【概況】
3月9日早朝のトルコリラ円は16.82円まで急落して3月2日安値17.08円を大きく割り込んだ。9日早朝はダウ先物が一時1000ドルを超える下落で開始、ドル円が104円台序盤へ急落後に104円を割り込むところまで一段安となり、NY原油も前週比20%安に近い暴落で開始する等、金融市場全般が荒れている。
トルコリラ円は2月26日に18円及び1月6日安値17.94円を割り込み、3月2日朝には17.08円まで安値を切り下げた。その後は世界連鎖株安一服で持ち直し、米連銀の緊急利下げをきっかけに3月3日深夜には17.81円まで戻していたが、3月9日朝に一段安したことにより先安観がさらに強まった印象だ。
【世界連鎖株安再燃ならドル高リラ安、トルコ株安、円高で売り圧力強まる】
新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な景気後退懸念を背景に米連銀は3月3日夜に緊急利下げを行った。定例のFOMC以外での利下げ決定はリーマンショック時以来であり、今回の感染拡大問題がリーマンショック級へ発展しかねないとの懸念が米連銀を利下げに追い込んでおり、今後の追加利下げ及び世界的な利下げと量的金融緩和への傾斜が予想される状況となった。
ドル/トルコリラは3月2日に6.2615リラの高値を付けて2019年5月高値6.2539リラを超えたが、両高値をダブルトップ型としてその後は反落した。米連銀緊急利下げと追加利下げ観測がドル高を抑えた印象だが、3月9日朝は6.1546リラまで反騰しており、金融市場全般の波乱がリラ売りを助長しているようだ。
ドル円は3月3日へのNYダウ反発時に下げ渋っていたが3月6日には104.99円まで続落して昨年8月26日の104.45円以来の104円台まで円高が進んでいたが、9日朝に104.20円台へ、さらに104円割れへと一段安しており、2018年3月底以降の104円台中盤までの下値支持帯から転落した。下落角度はここ3年間で最も鋭角的となっているため、トルコリラ円への円高圧力もさらに継続しやすくなっている印象だ。
イスタンブール100株価指数は3月6日に前日比1.98%安と下落した。2月27日から28日への2日間で8%を超える急落後に3月2日から3日にかけては4.87%の反発を入れたが、感染拡大による先行き不透明感が上値を抑えており、5日と6日の日足連続陰線により下落再開感が強まって週を終えた印象だ。週明けのCMEダウ先物が大幅下落で開始しているため、9日のトルコ株式市場も急落に見舞われかねないと警戒する。株安が進めば新興国通貨・株売りとなりトルコリラ円への売り圧力も増すと思われる。
【シリア情勢、ひとまず停戦だが軍事衝突は続き、難民問題も】
ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は3月5日にモスクワで会談し、シリア北西部イドリブ県で3月6日から停戦することで合意した。2月3日からシリアのアサド政権軍とトルコ軍が軍事衝突を繰り返し、両国正規軍同士の全面戦争化への懸念が強まっていたが、今回の合意でひとまずトルコとアサド政権軍及びロシア駐留軍による全面戦争化は回避された印象だ。しかしイドリブ県以外ではアサド政権軍やその支援勢力によるトルコ軍への攻撃は続いてトルコ軍も反撃を行っており軍事行動が終了する兆候は見られない。
2月3日からのトルコとアサド政権軍による大規模衝突もそれまでの停戦合意が反故にされて発生しており、今回の停戦合意をアサド政権軍及び支援勢力が順守するとは限らないため緊張はしばらく続くと思われる。
トルコ・シリア国境で発生しているシリア難民に対して、トルコはギリシャとの国境を開放したために難民が万人単位でギリシャへ押し寄せ始めている。欧州では2015年に大量の難民流入が加盟国の政治的混乱を招いた経緯があるが、今回も同様の危機に発展する可能性も懸念される。
欧州・EUにとってはシリア難民の大量流入問題と新型コロナウイルスの感染拡大問題の二重苦となる可能性もあるだろう。またトルコにとってはEUとの対立による孤立と、シリア停戦が続かずに戦局拡大による国内経済への悪影響というリスクも増大する。世界景気後退による新興国投資マネーの逆流も警戒される。今のところトルコ国内での感染は確認されていないが、国境を挟むイランの感染拡大等によりトルコへの感染拡大も時間の問題かと思われる。
ミシェルEU大統領とフォンデアライエン欧州委員長がトルコのエルドアン大統領と3月9日にブリュッセルで会談する予定だ。難民問題での協調・支援へ進むのかEUとトルコの対立が深まるのか注目される。
【4か月サイクルによる下落基調の継続と当面のポイント】
トルコリラ円は1月6日安値を割り込んだことにより、概ね4か月周期の底打ちサイクルにおいて新たな弱気サイクルに入ったと考えられる。このサイクルにおける次のサイクルボトム形成期は4月末から5月中後半にかけての間と想定されるのでまだ下落期間もかなり残っている。3月9日早朝に17円の大台モ割り込んできているため、先行きの下目処は2018年8月のトルコ通貨危機における安値15.52円まで切り下がるか、あるいは割り込む可能性もあるのではないかと懸念される。
以上を踏まえて当面のポイントを示す
(1)当初、16.60円を下値支持線、17.20円前後を上値抵抗線とする。
(2)月曜早朝安値の後は一旦戻りを入れるケースも多いので、17円台回復からは戻しに入る可能性があるとみる。17.20円前後では戻り売りにつかまりやすいとみるが、17.20円を超える場合は17.40円まで上値目処を引き上げる。ただし17.20円以上へ戻した後に17円を割り込むところからは下げ再開とみる。
(3)3月9日朝安値16.82円を割り込む場合は16.60円前後への下落を想定する。16.60円割れからさらに続落の場合は16.40円、16.20円と段階的に下値目処が切り下がってゆくのではないかと考える。また2月24日から3月2日朝にかけての世界連鎖株安と円高時に近いような下げ方となる場合は16.00円試しまでさらに下値目処が切り下がる可能性もあると考える。
【当面の主な経済指標等の予定】
3月10日
16:00 12月失業率 (11月 13.3%)
3月11日
16:00 1月経常収支 (12月 -28億ドル)
3月13日
16:00 1月鉱工業生産 (12月 8.6%)
16:00 1月小売売上高 前月比 (12月 1.1%)
16:00 1月小売売上高 前年比 (12月 11.0%)
3月19日
20:00 トルコ中銀 政策金利 (現行 10.75%)
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