大統領がコロナ感染、リラは対円と対ドルでの持ち合い続く
〇トルコリラ円、5日早朝の終値8.48で前日終値8.47円からは0.01円の円安リラ高
〇1/3の高安レンジ内での推移、日足ベースではほぼ横ばい型の持ち合い続く
〇リラ高基調へ流れを変える勢い見られず、市場心理はリラ安が進む懸念を抱えつつ様子見の展開
〇エルドアン大統領がエミネ夫人と共にオミクロン株に感染、症状軽く大統領は在宅で職務を行う
〇8.70を超える場合は1/3高値9.00に迫る可能性も考えられるが8.80以上は反落警戒とみる
〇8.30以下の一時的な急落発生でも、強烈なリラ売り材料なければバーゲンハント買いされやすいとみる
【概況】
トルコリラ円の2月4日は8.52円から8.43円の取引レンジ、5日早朝の終値は8.48円で前日終値の8.47円からは0.01円の円安リラ高だった。
2月4日夜には米1月雇用統計の発表があり、非農業部門就業者数が15万人増の事前予想に対して46.7万人増と大幅に上回り、12月分も速報の19.9万人増から51.0万人増へ大幅上方修正されたことで発表後は米長期債利回りが大幅上昇してドル高となり、ドル円が115.42円まで上昇したことでトルコリラ円も8.52円まで押し上げられたが、深夜以降はドル円の上昇も一服し、対ドルでのトルコリラの動きも鈍かったことで8.50円を割り込んで週を終えた。
2月3日にはトルコ1月消費者物価上昇率の発表があったが、消費者物価指数の前年同月比が48.69%へ一段と上昇したものの前月比では12月の13.58%から1月は11.10%へとやや落ち着き、コア指数も前年同月比が39.4%へ上昇したものの前月比は12月の13.2%から1月は6.9%へと鈍化したことで市場の反応も限定的なものにとどまった。また3日夜に発表された週次の外貨準備高も前週からは増加したこともリラ相場をやや落ち着かせた。
1月3日に8.13円(ベンダーによっては8.21円等)まで急落してから9.00円までいったん戻し、その後は1月3日の高安レンジ内での推移にとどまり日足ベースではほぼ横ばい型の持ち合いが続いている。12月のリラ暴落が落ち着いたものの、リラ預金の為替差損補填政策による一時的反騰を見た後もリラ高基調へと流れを変える勢いは見られず、市場心理としてはリラ安がさらに進む懸念を抱えつつ様子見の展開を続けているところだ。
【エルドアン大統領がコロナ感染】
エルドアン大統領がエミネ夫人と共に新型コロナウイルスのオミクロン株に感染した。いずれも症状は軽く大統領は在宅で職務を行うという。大統領は昨年6月にブースター接種を行っていた。
トルコの新規感染者数は2月2日に11万人に達して過去最多となった。その後も10万人前後の水準にあり、死者も2月5日には221人となり昨年末の100人台序盤から倍増している。1日当たりの死者は昨年9月の第4波のピークで290人、第3波のピーク去った昨年4月の394人が最多だった。感染拡大に対する厳しい規制は導入されておらずウィズコロナ政策が継続している。
【ウクライナ情勢への介入】
エルドアン大統領は2月3日にウクライナの首都キエフを訪れてゼレンスキー大統領と会談し、ロシアとウクライナの軍事緊張に対する仲裁とウクライナ支援について協議したが、ウクライナとの防衛協力を深める合意に署名し、ウクライナはトルコの軍事ドローンを自国内で製造する契約に調印した。
トルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国であるもののロシアとは天然ガスのパイプラインやSA400ミサイルシステムの導入等で協力関係にある一方、ギリシャ沖の海底ガス田探査や難民問題等で欧州と対立関係にある。トルコによるウクライナ支援についてロシアは批判しているが、エルドアン大統領はプーチン大統領に対する仲裁の意思を示している。
トルコの軍事ドローンは評価が高く、同国のバイカル社によるモデルである「バイラクタル TB2」は神風ドローンと言われており、ポーランド、アルバニア、アゼルバイジャン、カタール等が購入している。2020年のナゴルノカラバフ紛争でもアゼルバイジャンによるアルメニアへの攻勢に貢献している。
【主要国の金融引き締めに反するトルコの利下げ姿勢】
1月27日早朝にFOMC声明を出した米連銀は3月から利上げに入り量的金融緩和終了から量的引き締めへ進む見込みだ。英中銀は12月に続く2会合連続で利上げを決定し、ECBもインフレ抑制への姿勢を強めて年内の利上げを示唆している。
