日銀会合結果のポイント:YCC柔軟化するも、大規模な緩和継続アピールで円安継続か
【今回のポイント】
〇 YCCの上限1%を超える取引を容認
〇 植田日銀総裁は記者会見で、大規模な緩和継続をアピール
〇 「政府・日銀による為替介入」警戒するも投機的な円安継続で154円台も視野に
【日銀会合の結果】
今回、日銀金融政策決定会合(日銀会合)の内容が公表されたのは12時30分頃と、株式市場では後場が開始する直前だった。
日銀は、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)における長期金利の上限1%を超える取引を容認する柔軟化措置を決定した。長期金利の誘導目標や資産買い入れ方針は維持しており、大規模な金融緩和政策は継続する。つまり、長期金利の誘導目標は引き続きゼロ%程度としつつ、上限としてた1%は「メド」とし、大規模な国債買い入れと機動的なオペ運営を中心とした金利操作を行うというわけだ。
そして、同時に公表した新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)では、消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)の前年比上昇率を、2023年度から25年度まで全て引き上げた。23年度は2.5%から2.8%へ、24年度は1.9%から2.8%へ、25年度は1.6%から1.7%へとそれぞれ修正した。23年度から24年度にかけては横ばいで、25年度は少し落ち着くとの見方だが、この引き上げによって、実績値が3.0%だった22年度から3年連続で2%を超える見通しとなる。
なお、15時30分から行われた植田和男日銀総裁の記者会見での主な発言は下記の通りだ。今回、YCCの柔軟化措置を発表したものの、現行の大規模緩和は継続して行うとの方針を改めて市場に伝えた。
「長期金利操作の運用をさらに柔軟化することを決定した」
「わが国の景気は緩やかに回復している」
「現時点で物価目標実現は十分な確度では見通せない」
「2%の物価目標の安定的持続に必要な時点まで現行緩和を継続」
「長期金利は1%を大幅に上回るとはみていない」
「物価見通しが大きく変われば、政策修正に結び付く」
「投機的な動きによる金利上昇、機動的オペによって抑える」
「YCC撤廃とマイナス金利解除時期・順序については決め打ちしない」
「輸入物価の上昇が予想以上に長引いている」
「(展望リポートの物価上昇率引き上げに対して)円の持続的な軟調や、7月の前回予測以降の原油相場上昇に伴う予想よりも、力強いコストプッシュ要因を反映」
「来年の春闘が鍵」
「賃上げがサービス価格を中心とする消費者物価にどう反映されるか注視するのが重要」
【市場の反応】
結果内容は、事前報道通りだったことから、1ドル149円台で推移していた円は、ドル買戻しに押されて150円台まで売られた。その後、植田日銀総裁の記者会見にて、「大規模な金融緩和を粘り強く行う」との方針が再確認できたことから、安心感が強まり円安は加速。ユーロは、2008年以来となる160円台に乗せた。
そして、10月31日のもう一つのイベントだった、19時発表の財務省による「外国為替平衡操作の実施状況」では、9月28日から10月27日の間、政府・日銀による為替介入が行われていなかったことが明確となった。10月3日に、1ドル150円台から3円ほど円高に振れた動きが、為替介入では無かったことが証明されたことから、市場は安心感がより強まり、円売りが再加速。円は1ドル151円台後半まで円安が進行した。
【今後、円はどう動く?】
今後は、昨年安値の151円96銭を突破するかがポイントとなろう。この水準に近づくと、市場はさすがに政府・日銀による為替介入実施を警戒する。為替介入の陣頭指揮を取る神田財務官は、1日朝に「スタンバイです」と市場をけん制した。このコメントは24年ぶりに円買い介入を行った昨年9月の時のコメントと同じだ。つまり「準備は整った、いつでもやるぞ」という意思表示を行ったわけだ。同日昼にも「円安の一番大きな影響は投機、あらゆる手段排除せず対応」と、一日で2回目の口先介入を行った。
もっとも、2回目の口先介入のトーンはさほど高くないことや、市場でまだ「レートチェック」が実施されていないとの見方から、市場はまだ円安は進むと見ている節がある。こうした市場心理を踏まえた今後1か月程度のシナリオは下記の通りだ。分かりやすくドル・円で表現するが、主要通貨は総じて同じような動きをすると考える。
〇今後のシナリオ
市場はおっかなびっくりだが、昨年安値の151円96銭を試す動きを見せる
↓
そのタイミングで、政府・日銀は「レートチェック」を実施し、一時的に150円台を割り込むも、為替介入ではないと市場が気付き、すぐに151円台に戻す
↓
昨年安値を突破し、152円台に入ったタイミングで、為替介入を実施、円は147円台辺りまで瞬間的に買われる
↓
1−2日ほどは148円−149円台で推移するが、再び日米金利差を意識した投機的な円売りで152円台をあっさり突破
↓
153−154円水準で、1回目の為替介入を超える金額で為替介入を実施、三度150円を割り込む
↓
財務省・日銀・金融庁が臨時会合で円安対応に関する発言を行う
↓
早期の日銀によるマイナス金利解除の報道がなされる
↓
日米金利差が縮小し、投機的な円安局面が一服
過去の事例などを考慮しての想定だが、為替水準を除くと、そこまで大きなズレはないと考える。「財務省・日銀・金融庁による臨時会合」は、為替介入実施前の早いタイミングで開催される可能性もあるが、今回の日銀会合でのハト派的な日銀の姿勢を受けて、日米金利差を意識した投機的なドル買いは強まると考える。
【2023年の日銀会合終了時間一覧】
以下は、2023年の日銀会合の終了時間一覧である。なお、速報が市場に伝わるのは、終了してから7分ほど経過してからだ。
1月18日(水)・・・11時33分終了、前回会合の方針を維持
3月10日(金)・・・11時23分終了、最後の黒田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持
4月28日(金)・・・12時53分終了、最初の植田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持、金融緩和策のレビューを多角的に実施することを決定
6月16日(金)・・・11時40分終了、前回会合の方針を維持
7月28日(金)・・・12時21分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限を1.0%まで引き上げ)
9月22日(金)・・・11時45分終了、前回会合の方針を維持
10月31日(火)・・・12時20分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限1.0%をメドに変更)
12月19日(火)・・・?
【2023年スケジュール】
※米国は現地時間なので、金利発表及び記者会見は日本時間で翌日未明
日銀金融政策決定会合(日銀会合)
9月21日(木)−22日(金)・・・現状の金融緩和方針を維持したことで、市場はやや円安
10月30日(月)−31日(火)・・・想定通りのYCC再修正に留まったことで、市場は円安の反応
12月18日(月)−19日(火)・・・?
米連邦公開市場委員会(FOMC)
9月19日(火)− 20日(水)・・・利上げ見送り、ややタカ派な姿勢が確認できたことで、市場はドル買いで反応
10月31日(火)−11月1日(水)・・・利上げ見送りで市場はドル安の反応
12月12日(火)− 13日(水)・・・?
欧州中央銀行理事会(ECB理事会)
9月14日(木)・・・0.25%引き上げで政策金利は4.5%、市場はユーロ売りで反応
10月26日(木)・・・想定通りの現状維持でユーロは凪相場
12月14日(木)・・・?
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