【概況】
トルコリラ円は1月2日の米軍によるイラン革命防衛隊司令官殺害空爆事件から1月6日朝安値で17.94円まで急落し、いったん戻したものの1月8日朝のイランによるイラク駐留米軍への報復ミサイル攻撃により17.98円まで再び急落した。しかし米国とイランの全面戦争突入が回避される動きとなったことで金融市場全般のリスクオン心理が一挙に回復したことでドル円の上昇とともに反騰入りとなり、ドル円が110円台に到達した1月14日午前には18.77円まで上昇した。
急反騰一服で16日夕刻までは上げ渋っていたが17日夕刻には18.82円まで戻り高値を切り上げた。しかしその後はドル高に押されて対ドルでリラ安となり、ドル円も17日午前高値110.288円の後はジリ安推移となったために17日深夜には18.63円まで失速した。
20日早朝は18.60円まで安値を切り下げて開始している。
トルコ中央銀行は1月16日の金融政策決定会合で政策金利の1週間物レポレートを現行の12.00%から0.75%引き下げて11.25%とした。利下げは5会合連続となった。市場は11.50%程度への利下げを予想していたが、予想を若干上回る利下げ幅となったものの市場の反応は限定的だった。エルドアン大統領は政策金利とインフレ率を1桁台にすると宣言しているが、米連銀による利下げ中断で世界的には利下げ拡大へブレーキがかかる中でのトルコの利下げは目立つため、先行きはリラ安要因に転じる可能性も抱えていると注意したい。
【イラン情勢緊張緩和での円安と対ドルでのリラ反騰も一服】
昨年12月は10月後半からの19円を挟んだ持ち合いから転落したことで売られて年末には18.18円まで下げていた。概ね4か月前後の底打ちサイクルにおける戻り一巡からサイクルのボトム形成への動きとイラン情勢が重なったことで1月6日朝の18円割れまで下落が続いたが、イラン情勢が短期間で全面戦争突入懸念から回避へと緊張が緩んだことは、トルコリラ円にとってはリスク回避の中で安値を出し切り底打ち反騰のきっかけを得るものとなった。サイクル的な反騰と市場のリスクオン心理の急回復が1月6日からの反騰が勢いづいた背景でもあった。
トルコリラ円の1月6日からの反騰は4.9%の上昇だったが、ドル円は1月8日安値から17日高値まで2.4%の上昇であり、ドル/トルコリラにおいては1月8日から1月16日まで2.6%の下落率(ドル安リラ高)だった。ドル円での円安と対ドルでのリラ高を合わせて丁度トルコリラ円の上昇率となっている。
ドル/トルコリラは1月16日安値の後は戻している。17日は英小売が予想を下回ったことや月末のブレクジットを意識して英ポンドが下落、米住宅着工が良好だったことでユーロが下落するなどドル高が目立ち、豪ドル等の資源通貨や南アランド等が対ドルで下落したため、ドル全般の上昇がトルコリラへも影響した。一方でクロス円全般は1月8日からの反騰一巡で下落しており、トルコリラ円はクロス円での円高とドルストレートでのドル高に押される格好となった。
【イラン情勢の次にリビア情勢が気になる】
米国とイランが全面戦争突入寸前のところでひとまず落ち着いたことはトルコリラにとっても反騰材料となったが、イラン情勢はまだ完全に終息したとは言えない。イランも米国も全面戦争は回避したいことが示されたものの、両国の対立は続いている。
11月の米大統領選挙を控えてトランプ大統領は外交面での強気姿勢とそれによる成果を上げることに力を傾注してゆくと思われるが、米国がソレイマニ司令官を空爆殺害した衝動の背景となるイラン支持勢力への軍事的圧力、イランの現政権に対する外交的圧力は緩まる兆しが見えない。
イランでは、ソレイマニ司令官殺害事件後は反米デモが吹き荒れたものの、ウクライナ民間機への誤射撃墜により反政府デモへ流れが変わっている。年末にかけてもインフレ問題等で反政府デモが活発化していたなど政情不安もある。また誤射事件でイラン軍・革命防衛隊による軍事活動が躊躇されてもイラン革命防衛隊の支援する反米武装勢力はシリア、イエメン、イラク内にあり小規模な軍事行動もまだ見られている。
