2020年のドル円相場見通し:『米大統領選挙を横目に緩やかなドル安円高基調が継続』
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恒例の「FX羅針盤」の年間相場予想。
例年動きの激しい年末年始の相場が終了したあたりで、「FX羅針盤」の執筆者の皆様に年間の相場見通しを書いていただいています。
今回は日々の海外市況、ドル円ユーロの週次見通し等を執筆いただいている照葉栗太さんの年間予想です。
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はじめに
2019年のドル円相場は、年初早々、フラッシュクラッシュ(流動性の薄いタイミングをついた瞬時の急落)に見舞われるなど、波乱の幕開けとなりました。しかし、終わってみれば1年間の値幅(高値と安値の差)が過去47年間で最も狭い(わずか7円96銭)歴史的な低ボラティリティ相場となっております。
図表1:ドル円相場の直近10年間の4本値と年間値幅(高値と安値の差)
膠着相場の背景としては、@2019年BIS統計で示された通り、日本円及び東京市場のシェアが著しく低下していること、A高頻度取引(HFT)増加に伴うボラティリティの急低下、Bリスク回避局面やリスク選好局面でドルと円が同一方向で動く習性(リスク選好のドル売り・円売り、リスク回避のドル買い・円買い)、Cグローバルに広がる官製相場(当局による為替市場のコントロール力強化。円高時に追加緩和や為替介入を滲ませる口先介入など)、D本邦における経常収支構造の変化(経常黒字に占める貿易黒字の割合低下)など、複数の要因が挙げられます。こうした動きは2020年以降も続くと見られ、ドル円は引き続き、低ボラティリティ環境のもと、緩やかなドル安・円高トレンドが続くと予想されます。
本稿では、昨年の値動きを振り返ると共に、向こう1年間の注目材料を列挙し、2020年のドル円相場の先行きについて考察いたします。
昨年のレビュー(2019年)
2019年のドル円相場は、年明け早々のフラッシュクラッシュ(流動性の薄いタイミングをついた瞬時の急落)を背景に、一時104.97(1/3)まで下げ幅を広げるも、@パウエルFRB議長による「追加利上げ」に慎重な発言が、「米利上げ観測後退→米主要株価指数上昇→リスク回避ムード後退」の経路でドル円を下支えすると、4/24には、年間高値112.41まで急伸しました。
しかし、A米中貿易摩擦の激化懸念(米中報復合戦及び、中国に対する為替操作国認定)が続伸を阻むと、B世界的な貿易戦争波及リスク(トランプ米大統領による対メキシコ、対欧州への関税賦課発言)や、C英合意なき離脱リスクの高まり、D米FRBによる政策金利(FFレート)の引き下げ、E米債市場における長短金利差逆転現象などが重石となり、8/26には、2016年11月以来、約2年9ヶ月ぶり安値となる104.46まで急落しました。
もっとも、年後半にかけては、F世界各国による金融緩和スタンスの再開(米FRBは7月、9月、10月に各々25bpの予防的利下げを実施)や、Gそれに伴う株式市場の騰勢(過剰流動性相場がリスク選好ムードを演出し、米主要株価指数は連日で史上最高値を更新)、2019年の2大懸念材料であった、H米中貿易摩擦や、I英合意なき離脱リスクが、各々、第1段階合意と、英与党保守党勝利の形で前進したこと等が支援材料となり、年末にかけては、109円台を回復し、結局108.62での越年となりました。
尚、2020年入り後は、米国によるイラン革命防衛隊・ソレイマニ司令官殺害を受けた地政学的リスク(中東情勢の緊迫化)を背景に一時107.64(1/8)まで下げ幅を広げる場面も見られましたが、米中第1段階合意署名(同時に中国に対する「為替操作国」認定も解除)が支援材料となると、110.30(1/17)まで反発するなど、方向感を見出しづらい時間帯が続いております(本稿執筆時点では、新型コロナウィルスの感染拡大を受けたリスク回避ムードが重石となり、109.20近辺で上値重く推移中)。
図表2:ドル円相場の日足チャート
今年の見通し(2020年)
2020年のドル円相場を見通す上での注目材料は以下の3つ。
■米大統領選挙の動向
今年最大のイベントである米大統領選挙が2020年11月3日に開催されます。トランプ米大統領(共和党)が再選を果たすのか、民主党が政権を奪還するのか注目が集まりますが、予測市場(ブックメーカーが提供するPolitics Odds)を見る限り、トランプ米大統領の再選が優勢な状況です(1/25時点のオッズを見ると、トランプ米大統領が1.8倍で単独首位、バイデン前副大統領とサンダース上院議員が同率2位で6.0倍、ブルームバーグ前ニューヨーク市長が4位で12.0倍、ウォーレン上院議員が5位で23.0倍、ブティジェッジ・サウスベント市長が6位で34.0倍となっております)。
