トルコリラ円見通し トルコ中銀総裁突然の解任で暴落(21/3/22)

3月20日にエルドアン大統領はトルコ中銀のアーバル総裁を突然解任したと報じられた。突然の解任劇に22日朝の取引開始時には13.34円へ急落した。

トルコリラ円見通し トルコ中銀総裁突然の解任で暴落(21/3/22)

トルコ中銀総裁突然の解任で暴落

〇トルコリラ円、19日夕刻に14.73まで小反落した後に15円を突破、20日未明に15.13まで高値を伸ばす
〇3/20にエルドアン大統領は19日付けでトルコ中銀のアーバル総裁を突然解任
〇トルコリラ円は22日朝に13.34へ急落、対ドルでは8.14リラまで暴落
〇トルコ中銀は18日の金融政策決定会合で金利を2%引上げ19%とした
〇13.34を更新するなら11/6安値12.03を目指す流れへ進みやすいとみる

【概況】

トルコリラ円は3月18日のトルコ中銀による市場予想を上回る利上げ決定から18日深夜に14.94円まで急伸、19日夕刻に14.73円まで小反落したところから一段高に入って15円を突破、20日未明には15.13円まで高値を伸ばした。
3月18日未明の米FOMCから米長期債利回りが乱高下となり、米長期債利回りが再び急上昇したことでユーロやポンド、豪ドルなどはFOMC後の急騰幅を解消する反落に見舞われてクロス円も総じて下落したが、トルコリラ円は利上げ効果が勝ってクロス円全般の下落やドル高に抗して独歩高的に上昇した。
ところが、3月20日にエルドアン大統領はトルコ中銀のアーバル総裁を突然解任したと報じられた。19日付けの解任で20日付け官報で公表されたのだが、突然の解任劇に22日朝の取引開始時には13.34円へ急落した。ベンダーによっては13円を割り込んでいる。

対ドルでのトルコリラは18日の中銀利上げからのリラ高で19日未明には7.28リラまで上昇、20日未明には7.18リラまで一段高していた。11月6日からの上昇が2月16日までで一巡してこの間の上昇幅に対する半値押しとなるところまで下げたが3月8日から上昇再開に入り、3月18日と19日の大幅上昇により先高感が強まって先週を終えた。
ところが3月20日の中銀総裁解任を受けて22日早朝には8.14リラまで暴落した。3月8日安値を割り込んでおり、週末までの反騰継続感が一挙に解消され、底割れにより2月16日を起点とした下落期入りの様相へ急変した。

【トルコ金融政策への信認が一挙に解消、再びリラ独歩安へ】

トルコ中銀は3月18日の金融政策会合で主要政策金利を2.0%引き上げて19.0%とし、市場予想の18%を上回る利上げとなった。
トルコ中銀は昨年11月7日にウイサル中銀総裁が突然更迭されてアーバル総裁となり、アーバル総裁は就任後最初の11月会合で政策金利を10.25%から15%へ大幅に引き上げ、12月にも17%へと連続利上げした。その後は利上げを見送っていたがインフレ抑制のためには追加利上げもあり得るとして金融引き締め政策の継続姿勢をアピールしてきたことでトルコリラ円は11月6日の史上最安値から上昇に転じてきた。
2月以降もトルコの消費者物価上昇が続いたたことで利上げ催促的にリラ安に転じ、11月6日安値12.03円から2月16日高値15.26円まで上昇幅3.23円に対して3月8日安値13.97円までの下げ幅が1.29円となり凡そ4割を削っていた。14円割れに対する突っ込み警戒感から持ち直した後は14.50円を中心とした持ち合いとなっていたが、3月18日の利上げで一段高に入り2月16日と2月18日のダブルトップラインに迫るところとなっていた。

トルコ中銀の利上げは国内のインフレ進行を阻止しようとするものだったが、世界的なコロナ対策での財政出動、ワクチン普及や感染拡大ペースの鈍化による経済活動の活発化で物価は上昇し始め、特に原油相場が昨年4月には0ドル以下のマイナス相場となった状況からNY市場で60ドル台後半、ロンドン市場では70ドルに到達するところまで大上昇してきたことも背景に米長期債利回りの上昇を先導役として主要国での長期債利回りが物価上昇を追いかけて上昇してきたことで、トルコ同様にブラジルやロシアなどもインフレ抑制を余儀なくされて利上げや金融引き締めへ動いていた。

