ドル円見通し 投資マネーのドル還流で全面高、トランプ当選ショック時を上回る勢い
【概況】
新型コロナウイルスの感染拡大がパンデミックとなる中、ドル円は2月20日高値112.21円から3月9日安値101.23円までの間はリスク回避の円買い戻しにより急激な円高となり、この間の下げ幅は10.98円に拡大したが、3月9日からは一転して世界レベルの投資マネーのドル還流により円安ドル高となり、3月20日には111.50円まで戻して2月20日高値へ迫る状況となっている。
クロス円における円の買い戻しが急激に進んだこと、3月3日に米連銀が緊急利下げに踏み切ったことでいったんドル売りの流れとなったことが3月9日への急激な円高の背景であった。しかし感染拡大が欧米で爆発し始め、3月11日にWHOがパンデミック宣言に踏み切り、3月12日に米国が欧州からの入国禁止を発表、EUも海外からの入国を原則禁止とするなど全世界的な渡航規制が拡大する中で市場心理は一段と悪化した。3月9日からの為替市場はドル全面高となっているが、クロス円における円の買い戻しを大幅に超えるドルストレートでのドルの買い戻し、手元流動性確保、現金化が一挙に押し寄せた状況となっている。
【コロナショックの先行き見えず、相次ぐ金融緩和への期待も乏しい】
世界連鎖株安は止まらず、3月20日もNYダウは4.6%安、S&P500指数は4.3%安で3年ぶり安値となった。株式市場の暴落度合いはリーマンショック時に近いレベルとなっているが、金融資産バブル崩壊によるリーマンショックと異なり、今回は天災=ウイルス感染爆発が収まり始めて終息見通しが立たないことにはショック状況から抜け出せずに長期化する懸念が日々高まる。3月20日にはゴールドマンサックスが米4-6月期のGDPが年率でマイナス24%となる試算を示しているが、世界全体が渡航禁止で実質上の鎖国状態に陥り、感染爆発の収まらないイタリアでは全産業の活動が停止する事態に陥っていることを見れば、今回のコロナショックによる大不況がどの程度のものとなるのか見通せない状況となっている。
米連銀は3月3日にリーマンショック以来となる定例以外の臨時FOMCを開催して緊急利下げに踏み切り、3月16日早朝にも二度目の緊急利下げと量的緩和再開を発表した。3月17日にはコマーシャルペーパー(CP)の買い入れによる企業資金繰り支援を表明した。トランプ政権も3月18日に総額1兆ドル規模の経済対策を表明しているが市場の反応は鈍い。
ECBは3月12日に債券購入および銀行への長期貸し付けプログラムの拡大を表明したが、マイナス金利の深掘りは見送った。しかし株安が収まらないために3月18日には臨時の政策委員会で7500億ユーロ(約89兆円)相当の新たな臨時資産購入プログラムを導入すると発表した。
英中銀は3月11日に臨時会合で政策金利を0.5%の利下げで0.25%としたが、3月19日には二度目の臨時会合により0.15%をさらに引き下げて0.10%とし、資産購入を2000億ポンド(約25兆8700億円)増額して総額6450億ポンドとした。
【リーマンショック時は円高の一方でドル高、今回は対円も含めてドル全面高】
リーマンショックの時、S&P500株価指数は2007年10月に天井を付けて下落に転じた。2008年3月にベアスターンズが破綻した後はいったん戻したが、2008年10月にリーマンブラザーズが破綻する中で2008年9月から11月へ大暴落し、底打ちしたのは2009年3月だった。
その間、ドル円は2007年6月22日に124.15円で天井を付けて下落期に入り、2008年3月には95.75円へ下落、2008年8月へいったん110.64円まで戻したが10月に一段安となり2009年1月には87.11円まで下落した。2009年4月に101.42円まで回復したものの円高ドル安は長期化して2011年10月底の75.57円へ進んだ。
一方、ドル指数2008年3月に71.15で大底を付けて同年8月から急騰し始めて11月21日には88.46へ上昇、いったん12月18日安値77.91まで反落したが2009年3月4日に89.62まで一段高している。2009年末にかけては株高へ復調する中で下落して2009年11月には74.17まで下げている。
リーマンショックは世界全体を巻き込んだが欧米を中心とした金融資産バブルの崩壊であり、日本もショックは大きかったものの欧米程ではなかったためにリスク回避の円高がかなり優勢であった印象だ。しかしドル円における円高ドル安以外で見ればドル高であった。現状と同じく、新興国への投資マネーがドルへ還流したこと、手元流動性確保のために現金化が急がれたことは一緒だ。
では、今回もリーマンショック時と同様にドル高が進む一方でドル円においては最終的に円高ドル安へ進むのかというと、必ずしもそうとは言えなくなってきている状況なのだろう。
米国でも急激に感染が拡大し、3月22日時点の感染者数は2万6888人、死者348人に急増している。3月1日時点では感染者数が65人に過ぎなかったものが爆発的に増えている。クルーズ船を除く日本の感染者数は1054人、死者36人である。数字だけ見れば米国がはるかに深刻ではあるが、検査数の少なさから実体は数字以上に悪いとされ、今後は爆発的な感染者増加の懸念もある。日本からの入国拒否国は200を超えているが韓国よりも多いくらいだ。
日本にとっては既に消費税増税による消費低迷により昨年10-12月期のGDPが年率マイナス7.1%まで落ち込んだところでのコロナショックのため、リーマンショック時の様に欧米の大混乱からやや距離を置いた日本市場の相対的冷静さは保てないかもしれない。東京五輪中止や感染死者急増等の状況によっては日本売り的な円安も加わる可能性もあると注意しておく必要があるだろう。