とはいえ、トランプ米大統領の再選が「確実視」されているかと言えばそうではなく、先週より始まった弾劾審議の結果次第では、支持率が大幅に低下する恐れもあります(上院議員の3分の2以上が弾劾に賛成する可能性は乏しい為、罷免リスクは小さいですが、米大統領選挙を前にトランプ米大統領の支持率低下に繋がる可能性は十分あり)。2/3のアイオワ州を皮切りに大統領候補者の予備選が始まり、3/3のスーパーチューズデー頃には候補者が絞り込まれる可能性が高く、2020年前半は米大統領選挙の動向から目が離せなくなりそうです。尚、民主党の優勢(トランプ米大統領の劣勢)が報じられれば、票集めを目的に、トランプ氏が対中強硬姿勢を再開、FRBに対する利下げ圧力を強める可能性もあり、注意が必要でしょう。
図表3:米大統領選挙のスケジュール表
■米中貿易摩擦の激化
米中両国は2020年1月15日、包括的な貿易協定の第1段階合意に署名し、合意文書の中には、対米貿易黒字の縮小を目的とした中国による今後2年間で2000億ドル規模の追加購入計画の概要などが盛り込まれました。また、米国はそれに先立ち(1/13)、昨年8月に指定した中国に対する「為替操作国」認定も解除しました。これを受けて、金融市場は楽観ムードに包まれ、ドル円は本年1/17に、約8ヶ月ぶり高値となる110.30まで上伸しました。
とはいえ、トランプ米大統領やムニューシン米財務長官は「第2段階合意が締結に至るまでは関税の撤廃は行わない」「第2段階合意は米大統領選挙後にズレ込む可能性あり」とのスタンスを示している他、中国共産党機関紙・人民日報傘下の環境時報も「第2段階通商交渉はすぐに始まらない可能性がある」と報じるなど、事態は尚流動的な状態です(引き続き米中対立の火種が残っている状況)。また、上記で示した通り、米大統領選でトランプ氏が劣勢に立たされた場合、票集めを目的に、「対中強硬姿勢・再開」のカードを切ってくるリスクも想定されます(米中対立リスクが再燃する場面では、リスク回避ムードを通じて円高圧力が高まる可能性大)。以上の通り、米中貿易摩擦問題は、2020年も懸念材料の一つとして意識しておく必要性がありそうです。
■米景気後退リスクとFRBによる追加利下げ観測
米国における景気拡大は既に10年を超過しており(過去最長)、景気のピークアウト(景気後退局面入り)が警戒されます。ISM製造業景況指数は昨年来冴えない数字が続いており、また景気先行指数も低下基調が鮮明となりました。国際通貨基金(IMF)が1/20に公表した世界経済見通し(WEO)でも、2020年の世界経済成長率予測が中立水準である3.5%を下回る3.3%に設定(前回発表時より0.1%ポイントの下方修正)された他、米国のインフレ指標(CPIやPPI)を見ても伸び悩む動きが確認されます。
米大統領選次第では、再び世界的な貿易戦争リスクが再燃し、想像以上に株価が下押されるリスクも想定されます(過剰流動性相場の逆流リスク)。この場合、パウエルFRB議長は、米景気や米株市場のクラッシュの回避(軟着陸)を目的に追加利下げを再開する公算が大きく、当方では米大統領選前の6月に25bp、米大統領選後の12月に25bpの追加利下げに踏み切ると予想しております。尚、日銀は追加緩和カードをちらつかせながらも追加緩和を温存すると見られ(日本経済への副作用と、トランプ米政権による為替操作国認定を避ける為)、日米名目金利差及び、日米実質金利差は年末に向けて縮小する可能性が高いと考えられます(対外金利差縮小を通じたドル売り・円買い)。
まとめ
以上の通り、ドル円相場は、ファンダメンタルズ的に見て、@トランプ米大統領の弾劾裁判を通じた支持率低下と、Aそれに伴う米大統領選挙の混迷リスク(接戦に陥るリスク)、B上記Aを打ち返す目的での対中強硬姿勢の再開(米中貿易戦争の再開)及び、C世界的な貿易戦争波及リスク(欧米貿易摩擦への波及など)、D上記BCを受けたグローバルなリスク回避ムード(株安・円高)、E米景気の後退リスクと、F米FRBによる追加利下げ観測、G日米名目金利差及び日米実質金利差の縮小、H朝鮮半島や中東を巡る地政学的リスク、I英国を巡る先行き不透明感など、不安材料が複数残っている状況です。
テクニカル的(月足ベース)に見ても、ボリンジャーミッドバンドを下回る水準での推移が続いている他、強い売りシグナルを表す一目均衡表三役逆転が成立するなど、「中長期的な下落リスク」を意識させるチャート形状となっております。90ヶ月移動平均線が走る107円台後半の下方ブレイクに成功すれば、2016年以降サポート(支持帯)として機能し続けてきた200ヶ月移動平均線の再トライも視野に入ります。
以上を踏まえ、当方では、ドル円相場の緩やかな下落をメインシナリオとして予想いたします。
図表4:ドル円相場及び日米10年債利回りの四半期別着地予想
図表5:ドル円相場の月足チャート
オーダー/ポジション状況
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