Monthly Market Insight(23/10)騰勢を強めるドル円相場と為替介入

円の対ドル相場は、1ドル=150円の節目、昨年更新した約32年ぶりの円安水準を目前に緊張感のある展開だ。当然、為替介入の有無についての議論もかまびすしくなってくる。

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Monthly Market Insight(23/10)騰勢を強めるドル円相場と為替介入

「騰勢を強めるドル円相場と為替介入」

9月の日米金融政策決定会合は、いずれもサプライズなく終わった。日銀としては、前回 7月の決定会合でYCC(Yield Curve Control)の運用の柔軟化を決定したばかりでもあり、2会合連続での政策変更は避けたかったのかもしれない。ただ、金融政策決定会合後の日米金融政策当局の両トップの記者会見は、米国が利下げに転じるまでは距離があり、日本が大規模緩和から脱するにも時間が掛かりそうなことを改めて印象づけた。

欧米の夏休み期間がほぼ終了する8月中旬からの為替市場において、円相場は米ドル以外の主要通貨に対しては、まちまちの相場展開となっている。
一方、円の対ドル相場は、1ドル=150円の節目、昨年更新した約32年ぶりの円安水準を目前に緊張感のある展開だ。当然、為替介入の有無についての議論もかまびすしくなってくる。

為替相場は長期的には二国間の総合的な国力を反映して動くものだ。
米国は、ほんの1年半前には0.5%に満たなかった政策金利(FF誘導目標金利)を1年半の間に5%も金利水準を引き上げた。市場は、「さすがにそろそろ米国経済もへたってくるだろう」と予想していたものの、今もってへたらない米国経済の強さに対して「恐れ入りました」という気持ちの表れが、最近の為替市場における米ドルと米国長期金利の再騰勢の動きに繋がっていると解釈するのが自然だろう。

さて、今回は、現在のドル円相場の水準になると話題に上ることの多い為替介入について頭を整理しておきたい。為替介入は1985年9月のプラザ合意で、アメリカが主導する形で当時のG-5 (Group of Five:日本、米国、英国、ドイツ、フランスで構成され、のちにカナダ、イタリアを加えてG-7となる)の蔵相・中央銀行の総裁がニューヨークのプラザホテルに集まり、アメリカ主導でドル高を是正すべく足並みを揃えた協調為替介入に踏み切ったことから注目を浴びた。目的は当時、双子(貿易赤字・財政赤字)に苦しんでいたアメリカが、特に貿易赤字の削減を目指しドル相場を大幅にドル安水準に誘導すべく、参加各国が協調して自国通貨を対価に米ドル売りの介入を継続したものだ。実際に相場水準も大きく変動した。金融史にページを刻む歴史的な出来事だ。

為替介入には関係国が協調して行う協調介入と、問題意識を持つ国が単独で行う単独介入がある。特に協調介入は参加国の為替市場に対する危機感が関係国と共有できないと実行に移せないため認識が一致していないとできない。G-7が最後に協調介入を行ったのは2011年3月の東日本大震災の発生直後の円売りの協調介入まで遡る。
当時のドル円相場は1ドル=80円台前半で、円の対ドル相場が戦後史上最高値を窺う水準で推移していた。円売りの協調介入は、東北大震災という有事によって為替市場の流動性が失われることに対する懸念や、市場の流動性が低下した中で、海外に投資していた日本のマネーが本国回帰(Repatriation)する円買いが殺到して、市場が無秩序になることを予防するための協調介入だったと考えられる。

協調介入が頻繁に行われなくなったのは、本来の目的であった米ドルの為替相場の水準を訂正する目標を成し遂げた後、主要国通貨当局の為替介入に対するスタンスも市場の価格形成機能を重視し、介入は必要最小限に留めるスタンスに変わってきたことも大きく影響している。

これについては、G-5からG-7に発展する際に新たにメンバーとなったカナダ中銀のホームページ(HP)が参考になる。同HPでは、ファンダメンタルズな要因(経済の基礎的条件)に抗って介入を行っても有効性が限られているため、カナダは1998年9月から、為替介入は極めて例外的な局面において、裁量によって実施する方式に変更したと記されている。

為替介入を検討する具体例としては、市場が崩壊してしまいそうな危機の予兆が感じられる時、例えば、極端な相場変動で買い手もしくは売り手が取引を手控えることで流動性が枯渇する事態に陥った場合などが挙げられている。
要は有事にしか為替介入を実施しないということだが、2011年3月の東日本大震災後の協調介入への参加はそのケースに該当したということだろう。

では、今の円相場を取り巻く状況はどうだろうか。本邦の外国為替及び外国貿易法(以下、外為法)では、第一章(総則)、第1条(目的)において、「この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もって国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と規定されている。

「最小限の管理又は調整を行うこと」をどう解釈するかがポイントとなろうが、為替介入は単独介入を行うにせよ、通貨ペアの相手国(ドル円なら米国)への根回しが必要だ。今の為替市場では、幅広い通貨に対して円の独歩安が急速に進行している訳でもなく、市場の流動性に問題が生じている訳でもない。危機的状況にあるとの共感を得にくく、単独介入を行うにしても実行へのハードルは相当に高いように思う。

外貨準備は対外決済に支障を来たすような事態が発生した際の備えで、対外決済が円滑に行われないような恐れが生じた場合のBCP(Business Continuity Plan)発動時のような時に限って活用するのが本筋ではないかと思う。

エネルギーの世界で例えれば、石油が入ってこなくなるような有事が発生した時に石油備蓄を放出することで社会の混乱をできるだけ低減するイメージだ。
南海トラフ大地震が発生しても、シーレーンがしばらく閉鎖されても、経済・社会の混乱をできるだけ抑えるためには、外貨準備と石油備蓄は平常時の小出しではなく、有事に限って有効に活用するのが、外為法で定められた「我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期す」ことができると思うのだが皆さんはどうお考えになるだろうか。

次回に続く

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