ドル円 円高警戒感が高まり大台をトライ(9月第2週)

トランプ大統領による「次は日米貿易戦争」という発言がきっかけとなり、水準を切り下げた後に雇用統計で戻す動きとなりました。

ドル円 円高警戒感が高まり大台をトライ(9月第2週)

今週の週間見通し

先週のドル円は、木曜NY後場までは111円台前半を中心として方向感がはっきりしない展開が続きましたが、トランプ大統領による「次は日米貿易戦争」という発言がきっかけとなり、水準を切り下げた後に雇用統計で戻す動きとなりました。

まず雇用統計ですが、時給の伸びを中心に全体に強い数字となったことがドル買いのきっかけとなりました。時給の伸びは+2.9%と9年ぶりの上昇率となり、ここまでの貿易摩擦の影響も見られず今月のFOMCによる利上げがほぼ確定したとの見方が市場に広がりドル買いの安心感が強まったと言えます。

しかし、問題は前日のトランプ大統領の発言です。これまでも対中貿易摩擦は激化の一途を辿り、雇用統計後にも対中追加関税に言及していますし、NAFTAの交渉が長引いているのを見ても分かる通り、今後の対欧州、そして今月下旬に第2回目が開かれる日米通商交渉と米国側は一歩も引く予定は無いと思われます。

先週発表された米国貿易赤字も対中赤字が過去最大となるなど、引き続き11月に中間選挙に向けてトランプ大統領の最大の関心事は通商交渉となっています。日本側としてはTPPで決まったこと(一例として牛肉の関税は38.5%から16年かけて9%まで下げる)をベースに米国と交渉する予定のようですが、米国側はTPPに戻らないことを前提に二国間交渉において更なる要求を突き付けて来る可能性があります。

またNAFTAにおける米国とメキシコの合意には為替条項が含まれました。これは輸出に有利になる通貨安競争をしないというものですが、これは先の米韓の合意内容にも含まれ、今後の他国との交渉にも為替条項を含めると言っていますので、日米通商交渉においても含まれると見た方がよさそうです。

その場合、基準の為替レートがいくらなのかは実際に決まる合意を見るまではわかりませんが、少なくとも交渉時点のレートは最も基準となりやすい水準だと思われますし、トランプ大統領のことですから現時点よりドル高水準では米国が通貨安にと言われる可能性が残るため、交渉時点よりもドル安水準を目安としてくる可能性はあります。例えば、今年月末時点の為替レート平均等、いくらでも今よりもドル安水準を基準にすることは可能です。

日米通商交渉に向けての大幅な譲歩と米国に有利な為替条項といった動きが9月下旬に向けて出て来ることを懸念するならば、111円台はおろか110円台でのドル円水準でも長期的にはドル買いで入ってはいけない可能性があるかもしれない、とそんなことを考えた週末となりました。まだ見通しとしては早すぎるかもしれませんが、ドル安・円高のリスkは常にあるというスタンスでマーケットの臨んだ方がいいと思います。

それでは、テクニカルな観点からチャートも見てみましょう。

先週も書いた通り、テクニカルには7月高値113.18が中期的なドル高値、短期的には8月の戻り高値111.83となります。そして、8月安値は年初来安値と7月高値との38.2%押しと重なり、8月戻り高値は7月高値と8月安値の61.8%押しと重なり、更に8月安値と先々週の8月戻り高値の61.8%押しと先週安値はほぼ重なっています。つまり、テクニカルにはここまでかなりキレイな値動きで着実に水準を切り下げる動きへの流れを作っています。

今一度7月高値に戻り、この高値を起点に8月安値までの下げ、その後の8月戻り高値への上げを3点とした逆N波動(ピンクの逆N)を想定します。ここでフィボナッチ・エクスパンション(青のターゲット)を考えると、最も近い50%エクスパンションが110.13と大台と重なり、次の61.8%エクスパンションは109.73と8月安値に重なります。そしてここを抜けて来ると更なる円高の動きとして100%エクスパンションンの108.43を目指す流れへと加速してくる、というのが個人的な今後のドル円のシナリオです。

今週の週間見通し

ドル円(日足)チャート
このチャートは、ローソク足の足型をそのままに陰陽の着色のみを平均足と同様とすることで、短期的な方向性(白=上昇、黒=下降)を見やすくした独自チャートとなっています。また、一目均衡表を併せて表示することで上下のチャートポイントもわかりやすく示しました。


今週はまだ、そこまでの動きとしては出て来ないと思うもののトランプ大統領からの農産物に関する発言を中心に注意すべき9月中旬に入ってきたことは間違いありません。今週は雇用統計前後でドル円は高値をつけやすいというアノマリーもありますので、やや水準を下げ111円台半ばをレジスタンスに109円台後半をサポートとする週を見ておきたいと思います。

今週の予定(時刻表示のあるものは日本時間)

