リラ安継続感と円高で4営業日続落、史上最安値更新
〇トルコリラ円、7/6から7/8早朝にかけての円高により7/8未明に5.44へ下落、史上最安値を更新
〇対ドル、7/7は米6月雇用統計後のドル安進行でリラ売り抑制、新たな最安値更新へは進まず
〇7/5与党AKP、大地震復興資金捻出に法人税引き上げ法案を議会に提出、景気減速リスク高まる
〇7/20金融政策で15%から20%台への追加利上げが期待されるが金利急上昇はトルコ経済に打撃も
〇今週は5月失業率、5月経常収支、5月鉱工業生産、5月小売売上高、週次外貨準備高が発表予定
〇一時的な反騰の場合は5.48から5.50を試す上昇を想定
〇5.43割れからは5.40、5.37、5.35を順次試してゆくとみる
【概況】
トルコリラ円の7月7日は概ね5.49円から5.42円の取引レンジ、8日早朝の終値は5.45円で前日終値の5.52円からは0.07円の円高リラ安だった。週間では6月30日終値5.54円から0.09円の円高リラ安だった。
トルコリラ円は6月27日に5.47円まで史上最安値を更新した後はややジリ高の推移だったものの7月6日から8日早朝にかけての円高により8日未明に5.44円へ下落、史上最安値を更新した。
ドル/トルコリラは暴落商状の一服感が出ているものの7月6日に取引時間及び終値ベースでの史上最安値を更新して7日も最安値圏にとどまっての推移が続いており、ドル円が6月30日に145円台に到達したところから下落基調に転じ、7月7日は米雇用統計を通過して8日早朝には142円を試すところまで続落しているため、トルコリラ円は対ドルでのリラ安基調の継続感とドル円の下落による圧迫感に圧されている。
【対ドルで新たな最安値更新へは進まず】
ドル/トルコリラの7月7日は概ね26.20リラから25.78リラの取引レンジ、8日早朝の終値は26.06リラで前日終値の26.08リラからは0.02リラのドル安リラ高だった。週間では6月30日終値の26.05リラから0.01リラのドル高リラ安だった。
5月28日の大統領選挙におけるエルドアン大統領再選によりリラは暴落商状に陥り6月13日に23.77リラへ史上最安値を大幅に切り下げ、トルコ中銀による大幅利上げ期待で暴落商状が一時的に落ち着いていたが、6月22日のトルコ中銀が政策金利を8.5%から15.0%へ引き上げたものの市場予想中心値の21%には遠く及ばなかったことが失望を買って再び暴落商状に陥り6月28日には26.19リラへ最安値を更新した。目先のリラ売り材料消化で下落速度をやや緩めたが、7月6日に26.22リラへ取引時間中の最安値を更新し、終値ベースでも26.08リラで最安値を更新した。
7月7日は米6月雇用統計後に為替市場がドル安へ進んだことでドル/トルコリラでのリラ売りが抑制されたために新たな最安値更新へは進まなかったものの、6月27日以降は25リラ台へ一時的にリラ買いが入っても早々に売られて26リラ台序盤を繰り返し試しており、徐々に安値切り下げへ進んでいるため、リラ売りの新たなきっかけを得れば最安値更新を繰り返して行く可能性も懸念されるところだ。
【トルコ経済のファンダメンタルズの悪さは改善せず】
この1週間はトルコ経済のファンダメンタルズがまだ悪い状況から抜け出せていない印象を強めた。
7月1日、イスタンブールの6月小売物価指数は前月比3.46%上昇して5月の1.66%から伸びが加速、年率では55.19%上昇となり、卸売価格指数は前月比4.32%上昇で年率は64.27%上昇となり高インフレが続いている。
7月3日に発表されたトルコ貿易省による6月貿易統計速報では貿易赤字が54億ドルとなり赤字幅は5月の126.6億ドルから大幅に減少したが依然として構造的な赤字が続いており、輸出は5月の217億ドルから6月は209億ドルに鈍化、リラ暴落による購買力低下で輸入は5月の343億ドルから6月は263億ドルに減少している。
7月5日に発表された6月のCPI(消費者物価指数)上昇率は前月比3.92%で5月の0.04%から伸びが加速し、前年比はベース効果で5月の39.59%から38.21%まで若干鈍化したものの、コア指数の前年比は47.3%となり5月の46.6%から伸びた。
またPPI(生産者物価指数)は前月比6.50%上昇(5月は0.65%)、前年比は40.42%(5月は40.76%)と高止まりから上昇再開の気配となっている。
トルコ中銀が外貨準備高を取り崩してリラ買い支えの市場介入を繰り返したことで一時は純外貨準備高が57億ドルのマイナスまで悪化したが、トルコ中銀が市場介入をやめたことで純外貨準備高は6月30日時点で98.2億ドルまで改善したことは、トルコ経済指標の中ではよい数字ではあるが、市場介入をやめてトルコリラの水準を市場原理に任せるとしたことはリラ売りへの歯止めがかからない状況でもあり、トルコリラにプラスとも言えない状況だ。
今週は7月10日に5月失業率、11日に5月経常収支、12日に5月鉱工業生産、13日に5月小売売上高と週次外貨準備高の発表がある。
【法人税の増税】
7月5日にエルドアン大統領が率いる与党・公正発展党(AKP)が2月の大地震復興資金を捻出するために法人税を引き上げる法案を議会に提出した。トルコ・シリア大地震では死者が5万人を超えて数百万人が住宅を失っており、復興には1000億ドル以上が必要とされてきたが、今回の法案は法人税を現行の20%から25%へ引き上げ、銀行・金融機関は25%から30%に引き上げる。
この他にも自動車税を1回限りで引き上げる等の増税案件があるようで、トルコはインフレと地震災害の中で最低賃金を引き上げつつも法人増税を行うことで賃金インフレと景気減速のリスクを高めている。
