【概況】
8月28日からドル全面高の様相となってきている。貿易戦争問題が一旦楽観へ傾斜していたが新興国通貨安が拡大、米国の対中制裁関税拡大の可能性が高まったことが背景だ。30日から31日にかけてはリスク回避感によるクロス円での円高がドルストレートでのドル高に勝ったためにドル円は下落していたが、9月4日は新興国通貨安、人民元下落再燃、メジャー通貨でもユーロやポンドが下落してドル全面高となり、ドル円も夕刻に111.53円まで戻し、夜間も111.50円手前で高値圏を維持している。
米サプライ管理協会(ISM)が発表した8月の米製造業景況指数は61.3となり7月の58.1から上昇、市場予想の57.7を上回り、2004年5月以来14年3カ月ぶりの高水準となった。発表直後にユーロがこの日の安値をつけたが、その後は目先の材料消化でドル高がやや緩み、ユーロも若干戻した。ドル円も111.50円前後が抵抗となって深夜以降は伸び悩んだ。週末に米雇用統計の発表があるが、最近の米経済指標は29日のGDP改定値が予想を上回ったことや、個人消費、景況感関連も概ね良好であり、貿易戦争問題への懸念や新興国通貨不安を抱えつつも米国株式市場は堅調さを維持している。米連銀の9月FOMCでの利上げもほぼ確実視されており、貿易戦争問題でのリスク拡大や新興国通貨安はドルへの投資マネー還流としてドル高となり、経済指標良好さは米連銀の利上げ判断に寄与するとしてドル高となっている。
そうした中で株式市場が多少下げても確りしている内はドル円においてはドル高が勝り、クロス円での円高が勝るようだとドル高の一方でドル円では円高ドル安となる傾向がある。31日からはクロス円で円高の一方でドル円は上昇という構図になっている。
【米加協議、対中制裁、雇用統計】
9月5日から米国とカナダのNAFTA再交渉協議が再開される。1日にはトランプ大統領がカナダの通商姿勢を批判するツイートを行っており、合意出来るのか懸念が出ている。
米国が対中制裁関税の追加として総額2000億ドル規模の中国製品への関税強化方針を示し、それの影響を調査する公聴会が8月20日から何度か開かれた。ネット上の意見公募期間は9月6日で終了するため、早ければ意見公募終了後にも発動されるのではないかとの懸念が出ている。このため5日、6日の大統領やUSTR当局者発言に注意が要る。2000億ドル規模の関税強化、最終的には5000億ドル規模まで拡大する可能性があることはこれまでもトランプ大統領が示してきたことであり、新たなサプライズではないが、8月16日の米中商務次官級協議開催報道からはそれらの拡大制裁が回避される動きになるのではないかとの楽観論も出ていただけに、発動されれば大きなリスクオフ材料となってくる。
ドル人民元は8月15日に6.9331元まで上昇した後は反落(ドル安元高)となっていたが、28日以降はややジリ高でドル高元安感が再燃しつつある。9月4日のドル全面高局面では6.840ドル台まで上昇している。米国の対中制裁関税拡大発動への懸念も背景となっている。人民元安が再燃してくると円/人民元での円高、新興国通貨に対する円高感が強まり、ドル高円安へのブレーキ、あるいは円高ドル安要因になりかねない。
【新興国通貨危機への懸念】
1998年のタイ・バーツ暴落からアジア通貨危機が爆発した。さらに1999年にはブラジル・レアルが暴落してラテンアメリカ通貨危機へと発展した、その過程ではドル全面高となり、米国ではITバブル発生でナスダック総合株価指数は新興国通貨危機を余所に暴騰してゆくのだが、2000年3月10日に大天井をつけて株式市場の大暴落が発生した経緯がある。アジア通貨危機から10年後の2008年にはリーマンショックが発生したが、不動産バブルの破裂が懸念されながらも株式市場は上昇を継続し、2007年にピークをつけた翌年の2008年に大暴落が発生した。
それからまた10年が経過したところで新興国通貨危機が始まっている。過去二度の株式市場暴落局面と現状は土台が異なるという強気論もあるが、金融市場は相互につながって連鎖関係にあり、ネット化とグローバル化により過剰反応と連鎖パニックを発生させやすい過敏なシステムの上にある。今回の新興国通貨安はアルゼンチンの破綻的状況悪化、トルコの大混乱から始まってインド・ルピー、インドネシア・ルピアやマレーシア・リンギの史上最安値更新を招いており、4日には南ア・ランドの急落も目立った。まだ株式市場は確りしているが新興国通貨安が危機レベルに拡大する可能性についても警戒すべきところに来ているのではないかと思う。
【逆三尊と三尊】
日足では8月29日高値から反落したが8月31日安値から戻したため、8月21日安値を頭、7月26日安値と8月31日安値を両肩とする逆三尊底パターンを形成する可能性がある。8月29日高値超えからは逆三尊型がひとまず完成するので8月1日高値112.15円、さらに7月19日高値113.15円等を順次目指してゆく可能性が出てくる。
一方で60分足レベルでは9月4日高値が111.53円に止まっており、8月24日高値111.48円と対となる水準のため、8月29日深夜高値を中心として8月24日と9月4日ないしは9月5日高値を両肩としたミニ三尊天井形成の可能性もある。このため111円ミドル圏まで上昇後に反落し始める場合は8月31日安値割れからミニ三尊天井完成となって下落感が強まる可能性がある。