今週注目される経済指標と予定をあげてあります。影響が少ないものはあえて省いています。FRB地区連銀総裁講演の内、2018年FOMCメンバー(ニューヨーク、クリーブランド、リッチモンド、アトランタ、サンフランシスコ)ではない地区連銀総裁はカッコ付で示しました。また、わかりやすさ優先であえて正式呼称で表記していない場合もあります。

9月10日(月)
07:45 NZ4〜6月期製造業売上高
08:50 本邦7月貿易収支(国際収支)
08:50 本邦4〜6月期GDP改定値
10:30 中国8月CPI、PPI
16:00 トルコ4〜6月期GDP
17:30 英国7月貿易収支

9月11日(火)
10:30 豪州8月NAB企業景況感
17:30 英国8月失業率
18:00 ドイツ9月ZEW景況感指数
18:00 ユーロ圏9月ZEW景況感指数
23:00 米国7月卸売売上高・在庫

9月12日(水)
18:00 ユーロ圏7月鉱工業生産
20:00 南ア7月小売売上高
21:30 米国8月PPI
22:30(セントルイス連銀総裁講演)
23:30 原油週間在庫統計
25:45 ブレイナードFRB理事講演
27:00 ベージュブック

9月13日(木)
10:30 豪州8月失業率
15:00 ドイツ8月CPI
15:45 フランス8月CPI
20:00 英中銀MPC結果発表
20:00 トルコ中銀政策金利発表
20:45 ECB理事会
21:30 ドラギECB総裁会見
21:30 米国新規失業保険申請件数
21:30 米国8月CPI
23:00 クオールズFRB副議長議会証言
26:15 アトランタ連銀総裁講演

9月14日(金)
11:00 中国8月小売売上高、鉱工業生産
18:00 ユーロ圏7月貿易収支
19:00 英中銀総裁講演
21:30 米国8月小売売上高
21:30 米国8月輸入物価指数
22:00 (シカゴ連銀総裁講演)
22:15 米国8月鉱工業生産、設備稼働率
23:00 米国9月ミシガン大消費者信頼感速報値
23:00 (ボストン連銀総裁講演)
23:00 米国7月企業在庫

前週の主要レート(週間レンジ)

前週の主要レート(週間レンジ)

上記表の始値は全て東京午前9時時点のレート。
為替の高値・安値は東京午前9時〜NY午後5時のインターバンクレート。

前週の概況

9月3日(月)
月初ではあるものの米国市場が休場となることもあって動意薄の一日となりました。ドル円は東京市場では株価の下げとともに円高に動き、海外市場ではダウ先物を中心に買い戻しが目立ったことから行って来い、それでも1日の値幅は30銭強と冴えない一日で終わりました。

9月4日(火)
東京前場のドル円は日経平均の下げとともに売りが先行しましたが、110円台では買いも見られ110.89レベルまでで前日安値をトライすることもありませんでした。その後は買い戻しも出る中、ユーロドルも含めてドル買いの動きとなったことで欧州市場序盤には111.52レベルまで高値を切り上げました。しかし111円割れ同様に111円台半ばから上では売りオーダーもいて反落、NY前場には111.14レベルまで下押し後にダウの上昇ととともに高値圏へと切り上げての引けとなりました。

9月5日(水)
ドル円は東京前場、NY前場と2度ほどドル買いで攻める動きが見られたものの111円台後半のドル売りの厚さに反落する動きとなりました。東京市場では実需買い、NY市場ではブレグジットに関してドイツが要求を取り下げたとの噂によるポンド円の急騰がきっかけでしたが、噂が公式に否定されたこと、予想通りとはいえ米国貿易赤字の拡大からドルの上値は抑えられました

9月6日(木)
ドル円は東京市場が始まると円高に振れましたが、前日に発表された米国の貿易赤字で対中赤字が過去最大であったことから一段の貿易摩擦激化を懸念したこと、また北海道の地震の影響による株安から来るリスクオフの動きが重なりました。111円台半ばから111.17レベルまで下げたもののその後は株価の回復とともに111円台半ばまで水準を回復してのもみあい。NY市場では弱いADP全国雇用者数をきっかけに再び下げ始めたところに、トランプ大統領が次は日米貿易戦争だと発言したことから110.52レベルへと下げた後にやや戻して引けました。

9月7日(金)
ドル円は早朝こそ前日の流れを受け円高が先行したものの、110.39レベルの安値をつけ仲値前には買い戻しが出ていました。その後は110円台半ばでのもみあいが続いていましたが、海外市場に入り米国雇用統計を前にしたポジション調整から買い戻しが目立ち110円台後半で指標待ち、結果は時給の伸びを中心に予想よりも強い数字となったことからドル買い、111円台に乗せ一時111.25レベルの高値をつけました。NY昼過ぎにトランプ大統領が対中追加関税に言及したことで急速にリスクオフに動き110.74まで押しが入り、引けにかけては111円の大台を回復して引けました。

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