『ドル円はチャレンジング・ショックで大暴落。来週は米FOMCに注目』
〇今週のドル円、週央にかけ147.52まで上昇後、週後半にかけ141.60まで急落
〇米経済指標の不調、日銀正・副総裁のタカ派発言等からの金融緩和修正の思惑浮上が背景
〇週末にかけては米雇用統計の良好な内容と米長期金利の反発に145.21まで切り返す
〇ユーロドル、ECBの早期利下げ観測の高まりに1.07台前半に反落
〇ドル円、主要テクニカルポイントを下抜け、「三役逆転」も成立、地合い極めて弱い
〇ファンダメンタルズも日米金利差縮小とそれに伴う円キャリートレードの逆流懸念が重石に
〇来週12-13日のFOMCでのドットチャートの金利予想に注目
〇ドル円相場の下落を来週のメインシナリオとして予想
〇来週の予想レンジ(USDJPY):141.00ー146.00、(EURUSD):1.0600−1.0900
今週のレビュー(12/4−12/8)
今週のドル円相場は、週初146.73で寄り付いた後、(1)米11月ISM非製造業景況指数(結果52.7、予想52.3)の良好な結果や、(2)対ユーロでのドル買い圧力(ユーロドル急落→ドル円連れ高)、(3)株式市場の堅調推移(日経平均株価や欧米株の堅調推移→リスク選好の円売り圧力)が支援材料となり、週央にかけて、週間高値147.52まで上昇しました。
しかし、買い一巡後に伸び悩むと、(4)米11月ADP雇用統計(結果+10.3万人、予想+13.0万人)の市場予想を下回る結果や、(5)米10月貿易収支(結果643億ドル赤字、予想642億ドル)の市場予想を上回る赤字幅拡大、(6)米金利低下に伴うドル売り圧力(米10年債利回りが9/1以来の低水準となる4.10%へ急低下)、(7)氷見野日銀副総裁による「出口を良い結果につなげることは十分可能」とのタカ派的な発言、(8)植田日銀総裁による「年末から来年にかけ一段とチャレンジングになる」とのタカ派的な発言、(9)植田日銀総裁と岸田首相の会談実施、(10)上記7、8、9を背景とした日銀による金融緩和修正の思惑浮上(12/18ー19に予定されている日銀金融政策決定会合でマイナス金利解除を含む金融政策修正がなされるのではないかとの思惑浮上)、
(10)ジュリー・コザックIMF報道官による「日銀の金融政策について、インフレ目標が持続的に達成できることが明らかになった際に備えて、短期の政策金利を引き上げる用意を続けるべきだ」との金融政策修正の後押し発言、(11)ドル円ロング勢の大規模ロスカットが重石となり、週後半にかけて、週間安値141.60(8/7以来、約4カ月ぶり安値圏)まで急落しました。
もっとも、売り一巡後に下げ渋ると、(12)急ピッチな下落に対する反動買い(自律反発)や、(13)米11月非農業部門雇用者数(結果+19.9万人、予想+18.5万人)の市場予想を上回る結果、(14)米11月平均時給(結果+0.4%、予想+0.3%)の市場予想を上回る結果、(15)米11月失業率(結果3.7%、予想3.9%)の良好な結果、(16)上記13、14、15を背景とした米長期金利の急上昇(米10年債利回りが9/1以来の低水準となる4.10%から4.28%へ急上昇→米ドル急伸)が支援材料となり、週末にかけて、一時145.21まで急伸する場面も見られました。もっとも、買い一巡後に伸び悩むと、引けにかけて反落し、本稿執筆時点(日本時間12/9午前1時40分現在)では、144.62前後で推移しております。
<ユーロドル相場>
今週のユーロドル相場は、週初1.0887で寄り付いた後、早々に週間高値1.0896まで上昇しました。しかし、買い一巡後に伸び悩むと、(1)ユーロ圏12月投資家信頼感指数(結果▲16.8、予想▲15.6)の市場予想を下回る結果や、(2)デギンドスECB副総裁による「最近のインフレ指標の低下は良いニュースでポジティブサプライズ」とのハト派的な発言、(3)タカ派と目されるシュナーベルECB専務理事による「インフレ動向は朗報でコア価格の低下は顕著」「追加利上げの可能性は小さい」とのハト派的な発言、(4)クロアチア中銀ブイチッチ総裁による「基礎的なシナリオでは追加利上げはない」とのハト派的な発言、(5)フランス中銀ビルロワドガロー総裁による「利下げに関する議論は2024年に浮上する可能性がある」とのハト派的な発言、
(6)上記2、3、4、5を背景としたECBによる早期利下げ観測の高まり(ドイツ10年債利回りが4/6以来の低水準となる2.16%へ急低下→ユーロ売り)、(7)ドイツ10月製造業受注(結果▲7.3%、予想▲3.9%)の市場予想を下回る結果、(8)ユーロ圏10月小売売上高(結果▲1.2%、予想▲1.1%)の市場予想を下回る結果、(9)格付け会社ムーディーズによる中国の格付け見通しの安定的からネガティブへの引き下げ発表、(10)ドイツ10月鉱工業生産(結果▲3.5%、予想▲3.0%)の市場予想を下回る結果、(11)米11月雇用統計の力強い結果が重石となり、週末にかけて、週間安値1.0724(11/14以来の安値圏)まで急落しました。引けにかけて反発するも戻りは鈍く、本稿執筆時点(日本時間12/9午前1時40分現在)では、1.0751前後で推移しております。
来週の見通し(12/11−12/15)
<ドル円相場>
ドル円は11/13に記録した年初来高値151.91をトップに反落に転じると、週後半にかけて、一時141.60(8/7以来、約4カ月ぶり安値圏)まで急落しました。日足ローソク足が主要テクニカルポイント(21日移動平均線、90日移動平均線、一目均衡表転換線、基準線、雲上下限、ボリンジャーミッドバンド)を軒並み下抜けしたことや、強い売りシグナルを示唆する「一目均衡表三役逆転」「弱気のバンドウォーク」が成立したこと等を踏まえると、テクニカル的に見て、地合いは「極めて弱い」と判断できます。
