来週の為替相場見通し 『米中貿易戦争再開。ドル円は1/3に付けた年初来安値更新が射程圏内に』(8/24朝)

ドル円は約5営業日に亘り「膠着状態」が続いておりましたが、「保ち合い」→「下放れ」のトレンド転換が実現しました。

来週の為替相場見通し 『米中貿易戦争再開。ドル円は1/3に付けた年初来安値更新が射程圏内に』(8/24朝)

米中貿易戦争再開。ドル円は1/3に付けた年初来安値更新が射程圏内に

今週のレビュー(8/19−8/23)

今週のドル円相場は、週初106.34で寄り付いた後、@ロス米商務長官による「中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に対する米製品の輸出禁止措置の猶予期間を11/18まで90日間延長する」との発言や、A米2年−10年債利回りの逆イールド(長短金利差逆転)解消、B予想ほどハト派的ではないFOMC議事要旨を材料に、106円台半ばを中心とした底堅い動きが継続しました。しかし、市場の関心が週末金曜日の米カンザスシティー連銀主催の年次経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)でのパウエルFRB議長講演に移っていたこともあり、同氏の講演が開催される8/23日本時間23:00までは、106.17−106.74(上下57銭)の狭いレンジ内での値動きに留まりました。

C注目されたパウエルFRB議長講演では、「米経済は良好」と述べつつも、「FRBは足元の景気拡大を維持すべく適切に対応する」「FRBは著しいリスクに直面する経済の下支えに取り組む」との見解が示されました。市場では「ややハト派的」と受け止められ、「米利下げ観測の高進→米長期金利低下→ドル売り」の経路で、ドル円は106円台前半へと押し下げられました。

その後も、Dトランプ米大統領より、「FRBはまた何もしなかった。彼らは私が何をしているか知ろうとも聞こうともせず勝手に話すことが信じられない。米国は非常に強いドルと非常に弱いFedが存在する」とのツイートが発せられたことや、E中国政府が発表した報復関税(※米国からの輸入品約750億ドル相当に対し、9/1から最大10%の追加関税を課す)に対して、トランプ米大統領が「本日(8/23)午後に、中国の関税に対応するつもりだ」と対抗措置を滲ませるツイートを行なったこと等が重石となり、「米中貿易摩擦の激化→米主要株価指数の急落→リスク回避の円買い」の動きに波及しました。ドル円はNY時間午後にかけて下げ幅を広げ、約2週間ぶり安値となる105.26を付けた後、105.40台まで小反発しての越週となっております。(尚、日本時間5:40時点で米国による対中報復措置の詳細は発表されておりません)→(編集部注:6時台に発動済みの2,500億ドル相当の輸入品の関税を25%から30%に10/1から引き上げる方針を、また9/1発動予定の残り3,000億ドルの輸入品に対する関税率は従来の10%から15%に引き上げると発表)

今週のユーロドル相場は、週初1.1092で寄り付いた後、@ユーロ圏・7月消費者物価指数(結果1.0%、予想1.1%)の伸び悩みや、A独連銀月報による「ドイツ経済の2四半期連続のマイナス成長の可能性(=リセッション入り)」の示唆、Bエストニア中銀ミュラー総裁による「ECBは9月に追加緩和を決定する可能性がある」との発言、Cコンテ・伊首相の辞意表明などイタリアを巡る政局不透明感の高まり、Dハト派寄りのECB議事要旨を背景に、週末にかけて、1.1051まで軟化しました。しかし、ジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長講演を経て「米長期金利低下→ドル売り」の流れが強まると、一時1.1153まで急伸する場面も見られました。引けにかけて小反落するも下値は堅く、結局1.1135近辺での越週となっております。

来週の見通し(8/26−8/30)

ドル円は約5営業日に亘り「膠着状態」が続いておりましたが、ジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長講演、トランプ米大統領による過激なツイート、米中貿易戦争の激化を経て、「保ち合い」→「下放れ」のトレンド転換が実現しました。@ダブルトップからの下放れ(添付チャートの青線)や、A強い売りシグナルを表す「一目均衡表・三役逆転」、Bトレンドの方向性を示唆するボリンジャー・ミッドバンドを17営業日連続で下回っていること、C一目均衡表転換線(106.02)の下方ブレイクなどを考慮すれば、ドル円はテクニカル的に見て「続落リスク」が警戒されます。

