ドル円見通し 米連銀を振り回す米中対立のエスカレート、円高加速警戒(週報8月第4週)

今回も結果的には議長講演にぶつけるように対中国制裁の強化宣言であり、市場は米連銀動向以上にトランプ大統領の対中政策等に振り回されることとなった。

ドル円見通し 米連銀を振り回す米中対立のエスカレート、円高加速警戒(週報8月第4週)

ドル円見通し 米連銀を振り回す米中対立のエスカレート、円高加速警戒

【概況】

8月1日高値109.31円から8月12日安値105.04円まで下落した後は13日深夜に106.95円まで戻したものの107円に届かず、16日からは106円台での持ち合いが続いた。
8月22日未明のFOMC議事録要旨公開では内容にサプライズはなく決め手に欠いたために動けず、23日夜のジャクソンホール会合でのパウエル米連銀議長講演待ちとなっていた。
ところが議長講演前に波乱が発生した。中国が米国による対中国制裁関税第4弾発動に対する報復措置を宣言したことで議長講演を待たずにリスク回避の円高が始まった。さらにトランプ大統領が中国の報復措置に対する対抗措置を発表するとツイートしたことからドル円は大幅下落した。

23時からのパウエル議長講演では「景気拡大持続へ適切に行動する」と述べ、追加利下げに踏み切る姿勢を示したが、利下げの時期については明言しなかった。市場は9月17−18日の次回FOMCで利下げが決定されると予想してきたので講演内容については折り込み済のものと受け止められたが、米長期金利低下による円高要因としてドル円の急落が加速した。しかし議長講演云々より米中貿易戦争全面化を懸念してNYダウが大幅下落し、リスク回避感が全面化したことが主因となっていた。

【米連銀議長講演待ち状態から波乱に突き落とされる】

中国政府は米国による制裁関税第4弾への報復として、米国からの輸入品約750億ドル相当に対して9月1日から最大10%の追加関税を課すと表明した。報復関税対象は5078品目で、10%ないし5%の税率を上乗せするとした。米国の制裁関税導入時期に合わせて9月1日に1717品目、12月15日に3361品目に適用する。また今年1月から発動を見合わせていた米国からの輸入自動車・部品を対象とした追加関税も12月15日から再導入し、最大25%を上乗せするとした。
トランプ米政権は即座に対抗措置を取り、9月1日から導入する予定の対中制裁関税第4弾の税率を当初予定していた10%から15%へ引き上げるとした。またすでに発動している第3弾までの2500億ドル相当分の税率を10月からは30%へ引き上げるとした。さらにトランプ大統領は米企業に対して、「中国に代替する拠点を直ちに探し始めるようここに命じる」「中国から巨額の資金を盗み取られてきた」「中国を必要としていない。いない方がはるかにましだ」などと怒りの発言をした。

NYダウは623ドル安と大幅下落した。中国の対抗措置発表から急落し、パウエル米連銀議長講演での利下げ姿勢で一時的に戻す場面もあったが米国による報復宣言から一段安となり、一時は下げ幅が700ドルを超えた。米10年債利回りは一時1.51%まで急低下し、前日比0.08%低下%となった。30年債利回りは0.08%低下の2.03%、2年債利回りは10年債と同じ1.54%となった。

ジャクソンホールでの米連銀パウエル議長講演では、「景気拡大の持続へ適切に行動する」として追加利下げ姿勢を示した。また7月末以降について米中貿易摩擦、世界経済の減速などの「波乱」に見舞われたとして7月末時点よりも状況が悪化していること、景気悪化に先手を打つための「予防的利下げ」が必要だとしたが、「米経済の先行きと金融政策の道筋を評価するため情勢を注視する」と述べたために、次回会合で現状維持となる可能性も残した。

議長講演直後、トランプ大統領は「FRBは何もしなかった」と講演内容を批判した。8月1日未明にFOMCが0.25%の利上げを決定した時にもその直後にトランプ大統領は利下げが小幅だったことを批判し、当日に対中国制裁関税第4弾発動を宣言した。0.25%の利下げでは材料消化としてドル高円安反応していたが、この宣言によりドル安円高へ転じた。
今回も結果的には議長講演にぶつけるように対中国制裁の強化宣言であり、市場は米連銀動向以上にトランプ大統領の対中政策等に振り回されることとなった。もちろん、米連銀も8月1日に続いて政策判断の直後に情勢が一挙に悪化する状況に追い込まれることとなった。

