物価上昇で対ドルでトルコリラが一時急落、トルコリラ円もフラッシュクラッシュ
〇7/3発表のトルコ6月消費者物価指数の上昇(前年比12.62%)でトルコリラは急落
〇対ドルで6.98、対円ではベンダーにより15.56から15.14の安値をつける
〇消費者物価指数と政策金利(8.25%)との乖離の拡大がトルコ売りの要因か
〇トルコ円15.60以上での推移中は上昇余地あるも、15.67から15.70手前のゾーンは戻り売りの可能性も
〇7/3深夜安値15.58割れからは下げ再開、15円台前半を目指す動きか
【概況】
トルコリラ円は6月23日夜安値15.47円から反騰に入り、7月1日午前には15.77円まで高値を切り上げてきたがその後は15.60円台での横ばいが続き、15.70円には届かずに安値を若干切り下げていた。これまでは取引規制により対ドルでのトルコリラが6.85リラを中心とした小幅なレンジにとどまってほぼ横ばい推移となる中でドル円と同調した動きに終始してきた。
ドル円が6月23日深夜に106.06円まで下落したものの5月6日安値105.96円割れを回避してダブルボトム型を形成して7月1日高値108.16円まで戻し、トルコリラ円も7月1日まで同調して上昇し、その後にドル円が108円台を維持できずにやや失速気味となったことでトルコリラ円も安値を切り下げていた。
7月3日16時にトルコ6月消費者物価指数の発表があったが、市場予想を上回る前年比の上昇率となったことで政策金利とのマイナスギャップが拡大したことでトルコリラへの圧力が強まり始め、19時台には対ドルでトルコリラが急落し、その影響でトルコリラ円もベンダーによっては安値提示がまちまちだったものの15.56円前後や15.40円前後、さらに15.14円前後の提示も見られる急落となった。
売買の厚みが薄い中での指値連鎖的な急落と過剰な下落後の買い戻しの連鎖により急落は一時的なものにとどまりいったんは急落前水準まで戻したが、3日深夜にかけて15.60円、ベンダーによっては15.58円まで再び下げた。ホットクラッシュ的なイレギュラーな動きという解釈もできるが、これまでもホットクラッシュでつけた安値は後から見に来て現実的なものとして再認識されるケースもあるので無視できない状況と思われる。
【トルコの消費者物価上昇で実質マイナス金利状態に】
7月3日夕刻に6月のトルコ消費者物価指数及び生産者物価指数の発表があった。6月の消費者物価は前月比1.13%上昇で5月の1.36%から若干低下したが市場予想の0.8%上昇を大幅に上回った。前年同月比では12.62%となり5月の11.39%から上昇して史上予想の12.25%も上回った。6月生産者物価は前月比0.69%で5月の1.54%から低下して市場予想の0.9%も下回ったが、前年同月比では6.17%となり市場予想の6.39%を下回ったものの5月の5.53%を上回った。
消費者物価上昇がトルコリラの対ドル、対円等での一時的急落を招いたと思われる。6月25日にトルコ中銀は政策金利を8.25%に据え置いた。市場は8.00%への利下げ継続を予想していたが、これまで9会合続いていた利下げがストップした。過度の利下げによる実質金利低下がトルコリラ売り圧力を高めるリスクを警戒したこと、消費者物価の伸びとの比較により実質的なマイナス金利状態に陥ることへの警戒感が利下げ中断の背景と思われる。またトルコリラが通貨危機的な下落となる場合には脆弱な外貨準備が崩れて通貨防衛が難しくなる懸念もあっただろう。
6月の消費者物価は前年同月比で12.62%上昇となったが、これは2019年10月に8.55%まで低下したところから上昇基調にあり、今年3月から5月にかけてはやや落ち着いていたものの再び上昇感強まった。政策金利と消費者物価前年比の差を実質金利とすれば、2019年6月時点で8.28%だったところから低下傾向に入り、今年1月からはマイナスに転じ、徐々にマイナス幅が拡大しており、6月時点ではマイナス4.37%まで低下している。実質的なゼロ金利、マイナス金利状態に落ちいっている。
本来は高金利通貨としてトルコリラは投資対象としての魅力をつくり外資導入を図ってきたのだが、2019年にエルドアン大統領は「物価と金利の一桁を目指す」と宣言し、利下げに消極姿勢だった当時の中銀総裁を解任して現在の総裁へすげ替え、中銀は大統領の意図を忖度して利下げを続けてきた経緯がある。今回の実質金利マイナス幅の拡大は行き過ぎであり、市場はトルコリラへの危機感を持った。それが7月3日夕刻の消費者物価発表後に対ドル及び対円でトルコリラが一時的にせよ急落するホットクラッシュを発生させたといえる。
【対ドルでのトルコリラ、規制下での小動きから抜け出すか】
