ドル円見通し 直前6日分の上昇を解消する日足大陰線、ドル安再燃
〇ドル円米長期金利上昇で107円をうかがう動きから安倍首相辞任で急反落105円台前半へ
〇メジャー通貨全般で8/19からのドル高基調が一巡ドル安基調に転じる流れ
〇ドル安再開感と国内政局への不透明感から105円割れから104.17を目指しさらに底割れへ向かう可能性も
〇9/4雇用統計前にもう一波乱あるか週序盤の動向注視
〇105.50以下での推移中は下向き、105.08、105円割れからは当初の下値目途を104.50とする
〇104.50を支えられない場合、105円以下での推移が続く場合は104円割れを目指す、103.22を意識
〇ドル全面高が再開するような情勢変化あれば106円超えから106.50円前後へと反騰に入る可能性
【概況】
8月27日夜のパウエル米連銀議長によるジャクソンホール講演開始から為替市場は乱高下に見舞われ、講演開始当初に米連銀はインフレ率が目標の2%を一時的に上回ってもゼロ金利政策を長期間継続するとの姿勢を示したことで為替市場はいったんドル安反応となりドル円は105.59円まで急落した。しかし講演が進んでもさらにドル安を加速させるようなサプライズ内容はないとみて早々にドル買い戻しの動きとなり、直前の急落が逆バネとなって急伸商状となって27日深夜には106.70円まで上昇して8月25日深夜高値106.57円を上抜いた。
8月27日夜の急反騰は講演開始直後からの米長期債利回り急上昇が背景となり、米10年債利回りは27日の取引では前日比0.07%高の0.76%へ上昇し、28日も午前には0.78%台まで上昇していた。米10年債利回りは昼を過ぎても高止まりしていたため、ユーロやポンド等が28日午前からは持ち直しの上昇に入っていたにもかかわらずドル円は10年債利回りを観て昼過ぎには106.94円へ上昇して107円に迫っていた。
しかし米10年債の上昇が頭打ちとなり、ユーロやポンド及び豪ドル等の上昇が続いてドル安感が強まる中、安倍首相辞任の速報が流れるとドル円は強気の梯子を外されて急落商状に転じた。昼過ぎまで高値を更新していたことが却って辞任報道からのドル円急落を招き、夕刻には106円を割り込み、28日夜には105.17円まで大幅続落となり8月19日午前安値105.08円に迫った。その後は下げ渋ったものの105円台前半の安値圏にとどまったまま先週を終えた。
【ドル安再開の動きが強まる】
8月28日午後に安倍首相辞任との報道からドル円は急落、日経平均は一時600円安を超える急落となった。日経平均は急落商状一巡からはやや持ち直して326.21円安で終了、その後の先物市場では小幅高程度の動きに落ち着いたが、ドル円は午前中からのユーロ等でのドル安再燃の動きが午後から夜へ継続する中での報道だったために急落商状が落ち着くのは夜に入ってからとなった。
安倍首相辞任により、市場はいったん先行き不透明感から手仕舞い売りへ走り株安円高が発生したが、アベノミクスと称されてきた経済政策の実体は日銀の実質ゼロ金利と量的緩和及び株式市場を支えるETF買い等であり、コロナ不況の長期化を背景として緩和政策が強化されている現状にあっては首相交代により日銀の政策姿勢が急激に変わることはあり得ないため、株式市場への影響も一時的なものと思われる。
為替市場は辞任報道前からドル安のぶり返しで推移しており、辞任報道が円高ドル売りを加速させたものの、大きな流れとしてはメジャー通貨全般において8月19日からのドル高基調が一巡してドル安基調に転じる流れの中におけるローカルな材料ということだろう。
ドル円が8月19日安値105.08円から8月20日高値106.21円まで戻したのは、8月20日未明のFOMC議事録公開でYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)への消極姿勢が示されたことと米長期国債大量発行による長期債利回り上昇が主要因だったが、その後も米長期債利回りの上昇基調が続いたことで8月25日深夜高値106.57円まで一段高となっていた。
8月27日夜のパウエル米連銀議長のジャクソンホール講演でも、一時的にはドル安へ振れたものの長期金利上昇を抑えようとする積極姿勢への具体的言及はなかったとして米長期債利回りは上昇基調を継続、ドル円も28日昼に106.94円まで一段高となった。しかし、コロナ不況に対する米連銀によるゼロ金利と量的緩和は長期的に継続するため、市場への過剰流動性供給による資産インフレの進行も継続とすると再認識されて為替市場はドル安を再開させた。過剰流動性は株高を継続させつつも為替市場においては投機通貨買いを助長してドル安へ向かう。また具体的な長期金利抑制政策がとられなくても大量入札による一時的な需給バランスのゆるみによる長期債利回り上昇は長続きしないだろうと市場も落ち着きを取り戻してドル安への揺れ返しに入ったと思われる。
【8月28日の日足大陰線、前日比1.24円の下落、高安レンジは1.77円の大きさ】
8月28日のドル円日足は前日比で1.24円の円高ドル安、当日の高値から安値までは1.77円の円高ドル安となる大陰線だった。