【リスク回避感がさらに強まれば100円試しへ】

【リスク回避感がさらに強まれば100円試しへ】

8月23日夜の急落幅は直前高値106.73円から24日未明安値105.26円まで1.47円だった。8月13日に105.04円から106.95円まで1.94円の円安ドル高となったところとは真逆の展開だ。24日未明時点では8月1日以降の安値更新には至っていないが、日足は前日比で1円を超える大陰線であり、8月1日に急落開始した時の大陰線や、5月31日に一段安開始した時の大陰線に匹敵する大きさだ。

概ね3か月前後の底打ちサイクルにおいては、1月3日底の後に3月25日底、6月25日底とサイクルボトムを付けてきたが、すでに6月25日底を割り込んだために、次の底形成期となる9月後半への下落継続しやすい状況に入っていると指摘した。より高次の10か月から1年周期の底打ちサイクルでは1月3日底を基準として次の底形成期が11月から2020年1月にかけての間と想定されるため、長期的な下落継続性が高まっているとした。また、2018年3月26日底104.63円や今年1月3日底のある104円台中盤の下値支持線が決壊すれば100円の大台試し、さらに2016年6月24日底99.04円試しまでチャート上の下値目途が切り下がる可能性があると指摘してきたが、8月23日夜の急落商状を週明けも引きずってゆく可能性を踏まえれば、105円割れから100円試しへと向かいやすい状況と警戒すべきところか。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、105円を下値支持線、105.75円を上値抵抗線とみておく。
(2)105.50円から105.75円までを戻り抵抗帯とし、105円割れからは2018年3月26日安値104.63円、さらに104円試しへ向かうとみる。また105円以下での推移が続くうちは先行きで103円台、102円台と段階的に下値目途が切り下がってゆく展開も想定され、先行きは100円の大台試しへ向かうと考える。
(3)105.75円を超える場合は概ね3日から5日周期の短期的なサイクルにおけるリバウンド局面とするが、戻りは短命の可能性ありとして、直前安値からの戻り幅の半値を削るか、105.50円割れからは新たな弱気サイクル入りにより週後半へ一段安して行きやすいとみる。(了)<25日14:40執筆>

【当面の主な予定】

8/26(月)
休場 英国
G7首脳会議[最終日(仏ビアリッツ)
07:45 (NZ) 7月 貿易収支 (6月 3.65億NZドル、予想 -2.54億NZドル)
14:00 (日) 6月 景気一致指数(CI)・改定値 (速報 100.4)
14:00 (日) 6月 景気先行指数(CI)・改定値 (速報 93.3)
17:00 (独) 8月 IFO企業景況感指数 (7月 95.7、予想 95.1)
21:30 (米) 7月 耐久財受注 前月比 (6月 2.0%、予想 1.1%)
21:30 (米) 7月 耐久財受注・輸送用機器除く 前月比 (6月 1.2%、予想 0.0%)
22:45 (英) カーニー英中銀(BOE)総裁、発言

8/27(火)
08:50 (日) 7月 企業向けサービス価格指数 前年同月比 (6月 0.7%、予想 0.6%)
11:00 (豪) デベル豪中銀副総裁、講演
15:00 (独) 4-6月期GDP改定値 前期比 (速報 -0.1%、予想 -0.1%)
15:00 (独) 4-6月期GDP改定値 前年同期比 (速報 0.4%、予想 0.4%)
15:00 (独) 4-6月期GDP改定値 季調前 前年同期比 (速報 0.0%、予想 0.0%)
22:00 (米) 4-6月期住宅価格指数 前期比 (前期 1.1%、予想 0.2%)
22:00 (米) 6月 住宅価格指数 前月比 (5月 0.1%、予想 0.2%)
22:00 (米) 6月 ケース・シラー米住宅価格指数 (5月 216.94、予想 218.02)
22:00 (米) 6月 ケース・シラー米住宅価格指数 前年同月比 (5月 2.4%、予想 2.3%)
23:00 (米) 8月 リッチモンド連銀製造業指数 (7月 -12、予想 -1)
23:00 (米) 8月 コンファレンス・ボード消費者信頼感指数 (7月 135.7、予想 130.0)

