Monthly Market Insights(23/7)日本株高が円高、日本買いに繋がらない構造要因

日本の株式市場が活況を呈している。さすがに11週連続の上昇は逃したが、日経平均株価指数は1990年のバブル期以来の高値を更新した。

Monthly Market Insights(23/7)日本株高が円高、日本買いに繋がらない構造要因

「日本株高が円高、日本買いに繋がらない構造要因」

日本の株式市場が活況を呈している。さすがに11週連続の上昇は逃したが、日経平均株価指数は1990年のバブル期以来の高値を更新した。
一方で為替市場では円安の動きが顕著で、主要通貨に対してはほぼ全面安だ。円より弱い通貨はトルコリラなど、ごく一部の通貨に限られる。この日本株の上昇と為替市場での円の突出した弱さ。いったい、何が起こっているのか。

まずは、長いタイムスパンで歴史的な日本株とドル円為替相場の流れを振り返っておきたい。日経平均株価は、戦後の取引所再開時の1949年5月まで遡ることができる日本の株式市場の代表的な指数だが、当時は200円にも満たない水準だった。それが、1989年末には38,915円と約200倍の水準まで上昇した。

株価指数の上昇の主因は、戦後の荒廃から驚異的な経済成長を遂げた日本の実体経済、企業収益やその将来性を評価した動きだ。この間に、1979年には米国の社会学者エズラ・ボーゲル氏が執筆した著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」がベストセラーとなり、1981年にはマレーシアのマハティール首相がルックイースト政策(Look East Policy)という日本の近代化を手本とする政策を唱えるなど当時の日本の株高・円高は日本へのリスペクトを伴って進行していた。こうした「日本買い」は、為替市場でも円買いの動きを伴い、円の価値は戦後の1ドル=360円から、1988年には、一時、120円台まで円高が進行した。つまり、1990年の日本のバブル崩壊前までは、長期的には日本の株高は円高を伴っていたのだ。

一方、現在の日本は株式市場こそ活況であるものの、経済実態に目を転じれば日本企業の各種経営指標は欧米のグローバル企業に見劣りし、国民の一人当たりGDPの世界順位は右肩下がり。その結果、賃金の伸びは先進国の中だけではなく、アジアの中でも見劣りする。しかし、株式市場は33年ぶり株価指数の高値更新に沸いている。かつ、日本株買いの主体は外国人投資家だという。一見、とても不可思議な現象だ。

筆者なりの仮説は、この現象の一番の要因は日米の短期金利差だ。
(本稿では金利は年率。短期金利は日米金融当局の短期誘導目標政策金利、長期金利は10年債金利を指すものとする)
現在、円の金利は短期金利、長期金利ともいずれも約0%近辺だが、米ドルの短期金利は5%台前半、長期金利は4%弱だ。

ただ、ほんの一年一か月前を振り返ってみると、米ドルの短期金利は1%弱、長期金利は3%程度だった。ところが、昨年(2022年)半ばから、米国のFRB(連邦準備理事会)はFOMC(連邦公開市場委員会)において4会合連続の0.75%の利上げを決定するなど、史上まれに見る、急速利上げを実施した。この一年で、米国の短期金利の水準は4%以上も上昇し、米ドルの短期金利は5%台に到達した。

日米の金利差がここまで開いてしまうと、外国人投資家が米国の短期金融市場や債券市場で運用している米ドル建て資産を売却して、日本への投資をしようとは思わないだろう。米ドル建ての資産を売却して、単純に円を買って日本の株式資産を購入するということは、米ドルの受取利息を放棄し、かつ、為替リスクを負うことになるからだ。

しかし、外国人投資家が、そのデメリットを回避しつつ、日本株投資を行える手法もある。
よく、「海外投資家が外貨で日本株を買うときに、ドルを円転して株を買い、同時に先物で円を売ってヘッジするので、為替の直物・先物の売買がニュートラルになって為替リスクを負わない」という解説がなされるが、これもその手法のひとつだ。金利差拡大はこうした円買い圧力のかからない為替ヘッジ付きの日本株投資を増やすことになる。為替先物予約を使えば、金利差分だけ将来、安くドルを買い戻せるからだ。

先物予約というと話はややこしくなりがちだが、先物予約などを使わず、現物だけでも、米国の投資家が、受取っている米ドル利息を失わずに日本株に投資することもできる。例えば、投資家が保有する米国債を銀行に担保として差し出す。銀行はその米国債を担保に円で貸し出しをする。投資家は借りた円で日本の株式市場に投資する。
この取引では、「ドル売り・円買い」という事象は発生しない。当然、為替市場の需給に影響を与えず、円高圧力は生じない。
かつ、一見、「三方よし」の状況をもたらすように見える。

この投資家は、米国債を売却しないで済むので利息収入も失わないし、米国の長期金利上昇による債券の評価損も実現損として顕現化しない。米国債を担保に借りた円資金で、為替リスクを負わずに日本株を購入できる。
銀行は米国債という安全資産を担保に、円の短期金融市場で運用すると下手するとマイナス金利運用になってしまう円を手放す(貸し出す)ことができる。
そして株価の上昇は、資産効果をもたらす。株価が上がることによる経済効果は、株価が下がるより好ましいのは当たり前だ。

しかし、マイナス面も忘れてはならない。このような取引が市場で支配的になると、外国為替市場では恒常的に円買いの需要が低減する。円高圧力は弱まり、常に円安圧力が掛かることとなる。対外決済における円の購買力は弱まり、輸入インフレ圧力もかかり続ける。

また、円の短期金利を未来永劫、ゼロ金利近辺に誘導し続けることは不可能だ。大規模緩和が長く続けば続くほど、円とドルの金利差を利用したポジションは膨らみ、大規模金融緩和の終了が見えてきた時点で、累積しているポジションが大きいほど、その巻き戻しは大幅な株価調整と為替市場の混乱をもたらす。

20世紀後半の日本買い(円高・株高)局面でも、外国人投資家は小さくない役割を担っていた。しかし、様々なクロスボーダーの金融・外為規制が緩和され、経済や金融が当時に比べて遥かにグローバル化した現在では、外国人投資家の役割はより大きくなっている。

「日銀は動かないし動けない」と高を括って円安・株高バブルを造成中の市場参加者に日銀は何らかの警鐘を鳴らすことができるのか、7月の日銀金融政策決定会合は大いに注目だ。

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ドル円月足

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