しかし、エルドアン大統領は元来が低インフレ・低金利を掲げる金融政策スタンスであり、大統領の意に沿った形で2019年7月にムラト・ウイサル総裁が就任し、ウイサル総裁は就任早々に当時の24.0%から19.75%へ利下げし、さらに連続的な利下げにより2020年5月には8.25%まで引き下げを続けてきたが、トルコの物価上昇が続いたために2020年1月時点では政策金利11.25%に対して消費者物価上昇率が12.15%となって政策金利を上回る実質マイナス金利状態に陥った。

マイナス金利状態はその後も続いたため、トルコリラは高金利通貨の意味を失い、金融政策と通貨防衛政策に対する市場の信認を失って11月6日に史上最安値を付けるところまで独歩安に陥り、為替介入により外貨準備高も激減していた。そこでエルドアン大統領は苦渋の選択として11月7日にアーバル総裁を就任させて利上げと金融引き締めを容認した。アーバル総裁による利上げ断行により市場の信認を回復してきたのだったが、今回の解任劇で市場の信認を一挙に失ったといえる。
後任総裁には、エルドアン氏の与党・公正発展党(AKP)の元国会議員、シャハプ・カブジオール氏が起用された。カブジオール氏は地元紙のコラムで「今年の経済成長実現のため借り入れコストの増加を招く金融引き締め政策をやめるべきだ」と主張している。

【2月16日と2月18日のダブルトップライン突破失敗からの急落。40週サイクルレベルの下落期入り】

トルコリラ円は3月17日の下ヒゲ陰線陽線から18日、19日と連続陽線で続伸して15円台を回復して2月16日と2月18日の15.26円によるダブルトップラインに迫ってきた。3月18日と19日の連続陽線の勢いは1月7日高値を超えた時の1月29日から2月1日への連続陽線による上昇時に匹敵する勢いとなっていた。2月高値を超えれば11月底からの上昇基調もさらに継続して先高感からの強気な回転が効きやすくなる寸前であった。しかし3月22日早朝の暴落によりこの動きは一挙に否定された。

トルコ中銀総裁突然の解任で暴落

トルコリラ円は週足レベルにおいては概ね40週前後の底打ちサイクルで推移しており、昨年11月6日安値で底打ちして上昇期に入ってきた。11月6日安値から2月16日高値まで16週を経過したが、40週サイクルの底打ちサイクルによる上昇としては2018年8月13日底からの上昇が同年11月29日高値までの16週で一巡した経緯があり、今回も2月16日高値を上抜けずに暴落したことで40週サイクルの上昇が一巡して下落期に入った可能性が懸念される。

【当面のポイント】

トルコ中銀総裁の突然の解任により、トルコ金融政策・通貨政策への市場の信認は一挙に冷めて暴落商状に陥った。
11月6日安値からの上昇幅の過半を22日早朝暴落の一撃でほぼ解消してしまう状況に陥った。急落反応が落ち着き、新総裁の金融政策姿勢が市場の信認回復に寄与するのかどうか試されるところだが、結局は独裁的なエルドアン大統領の一声で情勢が激変することを見てしまった以上、市場も当面はリラへの積極的な投資姿勢を回復できないのではないかと思われる。
当面、13円前後を下値支持線、14円前後を上値抵抗線としてやや乱調な展開になるのではないかと考えるが、2月と3月の15円台到達によるダブル天井感から下落基調に入ったと見れば22日早朝の安値を更新するところからは11月6日安値12.03円を目指す流れへ進みやすいとみる。

【当面の主な予定】

3月22日
 17:00 2月 観光客数 前年比 (1月 -71.48%、予想 -68.0%)
3月24日
 16:00 3月 消費者信頼感指数 (2月 84.5、予想 81.0)
3月25日 トルコ中銀金融政策決定会合議事要旨公表
 20:30 週次外貨準備高 (3/12時点 526.6億ドル)
3月26日
 16:00 3月 製造業景況感 (2月 109.3、予想 107.0)
 16:00 3月 設備稼働率 (2月 74.9%、予想 75.0%)
3月31日
 16:00 2月 貿易収支 (1月 -30.3億ドル) 
4月 1日
 16:00 3月 イスタンブール製造業PMI(2月 51.7、予想 52.3)


注:ポイント要約は編集部

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