昇することを認めたわけですから、金融政策は長期間に渡って超緩和状態を続けることとなりますし、利回りが高い資産へとシフトする動きから米国債が売られ株式市場は上昇という動きになりました。8月31日にはNYダウが3銘柄入れ替えによる新銘柄での指数算出となることもあって米国株式市場はリスクオン、そうなると為替市場も思ったほど円高には行かないという見方は出来そうです。

次に安倍首相の辞任表明です。慶応病院に2週続けて通院したことから重病説と辞任思惑はあったものの、28日の会見では病状を説明するに留まるという見方が多かっただけに、突然の辞任表明に金融市場は大荒れの反応を示しました。アベノミクス=株高&円安という流れでしたから、反応としては株安とそれに伴う円高という反応が起きました。しかし、リーダーが交代しても1年後までのつなぎとなりますし、今の状況を考えるとアベノミクス政策をはじめ基本的な路線には変化は無いでしょう。これも金曜の反応がやや行き過ぎた反応であったという見方に繋がります。

いっぽうで米国では大統領選に向けて共和党と民主党の議会での対立が続いていますし、対外的には中国との対立激化懸念もあり、ダウが高値を見た後は調整が入るのではないかという見方も多いのは事実です。実体経済と株式市場のコロナ後の期待との乖離が続く中でいったん調整が入った方が更なる上昇にもつながりやすいというところです。外部要因として米国の株式市場の短期的な動きには注意が必要です。

そしてもうひとつは年初来高値を再び視野に入れ始めたユーロドルです。年初来高値の1.1966まで週明け早朝のユーロドル市場は37pipsまで迫り、その後もユーロ高値圏での動きを続けています。ユーロドルが1.20の大台を目指すとなるとドル円も一時的でも105円の大台割れを試すこととなりそうですから、ユーロドルの動きも注意でしょう。

国内の政治は菅官房長官でまとまるのか、他の議員となるのかですが、決まるのは来週以降でしょうし、決まっても大きな変化とはならないというのは上述の通りです。また今週は月初の1週間となりますので、米国雇用統計をはじめ連日米国と欧州の経済指標が目白押しです。方向感が出る材料とはならなくても結果次第では一時的に振れる可能性もあり、特にユーロ買い材料やドル売り材料となるような結果には注意です。

色々と注すべきことをあげましたが、方向感が出るには何かきっかけが必要で、何もきっかけにならないとドル円は水準を1円下げてのもみあいに戻ってしまったということになりかねません。テクニカルにも見てみましょう。

概要は金曜のコラムで示しましたが、テクニカルには円高を試しやすいチャートです。8月にダブルトップ状のチャートパターンとなっていますが、6月高値からは着実に高値を切り下げる展開となっています。105.10も強いサポートですからここを抜けないと簡単には105円割れにはつながらないため、きっかけが必要なのはこれまで書いてきた通りです。

ただ、105.10を割り込んでくると、上にも下にもダマシを出した金曜の陰線が結局は下抜けの最初の下げとなったという見方となり、その場合7月安値と8月高値のフィボナッチ・リトレースメントでは78.6%(61.8%の平方根)押しである104.80がターゲットとなります。また金曜コラムで示した8月高値からの逆N波動(ピンク)では、100%エクスパンションが105.00、127.2%(161.8%)エクスパンションが104.47です。

総合的に考えると105.10を抜いたとしても大きく円高に動く可能性は低いものの104円台後半を狙っている状況にあると見てよいでしょう。今週は104.80レベルをサポートに105.80レベルをレジスタンスとする流れを見ておきます。

ドル円(日足)チャート

ドル円(日足)チャート

このチャートは、ローソク足の足型をそのままに陰陽の着色のみを平均足と同様とすることで、短期的な方向性(白=上昇、黒=下降)を見やすくした独自チャートとなっています。また、一目均衡表を併せて表示することで上下のチャートポイントもわかりやすく示しました。

今週の予定(時刻表示のあるものは日本時間)

今週注目される経済指標と予定をあげてあります。影響が少ないものはあえて省いています。FRB地区連銀総裁講演の内、2020年FOMCメンバー(ニューヨーク、フィラデルフィア、クリーブランド、ミネアポリス、ダラス)ではない地区連銀総裁はカッコ付で示しました。また、わかりやすさ優先であえて正式呼称で表記していない場合もあります。

8月31日(月)
**:**  LDN市場休場
10:00 中国8月製造業PMI
16:00 トルコ4〜6月期GDP
16:00 トルコ7月貿易収支
21:00 ドイツ8月CPI速報値
21:00 南ア7月貿易収支
22:00 クラリダFRB副議長講演
23:30 (アトランタ連銀総裁講演)