8/28(水)
15:00 (独) 9月 GFK消費者信頼感 (8月 9.7、予想 9.6)
17:00 (欧) 7月 マネーサプライM3 前年同月比 (6月 4.5%、予想 4.7%)
25:20 (米) バーキン・リッチモンド連銀総裁、講演

8/29(木)
06:30 (米) デイリー・サンフランシスコ連銀総裁(FOMC投票権有)、ウェリントンで講演
10:00 (NZ) 8月 NBNZ企業信頼感 (7月 -44.3)
16:55 (独) 8月 失業者数 前月比 (7月 0.1万人、予想 0.4万人)
16:55 (独) 8月 失業率 (7月 5.0%、予想 5.0%)

18:00 (欧) 8月 経済信頼感 (7月 102.7、予想 102.3)
18:00 (欧) 8月 消費者信頼感確定値 (速報 -7.1、予想 -7.1)
21:00 (独) 8月 消費者物価指数速報値 前月比 (7月 0.5%、予想 -0.1%)
21:00 (独) 8月 消費者物価指数速報値 前年同月比 (7月 1.7%、予想 1.5%)
21:30 (米) 4-6月期GDP改定値 前期比年率 (速報 2.1%、予想 2.0%)
21:30 (米) 4-6月期GDP個人消費改定値 前期比 (速報 4.3%、予想 4.3%)
21:30 (米) 4-6月期コアPCE改定値 前期比 (速報 1.8%、予想 1.8%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 20.9万件、予想 21.5万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 167.4万人)
23:00 (米) 7月 住宅販売保留指数 前月比 (6月 2.8%、予想 0.0%)
23:00 (米) 7月 住宅販売保留指数 前年同月比 (6月 -0.6%、予想 1.8%)

8/30(金)
休場、トルコ
07:45 (NZ) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 -3.9%)
08:30 (日) 7月 失業率 (6月 2.3%、予想 2.3%)
08:30 (日) 7月 有効求人倍率 (6月 1.61、予想 1.61)
08:30 (日) 8月 東京都区部消費者物価指数・生鮮食料品除く 前年同月比 (7月 0.9%、予想 0.8%)
08:50 (日) 7月 小売業販売額 前年同月比 (6月 0.5%、予想 -0.6%)
08:50 (日) 7月 百貨店・スーパー販売額(既存店) 前年同月比 (6月 -0.5%、予想 -4.5%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産 前月比 (6月 -3.3%、予想 0.3%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産 前年同月比 (6月 -3.8%、予想 -0.5%)
10:30 (豪) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 -1.2%、予想 0.0%)
10:30 (豪) 7月 住宅建設許可件数 前年同月比 (6月 -25.6%、予想 -22.2%)
14:00 (日) 7月 新設住宅着工戸数 前年同月比 (6月 0.3%、予想 -5.4%)

8/30(金)
休場、トルコ
07:45 (NZ) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 -3.9%)
08:30 (日) 7月 失業率 (6月 2.3%、予想 2.3%)
08:30 (日) 7月 有効求人倍率 (6月 1.61、予想 1.61)
08:30 (日) 8月 東京都区部消費者物価指数・生鮮食料品除く 前年同月比 (7月 0.9%、予想 0.8%)
08:50 (日) 7月 小売業販売額 前年同月比 (6月 0.5%、予想 -0.6%)
08:50 (日) 7月 百貨店・スーパー販売額(既存店) 前年同月比 (6月 -0.5%、予想 -4.5%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産 前月比 (6月 -3.3%、予想 0.3%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産 前年同月比 (6月 -3.8%、予想 -0.5%)
10:30 (豪) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 -1.2%、予想 0.0%)
10:30 (豪) 7月 住宅建設許可件数 前年同月比 (6月 -25.6%、予想 -22.2%)
14:00 (日) 7月 新設住宅着工戸数 前年同月比 (6月 0.3%、予想 -5.4%)

オーダー/ポジション状況

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