また、ファンダメンタルズ的に見ても、(1)米FRBによる早期利下げ観測の台頭(タカ派と目されるウォラーFRB理事は先週、早期利下げの可能性をサプライズ的に示唆→市場では来年3月の利下げ開始が急速に織り込まれる展開→米長期金利急低下→米ドル売り)や、(2)日銀による金融緩和の早期修正観測の台頭(植田日銀総裁・氷見野日銀副総裁は金融緩和の修正を匂わせる発言を実施→市場では両名の発言を金融緩和修正の布石と解釈→円金利急上昇→円買い)、(3)上記1、2を背景とした日米金利差縮小とそれに伴う円キャリートレードの逆流懸念など、ドル円相場の下落を連想させる材料が増えつつあります。
こうした中、来週は上記1を見極める目的で12/12ー12/13に予定されている米連邦公開市場委員会(FOMC)に注目が集まります。今会合は政策変更が見込まれていない為、市場参加者の関心は、(A)ドットチャート(FOMCメンバーによる政策金利予想分布図)で2024年の利下げ軌道がどの程度の水準感で描かれるのか、(B)パウエルFRB議長記者会見で市場の利下げ織り込みに対してどの程度の牽制が入るかに集まっています。前回9月に発表されたドットチャートでは、2024年末時点の中央値が5.125%と、現在の政策金利水準の5.375%より25bp低い水準感が示されました。一方、現在の先物市場の2024年末時点の織り込みは4.125%となるため、125bpの利下げが見込まれている計算となります。つまり、ドットチャート(25bp利下げ)と先物市場(125bp利下げ)に大きな乖離が生じているため、来週のFOMCでは、ドットチャートを通じて、どの程度、両者の乖離が埋められるのかが注目されます。
当方は25bp×3回の利下げ(計75bp利下げ)がドットチャート上で示されると見ているため、市場の初期反応は「米金利低下→米ドル売り」となりそうです。一方、パウエルFRB議長はこれまで同様、市場の利下げ織り込みを牽制する可能性が高いと考えられますが、市場の催促に一定配慮する形で、利下げ議論は時期尚早といった完全否定は手控えてくるのではないかと見ています。この場合も、初期反応として「米金利低下→米ドル売り」の流れが強まると考えられます(つまり、FOMC当日は日本時間4時に公表されるドットチャートでドル円が下がり、同4時30分から始まるパウエルFRB議長記者会見でもう一段下げる2段階シナリオを想定)。加えて、日銀関連でも、再来週(12/18ー19)の日銀金融政策決定会合を通過するまでは、金融緩和修正の思惑が燻り続ける可能性が高いと見られることから、円売りポジションのアンワインドは来週以降も続く公算が大きいと考えられます。
以上を踏まえ、当方ではドル円相場の下落を来週のメインシナリオとして予想いたします。尚、来週は米FOMC以外にも、米11月消費者物価指数や米11月小売売上高など、重要イベントが目白押しとなります。
来週の予想レンジ(USDJPY):141.00ー146.00
<ユーロドル相場>
ユーロドル相場(EURUSD)は、11/29に記録した約3カ月半ぶり高値1.1018(8/10以来の高値圏)をトップに反落に転じると、今週末にかけて、約3週間ぶり安値となる1.0724(11/14以来の安値圏)まで下落しました。日足ローソク足が主要テクニカルポイント(21日移動平均線、200日移動平均線、ボリンジャーミッドバンド、一目均衡表転換線、基準線)の下抜けに成功したことや、下位足(4時間足など)で強い売りシグナルを示唆する「一目均衡表三役逆転」が成立したこと等を踏まえると、テクニカル的に見て、地合いは弱い(続落リスクに要警戒)と判断できます。
また、ファンダメンタルズ的に見ても、(1)欧州経済の先行き不透明感(今週発表された欧州経済指標は軒並み不冴な結果)や、(2)ECBによる早期利下げ観測の台頭(ECBが来年前半に利下げに踏み切るとの見方の浮上→欧州債利回りに低下圧力→ユーロ売り)、(3)欧米金利差に着目した構造的なユーロ売り・ドル買いなど、ユーロドル相場の下落を連想させる材料が揃っています。こうした中、来週は上記2を見極める目的で、12/14に予定されているECB理事会や、ラガルドECB総裁記者会見に注目が集まります。今会合は政策変更が見込まれていない為、市場参加者の関心は、ラガルドECB総裁が市場の利下げ織り込みに対して、どの程度牽制を示してくるかに集まっています。
但し、今週はタカ派と目されるシュナーベルECB専務理事をはじめ、ECB高官が相次いでハト派的な見解を示したため、ラガルドECB総裁による牽制度合も幾分弱まる可能性が高いと考えられます。この場合、ECBによる早期利下げ観測の更なる織り込み→欧州債利回り低下の経路で、ユーロドルに強い下落圧力が加わるシナリオが想定されるため、当方では引き続き、ユーロ売り・ドル買いトレンドの継続をメインシナリオとして予想いたします。尚、来週はECB理事会以外にも、上記1を見極める目的で12/12に発表予定のドイツ12月ZEW景況感指数にも注目が集まりそうです。
来週の予想レンジ(EURUSD):1.0600−1.0900
注:ポイント要約は編集部
ドル円日足
オーダー/ポジション状況
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