トルコリラ急落 エミンさんに聞くトルコの現状と今後
6/24に予想以上のエルドアンの勝利に終わったトルコの大統領選および議会総選挙から約一ヶ月、トルコリラは先週も史上最安値を更新、対ドルでは5.11対円では22円割れとなっています。
アメリカとトルコの政治的対立も深まり、ますます混迷を深めるトルコ情勢とトルコリラの今後について在日天才トルコ人、エミン・ユルマズさんにうかがいました。前回に引き続き聞き手は編集人K。
(※)エミン・ユルマズ
エコノミスト、為替ストラテジスト、ポーカープレイヤー (96年に国際生物学オリンピック優勝。97年に日本に留学。1年後に東大理科一類に合格、東大工学部卒業。同大学院で生命工学修士を取得。2006年に野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任、ヒューマノミックス実行委員会理事) 同氏が塾頭を務める「複眼経済塾」では有料個人会員向けコンテンツの一部としてトルコリラ週報を執筆中。
K:トルコの総選挙は圧倒的なエルドアン派の勝利で終わり、エルドアン大統領も決選投票に持ち込まれること無く大統領再選を果たしました。結果をどのように見られますか?
エミン:国民投票の時に反対に回ったアンカラ周辺や地中海沿岸部が短時間にエルドアン支持に回ったことには違和感を覚えます。
K:不正の可能性があると?
エミン:それはなんともいえません。が、国民投票と今回の選挙のエルドアンの支持基盤の分布を比べるとあきらかにおかしいですね。リラ安が大幅に進行して国民生活を圧迫しているのに都市部での支持率が急回復している。
もう一つ違和感があったのは野党があっさり結果を受け入れたことです。もしかしたら、野党側は現在の経済運営失敗の責任をエルドアン大統領にとらせるつもりで今回は引いたのかもしれません。
昨年の国民投票時点での地域別支持分布
(黄色が改憲支持=エルドアン支持)
今回の大統領選での支持分布
(オレンジ色がエルドアン支持)
大統領選と議会選の結果
欧米投資家の唯一の頼りのシムシェキ氏が退任
K:どうも釈然としない結果ですが、勝ちは勝ちでエルドアン大統領は、事実上の独裁制確立に成功。そして新しい内閣では、欧米の投資家が頼りにしていたシムシェキ経済担当副首相が閣僚から外れました。
エミン:彼は多分自分から辞めたのでしょう。以前から辞任の意向はありましたので。エルドアンが選挙まではなんとかと、引き留めていたのでは無いかと思われます。英国と二重国籍なので今は英国にいるのではないかと思います。
経済ブレーン交代の図
後任はエルドアン大統領の娘婿 ベラト・アルバイラク氏
K:後任の経済担当副首相にはエルドアン大統領の娘婿であるベラト・アルバイラク氏が就任しましたがどのような方ですか?
エミン:アメリカ留学中(ペース大学) にエルドアン大統領の3番目の子供で長女のエスラと知り合い結婚、その後はとんとん拍子で出世した人です。26才で現地大財閥のCEOとなり、家業(建設業)を継ぐために退任、その後政界に進出し、直近はエネルギー担当大臣を務めました。
K:そして7/24の選挙後初のトルコ中銀の金融政策決定会合では大方の予想を裏切って金利引き上げを見送りました。
エミン:彼自身はアメリカでも教育を受けており、就任後は比較的リベラルな感じで、中銀の独立性についての前向きな発言や、インフレ抑制策をとる方針を示すなど市場は期待し、評価していた部分もありましたが、結果を見て「なんだ、結局大統領のいいなりか」と。
K:それでまず第一段のトルコリラ売りとなったわけですね。このときは対ドル4.93台後半まで急落しましたね。
エミン:トルコのファンダメンタルズは必ずしも悪くないし、観光業も回復しつつありますが、選挙の結果が経済にとっては最悪の上に、新政権がアメリカとの対決姿勢を明確にしているのが更に懸念材料です。
ドル/トルコリラ 日足
クーデター未遂後の落ち込みから観光業は急回復
トルコとアメリカの関係悪化
K:8月第一週は米政府のブランソン牧師解放要求と経済制裁実施による関係悪化がトルコリラの売りに拍車をかけています。
エミン:7月のNATOの会合でトランプ大統領とエルドアン大統領が話し合いの場を持ったことで関係改善に向かうと期待されていたのが裏切られた形です。
K: そもそもこのブランソン牧師って何者ですか?
エミン:トルコ在住のアメリカ人牧師です、20年来現地で布教活動をしていますがイスラエルの13部族の末裔がクルド人であると信じてクルド人に布教、独立を促したとされます。ただそれだけで逮捕までする必要があるのかという点疑問です。最初は国外退去で十分でしょう。
彼は実は同時に先年クーデター未遂を起こしたギュレン派のスパイであるということも逮捕理由にされているのですが、キリスト教保守派の彼がギュレンのスパイということは考えにくい。
背景にはイランをめぐる対立?トルコはロシア中国にも接近
K:背景が今ひとつ見えません。
エミン:これは一つの憶測ですが、トルコではザラブ事件というのがありまして、イランに対するアメリカの経済制裁が発動されたときにイランからトルコに帰化したレザー・ザラブというビジネスマンが、イランから原油を輸入し、代金代わりに金を渡し経済制裁の網をくぐり抜けさせました。アメリカはこれに怒り、ザラブ氏とこの取引に関係した国営銀行の副頭取をアメリカで逮捕する等の措置をとりました。これに対する対抗措置では無いかと思われます。
K:トルコはロシアにも接近しているようですが?
エミン:トルコはロシアからS400というミサイル防衛システムを購入しようとしており、これがアメリカを怒らせています。トルコはNATOの加盟国なのでロシアから防衛ミサイルを購入すると、NATOのレーダーシステムに乗せるわけで、ロシアの技術者にNATOの軍事機密を明かすことにもなりかねません。アメリカはトルコへのF35戦闘機の供与をブロックしました。
さらに、先週トルコは中国からローン供与も取り付けました。ロシア、イラン、中国と接近が顕著です。
トルコの今後とトルコリラ
K:かなり混沌とした状況ですが今後の見通しに関してはいかがでしょう?
エミン:アメリカの出方次第の部分が大きいです。政治的には予想しづらい。
イランもからんできますので、エルドアンがイランに近いことはアメリカとイランの関係悪化も間接的にはトルコとアメリカの関係を悪化させることともなるでしょう。
政権交代でトルコへの投資環境が改善するシナリオを描いていたのですが、それが実現せずトルコは国際政治的にあまり好ましくない状況に進んでしまいました。
K:トルコリラはまだ下がるとお考えですか?
エミン:以前は対円で21円は底だと考えていましたが、直近の政治リスクを考慮し対円では20円を割り込むことも有り得ると考えます。ただ、外貨ベースでのトルコ株は大変割安にはなっていますので、現地でビジネスを行うつもりであれば今、投資機会は豊富だといえます。
K:いろいろとよくわかりました。どうもありがとうございました。
鉱工業 PMI
トルコ円日足
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