【トランプ登場時のドル高円安を超える現状と当面のポイント】
(1)ドル円の3月9日への急落幅は2月20日から10.98円であり、2017年11月8日高値から2018年3月26日への10.09円や2016年12月15日から2017年4月17日への10.54円等と同レベルの下落から切り返している。しかしその後の急騰レベルはそれらの底打ち後の反騰時の勢いを超えている。
この2週間で10.27円の上昇というのは、トランプ大統領当選ショックによる急激なドル高により2016年11月9日安値101.19円から翌週の11月16日高値110.91円まで9.00円のドル高円安となった時を超えている。
(2)仮に2月20日高値112.21円を超える場合、チャート上の上値抵抗となりやすい高値は2019年4月24日高値112.39円、2018年10月4日高値114.54円、2017年11月8日高値114.72円、さらに2016年12月15日高値118.65円等へ順次切り上がる事も考えられる。
(3)2月20日高値を超えないかわずかに超えても3月9日からの反騰幅の半値を削る下落となる場合はダブルトップ型からの下落期入りとなる可能性を警戒する。
(4)60分足レベルの短期的なトレンド判断では、3月9日安値以降、3月12日安値、3月16日安値、3月20日安値と底上げして高値を切り上げてきているので、この底上げパターンが継続するうちは上昇余地ありとして上記の上値目途となるべき高値を試して行きやすいと考えるが、3月20日安値109.33円を割り込む場合は底上げパターンがいったん崩れるのでもう一つ手前の底上げ時の安値である3月16日夜安値105.15円試しへ向かう可能性が出てくると注意する。
※ クロス円全般でのポジション解消的な円高が全般的なドル高を超えるのか、ドル全面高がさらに進むのか、米国がイタリアのような感染爆発状態となってドル高が揺らぐのか、状況次第であり決めつけられないところだが、2月20日高値を超えて続伸するような展開になるなら、ドル全面高でしばらく進むということになるのかもしれない。(了)<22日21:00執筆>
ドル円日足
【当面の主な発表予定】
3/23(月)
24:00 (欧) 3月 消費者信頼感速報値 (2月 -6.6、予想 -13.0)
3/24(火)
14:00 (日) 1月 景気先行指数CI・改定値 (速報 90.3)
14:00 (日) 1月 景気一致指数CI・改定値 (速報 94.7)
17:30 (独) 3月 製造業PMI速報値 (2月 48.0、予想 40.0)
17:30 (独) 3月 サービス業PMI速報値 (2月 52.5、予想 43.0)
18:00 (欧) 3月 製造業PMI速報値 (2月 49.2、予想 39.5)
18:00 (欧) 3月 サービス業PMI速報値 (2月 52.6、予想 39.8)
18:30 (英) 3月 製造業PMI速報値 (2月 51.7、予想 45.0)
18:30 (英) 3月 サービス業PMI速報値 (2月 53.2、予想 45.0)
22:45 (米) 3月 製造業PMI速報値 (2月 50.7、予想 45.0)
22:45 (米) 3月 サービス業PMI速報値 (2月 49.4、予想 43.3)
23:00 (米) 2月 新築住宅販売件数・年率換算件数 (1月 76.4万件、予想 75.0万件)
23:00 (米) 2月 新築住宅販売件数 前月比 (1月 7.9%、予想 -1.8%)
23:00 (米) 3月 リッチモンド連銀製造業指数 (2月 -2、予想 -10)
3/25(水)
06:45 (NZ) 2月 貿易収支 (1月 -3.40億NZドル、予想 5.50億NZドル)
18:30 (英) 2月 消費者物価指数 前月比 (1月 -0.3%、予想 0.3%)
18:30 (英) 2月 消費者物価指数 前年同月比 (1月 1.8%、予想 1.7%)
18:30 (英) 2月 消費者物価コア指数 前年同月比 (1月 1.6%、予想 1.5%)
18:30 (英) 2月 小売物価指数 前月比 (1月 -0.4%、予想 0.6%)
18:30 (英) 2月 小売物価指数 前年同月比 (1月 2.7%、予想 2.6%)
18:30 (英) 2月 生産者物価コア指数 前年同月比 (1月 0.7%、予想 0.5%)
21:30 (米) 2月 耐久財受注 前月比 (1月 -0.2%、予想 -1.0%)
21:30 (米) 2月 耐久財受注・輸送用機器除く 前月比 (1月 0.8%、予想 -0.4%)
22:00 (米) 1月 住宅価格指数 前月比 (12月 0.6%、予想 0.4%)
3/26(木)
08:50 (日) 2月 企業向けサービス価格指数 前年同月比 (1月 2.3%、予想 2.2%)
16:00 (独) 4月 GFK消費者信頼感 (3月 9.8、予想 7.7)
18:30 (英) 2月 小売売上高 前月比 (1月 0.9%、予想 0.2%)
18:30 (英) 2月 小売売上高 前年同月比 (1月 0.8%、予想 0.7%)
18:30 (英) 2月 小売売上高・除自動車 前月比 (1月 1.6%、予想 -0.3%)
18:30 (英) 2月 小売売上高・除自動車 前年同月比 (1月 1.2%、予想 1.1%)
21:00 (英) 英中銀資産買取プログラム規模 (現行 4350億ポンド、予想 6350億ポンド)
21:00 (英) 英中銀 政策金利 (現行 0.10%、予想 0.10%)
21:30 (米) 10-12月期 GDP確定値 前期比年率 (改定値 2.1%、予想 2.1%)
21:30 (米) 10-12月期 GDP個人消費確定値 前期比 (改定値 1.7%)
