2020年の豪ドル対米ドルの見通し
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恒例の「FX羅針盤」の年間相場予想。
例年動きの激しい年末年始の相場が終了したあたりで、「FX羅針盤」の執筆者の皆様に年間の相場見通しを書いていただいています。
本稿は幅広く経済指標分析等ご執筆いただいている橋本光正さんの豪ドル年間予想です。
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(1)ファンダメンタルズ分析
米・豪のGDP
図@は米豪のGDP比較ですが、両国共に四半期毎の前年比(年率)ベースにしています。これは豪州の発表数値の基準に合わせています。(注:米国は毎四半期発表時の前四半期年率とは数値が違いますので御注意願います)。
上図を見る限り両国の経済規模の違いはあっても、比較的同じ流れを辿っています。図Aは@の3四半期移動平均となっており、ほぼ同じ軌跡を辿っています。過去は概して青の豪州がオレンジの米国よりも成長率が高い傾向になっていましたが、2018年2Q以降は両国共に減速傾向で、伸び率は米国>豪州が鮮明になっています。昨年央まで豪州中銀が一貫して利下げ実施をしてきたことが肯けます。
ここで米豪の政策金利を見ますと、オレンジ色の米国は2015年末から利上げを繰り返してきましたが、昨年7月以降は3回の利下げ(合計0.75%)を実施し、米豪金利差拡大傾向が止まりました。図Bの黒い縦線が米豪金利差が最大だった時期であり、その差は1.125%ありました。FRBは予防的利下げとアナウンスしていましたが、図@とAのGDP低下の流れをみれば、予防的とは言えない状況だった感じがします。そして2019年12月末時点の米豪金利差は0.875%まで縮小しています。とはいえ、金利差は米>豪ですので、米国に分があります。
それでは2020年以降の豪州GDPの伸びについて見てみますと、
表@Aは2018年11月時点の豪州中銀のGDP見通し、表@Bは2019年11月時点の同見通しになっています。赤い○印は、2019年GDPに関してはAが予想で、Bがほぼ実績に近い数値予想になっています。2018年時点で2019年のGDPを3.25%予想に見ていましたが、2019年11月時点では(3Q実績値込みと4Q予想を含み)1.75%まで下がっています。図@の2Qと3QのGDPが1.75%付近ですので、その数値を裏付けています。
さて2020年の見通しは2018年時3.25%、2019年時2.75%と0.5%の下方修正しています。但し、2019年が1.75%でしたので、約1%のGDP拡大予想になっています。
同様に緑の○印で記したCPIを見ると、2018年時予想の2019年末CPIは2.25%でしたが、2019年の実質は1.75%に留まり、0.5%ものインフレ低下となっています。2020年予想も1.75%と変わらず、中銀目標としているインフレ2%は2021年以降になっています。今年もインフレを心配する状況にはなく、中銀が利上げに切り替えるタイミングはまだまだ先であることが伺えます。
もう1つ、GDPを別の角度から見ると、下図Cは2019年10月時点のIMF予想になっています。この時点で世界経済のGDP伸びは2019年3.0%の伸びに留まる予想で、同年4月時点の予想より▼0.3%になっています。2020年の世界GDPは3.4%予想ですが、これも▼0.2%下方修正されています。
米(灰色)・豪(青色)の個別成長率を見ると、2020年にはGDPの伸びが逆転することになります。米国は2019年2.4%→2020年2.1%へ、豪州は同1.7%→2.3%予想になっています。そして2021年には更に伸び率拡大となっています。
(尚、下図には2.5%に赤い横線を入れています)
米・豪の金融政策は現在までの市場予想は米国が据え置きないし利上げに対し、豪州は据え置きないし利下げになっているので、2020年前半の米・豪経済指標の行方は重要になってきます。
また、下図Dは豪州中銀作成の豪ドルの貿易加重平均になっています。名目がオレンジ色、実質が紫色になっています。1984年以降のグラフで2本の青の横線高値・安値の平均が赤い線(65.5)で示しており、2019年は実質がほぼ平均まで下がり、名目は既に豪ドル安の水準になっています。
(図出所:豪州中銀HP)
今年の経済指標次第では、2020年のGDP逆転の兆しがでてくる可能性があり、その場合は政策金利に与える影響が変わってきます。図Bでも見てきましたが、2019年末にかけて米・豪の金利差が縮小に変わってきましたが、あくまで利下げ状況下での縮小ですので、もし経済指標次第で劇的に変わる事態にでもなれば、何年も続いてきた米ドル高豪ドル安トレンドに影響を与える可能性がでてきます。
(2)テクニカル分析
