ドル円 リスクオフの円買いより有事のドル買い(週報2月第4週)

先週のドル円は週を通してウクライナ情勢を懸念して上下する動きでしたが、それでも一週間のレンジは114.41〜115.76と1円35銭に留まりました。

ドル円 リスクオフの円買いより有事のドル買い(週報2月第4週)

リスクオフの円買いより有事のドル買い

〇先週のドル円、ウクライナ情勢で上下するも週間レンジは114.41〜115.76と1円35銭に留まる
〇今回のウクライナ侵攻は、戦争では米ドル買いで反応する「有事のドル買い」に戻った印象
〇今後の金融市場、大局的には株式市場は売り、債券市場は米国債券買いで長期金利低下とみる
〇傀儡政権樹立の事態なら長期的に制裁継続、リスクオフの動きも継続という流れになるとみる
〇今週は114.50レベルをサポートに116.00レベルをレジスタンスとする
〇ウクライナ情勢次第でどのようにも動きうるということは常に考えておく必要あり

今週の週間見通し

先週のドル円は週を通してウクライナ情勢を懸念して上下する動きでしたが、それでも一週間のレンジは114.41〜115.76と1円35銭に留まり、冷戦終了後最大の有事となるリスクを抱えている割には静かな動きであったと言えます。

これはこれまでのリスクオフの動きでは特に株式市場が下げると円買いという動きにつながるいっぽうで、もしウクライナ情勢が更なる悪化を見せ、ロシア軍とNATO軍が衝突するような事態に発展した場合、最大の軍事力を持つ米国買いの連想からドルが買われたという面が大きいと言えます。地政学的にユーロに売りが入りやすかったこともドル買いを一層強める結果につながりました。

米国同時多発テロまではリスクオフと言えば「有事のドル買い」と言われ、特に戦争では米ドル買いで反応するということが一般的でした。私もインターバンクディーラー時代に湾岸戦争をはじめとする有事は何度も見てきましたが、反射的にドル買いに動いたものです。そうした点で、今回のウクライナ侵攻は以前の有事へと戻った印象があります。

現状ではまだどのような流れに発展するかわかりませんが、少なくともロシアに対して西側諸国が経済制裁を行い、ロシアの主要銀行と中銀に対してSWIFT(日本語カタカナ読みでスイフト)からの締め出しを行うところまでは決定事項です。これによりロシアの金融機関は海外との決済ができなくなりますし、中銀はロシアルーブルが急落していても介入することも困難になりロシアの経済へのダメージは甚大なものになると言われます。

しかし西側諸国としてもロシアに対する債権を受け取れなくなるため、欧州を中心に当初は反対の声も大きかったのですが、最終的に協調での制裁となっています。当然ロシア以外の国の経済にも影響しますし、ロシアからの原油、天然ガス、穀物、レアメタルの購入がストップすると物の価格が一段と上がり、各国のインフレ上昇につながります。

FRBを中心に金融政策の舵取りもしなくてはならず、かなり今後の金融市場の読みが難しくなっていますが、大局的には以下のような流れになりやすいと見ています。

株式市場:対ロシア経済制裁による景気減速懸念で売り
債券市場:米国債は安全資産ということで株式市場から資金流入、債券買い=長期金利低下
金利市場:インフレ懸念が強まることから金利は高止まり
将来的な景気減速懸念から年後半の利上げ思惑はペースダウン
商品市場:ロシアからの供給減で原油高、穀物高
安全資産として金価格上昇
暗号資産:株式同様にリスク資産であり売り
ロシアが決済代替手段としてビットコインを使う場合は下げも限定的

そして、為替市場については上述した通りで、冷戦時代の有事のドル買いが起きやすいと言えます。

また停戦合意の内容が、NATO軍に加盟しない程度で傀儡政権樹立にまでつながらない場合には、リスクオフの巻き返しが強まりますが、傀儡政権樹立でウクライナが実質的にロシアに組み込まれベラルーシのようになってしまう事態であれば、長期的に制裁継続、リスクオフの動きも継続という流れになると見ています。

平和裏に事が進んで欲しいとは思うものの、ロシアもここまで思い切った武力行使に踏み切ったわけで、当然制裁は想定内ということになるかと思います。そうなると、今回のウクライナ侵攻とその後の影響は長期化すると考えた方がよいでしょう。現時点ではまだロシアとウクライナの協議も始まっていませんので、協議の行方を見守るしかありません。

テクニカルにはどうなのかをいつもの日足チャートで見て行きます。

ドル円(日足)チャート

ドル円(日足)チャート

このチャートは、ローソク足の足型をそのままに陰陽の着色のみを平均足と同様とすることで、短期的な方向性(白=上昇、黒=下降)を見やすくした独自チャートとなっています。また、一目均衡表を併せて表示することで上下のチャートポイントもわかりやすく示しました。

現状は2月レンジの中でその半値115.24をもみあいの中心としやすい流れにあるようです。またピンクのラインで示したサポートラインとレジスタンスラインが短期的には上下の水準を示していますが、有事のドル買いが強まると上抜けの可能性が高いと言えそうです。

テクニカルにはサポートは114円台半ばですが、上抜けを考えても116円台前半では売りも出てきそうです。ドル円に関しては114.50レベルをサポートに116.00レベルをレジスタンスとする流れを見ておきますが、ウクライナ情勢次第でどのようにも動きうるということは常に考えておきましょう。

今週の予定(時刻表示のあるものは日本時間)

