【概況】
7月31日の日銀金融政策決定会合後の円安反応から8月1日には112.15円まで上昇したが、この上昇は長続きせず、米中貿易戦争の泥沼化懸念、新興国通貨安不安等を背景に8月13日までは戻り高値切り下げ、その後の安値も切り下がるジリ安基調が続き、8月13日安値では110.10円まで下げて7月26日安値110.59円を割り込んだ。この段階では3月26日底と5月29日安値、6月26日安値、7月26日安値とほぼ1直線だった支持線を割り込んだこと、5月29日等の安値を支えてきた52日移動平均を割り込んだため、7月19日高値113.15円を当面の天井として7月26日までを一段目、8月1日からの下げで二段目の下げに入った印象が強まった。
8月13日安値で110円割れをひとまず回避し、新興国通貨安が一服する中で8月15日高値111.42円まで戻したため、上昇再開へ向かう可能性も生じたが15日夜には110.43円まで反落、17日序盤には111円台を回復する場面もあったが17日夜には110.31円まで下落、新たな安値更新への懸念となっている。
【米中通商協議に対するドル円の反応は鈍い】
8月16日午前、中国商務省次官が訪米し、8月23日から24日にかけて次官級協議を行うと報じられたことで市場では米中貿易戦争問題の泥沼化が改善へ向かうのではないかとの思惑が発生、ドルストレートではドル高が緩み、ドル円でもリスク回避感がやや後退して反発を見せたが、8月15日高値を超えるような積極的な反応は見られなかった。
8月17日夜には米ウォール・ストリート・ジャーナル電子版が米中首脳会談が11月にも行われる可能性があるとし、「首脳会談の開催を前提に対立解消に向けたロードマップ(行程表)を策定している」と報じた。これをきっかけに直前まで下落していた新興国通貨が反発、ユーロ等も戻したがドル円の反応は鈍く、110.30円の安値を付けた後は110.50円を挟んだ持ち合いにとどまって週を終えた。
米中の次官級協議が始まる8月23日には米国による中国への制裁関税500億ドル規模のうち、すでに発動されている340億ドルの残り160億ドルについての発動が予定されているが、次官級協議中でも実行されると思われる。
トランプ大統領は8月16日時点でのホワイトハウス閣議で「我々は中国と話す。彼らは大変話したがっている。」「彼らは受け入れ可能な取り決めを我々に提示できていない。米国にとって公正な取り決めを得られるまで我々はどんな取引も行うつもりはない」と述べている。またクドロー米国家経済会議(NEC)委員長は次官級協議について歓迎姿勢を示したが「知的財産権侵害と技術移転強要の阻止を図り、関税と非関税障壁、割り当ての撤廃を目指すこの戦いを続けるトランプ大統領のタフさと意思を、中国当局は決して侮るべきではない」と述べている。
WSJ紙が報道したように米中首脳会談実現への模索が始まっているのだろう。しかし道のりは険しいのだろう。また中国が妥協的な姿勢を強めれば日米通商協議でも日本が不利な状況へ追い込まれやすくなり、中国が対決姿勢を強めれば米国は成果を求めて対日要求がかえって強まる可能性もある。新興国通貨市場が安定すればドル円にはプラスだが、必ずしも円安ドル高へと楽観的に舵を切るという市場心理には至らないために8月13日には7月26日の安値を割り込み、その後の反発も鈍い状況にとどまったということではなかろうか。
【米中次官級協議、ジャクソンホール、USTR公聴会】
米通商代表部(USTR)は中国への制裁関税に対する影響に関する公聴会を8月20日以降の平日に合計6日間行うとしている。8月23日から24日の米中次官級協議に関する報道も出てくる。8月24日にはジャクソンホールでのパウエル米連銀議長講演がある。米中問題の他、トルコ制裁、イラン制裁問題もあるのでそれらに関するトランプ大統領の発言もどんどん飛び出してくるかもしれないが、それらが市場にとって楽観的なものになるのか悲観的なものになるのかを日々見定めて一喜一憂してゆくことになりそうだが、重要なことはこれらの問題は米国有利な状況でまだしばらくは世界を混乱させてゆくということだ。
11月の中間選挙へ向けてトランプ大統領は米国第一主義的な外交通商政策を強硬に主張して少しでも成果を得ようとするだろう。米国株がパニック的な暴落を発生させないうちはそうした強硬姿勢を継続して米国以外が混乱しても構わないというスタンスだろう。トルコリラ暴落が一服しているもののそもそもは米連銀の利上げサイクル入りが新興国市場からの投機マネー還流=ドル高を助長する環境にあることで他の新興国通貨暴落へ連鎖したこと、また新興国通貨安はユーロ安に影響を与えるものであることも重要だ。そしてドル高以上に円高を招く可能性があることを警戒すべきということだ。
【当面のテクニカルなポイント】
7月19日高値から7月26日へ下落し、8月1日への反発では戻り高値を切り下げ、8月13日へ安値を更新したためにこの間はレンジ切り下がりの二段下げとなっている。