対ドルでのトルコリラは5月7日に7.27リラまで下落して史上最安値を更新した。コロナショックによる新興国通貨売りを背景としてブラジルレアルと共にトルコリラへの売り圧力も強まった。しかしトルコ金融当局による大手外国金融機関への取引制限や国内銀行での為替取引規模の規制への動きにより6月3日には6.68リラまで戻していた。大手外国金融機関への規制は一時的だったものの当局の規制の目を背景として6月後半からは6.85リラを挟んで上下幅がわずかなレンジに留まるほぼ横ばいの推移が続いてきた。その後の高値は6.86リラ台で、安値で6.84リラを割り込むところは買い戻される状況だった。
しかし7月3日は、一時的な動きにせよ6.98リラまで急落し、終値ベースでは7月1日の6.84リラから2日に6.85リラ、3日に6.86リラとドル高リラ安が進み始めている。金融当局が取引規制を強化する可能性もあるが、変動相場制を採用している以上はいつまでも管理しきれるものではない。パンデミックの世界的爆発が続く中で欧米の経済活動再開の動きも再び鈍っており、コロナ不況長期化の懸念が強まれば、いったん収まった新興国通貨売りにトルコリラも巻き込まれる可能性がある。
【ドル円は米雇用統計への反応鈍く6月23日からの上昇一巡感も】
ドル円は6月23日深夜安値106.06円と5月6日安値105.98円をダブルボトムとして反騰に入り、7月1日午前には108.16円まで上昇してきたが、7月1日高値の後は7月2日安値107.30円まで失速し、米国市場休場となった7月3日は107.50円を挟んでほぼ横ばいの推移にとどまった。
6月23日深夜安値から7月1日午前高値までは6月26日夜への小反落を入れて二段上げだったが、7月1日高値からの下落により6月23日深夜と6月26日夜の安値を結ぶ上昇トレンドの下値支持線からは転落している。6月26日安値106.78円を割り込まないうちは底上げをしつつ高値を切り上げてゆく上昇パターンは維持されるが、7月2日安値107.30円を割り込む場合は6月26日安値試しへ向かい、戻り一巡による下落再開へと進みかねないところと注意する。また108円を試す上昇の場合も7月1日高値とのダブルトップ形成に留まる場合はその後の円高にも注意がいるところと思われる。
【4か月サイクルにおける下落期継続と当面のポイント】
トルコリラ円の日足では、概ね4か月周期で主要な底を付ける底打ちサイクルが見られる。2018年8月の通貨危機以降、主要な安値は2019年1月3日、同年5月9日、同年8月26日、今年1月6日、5月7日に付けている。5月7日底からの上昇は5月26日までの反騰で一巡して下落期に入っている印象だが、6月23日安値で下げ一服となる7月1日高値まで反発してきたが、7月3日夜のホットクラッシュも含めて下落基調の継続感が再び強まってきていると思われる。
4か月サイクルの次の底形成期は8月末から9月序盤にかけての間と想定されるが、通貨危機による2018年8月13日安値、昨年8月26日安値と2年続けて8月へ下落していることを踏まえると、今年も8月へ向けて下げやすい状況に入っているのではないかと思われる。
7月3日夜のホットクラッシュによる下落を早々に挽回したことで目先はやや戻りを試しやすいところにあると思われるが、ホットクラッシュがいったん収まった後の7月3日深夜に15.58円まで下げているため、15.58円を割り込む場合は下落再開によりホットクラッシュでつけた安値を試しに向かう可能性が出てくると注意する。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、7月3日深夜安値15.58円を下値支持線、15.70円を上値抵抗線とする。
(2)15.60円以上での推移中は上昇余地ありとするが、7月1日深夜以降は15.70円に届かない程度にとどまっていたため、15.67円から15.70円手前のゾーンは戻り売りにつかまりやすいとみる。
(3)15.60円割れからは下げ再開注意とし、7月3日深夜安値15.58円割れからは下げ再開とみて15円台前半を目指すと考える。
【当面の主な経済指標等の予定】
7月10日
16:00 4月失業率 (3月 13.2%、予想 14.6%)
7月13日
16:00 5月経常収支 (4月 −50.6億ドル、予想 −27.0億ドル)
16:00 5月鉱工業生産 前年比 (4月 -31.4%、予想 -16.4%)
16:00 5月小売売上高 前年比 (4月 -19.3%、予想 -28.6%)
16:00 5月小売売上高 前月比 (4月 -21.0%、予想 0.0%)
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