【7月20日のトルコ中銀金融政策員会、大胆な追加利上げを決断できるか】
エルドアン大統領は5月28日の大統領選挙で再選されてからシムセク氏を財務相に、エルカン氏をトルコ中銀総裁を任用した。かつての財務相・副首相経験者のシムセク氏とウォール街の銀行家だったエルカン氏の起用により、エルドアン大統領のインフレ進行中に利下げを行ってきた非伝統的経済・金融政策からの転換が期待され、エルカン新総裁は政策金利を8.5%から15.0%へ大幅に引き上げ、外貨準備高を取り崩して非公式市場介入を繰り返した手法をやめた。
改革が進み始めている印象もあるが、エルドアン大統領はかつてのリラ暴落時に中銀が連続利上げに踏み切った際に19%まで政策金利が上がったところで中銀総裁を解任、代わった総裁は利下げを開始したためにリラ安が再開した経緯もあるため、今回の改革や利上げにどこまでエルドアン大統領が耐えられるのか、市場は疑心暗鬼となっている。
7月20日のトルコ中銀金融政策委員会では政策金利が15%から20%台へ追加利上げされるのではないかとの見方が浮上しているが、市場としては利上げ継続による実質マイナス金利状態の改善を催促するようにリラ売りを試しつつ、市場を納得させられるだけの大胆な追加利上げがあればリラ暴落が一巡してリラの買い戻し優勢の流れへ変わることも考えられるところだ。
しかし、政策金利は仮に20%まで引き上げられたとしてもまだ足りず、段階を踏んで30%から40%まで引き上げてゆく必要があるところとしても、金利の急上昇はトルコ経済には打撃となり、企業も個人も借入負担に耐えられなくなることも懸念される。
【240分足 一目均衡表・サイクル分析】
トルコリラ円は大統領再選後のリラ売りにより第一段階の暴落に入り、暴落前の5月26日安値から12営業日後の6月13日安値まで下落して一服に入り、6月22日のトルコ中銀利上げを不足としたリラ売りで第二段階の下落に入り、10日目の6月27日安値で5.47円を付けてから再び下げ一服に入った。7月3日には一時的なASK高値提示により反発した姿となっているものの早々に売られ、7月7日の下落で6月27日安値を割り込んだため、大統領再選をきっかけとしたリラ安は第三段階に入っている。
これまでの安値の間隔が10営業日から12営業日の間隔で推移していることを踏まえると、当面の安値形成期は6月27日から10日目の7月11日、12日目の7月13日あたりと仮定されるが、その辺りで下げ一服からやや戻したとしても7月20日にトルコ中銀が市場の納得を得られる利上げを決定できなければ追加でさらに2週強の下落期に入ることも考えられる。
240分足の一目均衡表では7月7日にかけての下落で遅行スパンが悪化しており、下げ一服が途切れて新たな下落期に入っている印象だ。7月1日から3日午前にかけての一時的反発時も先行スパンに上値を抑えられており、強気転換には60分足レベルでの遅行スパンおよび先行スパンの好転に加え、240分足レベルでの遅行スパンおよび先行スパンの好転へ発展する必要があり、それが実現できないうちは中長期的な下落基調の範囲での推移が続くのではないかと思われる。
240分足の相対力指数は7月4日から指数自身の上昇基調から転落しているが、5月28日の大統領再選決定後の下落時よりも鋭角的ではないが、指数自身の支持線割れによる下落継続感が強まっている。60分足レベルの強気転換に加えて240分足レベルでも指数自身が上昇再開感を示せないうちは下落基調が続きやすいと思われ、240分足レベルでの20ポイント割れへ向かう可能性もあると思われる。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、5.43円を下値支持線、5.50円を上値抵抗線とする。
(2)一時的な反騰の場合は5.48円から5.50円を試す上昇を想定するが、7月3日以降の戻り高値切り下がり基調がまだ続くとみて5.50円手前の水準は戻り売り有利とみる。新たな強気材料を伴って5.50円を超える場合は5.53円前後への上昇とその後の反落を想定する。
(3)5.43円割れからは5.40円、5.37円、5.35円を順次試してゆくとみる。5.40円以下では買い戻しも逐次入ってくると思われるが、直前安値から0.05円規模の反発が入ってもその後に戻り幅の半値を削るところからは下げ再開とみる。7月10日から12日にかけてはいったん目先の安値を付けて戻りを試す可能性もあると注意するが、戻り一巡後の下落で史上最安値を更新するところからは7月20日のトルコ中銀金融政策委員会の前後へ安値試しを続けやすくなるとみる。
【当面の主な予定】
7月10日
16:00 5月 失業率 (4月 10.2%)
7月11日
16:00 5月 経常収支 (4月 -54.04億ドル)
7月12日
16:00 5月 鉱工業生産 前月比 (4月 -0.9%)
16:00 5月 鉱工業生産 前年同月比 (4月 -1.2%)
7月13日
16:00 5月 小売売上高 前月比 (4月 0.9%)
16:00 5月 小売売上高 前年同月比 (4月 27.5%)
20:30 週次 外貨準備高 7/7時点 グロス (6/30時点 671.6億ドル)
20:30 週次 外貨準備高 7/7時点 ネット (6/30時点 98.2億ドル)
7月14日
16:00 トルコ中銀によるエコノミスト調査 年末のCPI・経常収支・ドル/トルコリラ等の予想水準
7月20日
20:00 トルコ中銀金融政策委員会 政策金利 (現行 15.0%)
注:ポイント要約は編集部
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