9月1日(火)
07:45 NZ7月住宅建設許可件数
08:30 本邦7月失業率・有効求人倍率
10:30 豪州7月住宅建設許可件数
10:45 中国8月MarkIt製造業PMI
13:30 豪中銀政策金利発表
16:00 トルコ8月製造業PMI
16:50 フランス8月製造業PMI
16:55 ドイツ8月失業率
16:55 ドイツ8月製造業PMI
17:00 ユーロ圏8月製造業PMI
17:30 英国8月製造業PMI
18:00 ユーロ圏8月CPI速報値
18:00 ユーロ圏7月失業率
22:45 米国8月製造業PMI
23:00 米国8月ISM製造業景況指数
23:00 米国7月建設支出
26:00 ブレイナードFRB理事講演
27:00 オランダ中銀総裁講演

9月2日(水)
10:30 豪州4〜6月期GDP
15:00 ドイツ7月小売売上高
15:00 英国8月住宅価格指数
18:00 ユーロ圏7月PPI
21:15 米国8月ADP全国雇用者数
22:05 英中銀総裁講演
23:00 米国7月製造業新規受注
23:30 週間原油在庫統計
25:00 クリーブランド連銀総裁
27:00 ベージュブック

9月3日(木)
10:30 豪州7月貿易収支
10:45 中国8月MarkItサービス業PMI
16:00 トルコ8月CPI
16:50 フランス8月サービス業PMI
16:55 ドイツ8月サービス業PMI
17:00 ユーロ圏8月サービス業PMI
17:30 英国8月サービス業PMI
18:00 ユーロ圏7月小売売上高
20:30 米国8月チャレンジャー人員削減予定数
21:30 米国新規失業保険申請数
21:30 米国7月貿易収支
22:45 米国8月サービス業PMI
23:00 米国8月ISM非製造業景況指数
25:30 (シカゴ連銀総裁講演)

9月4日(金)
10:30 豪州7月小売売上高
15:00 ドイツ7月製造業新規受注
17:30 英国8月製造業PMI
21:30 米国8月雇用統計

前週の主要レート(週間レンジ)

前週の主要レート(週間レンジ)

(注)上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。為替の高値・安値は東京午前9時〜NY午後5時のインターバンクレート。

先週の概況

8月24日(月)
 ドル円はNY市場が始まるまでは105.80水準で細かな上下を繰り返す程度で方向感は出ないままでした。しかし、ユーロドルが欧州市場で上げきれずに反落する動きとともにドル買い優勢となり、引けにかけては106.00レベルの高値をつけ、そのまま高値引けとなりました。

8月25日(火)
 ドル円は東京市場では106円挟みのもみあいに終始していましたが、株高の動きからユーロ円が底堅い動きをしていたこともあって、どちらかというと上値を試したいという流れで欧州市場入り。欧州市場に入り前週木曜の戻り高値を上抜けるとストップオーダーも巻き込みながら一段高、NY市場前場に106.58レベルまで高値を切り上げ若干押しての引けとなりました。

8月26日(水)
 ドル円は東京朝方こそドル買いが先行したものの仲値以降は着実に水準を切り下げる展開が続きました。前日のドル買いでドルを売っていた向きのストップが一巡したことや、パウエル議長の講演を前にしてドルを買っていた向きが利食いとストップから前日上げる前の水準へと押しました。NY市場ではパウエル議長がハト派寄りの発言をするのではといった思惑からドルが全般的に売られるきっかけとなり、105.96レベルまで押しての安値引けとなりました。

8月27日(木)
 ドル円はパウエル議長の講演を前にポジション調整が続いていましたが、NY市場までは前日のドル売りに対しての買い戻しが目立ちました。注目の議長講演では、インフレ率が一時的に2%を超えることを許容し長期的に平均で2%の目標とすることを発表しました。直後はドル売り、低金利継続とイベント直後の荒っぽい動きが重なったのかドル円は一時105.60レベルと週間安値を更新しましたが、株式市場の買いと債券市場の売り(長期金利上昇)を見てドル円は106.69レベルまで急反騰し高値圏での引けとなりました。

8月28日(金)
 ドル円は金曜の東京昼過ぎまでは前日NY後場からのドル高トレンドが続き、一時106.95レベルと週間高値を更新していました。そこに突如安倍首相辞任の意向というヘッドラインが流れ日経平均株価は急落、為替市場もリスクオフの円買いが強まり首相会見後もストップを巻き込みながら円は一段高となりました。NY市場前場には105.20レベルの安値をつけましたが、日経平均株価が先物市場で下げ止まった動きもあって、105円台前半でもみあいのままの週末クローズとなりました。

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