主要国の金融引き締めは大規模な金融緩和期に拡大した新興国投資マネーの逆流を招いており、新興国もインフレ対策と共に主要国への対抗を迫られて利上げに進まざるを得ない状況にある。
ブラジルは2月2日に政策金利を0.15%引き上げて10.75%としたが利上げは8会合連続となった。メキシコは12月16日に政策金利を0.50%引き上げて5.50%としたが6会合連続の利上げだった。NZは昨年10月と11月に2会合連続で利上げをした。南アも昨年11月に利上げに入った。ロシアは昨年3月から12月まで7回の利上げを行っている。
こうした中で利下げがインフレを抑制するとの自説を強調して中銀も大統領の圧力に屈して4会合連続で利下げを強行してきたトルコの金融政策への不信感がリラの暴落的な下落を招き、リラ預金の為替差損を国家が補填するという奇策が飛び出す等、海外投資家にとってのトルコリラは先行きの不透明な状況にある。
ひとまずは1-3月期の追加利下げを急がずに様子見とする姿勢を示していること、連続利下げをしてもまだ政策金利は14%と高水準であり、10年債利回りは22%近辺にあるため、リラ安リスクを踏まえても高金利目当てのリラ買い意欲も考えられるところのために対円及び対ドルでのトルコリラも落ち着いているが、トルコ経済が力強さを示してインフレが落ち着く状況を示せないと、再び史上最安値を試してゆくことになりかねないと懸念される。
【中勢のポイント 8円台の持ち合い継続】
1月3日以降は8円台の持ち合いが続いている。1月12日と1月31日に8.60円を超えたところは売られ、8.40円以下では買い戻されている。
新型コロナウイルスに感染したエルドアン大統領が仮に症状を悪化させるようだと政治的リスクが高まる可能性もあり得るが、軽症で健在ぶりを示していれば特に大きな問題にはならないだろうと思われる。
米連銀による金融引き締め姿勢が一段とタカ派へ傾斜する場合はドル高による新興国通貨への圧迫感が強まりトルコリラへの売り圧力も高まる可能性があるため、南アランドやメキシコペソ等の新興国通貨の下落感が強まるようだとトルコリラ円も持ち合い下放れを試す可能性も出てくると注意したい。
2月3日のトルコ物価指数発表を通過しているので、高インフレ問題は継続するものの2月17日の次回トルコ金融政策決定会合までは間があるので、それまでは持ち合い放れを試すほどのきっかけは得難いところと思う。
以上を踏まえて中勢のポイントを示す。
(1)当面、8.40円以下は買い戻され、8.60円台は戻り売りにつかまる持ち合い範囲での逆張り有利の状況が続くとみる。
(2)8.70円を超える場合は1月3日高値9.00円に迫る可能性も考えられるが8.80円以上は反落警戒とみる。
(3)8.30円台前半は買い戻されやすいとみる。8.30円以下への一時的な急落が発生しても新たに強烈なリラ売り材料が見られないようならバーゲンハント買いされやすいとみるが、大統領や中銀総裁及び財務相等による追加利下げへ傾斜した発言等でリラ安が進む場合は8.20円以上を維持できるかどうかを試す可能性もあるとみる。
【当面の主な予定】
2月07日
23:30 1月 財務省現金残 前月比 (12月 -920.9億リラ)
2月10日
16:00 12月 失業率 (11月 11.2%)
20:30 週次 外貨準備高 グロス 2/4時点 (1/28時点 716.4億ドル)
20:30 週次 外貨準備高 ネット 2/4時点 (1/28時点 105.3億ドル)
2月11日
16:00 12月 鉱工業生産 前月比 (11月 3.3%)
16:00 12月 鉱工業生産 前年同月比 (11月 11.4%)
16:00 12月 小売売上高 前月比 (11月 1.3%)
16:00 12月 小売売上高 前年同月比 (11月 16.3%)
16:00 12月 経常収支 (11月 -26.81億ドル)
2月15日
17:00 1月 財政収支 (12月 -1457.4億リラ)
2月17日
20:00 トルコ中銀金融政策決定会合 政策金利 (現行 14.00%)
20:30 週次 外貨準備高 2/11時点
注:ポイント要約は編集部
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