【概況】
1月8日朝、イランは米軍の駐留するイラク空軍基地へロケット弾10数発で報復攻撃を行ったとイラン国営TV等が報じた。この報道から金融市場全般がリスクオフ全開の動きとなって株安円高が進行、ドル円が107.65円まで下げて1月6日朝安値107.75円を割り込む中でトルコリラ円は8日朝には17.98円まで急落した。しかし、8日朝安値からはV字回復となり、8日夜には急落前の7日午後高値を上抜いて急落分を解消し、深夜にはトランプ大統領演説による全面戦争突入回避感から一段高となり、9日未明には18.47円まで大幅上昇した。
イランによる米軍駐留基地への攻撃直後、イラン外相は今回の攻撃を国連憲章51条に基づく自衛行為とし、これ以上の戦争拡大を望まないと表明した。その段階では米国がさらに攻撃してくれば反撃するとし、米国の同盟国への警告も発した。イラン側が1月2日夜の空爆による司令官殺害事件に対する等価報復以上の反撃をしない姿勢を示したことに加え、攻撃を受けた直後に米軍が反撃せず、トランプ大統領が死者は出ていない」と述べたことで両国の全面戦争突入が回避されるのではないかとの思惑が広がったことが8日朝の急落後にV字反騰した背景だった。
イランが国連憲章51条による自衛行動として安保理に書簡を送ったことにより、イランは国連安保理が対応するのを待つ姿勢を示し、安保理が対処しない内は攻撃されれば応分の反撃を行うとしたわけだが、これに対してトランプ大統領は1月8日深夜の演説で、「イランに強力な経済制裁を科す」と表明したものの「軍事力は行使したくない」と述べた。この演説により両国の全面戦争化と中東全域を巻き込むような有事リスクはひとまず後退した。
金融市場全般のリスクオン心理が一挙に回復する中でドル円は1月7日夜高値を超え9日未明には109.24円まで続伸した。
ドル/トルコリラでも当初はリスク回避でドル高リラ安反応となっていたが、8日午前の1ドル5.9873リラから8日深夜には5.8985リラまで急落(ドル安リラ高)となった。クロス円全般の円安回帰とドル/トルコリラでのドル安リラ高が重なったためにトルコリラ円は急反騰となった。
【4か月サイクルでボトムをつけたか?】
トルコリラ円は10月末から12月序盤まで、18.80円前後を支持線として19円台へ乗せても維持できない持ち合い相場を続けていたが、12月9日の下落で持ち合いから下放れとなりさらに続落基調となった。
この下落は概ね4か月周期の底打ちサイクルにおけるボトム形成の動きとも重なっていた。2018年8月暴落以降、2019年1月3日安値、同年5月9日安値、同年8月26日安値と概ね4か月前後の間隔でボトムをつけてきた。また2018年11月29日高値、2019年3月27日高値、同年7月31日高値と4か月前後でサイクルの高値をつけてきたが、昨年10月30日高値とダブルトップとなる12月2日高値でサイクルトップをつけて下落期に入っていた。
今回のボトム形成期は8月26日底を基準とすれば12月末前後であり、1月8日午前安値からの反騰で12月26日からの下落分を一挙に解消しているため、このサイクルのボトムをつけてリバウンドに入った可能性が考えられる。また昨年8月26日のフラッシュクラッシュでの一時的な急落を除けば、昨年5月底以降は18円割れから切り返しており、今回も18円割れからの反騰となっている。
現状を新たな強気サイクル入りとすれば上昇期が1か月以上へ発展する可能性もあるが、短期的な反騰に終わって早々に底割れしてしまうと新たな弱気サイクル入りとなる可能性も併せ持つ。当面は1月8日安値を割り込まない内はサイクルトップ形成への上昇余地ありとして戻りを試す可能性ありと考えながら、中東情勢等が再び悪化する場合は年初からの急落並に崩れて新たな弱気サイクル入りとなる可能性もあると注意する。
【露土首脳会談】
ロシアのプーチン大統領は1月8日にイスタンブールを訪問してエルドアン大統領と会談した。米国とイランの対立については両首脳揃って「深い懸念」を表明して双方に自制を呼び掛けた。共同声明では米軍によるイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官殺害事件に対しては「地域の安全と安定を損なう行為」と批判し、イランが報復攻撃した件については「攻撃の応酬と武力行使は中東の複雑な問題の解決につながらない」と自制を訴えた。
ロシアとトルコの間ではリビアの現政権と反政府勢力に対する対応が分かれている、トルコはシラージュ暫定政権を支援し、ロシアはハフタル将軍率いる軍事組織「リビア国民軍(LNA)」を支援しているが、今回の共同声明では1月12日からの停戦を呼び掛けるとした。
1月8日にはロシアとトルコを結ぶ天然ガスのパイプライン=トルコストリームの稼働式典がイスタンブールで開かれ、両首脳が出席している。トルコはNATO加盟国として米国と同盟関係にありつつもロシア製兵器を導入して米国と対立、リビアではロシアと対立、パイプラインではロシアと共同というように緊張感を抱えながらもバランスをとり実利を訴求している。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
トルコリラ円60分足
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、1月8日朝への急落により7日午後高値を直近のサイクルトップとしていったん弱気サイクル入りしたが、8日午前安値では6日朝安値に迫ったものの底割れを回避し、8日夜の急騰で7日午後高値を超えた。このため現状は1月6日朝と8日朝の両安値をダブルボトムとして強気サイクル入りしていると思われる。7日午後高値を基準とすれば次の高値形成期は10日午後から14日午後にかけての間と想定されるが、急騰に対する反動も警戒されるので戻りは短命の可能性もあると注意し、18.30円割れからは下げ再開を警戒する。
60分足の一目均衡表では1月8日夜の急騰で遅行スパンが好転し、先行スパンも上抜いている。このため遅行スパン好転中は高値試し優先とするが、戻り高値更新が続かないと9日深夜には遅行スパンが悪化しやすくなると注意する。遅行スパン悪化からは安値試し優先として先行スパンからの転落を回避できるかどうかを試すとみる。
60分足の相対力指数は8日午前の急落で20ポイント台序盤へ急降下したが、その後の反騰で9日未明には80ポイントを超えた。かなりの急騰し過ぎともいえるので、相場が戻り高値を切り上げる段階で指数のピークが切り下がる弱気逆行型が見られる場合は下げ再開を警戒し、50ポイント割れからは下げ再開と考える。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、18.30円を下値支持線、1月9日未明高値18.47円を上値抵抗線とする。
(2)18.30円以上での推移中は一段高余地ありとし、9日未明高値超えからは18.60円試しへの上昇を想定する。18.55円以上は反落警戒とするが、18.30円以上での推移なら10日も高値を試す余地ありと考える。
(3)18.30円割れからは下げ再開を経過して18.10円台への下落を想定する。18.20円以下は反発注意だが、18.30円以下での推移が続く場合は10日も安値試しを続けやすいとみる。
【当面の主な経済指標等の予定】
1月10日
16:00 11月経常収支 (10月 15.49億ドル)
1月14日
16:00 11月鉱工業生産 前年比(10月 3.8%)
1月15日
16:00 10月失業率 (9月 13.8%)
16:00 11月小売売上高 前月比 (10月 -0.2%)
16:00 11月小売売上高 前年比 (10月 5.9%)
1月16日
20:00 トルコ中銀金融政策決定会合 政策金利 (現行 12.0%)
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