【今回のポイント】
〇現状の金融政策は据え置き
〇時期を匂わせたマイナス金利政策の廃止検討があるか
〇円は凪相場で動かないと見るが、15時30分からの植田日銀総裁の記者会見中に円高が加速する可能性有
【市場コンセンサスは何?】
9月の中央銀行による政策発表は、14日(木)に開催された欧州中央銀行(ECB)理事会(0.25ポイントの利上げを発表)を皮切りに、19−20日(金利発表とパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見は21日(木)未明)に米連邦公開市場委員会(FOMC)、21日(木)にはイングランド中央銀行、スイス国立銀行、スウェーデン中央銀行、ノルウェー中央銀行、トルコ中央銀行と政策金利発表ラッシュを迎え、22日(金)に日本銀行の金融政策決定会合(日銀会合)が大トリを飾る。
9月20日14時時点の日銀会合コンセンサスは下記の通りである。
・現状の金融政策は据え置き
・マイナス金利政策の廃止検討の時期までは踏み込まず
19日に内閣府が、日本経済の潜在的な供給力と実際の需要の差である「需給ギャップ」の4−6月期数値をプラス0.4%からプラス0.1%に下方修正した。15期ぶりのプラスは維持した格好だが、日銀が金融政策の転換を検討する際に重視する指標なだけに、下方修正は金融政策転換の足かせとなろう。
【何がサプライズになる?】
9月9日に植田日銀総裁が、一部メディアにて「物価上昇に確信もてればマイナス金利解除も選択肢」と発言したことで、「近い将来(年内に)、日銀はマイナス金利解除を行う」との思惑から、為替市場では円が主要通貨に対して買われ、債券市場では10年国債利回りが0.70%台まで上昇し、株式市場では、「不動産株売り・銀行株買い」という顕著な反応が見られた。
結局、その後、日銀関係者(誰かはいまだ不明)が「週末の植田日銀総裁発言と市場解釈にはギャップ」「日銀の認識はほぼ変わっていない」と植田日銀総裁発言の解釈を是正したことで、為替市場、株式市場では落ち着きを取り戻した。ただ、債券市場では、9月20日に10年国債利回りが0.725%まで上昇するなど、9年8か月ぶりの高水準を維持している。
今回の日銀会合で、現状の金融政策の変更を見込む市場関係者はほとんどいなく、15時30分の植田日銀総裁の記者会見にのみ注目が集まっている。
日銀関係者が、植田日銀総裁発言の解釈を是正した事も考慮すると、植田日銀総裁は市場との対話がまだまだ不慣れなのだろう。市場との対話力という観点では、前任の黒田前日銀総裁は表情に出して記者との対話を楽しんでいる節があった。もしかすると、債券市場の関係者は、植田日銀総裁が「マイナス金利政策の廃止検討」に関して、何かしら口を滑らす可能性を織り込んでいるのかもしれない。
こうした背景を考慮すると、今回の日銀会合でのサプライズはこの一点と考える。
・記者会見にて植田日銀総裁が「近い時期(年内)マイナス金利政策の廃止検討」と発言
さすがに「マイナス金利政策の廃止」に関する発言のなかで時期に踏み込んだ話は無いと考えるが、記者の厳しい質問に対して「うっかり」という可能性も捨てきれない。
【では、円はどう動く?】
コンセンサス通りだった場合とサプライズだった場合の2通りのシナリオを考えておきたい。
〇コンセンサス通りだった場合
全ての市場の反応は凪のままで、為替市場での積極的な円の売買は見送りとなるだろう。そして、市場の関心は、日銀会合から為替介入の有無に移る。20日の早朝に、イエレン米財務長官の「容認」と捉えられる発言があったことから、後は、「断固たる決意」という発言が神田財務官もしくは鈴木財務相から出て、「レートチェック」及び「財務省、金融庁、日銀による3者会合」が開催されれば、いよいよ実弾投入による為替介入となろう。
政府・日銀が為替介入を実施するには、こうした準備がまだ必要なため、ドルは150円辺りまでは上昇すると考える。昨年の高値151円96銭水準での為替介入実施を想定する。
〇サプライズだった場合
9月11日に、円が主要通貨に対して買われたような展開が、瞬間的に発生すると考える。この時は、9月8日の終値147円81銭から11日の安値145円90銭と2円ほど円高に振れたが、記者会見中にこうした動きが入るだろう。もちろん発言の度合いにもよるが、「年内に」という強い発言だった場合、よりボラタイルな相場展開となりそうだ。