今週注目される経済指標と予定をあげてあります。影響が少ないものはあえて省いています。FRB地区連銀総裁講演の内、2022年FOMCメンバー(ニューヨーク、ボストン、クリーブランド、セントルイス、カンザスシティ)ではない地区連銀総裁はカッコ付で示しました。また、わかりやすさ優先であえて正式呼称で表記していない場合もあります。特に重要度の高いイベントに☆印を付けました。

2月28日(月)
09:00 豪州2月企業信頼感
09:30 豪州1月小売売上高
16:00 トルコ10〜12月期GDP
16:00 トルコ1月貿易収支
20:30 パネッタECB理事講演 ☆
21:00 南ア1月貿易収支
22:30 米国1月卸売在庫
23:45 米国2月シカゴ購買部協会景況指数 ☆
24:30 (アトランタ連銀総裁講演)

3月1日(火)
09:30 豪州10〜12月期経常収支
10:30 中国2月製造業PMI ☆
10:45 中国2月MarkIt製造業PMI
12:30 豪中銀政策金利発表
16:00 トルコ2月製造業PMI
17:50 フランス2月製造業PMI
17:55 ドイツ2月製造業PMI
18:00 ユーロ圏2月製造業PMI
18:30 英国2月製造業PMI
22:00 ドイツ2月CPI速報値 ☆
22:30 カナダ10〜12月期GDP
23:45 米国2月製造業PMI
24:00 米国2月ISM製造業景況指数 ☆
24:00 米国1月建設支出
30:45 NZ1月住宅建築許可件数

3月2日(水)
09:30 豪州10〜12月期GDP
17:55 ドイツ2月失業率
19:00 ユーロ圏2月CPI速報値 ☆
22:15 米国2月ADP全国雇用者数 ☆
23:00 (シカゴ連銀総裁講演)
23:30 セントルイス連銀総裁講演
24:00 パウエルFRB議長議会証言(下院)☆
24:00 カナダ中銀政策金利発表 ☆
24:30 週間原油在庫統計
25:00 レーンECB理事講演 ☆
28:00 ベージュブック ☆

3月3日(木)
08:30 本邦1月失業率・有効求人倍率
09:30 豪州1月貿易収支、住宅建築許可件数
10:45 中国2月MarkItサービス業PMI
16:00 トルコ2月CPI
17:50 フランス2月サービス業PMI
17:55 ドイツ2月サービス業PMI
18:00 ユーロ圏2月サービス業PMI
18:30 英国2月サービス業PMI
19:00 ユーロ圏1月PPI、失業率
21:30 ECB理事会議事要旨公表 ☆
21:30 米国2月チャレンジャー人員削減予定数
22:30 米国新規失業保険申請件数
23:45 米国2月サービス業PMI
24:00 パウエルFRB議長議会証言(上院)☆
24:00 米国2月ISM非製造業景況指数 ☆
24:00 米国1月製造業新規受注

3月4日(金)
08:00 NY連銀総裁講演 ☆
16:00 ドイツ1月貿易収支
16:45 フランス1月鉱工業生産
18:30 英国2月建設業PMI
19:00 ユーロ圏1月小売売上高
22:30 米国2月雇用統計 ☆

前週の主要レート(週間レンジ)

前週の主要レート(週間レンジ)

(注)上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。為替の高値・安値は東京午前9時~NY午後5時のインターバンクレート。

先週の概況

2月21日(月)
週明けの為替相場は前週末にウクライナ問題が緊迫化していたところに米露首脳会談開催で基本的に合意したとのニュースでリスクオフの巻き返しでスタートしました。しかしドル円はユーロドルのユーロ買いが強かったことからドル売りに押される形となり金曜からのじり安を続け、114.72レベルまで下押しして安値引けとなりました。

2月22日(火)
火曜はロシアがウクライナ東部2州の独立を承認し派兵するとのニュースを受けてリスクオフによる円買いが先行しましたが、経済制裁の内容が大したことが無かったとの反応から欧州市場では買い戻しが目立ちました。しかし今後まだ情勢が悪化する可能性も高いとの見方も強くNY市場では調整の売りが入りました。

2月23日(水)
東京が休場となった日のドル円は終日ほとんど動きが見られず、115円の大台を挟んだ小動きに終始しました。

2月24日(木)
ロシアが東部2州のみ侵攻という当初の説明に反し、ウクライナ全土を攻撃するという暴挙に出たことで金融市場は大荒れとなりました。これまで武力で他国に侵攻という出来事は誰も想定していませんでしたが、2月に入ってから米国が逐一公開してきた機密情報通りの最悪の事態となりました。NY市場まで株式市場は急落、リスクオフに反応して為替市場は3主要通貨ペアともに下げが先行しました。しかし追加制裁が思ったほどの内容とならなかったことから株式市場は反発し、ほぼ前日終値水準まで行って来い。ドル円は欧州市場序盤までは株安によるリスクオフで114.41レベルまで下げていましたが、ドル買いの影響が強まり底固めをした後は115.70レベルまで上伸後やや押して引けました。

2月25日(金)
ドル円は欧州市場前場まではウクライナ情勢を懸念したダウ先の下げを見ながら円買いの動きが見られました。しかし欧州市場に入り、ロシアとウクライナによる停戦交渉期待から株式市場の上昇とともにドル円にも買いが入り、115.76レベルと前日高値を上抜けた後にやや押しての引けとなりました。

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