植田総裁も日米政権の方向性を見極めたい
【今回のポイント】
〇 現状の金融政策を維持
〇 声明では追加利上げの時期に対する言及は無し
〇 植田日銀総裁も様子見ムード
【市場コンセンサスは何?】
10月29日10時時点の日銀会合のコンセンサスは下記の通りである。
・現状の金融政策を維持
・植田日銀総裁は引き続き「オントラック」「米経済次第」との見方
日銀会合の結果に対する市場コンセンサスは上記の通りだと考える。声明内容及び植田日銀総裁の記者会見でのコメントは、10月に発言した範囲内に留まるだろう。衆議院選挙に関する話が記者から飛ぶ公算は大きいが、「引き続き政権と連携をとる」といった表面的な回答に留まるだろう。
【何がサプライズになる?】
衆議院選挙の結果を受けて、市場では国内政治情勢の不安定化によって金融市場の混乱や経済政策の停滞が発生し、日銀は利上げを実施しにくくなるとの思惑が強まっている。足元の植田日銀総裁からは、前向きな利上げ実施に意欲を示す発言が聞かれるが、少なくとも首相が決まる特別国会が開催されるまで様子見ムードが強まろう。
11月5日の米大統領選の結果が日本経済にどのような影響を及ぼすかも見極め材料となろう。選挙後の日銀関係者から「まだどのような影響が出るかわからないため、物価を眺めていくしかない」と様子見な発言も伝わっている。
コミュニケーションを重要視している日銀としては、こういった状況を考慮して、今会合で思い切った発言及び方針は公表しないだろう。直近で話が出ている内容の範囲内に留まり、ノーサプライズの会合を想定する。
【では、円はどう動く?】
米大統領選挙を控えていることから、米連邦準備制度理事会(FRB)も11月6−7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではアグレッシブな発言は控えるだろう。11月1日の米雇用統計もハリケーンやストライキの影響で前月比では弱い数字が見込まれていることから、FRBは利下げ実施などの判断を12月に持ち越すと考える。
となれば、日米ともに次の政権の構図が明確になるまで、為替は動意に欠ける展開となりそうだ。ドル・円は日足の一目均衡表の雲上限や100日移動平均線をそれぞれ上回るなどトレンドは強い。ただ、民主党候補者ハリス氏が勝利した場合、日米金利差は一気に縮小する可能性があるため、これ以上のポジション積み上げは手控えられるだろう。米国では大統領選の結果が明確になるまで、日本では特別国会が召集されて次の政権の顔が明確になるまで、為替は思惑先行で方向感に乏しい展開となりそうだ。11月中旬までのドル・円は150円から153円水準での横ばいを想定する。
【最近の日銀会合関係者の発言は?】
ここ最近の政府・日銀関係者の発言を拾った。
10月25日、植田日銀総裁
「米経済についての楽観論が少し広がりつつある」
「時間的な余裕はある」
「円安だけでなく、米経済も含めて全体を見る必要がある」
10月25日、加藤財務相
「為替市場での過度な変動に注意を払う必要がある」
10月24日、青木官房副長官
「為替の動向を高い緊張感を持って注視」
「為替相場は安定的に推移することが重要」
「為替介入に関してはコメントを控える」
10月24日植田日銀総裁
「トータルで適切な正常化規模を重視」
「ここ2カ月ほど、米経済の動向を懸念している」
「利下げの適切な規模を事前に特定するのは難しい」
「政策がキャリートレードに与える影響や数値化は困難」
「日銀の政策戦略を明確にすることが極めて重要」
「インフレ率は緩やかに上昇している」
「日銀はインフレ期待を新たなレベルに引き上げたい考えだ」
10月22日、青木官房副長官
「足元の為替相場のコメントは控える」
「為替相場の動向はプラス面、マイナス面双方の影響ある」
10月18日、植田日銀総裁(内田副総裁が代読)
「2%の物価目標のもと、その持続的・安定的な実現の観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく」
10月18日、三村財務官
「足元で一方向、急速な動きを認識」
「投機的な動きを含め、高い緊張感をもって注視」
10月16日、安達日銀審議委員
「当面、円安加速による物価上昇圧力は今のところ削減されている」
「利上げは慎重にやっていくべき」
「追加利上げ、何月と意識しているわけではない」
「緩和的な金融環境を維持する」
「自然利子率、信頼性の高い数値を実証的に特定することが困難」
「インフレ抑制のための急ピッチな利上げを実施する必要はない」
「拙速な利上げは回避すべき」
10月10日、氷見野日銀副総裁
「複数の実質金利が存在するが、すべてがマイナスにある」
「明らかに実質金利はかなり低い水準にある」