米中貿易戦争問題、トルコやイラン情勢と新興国通貨暴落不安の継続、米連銀の利上げ姿勢等、市場を左右するテーマも複雑化しているので、市場が楽観的リスクオン心理へ傾斜するケース、悲観的リスクオフとなり、ドルストレートでのドル高と並行してクロス円での円全面高という可能性もあり得るところ。
(1)7月19日高値からの二段で下げ、3月26日からの上昇期における調整安のレベルを時間的には超えているため、すでに7月19日高値で昨年11月高値への揺れ返し上昇が一巡して円高期へ入ってきている可能性があるが、下げ幅は5月29日への下落幅には至っていないため、上昇トレンドを作り直してくる可能性はまだ残っている。
(2)8月15日への小反発では26日移動平均が抵抗となっているが、上昇トレンド再開のためには26日移動平均を上抜き返してさらに続伸する必要がある。それができずに下回った状況が続き、26日移動平均自身も下降し始める場合は下落継続性が優先されると思われる。
(3)26日移動平均を抵抗とし、上抜く場合は8月1日高値試しとするが、8月1日高値を上抜けないうちは7月19日からの二段下げの継続とし、26日移動平均を再び割り込むところからは下げ再開とみる。
(4)8月1日高値を上抜く場合は二段下げで調整を終了してもう一度上昇トレンドを形成する可能性が高まるため、7月19日高値に迫る上昇へ発展する可能性を考える。
(5)8月13日安値割れからは二段下げの継続とし、6月25日安値109.36円、次いで5月29日安値108.11円等を段階的に試して行くとみる。(了)<19日23:00執筆>
【当面の主な予定】
8/20(月)
15:00 (独) 7月 生産者物価指数 前月比 (6月 0.3%、予想 0.2%)
18:00 (欧) 6月 建設支出 前月比 (5月 0.3% )
18:00 (欧) 6月 建設支出 前年同月比 (5月 1.8% )
8/21(火)
トルコ 休場
10:30 (豪) 豪準備銀行(RBA)金融政策会合議事要旨公表
8/22(水)
トルコ 休場
シンガポール休場
07:45 (NZ) 4-6月期 四半期小売売上高指数 前期比 (前期 0.1%、予想 0.4%)
23:00 (米) 7月 中古住宅販売件数 年率換算件数 (6月 538万件、予想 541万件)
23:00 (米) 7月 中古住宅販売件数 前月比 (6月 -0.6%、予想 0.6%)
27:00 (米) 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨
8/23(木)
トルコ休場
米国の対中国制裁関税第2弾(160億ドル相当)発動、中国の同規模報復措置実施
米中商務次官級通商協議
14:00 (日) 6月 景気先行指数(CI)・改定値 (速報 105.2)
16:30 (独) 8月 製造業PMI、速報値 (7月 56.9、予想 56.5)
16:30 (独) 8月 サービス業PMI、速報値 (7月 54.1、予想 54.3)
17:00 (欧) 8月 製造業PMI、速報値 (7月 55.1、予想 55.2)
17:00 (欧) 8月 サービス業PMI、速報値 (7月 54.2、予想 54.4)
21:30 (米) 週間新規失業保険申請件数 (前週 21.2万件、予想 21.5)
22:00 (米) 6月 住宅価格指数 前月比 (5月 0.2%、予想 0.3%)
23:00 (米) 7月 新築住宅販売件数 年率換算件数 (6月 63.1万件、予想 64.8万件)
23:00 (米) 7月 新築住宅販売件数 前月比 (6月 -5.3%、予想 2.7%)
23:00 (欧) 8月 消費者信頼感 速報値 (7月 -0.6、予想 -0.7)
8/24(金)
トルコ休場
米中商務次官級通商協議
07:45 (NZ) 7月 貿易収支 (6月 -1.13億NZドル、予想 4.00億NZドル)
08:30 (日) 7月 全国消費者物価指数 前年同月比 (6月 0.7%、予想 1.0%)
08:30 (日) 7月 全国消費者物価コア指数 前年同月比 (6月 0.8%、予想 0.9%)
15:00 (独) 4-6月期GDP、改定値 前期比 (速報 0.5%、予想 0.5%)
15:00 (独) 4-6月期GDP、改定値 前年同期比 (速報 2.3%、予想 2.3%)
21:30 (米) 7月 耐久財受注 前月比 (6月 0.8%、予想 -0.7%)
21:30 (米) 7月 耐久財受注・輸送用機器除く 前月比 (6月 0.2%、予想 0.5%)
22:00 (米) カンザスシティー連銀主催ジャクソンホール年次シンポジウム
23:00 (米) パウエル米FRB議長、講演(ジャクソンホール)
カンザスシティー連銀主催ジャクソンホール年次シンポジウム
オーダー/ポジション状況
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