予想外の利下げから対ドルで連日の史上最安値更新
〇トルコリラ円、22日に円買いドル売り介入とトルコ中銀利下げが重なり7.65へ急落
〇その後ドル円が暴落一服で持ち直したところで23日早朝には7.70台後半へ戻す
〇トルコ中銀は2か月連続で政策金利引き下げを強行、週間レポレートは12.0%に
〇対ドルではドル全面高でリラ売りが再び活発化、23日深夜に18.42まで史上最安値更新
〇ドル円がリバウンド継続するうちは上昇余地あり、7.82から7.85手前にかけては戻り売り有利
〇7.75割れからは下向き、7.72割れからは9/22夜安値7.65へ徐々に迫る展開とみる
【概況】
トルコリラ円の9月22日は7.95円から7.65円の取引レンジ、23日早朝の終値は7.75円で前日終値の7.86円からは0.11円の円高リラ安だった。9月23日は7.79円から7.66円の取引レンジ、24日早朝の終値は7.78円で前日からは0.03円の円安リラ高だった。週間では9月16日終値7.83円から0.05円の円高リラ安だった。
日銀が9月22日夕刻に24年ぶりとなる円買いドル売り介入を実施したことでドル円は直前高値145.89円から22日夜安値140.34円へ急落、22日夜のトルコ中銀による予想外の利下げ強行から対ドルでの史上最安値を更新したことも重なったためにトルコリラ円は夕刻高値7.95円から夜安値7.65円へ急落したが、ドル円が市場介入による暴落一服で持ち直したところで23日早朝には7.70円台後半へ戻した。
9月23日はドル円が市場介入通過での買い戻し優勢となりユーロやポンド等の急落でFOMC通過後のドル全面高の様相が強まったことも重なり143円台を回復したため、トルコリラ円も新たな安値更新を回避して戻したが、前日の急落に対する半値戻しラインの7.80円には届かずに終わった。
【対ドルで史上最安値更新】
ドル/トルコリラ9月22日は18.39リラから18.31リラの取引レンジ、23日早朝の終値は18.32リラで前日終値と変わらずだった。9月23日は18.42リラから18.32リラの取引レンジ、24日早朝の終値は18.41リラで前日終値からは0.09リラのドル高リラ安だった。週間では9月16日終値の18.25リラから0.16リラのドル高リラ安だった。
9月22日20時にトルコ中銀は政策金利の週間レポレートを13.0%から1.0%引き下げて12.0%とした。主要国が利上げに走る中で逆行するような利下げを2か月連続で強行したことにより9月22日夜には18.39リラを付けて昨年12月20日の18.36リラを超えて取引時間中の史上最安値を更新した。リラ売り一巡でいったんは買い戻されたために22日は終値ベースで前日と変わらずだったが、23日はユーロやポンドが一段安する中でドル全面高の様相となったためにリラ売りが再び活発化して夕刻には18.40リラを超えて深夜には18.42リラまで史上最安値を更新した。また終値ベースでの史上最安値も更新した。
9月26日午前序盤は18.46リラへさらに安値を更新して18.40リラ台中盤で推移している。
【世界に逆行する高インフレ下での利下げ】
トルコ中銀は9月22日の金融政策委員会で政策金利を1.0%引き下げて12.0%とした。8月18日に14.0%から13.0%へ引き下げたところから2会合連続利下げとなった。市場の事前予想は13.0%での据え置きであり、一部には0.5%ないし1.0%の連続利下げもあり得るのではないかとの声もあったものの利下げ決定はリラへの弱気サプライズだった。
9月22日未明には米FOMCが0.75%の利上げを決定し、年末及び来年末の政策金利予想水準を上方修正したが、22日夜には英中銀が0.50%利上げを決定するなど主要国及び新興国での大幅利上げが続いている。パウエル米FRB議長は「景気よりも物価抑制」との姿勢を繰り返し強調しており、株安等の多少の犠牲を払っても物価抑制を最重要課題として金融引き締めの先頭に立ってきた。
一方で消費者物価上昇率が前年比で80%超の高インフレ下にあるトルコではエルドアン大統領による「低金利がインフレを押し下げる」「金融安定よりも成長が優先」「利上げする必要はない」との政策姿勢にトルコ中銀も反対できずに連続利下げに踏み切った。昨年も9月から12月まで4会合連続利下げで政策金利を19.0%から14.0%まで引き下げたところでリラ暴落となり史上最安値を更新する事態となったが、トルコ中銀がリラ防衛のために利上げをすると中銀総裁は更迭されて政権の意を汲んだカブジュオール現総裁が任命され、その後も中銀副総裁らの解任やインフレ指標を巡って統計局長が更迭される事態も生じてきた。
