ドル高が大いなるダマシとなった可能性 (週報3月第1週)

先週のドル円は、NY株式市場の急落を受け一気にリスクオフの円高へと方向転換した一週間となりました。

ドル高が大いなるダマシとなった可能性 (週報3月第1週)

今週の週間見通し

先週のドル円は、NY株式市場の急落を受け一気にリスクオフの円高へと方向転換した一週間となりました。NYダウは2月中旬までは新型コロナウイルスの感染者拡大をよそに史上最高値更新と理由なき楽観相場の様相を呈していましたが、先週初には韓国やイタリアでの感染者急増から世界的な景気減速懸念が急速に持ち上がりダウは週初から急落を、見せました。

記録ずくめの下げで、月曜火曜は2日間として過去最大の下げ幅となり、木曜は1日として史上最大の下げ幅、そして1週間の下げ幅もリーマンショック時を抜いて過去最大となりました。現在の株価水準からするとパーセントでは過去の下げの方が大きいものの、史上最高値更新直後の急落となったことで、市場参加者のパニックぶりがうかがえました。

こうした米国株式市場の急落を受け、ドル円も前週金曜には112.19レベルだったところから週を通してドル売りの波が襲い、金曜のNY市場では107.51レベルまで下落、週明け本日の早朝市場では一時107.36レベルの安値をつけるに至りました。こうした動きはドル円だけでなく他の金融市場でも各所に見られます。リスクオフ相場の時に私もよく持ち出すドル建ての金、NYダウ、米国10年債利回りを並べてみてみましょう。

今週の週間見通し

上からドル建て金(スポット)、NYダウ(先物GLOBEX)、10年債利回り(先物)となっていますが、金価格は先週月曜に1689.3ドルの高値をつけ、10年債利回りは金曜に1.127%と史上最低利回りを示しました。こうしたリスクオフの動きの際に、比較的早く動きが出るのが金で、2018年秋のダウ大幅安となった時にも金価格は既に8月から上昇に転じていましたし、今回も金が高値をつけた動きが時間的にはダウに先行していたと言えます。

そして、10年債利回りが政策金利(1.50〜1.75%のフェドファンド)を大幅に下回ってきた動きの要因は、ひとつはリスク資産の代表である株式市場から、金同様に安全資産の代表である米国債に資金がシフトとしたということがありますが、もうひとつはFRBが利下げを行う可能性が高まったという緩和思惑があります。金曜にはパウエルFRB議長が適切に行動と発言したことで、3月18日のFOMCでの利下げ思惑が急速に高まりましたが、フェドファンドの先物市場では50bp下げて1.00〜1.25%となるというのが圧倒的なコンセンサスとなっています。

要するに政策金利がその水準にまで下がらないと極端な逆イールドとなり、FRBとしてはおそらく昨年の予防的利下げから、今回は緊急的利下げというスタンスを見せてくるでしょう。しかし、今年11月には大統領選がありますので、一度下げるとなかなか利上げには動きにくく、緊急的なもので将来的には利上げすることで正常化するとは言いにくそうです。よりサプライズでインパクトを求めるならば、FOMC前に電話会議等で緊急利下げを行い、FOMCでは理由の説明に留めるという可能性も過去の例から否定できません。

いずれにしても、為替市場では株安のリスクオフによる円買いと、金利差縮小によるドル売りとで大きくドル売り・円買いが進むこととなったわけですが、さすがにスピードが速すぎるのではないかという印象もあります。先々週金曜の高値からの下げ幅は既に、昨年年間レンジの6割を超え、基本的に大きくは動かないドル円としては異例の値幅と言えます。株式市場の落ち着き次第ではありますが、そろそろいったん下げ止まる水準になってきたと考えてもよいでしょう。

今週は雇用統計等もありますが、もっとも注目されるのは中国のPMIです。ただ悪くて当たり前という面もあり、その部分は既に織り込んでいるとも言えます。次にテクニカルにはどうなのか、チャートを見ていきましょう。

なんともひどいチャートです。長期トライアングル(三角もちあい)を上抜けたことで114円台後半を視野に入れる動きになってきたところでの急落で、トライアングルのサポートを下抜ける動きとなってしまいました。こうした大いなるダマシは稀に発生しますが、通常は最初の抜け(今回は上)がダマシで、後からの抜け(今回は下)が本流となる可能性が高いものです。テクニカルにはヘッドフェイクと言われるものですが、起きてみるまでは判断しようが無いところが厄介です。

ヘッドフェイクであるとすればドル安・円高という上抜け前の流れに戻るということとなりますが、そうは言っても外部要因(株式市場)が今後の米国利下げ思惑とどうなるかを見極めないとトレンド判断は簡単ではありません。仮に下降トレンドが継続すると考える場合には昨年安値と今年高値とのフィボナッチ・リトレースメントを考えることとなります。

その場合、61.8%押しが107.41と今朝の安値圏、そして78.6%(61.8%の平方根)押しが106.11となります。いったん下げ止まったと考えられるものの、株式市場が更なる下落となる時には106円台前半までを考えることとなるでしょう。

今週はスピードが速すぎることからここからの下げは限定的と見て、107.25レベルをサポートに109.75レベルをレジスタンスとすると見ておきます。

今週の週間見通し 2枚目の画像

ドル円(日足)チャート
このチャートは、ローソク足の足型をそのままに陰陽の着色のみを平均足と同様とすることで、短期的な方向性(白=上昇、黒=下降)を見やすくした独自チャートとなっています。また、一目均衡表を併せて表示することで上下のチャートポイントもわかりやすく示しました。