21:30 (米) 10-12月期 コアPCE確定値 前期比 (改定値 1.2%、予想 1.2%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 28.1万件、予想 110.0万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 170.1万人)
3/27(金)
08:30 (日) 3月 東京都区部消費者物価指数・生鮮食料品除く 前年同月比 (2月 0.5%、予想 0.4%)
21:30 (米) 2月 個人所得 前月比 (1月 0.6%、予想 0.4%)
21:30 (米) 2月 個人消費・PCE 前月比 (1月 0.2%、予想 0.3%)
21:30 (米) 2月 PCEデフレーター 前年同月比 (1月 1.7%、予想 1.7%)
21:30 (米) 2月 PCEコア・デフレーター 前月比 (1月 0.1%、予想 0.2%)
21:30 (米) 2月 PCEコア・デフレーター 前年同月比 (1月 1.6%、予想 1.8%)
23:00 (米) 3月 ミシガン大学消費者信頼感指数確報値 (速報 95.9、予想 92.5)
オーダー/ポジション状況
関連記事
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:照葉 栗太
2024.11.23
来週の為替相場見通し『トランプトレードと円キャリーの組み合わせがドル円を下支え』(11/23朝)
ドル円は、今週前半にかけて、一時153.28まで急落する場面が見られましたが、週末にかけては一転154円台後半へと持ち直す動きとなりました。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:田代 昌之
2024.11.22
東京市場のドルは154円台後半で推移、日銀による追加利上げ観測が円安のブレーキ役に(24/11/22)
東京時間(日本時間8時から15時)のドル・円は、日本株のしっかりとした推移を材料にじり高の展開となり154円台後半で推移した。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:斎藤登美夫
2024.11.22
ドル円 値動きそのものは激しいが、結果レンジ内か(11/22夕)
東京市場はドルが小高い。やや激しめの乱高下をたどるなか、最終的にドルは高値引け。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:斎藤登美夫
2020.03.23
米株などにらみつつ、乱高下が続く可能性(週報3月第4週)
先週のドル/円は、ドル高・円安。週足は2週続けての長大陽線となり、先週は実体部だけで3円を超えている。
-
米ドル(USD)の記事
Edited by:照葉 栗太
2020.03.21
来週の為替相場見通し:『クロス円下落→ドル円下落の波及経路に要注意』(3/21朝)
歴史的大相場(11円下がって10円上がる乱高下)が繰り広げられております。
-
みんなのFX トレイダーズ証券
みんなのFXはスワップもスプレッドも高水準!口座開設とお取引で最大1,010,000円キャッシュバックキャンペーン中!
取引は1,000通貨からOK、手数料も無料!eKYCで最短1時間後に取引可能
- 「FX羅針盤」 ご利用上の注意
- 掲載している情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。
- 掲載している商品やサービス等の情報は、各事業者から提供を受けた情報または各事業者のウェブサイト等にて公開されている特定時点の情報をもとに作成したものです。
- 当サイトはFXに関する情報の提供を目的としています。当サイトは、特定の金融商品の売買等の勧誘を目的としたものではありません。
- FXに関する取引口座開設、取引の実行並びに取引条件の詳細についてのお問合せ及びご確認は、利用者ご自身が各FX取扱事業者に対し直接行っていただくものとします。また、投資の最終判断は、利用者ご自身が行っていただくものとします。
- 当社はFX取引に関し何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各FX取扱事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各FX取扱事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとし、FX取引に伴うトラブル等の利用者・各FX取扱事業者間の紛争については両当事者間で解決するものとします。
- 当社は、当サイトにおいて提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。
- 当サイトにおいて提供する情報の全部または一部は、利用者に対して予告なく、変更、中断、または停止される場合があります。
- 当サイトには、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。
- 当サイト上のコンテンツに関する著作権は、当社もしくは当該コンテンツを創作した著作者または著作権者に帰属しています。
- 当社は、当社の事前の許諾なく、当サイト上のコンテンツの全部または一部を、複製、改変、転載等により利用することを禁じます。
- 当サイトのご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただくほか、FX羅針盤利用規約にご同意いただいたものとします。