今回の利下げについてトルコ中銀は「第3四半期の先行指標で外需の減少により経済活動が失速したことが引き続き示された」としてインフレ低下見通しを示し、「鉱工業生産の増加と雇用増の傾向を維持するために金融環境が引き続き支援的であることが重要」として利下げを正当化した。
しかし、リラ安と世界的なインフレ進行によりトルコの輸出が過去最大となる以上に輸入が急増して貿易収支と経常収支は大幅な赤字となっており海外からの観光収入や投資では賄えなくなっており、リラ防衛のための企業の外貨保有規制や融資利率規制などにより金融環境はかえって悪化している。
【制御不能型のリラ安懸念も】
トルコリラは対ドルで史上最安値を更新した。2か月連続の利下げにより、今後もさらに小幅であっても利下げを継続する可能性を否定できない。
エルドアン大統領は9月25日にイスタンブール商工会議所において「低金利による融資で投資が拡大し、雇用・生産・輸出を拡大する」、「何年にもわたってトルコに押し付けられてきた金利、インフレ、為替レートのバランス理論はいかなる問題にも解決策を提供しない」「金利を引き上げることによってインフレを制御するアプローチはもはや真剣に受け止められていない」と述べている。新たなトルコ経済モデルを追及するという名目で今後もまだ利下げを追及する可能性があるとの印象を与えている。
為替市場全般はドル全面高であり、ドル円が24年ぶり最安値水準で日銀単独での市場介入をせざるを得ない状況に追い込まれ、ポンドは対ドルでの史上最安値を更新した。欧米株安と中国株安による世界規模のリセッション懸念から投資マネーの逆流でリラ売りがさらに加速する可能性がある。
インフレが収まらなければ来年11月に予定されているエルドアン大統領の支持率急落などによる政治混乱リスクも高まりかねない。対外債務も向こう1年で1820億ドル規模の支払い予定があるとされるが、経常赤字の拡大により財政危機を招くことも懸念される。またロシア制裁を巡ってロシアと通商関係のあるトルコ金融機関や企業への連座的な制裁導入の懸念もある。現状でもなお二桁の政策金利水準にあることを踏まえれば高金利通貨としての魅力があるとはいえ、政治経済外交的なリスクが従来よりもワンランク上がった状況にあると注意したい。
【トルコリラ円の現状はまだドル円次第の動き】
ドル高リラ安が進行する中にあってもドル円の変動が勝ることにより7月以降のトルコリラ円はドル円と同調した動きを続けてきた。9月22日から23日にかけても日銀介入によるドル円の急落とその後の反発に合わせた動きとなっている。
しかし、1998年に円安阻止で日銀が介入した時は4月に2回、6月に1回の計3回の介入を実施して円安を抑制しており、今回も1回ではなく2回、3回と介入が続けば145円台での岩盤的な上値抵抗感に圧される状況となりかねず、トルコリラ円にとっては円安による押し上げ期待感から徐々にドル高リラ安による下落再開への懸念が勝り始めてゆくところに来ているのではないかと思われる。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、7.72円を下値支持線、7.85円を上値抵抗線とする。
(2)ドル円が介入後のリバウンドを継続するうちは上昇余地ありとみるが、7.82円から7.85円手前にかけては戻り売り有利とみる。
(3)7.75円割れからは下向きとし、7.72円割れからは9月22日夜安値7.65円へ徐々に迫る展開とみる。7.72円を割り込んだ後も7.75円以下で戻り高値切り下がり基調での推移なら9月22日夜からの戻り一巡による下落基調が続きやすいとみる。
【当面の主な予定】
9月26日
16:00 9月 製造業景況感 (8月 102.1)
16:00 9月 設備稼働率 (8月 76.7%)
9月29日
16:00 9月 経済信頼感指数 (8月 94.3)
20:30 週次 外貨準備高 9/23時点 グロス (9/16時点 748.2億ドル)
20:30 週次 外貨準備高 9/23時点 ネット (9/16時点 120.9億ドル)
9月30日
16:00 8月 貿易収支 (7月 -106.9億ドル)
10月3日
16:00 9月 CPI 前月比 (8月 1.46%)
16:00 9月 CPI 前年同月比 (8月 80.21%)
16:00 9月 PPI 前月比 (8月 2.41%)
16:00 9月 PPI 前年同月比 (8月 143.75%)
注:ポイント要約は編集部
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