今週の予定(時刻表示のあるものは日本時間)

今週注目される経済指標と予定をあげてあります。影響が少ないものはあえて省いています。FRB地区連銀総裁講演の内、2020年FOMCメンバー(ニューヨーク、フィラデルフィア、クリーブランド、ミネアポリス、ダラス)ではない地区連銀総裁はカッコ付で示しました。また、わかりやすさ優先であえて正式呼称で表記していない場合もあります。

3月2日(月)
10:45 中国2月MarkIt製造業PMI
16:00 トルコ2月製造業PMI
17:50 フランス2月製造業PMI改定値
17:55 ドイツ2月製造業PMI改定値
18:00 ユーロ圏2月製造業PMI改定値
18:30 英国2月製造業PMI改定値
23:45 米国2月製造業PMI改定値
24:00 米国2月ISM製造業景況指数
24:00 米国1月建設支出
**:** 英・EU通商協議開始

3月3日(火)
09:30 豪州1月住宅建設許可件数
12:30 豪中銀政策金利発表
15:45 スイス10〜12月期GDP
16:00 トルコ2月CPI
18:30 英国2月建設業PMI
18:30 南ア10〜12月期GDP
19:00 ユーロ圏1月PPI
19:00 ユーロ圏1月失業率
28:50 クリーブランド連銀総裁講演
30:45 NZ1月住宅建設許可件数
**:** スーパー・チューズデイ

3月4日(水)
08:30 (シカゴ連銀総裁講演)
09:30 豪州10〜12月期GDP
10:45 中国2月MarkItサービス業PMI
17:50 フランス2月サービス業PMI改定値
17:55 ドイツ2月サービス業PMI改定値
18:00 ユーロ圏2月サービス業PMI改定値
18:30 英国2月サービス業PMI改定値
19:00 ユーロ圏1月小売売上高
22:15 米国2月ADP全国雇用者数
23:45 米国2月サービス業PMI改定値
24:00 カナダ中銀政策金利発表
24:00 米国2月ISM非製造業景況指数
24:30 週間原油在庫統計
28:00 ベージュブック

3月5日(木)
08:30 (セントルイス連銀総裁講演)
09:30 豪州1月貿易収支
21:30 米国2月チャレンジャー人員削減予定数
22:30 米国新規失業保険申請件数
22:30 米国10〜12月期非農業部門労働生産性改定値
24:00 米国1月製造業新規受注
26:00 英中銀総裁講演
26:45 カナダ中銀総裁講演
**:** OPEC総会

3月6日(金)
08:30 ダラス連銀総裁講演
09:30 豪州1月小売売上高
10:45 NY連銀総裁講演
16:00 ドイツ1月製造業新規受注
16:45 フランス1月貿易収支
22:30 米国2月雇用統計
22:30 米国1月貿易収支
23:20 クリーブランド連銀総裁講演、(シカゴ連銀総裁講演)
24:00 米国1月卸売売上高・在庫
29:30 カンザスシティ連銀総裁講演
**:** OPEC・非OPEC会合

3月8日(日)
 **:** 米国夏時間に移行

前週の主要レート(週間レンジ)

前週の主要レート(週間レンジ)

上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。為替の高値・安値は東京午前9時~NY午後5時のインターバンクレート。

先週の概況

2月24日(月)
東京が休場となった月曜のドル円はNY市場までは小動きとなっていたものの、前週末の流れを受けてドルの上値が重たい流れが続きました。NY市場では既にアジア時間の先物市場で売りが強まっていたダウが、新型コロナウイルス感染拡大による景気減速を懸念して大幅安となり、リスクオフからドル円も110.33レベルまで売られた後に110円台後半に戻して引けました。


2月25日(火)
東京市場のドル円は前日海外市場の株価指数先物が大幅安となった動きに対して買い戻しが見られたことから朝方は底堅い展開となりました。しかし仲値すぎに一時的に111円台に戻して以降は売りたい向きが増えてきたこと、また海外市場に移ってからは株式市場に改めて売りが入り、NY市場ではダウが連日の大幅安となったことから、一時109.89レベルまで下げ、引けにかけてやや戻す動きとなりました。

2月26日(水)
ドル円は株式市場の動きに沿った一日となりました。東京市場では株価は底堅かったものの欧州市場に入りダウ先物が一時的に前日安値を割り込んだ後、NY前場までは買い戻しが入り、NY後場は再び安値圏へと押す動きでした。NYダウは前日までの2日間としては史上最大の下げ幅となったこともあり、様子見の一日といった感じでしたが、ドル円も値幅を拡げず株式市場のミラー相場となった一日でした。


2月27日(木)
前日までと同様に株式市場の上値が重たかったことから、ドル売りの動きが続きました。NY市場に入り昼過ぎにダウがいったん戻す場面ではドル円も買い戻されたものの、後場に入りダウが急落、1日として過去最大の下げを演じるとドルは一段安となり、ドル円は109.53レベルまで下げ安値圏での引けとなりました。

2月28日(金)
前日までも株式市場は売り一色の展開でしたが、金曜も朝から売りが先行、NY市場では一時1100ドル近い下げとなり、ドル円も終日下げ続けNY市場の引け間際には107.51レベルの安値をつけました。しかし、株式市場ではパウエルFRB議長の適切に行動するとの発言を利下げと受け取り引けにかけては大きく反発、ドル円も引けにかけては108円台に戻して引けました。

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