米国はイラン核合意から離脱してイラン制裁を実行している。さらに制裁拡大等でイランを追い詰める可能性もあるが、ロシアや中国がイランについているために、外交経済的な圧力を強めることを主要手段としてゆくのだろうと思われる。ただ、今回のような軍事行動のエスカレーションというリスクも付きまとうので、年初の緊張感がひとまず解消したとはいえ、新たな火種が拡大するようだとリスク回避的なリラ売り要因にもなりかねないと注意したい。
リビア情勢も気になるところだ。リビアでは西側が支持する暫定政権とロシア等が支援する反暫定政権勢力による内戦状態が続いているが、トルコは暫定政権支援での派兵を始めている。ロシア製ミサイル導入やトルコストリームと呼ばれるロシアの天然ガスパイプライン稼働ではトルコとロシアは協力関係にあるが、イスラエルとキプロスによる地中海ガス田を活用した欧州向けパイプラインの開発計画があり、トルコはこれを阻止したい。リビア暫定政府とトルコの間にある地中海開発権益で両国は合意しており、イスラエルの計画をつぶしにかかる可能性が高まっている。これも新たなトルコを巡る地政学的リスクとなりかねない。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
トルコリラ円60分足
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、1月6日朝安値と8日午前安値をダブルボトムとして強気サイクル入りしてきたが、14日午前高値まで大幅上昇してから失速気味となったために15日午前時点では1月14日午前高値を直近のサイクルトップとし、16日夜の上昇で14日午前高値を上抜いたために17日午前時点では15日夜安値を直近のサイクルボトムとした強気サイクル入りとした。またトップ形成期は17日午前から21日午前にかけての間と想定されるので既に反落注意期にあるとし、18.70円以上での推移中は高値試し優先としたが、18.70円割れからは弱気転換注意とし、15日夜安値割れからは新たな弱気サイクル入りとした。
1月17日夜へ反落し、20日朝には15日夜安値を割り込んだため、14日午前と17日夕の両高値をダブルトップとした弱気サイクル入りとする。ボトム形成期は20日夜から22日夜にかけての間と想定されるので、17日夕高値を上抜き返せないうちは一段安余地ありとみる。
60分足の一目均衡表では1月16日夜の反落で遅行スパンが悪化し、先行スパンからも転落した。このため遅行スパン悪化中は安値試し優先とする。先行スパンが戻り抵抗となりやすいとみるが、先行スパンを上抜き返すところからは上昇再開と仮定して遅行スパン好転中の高値試し優先へ切り替える。
60分足の相対力指数は14日高値から17日高値への高値切り上げに対して指数のピークが切り下がる弱気逆行となり17日夜に下落した。30ポイント割れは回避して下げ渋っているものの50ポイント超えから続伸するような反騰を見せられないうちは一段安余地ありとし、20日朝安値を割り込むところからは30ポイント台序盤への低下を伴う下落を想定する。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、1月20日朝安値18.60円を下値支持線、18.75円を上値抵抗線とする。
(2)18.75円以下での推移か一時的に超えても維持できずに反落する内は下落余地ありとし、20日朝安値割れからは18.40円台への下落を想定する。18.45円以下は反発注意とするが、18.60円以下での推移中は21日も安値試しを続けやすいとみる。
(3)18.75円超えから続伸の場合は強気転換注意として17日夕高値18.32円試しとするが、18.580円前後は戻り売りにつかまりやすいとみる。ただし17日夕高値超えからは新たな強気サイクル入りとなるため、リスクオン優勢となるような材料を背景に高値を更新する場合は19円試しへ向かう流れとみる。
【当面の主な経済指標等の予定】
1月20日
23:30 12月トルコ中央政府債務
1月23日
16:00 1月消費者信頼感指数(12月 58.8)
20:00 トルコ中銀金融政策会合議事要旨
1月27日
16:00 1月製造業景況感 (12月 103.6)
16:00 1月設備稼働率 (12月 77.0%)
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