日足の大陰線としては、3月24日の戻り天井直後の3月26日に前日比1.64円の下落、当日の高値から安値まで2.09円の下落となって以来の水準であり、6月5日の戻り天井翌日の6月8日に前日比1.15円の下落、高値から安値へ1.46円の下落となった時を超えている。下落途中の反騰が一巡して急落に転じる動きとしては昨年8月1日に前日比1.41円の下落で高値から安値まで2.06円の下落となる大陰線が発生しているが、その時を彷彿とさせる動きともいえる。
8月28日時点では8月19日安値を割り込んでいないものの、全般的なドル安再開感と国内政局への不透明感によるクロス円ポジションの圧縮傾向を踏まえると安値更新及び105円割れから7月31日安値104.17円を目指す、あるいは底割れへ向かう可能性も出てきているところと注意したい。
【1か月周期、2〜3か月周期の安値形成サイクル】
ドル円は月末月初に安値を付ける概ね1か月周期の底打ちサイクルで推移している。この1か月サイクルが2セットないしは3セットで2か月から3か月の底打ちサイクルを形成している。今年に入ってからの主要な安値は1月8日、1月31日、3月9日、4月1日、5月6日、5月29日、6月23日、7月31日でつけてきた。すでに8月末に来ているので、8月28日の急落一服でやや落ち着いて9月4日の米雇用統計に向かうか、米雇用統計前後へ一段安してからいったん戻しに入るか、週明け序盤は見定めてゆくことになるのだろうと思われる。
中勢としては、7月31日安値104.17円を割り込むのかどうかが大事になってくる。7月31日安値割れを回避して9月序盤から反騰に転じれば7月31日からの上昇基調を継続しうるが、7月31日安値を割り込む場合は、1か月サイクルレベルで小反発してもその後には9月末から10月序盤にかけて、あるいはもう1か月延びて10月末から11月序盤にかけて下落基調が続きやすくなる可能性がある。またその際は3月9日のコロナショックでつけた安値101.23円を試す流れとなりやすいと思われる。
【当面のポイント】
8月28日の日足大陰線による急落で市場心理もかなり悪化したと思われる。ドル全面高となるような情勢変化がなければ急落一服による買い戻し主体の反発では長続きせずに、戻り一巡後には下げ再開に入りやすいと思われる。
(1)当面、105.75円から106円手前までを上値抵抗帯とし、105.50円以下での推移中は下向きと考える。
(2)8月19日安値105.08円及び105円割れからは当初の下値目途を104.50円前後とするが、104.50円前後で下支えられない場合及び105円以下での推移が続く場合は104円割れを目指すとみる。8月19日安値から8月28日高値までの上昇幅は1.876円高だが、その倍返しは103.22円となる。
(3)105.75円から106円手前では戻り売りにつかまりやすいとみる。また104.50円以下へ下げた後は105円前後が戻り抵抗となりやすいとみる。ただしドル全面高が再開するような情勢変化あれば106円超えから106.50円前後へと揺れ返しの反騰に入る可能性があると注意する。(了)<30日18:20執筆>
【当面の主な予定】
8/31(月)
休場、英国
08:50 (日) 7月 小売業販売額 前年同月比 (6月 -1.2%、予想 -1.7%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産速報値 前月比 (6月 1.9%、予想 5.0%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産速報値 前年同月比 (6月 -18.2%、予想 -17.5%)
10:00 (中) 8月 国家統計局製造業PMI (7月 51.1、予想 51.2)
14:00 (日) 7月 新設住宅着工戸数 前年同月比 (6月 -12.8%、予想 -12.5%)
14:00 (日) 8月 消費者態度指数・一般世帯 (7月 29.5、予想 28.5)
21:00 (独) 8月 消費者物価指数速報値 前月比 (7月 -0.5%、予想 0.0%)
21:00 (独) 8月 消費者物価指数速報値 前年同月比 (7月 -0.1%、予想 0.1%)
22:00 (米) クラリダFRB副議長、バーチャル討論会
23:30 (米) ボスティック・アトランタ連銀総裁、講演
9/1(火)
米国の対イラン制裁復活をめぐりEU主宰で会合(ウィーン)
07:45 (NZ) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 0.5%)
08:30 (日) 7月 失業率 (6月 2.8%)
08:30 (日) 7月 有効求人倍率 (6月 1.11)
08:50 (日) 4-6月期 法人企業統計・全産業設備投資額 前年同期比 (1−3月 4.3%)
10:30 (豪) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 -4.9%)
10:30 (豪) 4-6月期 経常収支 (1−3月 84億豪ドル)
