Monthly Market Insights(24/4)異次元緩和の象徴は撤廃されるも、副作用との戦いはこれから

今後は、伝統的な金融調節手段である短期金利の操作を主たる手段として活用していくことで、少なくとも当面は緩和的な金融環境が継続することが予想されている。

Monthly Market Insights(24/4)異次元緩和の象徴は撤廃されるも、副作用との戦いはこれから

異次元緩和の象徴は撤廃されるも、副作用との戦いはこれから

ようやく日銀が動いた。と言っても2013年に始まった異次元の金融緩和を補強すべく、2016年に導入された「マイナス金利政策」「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」等、象徴となっていた非伝統的金融緩和手法を撤廃したものだ。今後は、伝統的な金融調節手段である短期金利の操作を主たる手段として活用していくことで、少なくとも当面は緩和的な金融環境が継続することが予想されている。

長く続いた制度を変えようとすると、当然、反動や副作用が懸念される。しかし、今回は政策決定会合の前に一部メディアから、政策変更の内容がほぼ断定的に報じられていたこともあり、発表内容にサプライズは無く、むしろ市場には材料出尽くし感が拡がった。

しかし、事前にメディアから金融政策変更の詳細が断定的に報じられるのは宜しくない。
しかも、昨年12月7日の参議院財政金融委員会で、金融政策の変更内容を、金融政策決定会合の結果公表前に、特定のマスコミから具体的に報じられたことがあったと指摘され、日銀の情報管理態勢について問われてからさほど間もない。
この参院財政金融委員会の場では、日銀の植田総裁が、「情報管理の問題もきちんと徹底しつつ、丁寧な説明、適切な政策運営に努めていきたいと思っております」と情報管理の徹底についても言及している。情報管理は徹底されていた筈だが、再び、結果として同様のことが起こってしまった。
(当該、参院財政金融委員会でのやりとりは筆者の2月レポートMonthly Market Insights(24/2)マイナス金利解除はやはり今春? にも掲載しておりますので、ご興味のある方はご参照ください)

今回(3月19日)の金融政策決定は、実体面はともかく、表面的には17年ぶりの金融政策の引き締め方向への転換となる。意図的に観測気球を上げてマーケットの反応を見たかったのかもしれない。

金融政策決定会合の結果発表を、日銀のホームページでは、「金融政策の枠組みの見直しについて」と「変更」ではなく、「見直し」という当たりの柔らかい言葉を使っている。17年ぶりの金融政策の方向性の転換を強調したいのなら、「見直し」ではなく、「変更」か「転換」が適当な日本語だろう。


一方、英語版では、“Changes in the Monetary Policy Framework”と「変更」をストレートに表現する”change”という単語を使っている。日本語の「見直し」に近いニュアンスの”modify”、”revise”、 ”alter”、といった単語を使っていない。
  
国内の企業や個人向けには緩和的な金融環境が続くことを強調したい一方、円売りを重ねる投機家向けには金融政策の転換を強調したい本音が文章に表れたというのは筆者の考えすぎだろうか。

さて、為替相場について考えれば、筆者は今回の金融政策変更は正常化への大きな一歩だが、これだけでここ数年の主要通貨に対する円全面安のトレンドを変えるのは難しいと考えている。一言でいえば、欧米と日本とのそれなりの金利差が継続しそうだというのが、その根拠だ。現時点では円の短期金利の継続的な上昇は難しいと考えており、少なくともコロナ禍明けに欧米の中央銀行の行ったような高速利上げは難しいだろう。

日本は日銀当座預金の構造がこれまでの▲0.1%、0%、0.1%の3層構造から0%と0.1%の2層構造に変わることで今後、大規模緩和時代の負の遺産の副作用が顕現化してくる。

一例としては、日銀当座預金を通じた日銀の円資金の調達コスト(日銀当座預金への付利金利)が確実にプラス金利となるのに対し、日銀の保有する国債は、長短金利操作時代に購入した0%近辺の低利回りの長期債が多く含まれている。短期金利を継続的に上げれば、日銀自体が短期の資金調達コストより債券の運用利回りが低いという逆ザヤに苦しむことになる。欧米の中央銀行も同じような悩みは抱えているが、「長短金利操作付き量的・質的緩和」という日本特有の大規模緩和策の下6年を超えて利回りがゼロに近い長期債を買い続けてきた日銀のバランスシートに与える副作用はひときわ大きい。
逆ザヤによって生じる財務悪化をできるだけ抑えたいなら、日銀は保有する低利回りの国債の償還時期を考えながら利上げをしていかざるを得ない。

日銀が採ってきた非伝統的な大規模緩和策は株高・円安をもたらした原動力だが、大規模緩和をあまりに長く続けたことから生じる負の側面に本格的に対峙していくのは、これからが正念場だ。

ドル円相場については、日本(円)サイドからの円買い要因が金利の先高観が見込めないのであれば、為替介入への警戒感くらいしか無くなってしまう。今回の金融政策決定会合を経て、むしろ手詰まり感が強まった感じだ。
ドル円相場は、米国(米ドル)サイドの景況感や金利といった要因にゆだねられる相場展開になるのではないか。
次回に続く

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