「データの全体像を決定会合ごとに見ていく必要」
「来年の賃金動向に関する情報などが重要」
【2023年以降の日銀会合終了時間一覧】
日銀会合はFOMCやECB理事会と違って、会合の終了時間が決まっていない。決まっているのは、日銀総裁の記者会見(15時30分)だけで、日銀会合の結果内容はおおよそ11時30分頃から13時頃に流れる。市場関係者はその間、ランチを取れないので、市場関係者泣かせの中央銀行である。
そして、結果発表が遅くなると「議論が紛糾している。何かサプライズがあるのでは?」と市場は勝手に解釈して、為替、株式、債券市場では思惑的な売買が活発となる傾向もあるので注意したい。
以下は、2023年以降の日銀会合の終了時間一覧である。なお、速報が市場に伝わるのは、終了してから7分ほど経過してからだ。
【2023年】
1月18日(水)・・・11時33分終了、前回会合の方針を維持
3月10日(金)・・・11時23分終了、最後の黒田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持
4月28日(金)・・・12時53分終了、最初の植田日銀総裁の日銀会合、前回会合の方針を維持、金融緩和策のレビューを多角的に実施することを決定
6月16日(金)・・・11時40分終了、前回会合の方針を維持
7月28日(金)・・・12時21分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限を1.0%まで引き上げ)
9月22日(金)・・・11時45分終了、前回会合の方針を維持
10月31日(火)・・・12時20分終了、長短金利操作の修正を決定(長期金利の上限1.0%を1.0%メドに変更)
12月19日(火)・・・11時42分終了、前回会合の方針を維持
【2024年】
1月23日(火)・・・12時02分終了、前回会合の方針を維持
3月19日(火)・・・12時28分終了、マイナス金利の解除等金融政策の枠組みを見直し
4月26日(金)・・・12時15分終了、前回会合の方針を維持
6月14日(金)・・・12時16分終了、国債買入額を引き下げる方針を決定
7月31日(水)・・・12時49分終了、国債買入額の減額と利上げ実施を発表
9月20日(金)・・・11時45分終了、前回会合の方針を維持
【2024年スケジュール】
※米国は現地時間を記載しているので、金利発表及び記者会見は日本時間翌日未明
日銀金融政策決定会合(日銀会合)
1月22日−23日(経済・物価情勢の展望)・・・現状の金融政策を維持
3月18日−19日・・・マイナス金利の解除、YCC終了、ETF等の買い入れ終了
4月25日−26日(経済・物価情勢の展望)・・・現状の金融政策を維持、展望レポート見通し引き上げ、記者会見後は円全面安に
6月13日−14日・・・国債買入額を引き下げる方針を決定、詳細は7月に公表
7月30日−31日(経済・物価情勢の展望)・・・国債買入額の減額と利上げ実施を発表、植田総裁のタカ派姿勢で円全面高に
9月19日−20日・・・現状の金融政策を維持、植田総裁の利上げ慎重姿勢で円安推移
10月30日−31日(経済・物価情勢の展望)・・・現状の金融政策を維持
12月18日−19日
米連邦公開市場委員会(FOMC)
1月30日−31日・・・4会合連続で金利据え置き
3月19日−20日・・・5会合連続で金利据え置き、パウエルFRB議長は、年内利下げの可能性を再表明
4月30日−5月1日・・・6会合連続で金利据え置き、パウエルFRB議長はややハト派な発言
6月11日−12日・・・7会合連続で金利据え置き、24年利下げ回数は3回から1回に修正
7月30日−31日・・・8会合連続で金利据え置き、9月利下げ実施を示唆
9月17日−18日・・・4年半ぶりの利下げを実施、パウエルFRB議長は利下げを急がない姿勢強調
11月 6日− 7日
12月17日−18日
欧州中央銀行理事会(ECB理事会)
1月25日・・・現状の金融政策を維持、利下げの議論は時期尚早
3月 7日・・・現状の金融政策を維持、6月利下げ開始を示唆する発言
4月11日・・・現状の金融政策を維持、大きなサプライズが無い限り6月利下げ開始か
6月 6日・・・政策金利を0.25%引き下げ、追加利下げは明言せず
7月18日・・・金利据え置きを発表、利下げ実施は「データ次第」
9月12日・・・政策金利を0.25%引き下げ、今後の利下げスケジュールは「データ次第」
10月17日・・・政策金利0.25%引き下げ、今後の利下げスケジュールは「データ次第」
12月12日
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