10:45 (中) 8月 財新製造業PMI (7月 52.8、予想 52.3)
13:30 (豪) 豪準備銀行、政策金利 (現行 0.25%)
16:50 (仏) 8月 製造業PMI改定値 (速報 49.0)
16:55 (独) 8月 製造業PMI改定値 (速報 53.0)
16:55 (独) 8月 失業者数 前月比 (7月 -1.80万人)
16:55 (独) 8月 失業率 (7月 6.4%)
17:00 (欧) 8月 製造業PMI改定値 (速報 51.7)
17:30 (英) 8月 製造業PMI改定値 (速報 55.3)
18:00 (欧) 7月 失業率 (6月 7.8%)
18:00 (欧) 8月 消費者物価指数速報値 前年同月比 (7月 0.4%)
18:00 (欧) 8月 消費者物価コア指数速報値 前年同月比 (7月 1.2%)
22:45 (米) 8月 製造業PMI改定値 (速報 53.6)
23:00 (米) 8月 ISM製造業景況指数 (7月 54.2、予想 54.7)
23:00 (米) 7月 建設支出 前月比 (6月 -0.7%、予想 1.0%)
26:00 (米) ブレイナードFRB理事、バーチャル討論会
9/2(水)
08:50 (日) 8月 マネタリーベース 前年同月比 (7月 9.8%)
10:30 (豪) 4-6月期 GDP 前期比 (1−3月 -0.3%)
10:30 (豪) 4-6月期 GDP 前年同期比 (1−3月 1.4%)
18:00 (欧) 7月 生産者物価指数 前月比 (6月 0.7%)
18:00 (欧) 7月 生産者物価指数 前年同月比 (6月 -3.7%)
21:15 (米) 8月 ADP非農業部門就業者数 前月比 (7月 16.7万人、予想 125.0万人)
23:00 (米) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 6.2%、予想 3.8%)
23:00 (米) ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁、対話集会
25:00 (米) メスター・クリーブランド連銀総裁、講演
26:00 (独) バイトマン独連銀総裁、講演
27:00 (米) 米地区連銀経済報告(ベージュブック)
9/3(木)
10:30 (豪) 7月 貿易収支 (6月 82.02億豪ドル)
10:45 (中) 8月 財新サービス業PMI (7月 54.1、予想 53.8)
16:50 (仏) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 51.9)
16:55 (独) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 50.8)
17:00 (欧) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 50.1)
17:30 (英) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 60.1)
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前月比 (6月 5.7%)
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前年同月比 (6月 1.3%)
21:30 (米) 7月 貿易収支 (6月 -507億ドル、予想 -523億ドル)
21:30 (米) 4-6月期 非農業部門労働生産性改定値 前期比 (速報 7.3%、予想 7.3%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数
21:30 (米) 失業保険継続受給者数
22:45 (米) 8月 サービス業PMI改定値 (速報 54.8)
23:00 (米) 8月 ISM非製造業景況指数 (7月 58.1、予想 57.3)
26:00 (米) エバンズ・シカゴ連銀総裁、講演
9/4(金)
10:30 (豪) 7月 小売売上高 前月比 (6月 12.7%)
15:00 (独) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 27.9%)
15:00 (独) 7月 製造業新規受注 前年同月比 (6月 -11.3%)
21:30 (米) 8月 雇用統計・非農業部門雇用者数 前月比 (7月 176.3万人、予想 157.5万人)
21:30 (米) 8月 雇用統計・失業率 (7月 10.2%、予想 9.9%)
21:30 (米) 8月 雇用統計・平均時給 前月比 (7月 0.2%、予想 0.0%)
21:30 (米) 8月 雇用統計・平均時給 前年同月比 (7月 4.8%、予想 4.4%)
9/7(月)
休場 米国、カナダ(レーバーデー)、ブラジル(独立記念日)
オーダー/ポジション状況
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