エルドアン政権継続でリラ安進行、ドル円も141円手前から失速で支えとならず
〇トルコリラ円、5/29午前ドル円上昇局面で7.06へ上昇、その後ドル円下落とリラ安に圧され7円割り込む
〇5/30午前序盤にはドル高リラ安とドル円の反落を見て、一時6.90まで下落
〇対ドル、5/29は概ね20.13から19.99の取引レンジ、リラ安基調継続で取引時間中の史上最安値を更新
〇終値ベースでも20リラ台に乗せて最安値を更新、リラ安に歯止めがかからなくなっている印象
〇エルドアン大統領再選により、為替市場は利上げ催促と先行き不安からリラ売り攻勢をさらに強めるか
〇7.00以下での推移中は一段安余地ありとし、6.90割れからは6.85前後への下落を想定する
〇7.00超えからは7.02前後への上昇を想定するが、その後の反落警戒とする
【概況】
トルコリラ円の5月29日は概ね7.06円から6.96円の取引レンジ、30日早朝の終値は6.98円で先週末終値の7.03円からは0.05円の円高リラ安だった。
5月28日のトルコ大統領選挙決選投票でエルドアン現大統領の続投が決まったことによりトルコ金融経済政策の先行き不安からリラ安が進行しており、トルコリラ円はドル円の騰落を見ながらもリラ安に圧迫される展開となっている。
ドル円は米連邦債務上限問題でバイデン大統領と野党共和党マッカーシー下院議長が基本合意に達したとの報道から29日午前に140.91円へ上昇して1月16日安値127.22円以降の高値を更新したが、合意内容を不満として共和党右派の反対表明もあり、6月5日以降のデフォルト発生への懸念が払拭しきれないとの見方も残ったため、141円台へ乗せられずに29日夜には140.08円へ下落、その後は140円台中盤で揉み合いから140円台序盤を試している。
トルコリラ円は5月26日に繰り返し6.90円以下の安値提示が見られる波乱となり、波乱が収まった後はドル円の上昇に合わせて持ち直していた。しかし5月29日午前にドル円が141円へ迫った局面では7.06円へ上昇したもののその後はドル円の下落とリラ安に圧される展開で7円を割り込んだ。30日午前序盤にはドル高リラ安とドル円の反落を見て一時6.90円まで下落している。
【取引時間中・終値ベースともに史上最安値を更新】
ドル/トルコリラの5月29日は概ね20.13リラから19.99リラの取引レンジ、30日早朝の終値は20.09リラで先週末終値の19.93リラからは0.16リラのドル高リラ安だった。
トルコ大統領選挙の第1回投票でエルドアン現大統領が優勢となり、3位だったオアン候補がエルドアン支持を表明したことにより政権続投の可能性が高まる中でドル高リラ安が勢いを増し、5月26日には20.12リラへと取引時間中の史上最安値を更新した。ベンダーによっては5月26日安値で20.47リラの提示も見られた。
週明けの29日もリラ安基調は続いており、取引時間中の史上最安値を更新、終値ベースでも20リラ台に乗せて最安値を更新している。
5月30日午前は20.21リラへとさらに最安値を更新しており、リラ安に歯止めがかからなくなっている印象だ。
5月29日夕刻に発表された5月の経済信頼感指数は103.7となり4月の102.2から改善したが市場の反応は鈍かった。
【ドル高リラ安はさらに継続】
5月18日にトルコ中銀が公表した中銀によるエコノミスト調査では、2023年末のドル/トルコリラ見通しは1ドル23.086リラで4月調査の23.1535リラからはやや低下したものの23リラ台への下落見通しは変わっていないようだ。同調査では2023年の通年GDP成長率は3.7%、1年先予想インフレ率はCPI前年比で29.84%、政策金利の週間レポレートは向う3か月は8.50%への据え置きが続くものの1年先では11.11%へ上昇すると見込まれている。
あくまでも利上げによりインフレが抑制されるとの前提でのリラ安水準の予想であるが、エルドアン大統領は選挙中に追加利下げを示唆する発言を行っており、利下げがインフレを抑制するとの持論を曲げていないため、為替市場は利上げ催促と先行き不安によりリラ売り攻勢をさらに強めると思われる。またトルコの純外貨準備高がマイナス勘定となったことによりリラ防衛のためのトルコ中銀による市場介入が限界に直面していることもあり、売りが売りを呼ぶ展開となりかねないと懸念される。
4月14日に金融大手JPモルガンが大統領選挙後のメインシナリオで1ドル=24〜25リラへ下落して年末には26リラへ続落するとし、最悪シナリオでは年末に30リラへ下げるとしたが、選挙結果を受けて従来予想よりも早く1ドル26リラに達し、年末までに28リラ近辺に下落するとの見通しを示している。