【60分足一目均衡表、サイクル分析】
概ね3日から5日周期の短期的な高値・安値形成サイクルでは、8月29日深夜高値でピークをつけて下落したが、31日安値で目先の底をつけて強気サイクルに入った。今回の高値形成期は9月3日朝から5日深夜にかけての間と想定されるが29日深夜高値からも4日を経過しているのでトップアウト警戒期に来ている。111円台を維持する内は5日深夜へ一段高する余地ありとみるが、111円割れからは弱気サイクル入りとして次の安値形成期となる5日午後から7日夜にかけての間への下落へ向かいやすくなるとみる。
60分足の一目均衡表では4日夕刻への上昇で先行スパンを突破した。遅行スパンも好転している。このため遅行スパン好転中は高値試し優先とするが、トップアウト警戒期にあるため遅行スパン悪化からは弱気転換注意とし、先行スパン転落からは弱気サイクル入りとして再び先行スパンを上抜き返すまでは安値試し優先と考える。
60分足の相対力指数は相場が4日夕刻から横ばいであるのに対して指数のピークが切り下がっているため弱気逆行に近い姿となっている。50ポイント割れ回避の内は65ポイント超えから上昇再開とみるが、相場が4日夕高値を上抜いても指数は弱気逆行となりやすいので、その後の50ポイント割れからは下げ再開を疑う。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、4日夕高値111.53円を上値抵抗、111.20円を下値支持線とみておく。
(2)111.20円を上回るか、一時的に割り込んでも切り返数値は111.53円超えから29日深夜高値111.82円試しへ向かうとみる。111.70円以上は反落注意、112円前後は反落警戒とみる。また5日夜へ続伸の場合でも深夜以降は反落警戒とみる。
(3)111.20円割れを弱気転換注意、111円割れからは弱気サイクル入りと仮定して31日安値110.68円試しへ向かうとみる。111円以下での推移中は6日の日中も安値を試しやすいとみる。また31日安値を割り込む場合は110円台序盤まで6日から7日にかけての下値目処を引き下げる。
【当面の主な予定】
9/5(水)
10:30 (豪) 4-6月期GDP 前期比 (前期 1.0%、予想 0.7%)
10:30 (豪) 4-6月期GDP 前年同期比 (前期 3.1%、予想 2.8%)
10:45 (中) 8月 財新サービス業PMI (7月 52.8、予想 52.6)
16:55 (独) 8月 サービス業PMI、改定値 (速報 55.2、予想 55.2)
17:00 (欧) 8月 サービス業PMI、改定値 (速報 54.4、予想 54.4)
17:30 (英) 8月 サービス業PMI (7月 53.5、予想 53.9)
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前月比 (6月 0.3%、予想 -0.1%)
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前年同月比 (6月 1.2%、予想 1.3%)
21:30 (米) 7月 貿易収支 (6月 -463億ドル、予想 -500億ドル)
22:20 (米) ブラード・セントルイス連銀総裁、米経済と金融政策についてプレゼンテーション
23:00 (加) カナダ銀行(BOC)政策金利 (現行 1.50%、予想 据え置き)
29:00 (米) カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、講演
9/6(木)
07:30 ボスティック・アトランタ連銀総裁、経済見通しと金融政策について講演
10:30 (豪) 7月 貿易収支 (6月 18.73億豪ドル、予想 14.50億豪ドル)
15:00 (独) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 -4.0%、予想 1.8%)
20:30 (米) 8月 チャレンジャー人員削減数 前年比 (7月 -4.2%)
21:15 (米) 8月 ADP民間雇用者数 前月比 (7月 21.9万人、予想 予想 19.3万人)
21:30 (米) 4-6月期 四半期非農業部門労働生産性・改定値 前期比 (前期 2.9%、予想 2.9%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 21.3万件、予想 21.3万件)
23:00 (米) ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁、講演
23:00 (米) 8月 ISM非製造業景況指数 (7月 55.7、予想 56.8)
23:00 (米) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 0.7%、予想 -0.6%)
オーダー/ポジション状況
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