ファンダメンタルズ的に見ても、@世界的な貿易戦争が世界的な通貨安戦争(利下げドミノ)に波及するリスクや、A米中貿易摩擦の激化(報復合戦の応酬)、Bイランやトルコ、香港や朝鮮半島、インドやパキスタンを巡る地政学的リスクの高まり、C世界経済の不安定化(ドイツ経済のリセッションリスク)、Dアルゼンチンやイタリアを巡る政局不透明感の高まりなど、ネガティブ材料は山積みです。E追加緩和の手札に乏しい日銀と、9月の追加利下げが織り込まれている米国との金融政策格差は明らかであり、ドル円にはテクニカル面、ファンダメンタルズ面双方の影響から「下落圧力」が加わり易い状況が続くと考えられます。Fトランプ米大統領による過激なツイート(FRBや中国に対する批判、その他各国の通貨安批判など)もドル円の上値余地を阻む一因となっております。

来週は、8/26の米・7月耐久財受注や8/27の米・8月CB消費者信頼感指数、8/29の米・第2四半期GDP改定値や8/30の米・7月PCEデフレータなど一連の米経済指標の発表に加えて、8/26のセントルイス連銀ブラード総裁講演(挨拶)、8/29のリッチモンド連銀バーキン総裁講演、サンフランシスコ連銀デイリー総裁講演に注目が集まります。米経済の冴えない結果や、米当局者によるハト派的な見解が示されれば、9/17ー9/18に予定されている次回FOMC(米連邦公開市場委員会)での大幅利下げを織り込む形で、ドル円が一段と下落する可能性も警戒されます。また、米中貿易摩擦を巡る続報にも注意が必要でしょう。米国による対中関税と、中国による対米関税は共に9/1から始まる予定となっており、来週は米中貿易摩擦の激化を通じて、「株安→リスク回避の円買い」の流れに拍車がかかる恐れがあります。

状況次第では、心理的節目105円丁度を割り込み、1/3のフラッシュクラッシュ時に付けた安値104.97を割り込む展開も想定されます。米中貿易摩擦を背景としたリスク回避的な「円買い」と、米利下げ観測を背景とした「米長期金利低下→ドル売り」の流れは当面続くと見られ、来週も「ドル安・円高」地合いの継続をメインシナリオとして予想いたします。(来週の予想レンジ:103.75ー106.75)

一方、ユーロドルは米長期金利の低下を背景に週末にかけて急伸し、トレンドの方向性を示唆するボリンジャー・ミッドバンドを8営業日ぶりに上抜けしました。しかし、一目均衡表転換線や、一目均衡表基準線付近で伸び悩む動きを見せるなど、テクニカル的にみて、「上値の重さ」が意識されます。

ファンダメンタルズ的に見ても、@米中貿易摩擦が欧米貿易摩擦に波及するリスクや、Aユーロ圏経済及び物価の先行き不透明感(ドイツ経済のリセッションリスク)、Bイタリアの財政不安や政局不透明感の高まり、C中東を巡る地政学的リスク、D英国のハードブレグジット懸念など、不安材料は山積みです。E次回ECB理事会(9/12)での追加緩和観測も、「欧州債利回りの低下→ユーロ売り」の経路でユーロドルを押し下げる一因になると考えられます。

来週は8/26に予定されているドイツ・8月Ifo景況感指数や、8/29のユーロ圏・8月欧州委員会景況指数、ドイツ・8月消費者物価指数速報値、8/30のユーロ圏・消費者物価指数速報値に加えて、8/27に開催されるデギンドスECB副総裁講演に注目が集まります。欧州経済指標の冴えない結果や、ECB当局者によるハト派的な見解が示されれば、「ECBによる追加緩和観測→欧州債利回り低下→ユーロ売り」の経路を通じて、年初来安値(1.1027)を下抜け、2017年5月以来、約2年3ヶ月ぶり安値圏へ急落するシナリオも想定されます。ジャクソンホール後の「ユーロ高・ドル安」の流れは一時的なものに留まると見られ、一巡後の反落リスクに警戒が必要でしょう。(ユーロドルの予想レンジ:1.0950−1.1250)

米中貿易戦争再開。ドル円は1/3に付けた年初来安値更新が射程圏内に

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