【エルドアン続投により地政学的リスクは緩むか】
5月29日にバイデン米大統領はエルドアン大統領と電話会談を行い祝意を伝えたと報じられた。
米国によるトルコへのF16戦闘機売却問題が議論となったようで、バイデン大統領は会見で「F16売却についてはスウェーデンのNATO加盟にトルコが賛成することを望んでいる」と述べている。米国内ではトルコの人権問題によりF16売却への反対意見も多い。
ロシアとウクライナの戦争によりフィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請してきたが、トルコの反政府勢力の両国内の活動を批判してエルドアン大統領は両国の加盟に当初は難癖をつけ、フィンランドについては加盟を承認したがスウェーデンについてはまだ承認していない。5月29日にはトルコとスウェーデンが近日中に会談を行うとスウェーデン外務省が発表している。
エルドアン大統領はウクライナ戦争においてもロシアとの関係を継続しつつNATO加盟国としてウクライナに無人機を売却するなど綱渡り外交を繰り返しているところだが、向こう5年の政権続投が決まったことで外交姿勢に変化が見られるのか注目される。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、5月22日午後安値をサイクルボトムとして24日朝から26日朝にかけての間への上昇を想定していたが、5月26日午前から昼過ぎにかけて6.90円割れを繰り返す乱調な展開となってから26日深夜への上昇で26日早朝高値を超えたため、29日午前時点では26日昼過ぎ安値を直近のサイクルボトムとした強気サイクル入りとして5月31日朝から6月2日朝にかけての間への上昇を想定した。また乱高下が続く可能性もあるとして7.00円割れを弱気転換注意とし、6.97円割れからは弱気サイクル入りとした。
5月29日朝へ高値を切り上げてから失速し、30日午前には6.90円へ一時下げているため、29日朝高値を直近のサイクルトップとした弱気サイクル入りとして5月31日の日中から6月2日午後にかけての間への下落を想定する。乱高下がさらに続く可能性もあるため7.00円超えからは強気転換注意とするが、現時点からの強気サイクル入りは29日朝高値超えからとする。
60分足の一目均衡表では5月30日午前の下落で遅行スパンが悪化して先行スパンからも転落したため、遅行スパン悪化中の安値試し優先とするが、乱高下が続く可能性もあるので先行スパンを上抜き返す場合は上昇再開の可能性ありとみて遅行スパン好転中の高値試し優先へ切り替える。
60分足の相対力指数は5月30日午前に30ポイント台序盤へ低下しているので40ポイント以下での推移中は20ポイント割れを試す可能性もあると注意する。40ポイント超えからは50ポイント試しとするが、50ポイント前後は戻り売りも出やすいとみる。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、6.90円を下値支持線、7.00円を上値抵抗線とする。
(2)7.00円以下での推移中は一段安余地ありとし、6.90円割れからは6.85円前後への下落を想定する。6.85円以下は反騰注意とするが、6.95円以下での推移なら31日も安値試しへ向かいやすいとみる。
(3)7.00円手前は戻り売りされやすいとみる。7.00円超えからは7.02円前後への上昇を想定するがその後の反落警戒とする。
【当面の主な予定】
5月30日
16:00 4月 貿易収支 (3月 -85.7億ドル)
5月31日
16:00 1-3月 GDP 前期比 (10-12月 0.9%)
16:00 1-3月 GDP 前年同期比 (10-12月 3.5%、予想 3.9%)
6月1日
16:00 5月 イスタンブール製造業PMI (4月 51.5)
20:30 週次 外貨準備高 5/26時点 グロス (5/19時点 588.3億ドル)
20:30 週次 外貨準備高 5/26時点 ネット (5/19時点 -1.513億ドル)
6月5日
16:00 5月 消費者物価指数 前月比 (4月 2.39%)
16:00 5月 消費者物価指数 前年同月比 (4月 43.68%)
16:00 5月 消費者物価コア指数 前月比 (4月 3.2%)
16:00 5月 消費者物価コア指数 前年同月比 (4月 45.5%)
16:00 5月 生産者物価指数 前月比 (4月 0.81%)
16:00 5月 生産者物価指数 前年同月比 (4月 52.11%)
注:ポイント要約は編集部
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