そして、「ついに日銀が金融政策の大きな転換を迎えた」と市場は捉え、この円高の流れは続き、今年1月16日の127円台を起点とした中長期的な円安トレンドが収束する可能性もある。なお、このような展開となれば、政府・日銀による為替介入の議論がお蔵入りするのは当然だ。
【最近の日銀会合関係者の発言は?】
ここ最近の政府・日銀会合関係者の発言を拾った。為替水準に対する口先介入も多いが、円の動向という観点でこの一覧に含めている。
神田財務官(9月20日)
「過度な変動は望ましくない、米財務省とも緊密に連携している」
「緊張感を持って市場を注視、米国当局とは日ごろから極めて緊密に意思疎通」
イエレン米財務長官(9月20日)
「円についてボラティリティを理由とした介入であれば理解できる」
西村経産相(9月19日)
「金融政策は日銀が独立した立場で判断」
日銀関係者(9月15日)
「週末の植田日銀総裁発言と市場解釈にはギャップ」
「日銀の認識はほぼ変わっていない」
鈴木財務相(9月12日)
「日銀に物価目標実現に向けて適切な金融政策運営を期待」
植田日銀総裁(9月9日)
「物価上昇に確信もてればマイナス金利解除も選択肢」
高田日銀審議委員(9月6日)
「為替含め金融市場のボラティリティはそれなりに対応」
「物価は若干まで上昇のリスク」
神田財務官(9月6日)
「(為替が)こういった動き続くなら、あらゆる選択肢を排除せず対応する」
鈴木財務相(9月1日)
「為替、しっかり動きを注視していきたい」
【2023年の日銀会合終了時間一覧】
日銀会合はFOMCやECB理事会と違って、会合の終了時間が決まっていない。決まっているのは、日銀総裁の記者会見(15時30分)だけで、日銀会合の結果内容はおおよそ11時30分頃から13時頃に流れる。市場関係者はその間、ランチを取れないので、市場関係者泣かせの中央銀行だ。
そして、結果発表が遅くなればなるほど、「議論が紛糾している。何かサプライズがあるのでは?」と市場は勝手に解釈して、為替、株式、債券市場では思惑的な売買が活発となる傾向もあるので注意したい。
以下は、2023年の日銀会合の終了時間一覧である。なお、速報が市場に伝わるのは、終了してから5分ほど経過してからだ。
1月18日(水)・・・11時33分終了、前回会合の方針を維持
3月10日(金)・・・11時23分終了、最後の黒田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持
4月28日(金)・・・12時53分終了、最初の植田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持、金融緩和策のレビューを多角的に実施することを決定
6月16日(金)・・・11時40分終了、前回会合の方針を維持
7月28日(金)・・・12時21分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限を1.0%まで引き上げ)
9月22日(金)・・・前回会合の方針を維持する予定?
10月31日(火)・・・?
12月19日(火)・・・?
【2023年スケジュール】
※米国は現地時間なので、金利発表及び記者会見は日本時間で翌日未明
日銀金融政策決定会合(日銀会合)
9月21日(木)ー22日(金)・・・前回会合の方針を維持する予定?
10月30日(月)ー31日(火)・・・?
12月18日(月)ー19日(火)・・・?
米連邦公開市場委員会(FOMC)
9月19日(火)ー 20日(水)・・・利上げ見送り、年内後1回0.25ポイント引き上げ予定?
10月31日(火)ー11月1日(水)・・・?
12月12日(火)ー 13日(水)・・・?
欧州中央銀行理事会(ECB理事会)
9月14日(木)・・・0.25%引き上げで政策金利は4.5%、市場はユーロ売りで反応
10月26日(木)・・・?
12月14日(木)・・・?
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