@豪ドル/米ドル月足チャート(2020年1月21日終値現在)
上図は月足チャートで、豪州ドル/米ドルは長期の豪ドル安トレンドを形成しており、今年で10年目になります。丁度2001年底値から2011年初の高値まで約10年経過したので、日柄的には中長期の豪ドル安相場も終わりに近づいている可能性があります。現在の各ポイントに上記水準はA:0.6550、B:0.8530、C:0.7220、D:0.7730、E:0.6000にあります。従いまして、現在はAとCのレンジ0.6550〜0.7220での収斂が限界近くまできています。もし上限を越えればDとBの方向になります。逆に下限を切ればE方向のトライになります。
上図は同じ月足チャートに38と62を移動平均線にしたものです。38ヶ月線は0.7344、62ヶ月線は0.7398にあり、あと50ピップス強でクロスします。両線共に下降ですので、仮にクロスしてもゴールデンクロス完成とは言えませんが、2015年初にデッドクロスしてから5年ぶりのクロスになります。因みに38ヶ月前は0.76付近、90ヶ月前は1.03付近ですので、現状のスポット0.6840で換算すると毎月16〜19ピップス程度縮小するので、あと3〜4ヶ月後にクロスする可能性があります。
A週足チャート(2020年1月21日終値現在)
週足でもう少し近場を見ますと、上図で2018年初からのFとGの豪ドル安トレンドラインは既に上抜けました。現在はラインJの0.74000方向への動きにいます。この途中の0.7050、0.7200に抵抗線が控えています。但し、この豪ドル上げもHのサポートライン0.6800が支え、仮に切れた場合Iの0.6670サポートが3回目の底値トライになります。丁度ラインFも0.6670付近まで下がりますので、このポイントが短期の豪ドル高を維持できるか否かとなります。万一、切れた場合はFとGのトレンドライン回帰になり、Gは0.6070でサポートになっています。
上図は38週線と62週線を加えたものです。2018年6月にデッドクロスしてから38週線が抵抗線になって豪ドル安となっていますが、昨年12月に上抜け、Hのサポートラインに支えられて62週線の抵抗線までトライし、現在は38週線に絡む動きになっています。現在の38週線が0.6872、62週線が0.6973ですので、大台代わりの0.70が中々クリアできない状況です。38週前が0.70ですので、両線共にまだ下降トレンドを続けていくことになります。但し月足の移動平均線同様に、週足移動平均線も収斂を続けていますので、少なくともラインIを維持する限りは収斂を続け、年内で両線がクロスする可能性が高くなっています。
当面は38週線と62週線内で推移するのか、再度38週線以下で推移するのか見ておきます。前者であればより早めにクロスします。
2020年見通し
2020年前半は米・豪の金利格差(米金利>豪州金利)維持や将来の金融政策格差(豪ドル金利据え置きないし利下げ見通し、米ドル据え置きないし利上げ見通し)で、まだ豪ドルの先安観が強く残っています。しかしながら、IMFが予想している様な2020年以降の成長率格差の拡大が目立つようになれば、将来の金融政策格差が変わってくることになり、年末にかけて次第に豪ドルの買い戻し更には豪ドルロングへの転換が始まることも念頭に入れておく必要がありそうです。
テクニカルでも月足・週足の移動平均線のクロスも予想される地合いとなっているので、2020年は両通貨にとって分岐点となる可能性があります。
当面(2020年前半)は両国の経済指標を見ながら、中銀の金融政策がどの様に変化していくのかが決め手の1つになります。もし年央までにこの変化がない場合は豪ドル安トレンドの継続になり、底値模索の展開が継続することになります。
以上から、年前半は0.6600〜0.7000レンジ(上下のヒゲを50ピップス程度入れて0.6550〜0.7050)で収斂を続けると予想します。尚、テクニカル的には、もしレンジ上限を超えた場合には月足の0.7220の抵抗線をどの様に試していくのかを注目しています。逆にレンジ下限を切ると、これまでの豪ドル安トレンド継続になり、週足チャートのG(0.6070)〜F(0.6670)の豪ドル安トレンド内での下値模索になります。
但し、年後半には豪ドルの回復が見えてくる展開を想定し、週足のラインJ(現在の0.74)方向の流れを予想します。年間のレンジとしては0.65〜0.73を想定します。
尚突発要因として、米中貿易の関税賦課協議が現行よりも悪化した場合、対中貿易取引額が多い豪州ですので、豪ドルの上値が限定されることになります。
(2020年1月22日14:00、1豪ドル=0.6839〜40米ドル)
オーダー/ポジション状況
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