ドル円 7月26日安値割れ下落二段目か(週報8月第2週)

米中貿易戦争問題は解決の糸口が見えない。

ドル円 7月26日安値割れ下落二段目か(週報8月第2週)

【概況】

7月19日高値113.17円の後、トランプ米大統領による米連銀利上げ姿勢及びドル高への批判ツイートをきっかけとしてドル安となり、7月23日午前に110.75円まで下落した。その後は新たなドル高けん制発言等が手控えられたこともあり7月26日に110.59円まで若干安値を切り下げたものの概ね111円を挟んだ持ち合いで7月31日までの1週間を通過した。
7月31日の日銀金融政策決定会合で「一定程度の長期金利上昇を容認するが国債買い入れ等で抑制する、金融緩和政策を継続する」との姿勢表明から円安となり8月1日には112.15円まで上昇した。しかし日銀要因での円安は続かずに1日夜から失速した。米連銀のFOMCも市場予想の範囲で材料とならず、それよりも米中貿易戦争での関税強化が発動され始めたことやポンド安、イラン制裁やトルコ制裁等がリスク回避感を強めてクロス円の円高が助長された。

8月6日以降も8月1日からの円高基調は継続し、7日には111円割れ、9日には110.70円まで下げて7月31日の日銀金融政策で反騰する前の安値110.77円を割り込んだ。さらに10日深夜はトルコリラの暴落、ユーロの持ち合い下放れによる急落等から為替市場全般が大混乱する中で円高が進み、深夜には110.51円まで下げて7月26日安値110.59円を割り込んだ。

【米中貿易戦争、トルコ制裁、ユーロの持ち合い下放れ】

(米中貿易戦争泥沼化)
米中貿易戦争問題は解決の糸口が見えない。米国は中国への知的財産権侵害を根拠として中国製品総額500億ドル規模への制裁関税導入を決定し、その第一弾としてすでに340億ドル相当への関税発動を行ってきたが、7日からは残り160億ドルについての発動を決定した。これらに対して中国も同規模の報復関税導入を決めているが、米国はこれらとは別に2000億ドル規模の中国製品への制裁関税の強化方針を示しており、9月6日の意見公募期間終了後に発動する予定となっている。
ドル人民元は8月3日に6.8935ドルまで上昇した後は新たな高値更新に至っていないが、6.8100ドル割れは切り返して8月8日からの上昇で10日には6.8638ドルを付けて3日高値に迫ってきている。トルコリラの暴落も新興国通貨安としてドル高元安を再び助長しているため、8月3日高値を上抜いて一段高へ入るようだと、ドル全面高の一方でクロス円全般の円高感も強まる可能性がある。

(トルコリラ暴落)
米中貿易戦争問題に加えてトルコ問題が焦点化してきた。米国人牧師軟禁問題から両国の非難合戦、さらに閣僚等への資産凍結等制裁合戦とエスカレートし、米国はトルコに対する鉄鋼・アルミの関税をさらに拡大することを決定した。10日のトルコリラは1日で最大24%の暴落となり、史上最安値を更新した。パニック的であり、世界金融市場全般への不安を拡大させているが、今のところは解決目途が見えていない。
トルコリラ暴落は同じく中東における米国のイラン制裁問題とも絡み、中東情勢不安を募らせるものとなっている。米国による保護主義・米国第一主義的な外交・通商政策が世界を混乱させているわけだが、この姿勢は秋の米中間選挙へ向けてさらにエスカレートする可能性がある。

日米通商協議も始まったが、9日から10日までの協議では先行きの楽観的な見通しを示す内容は見られなかった。日本車関連への関税、牛肉等米国農畜産品輸入拡大の圧力がどの程度だったのか、為替面での圧力はなかったのかは不明だが、日米通商協議の先行きが円安要因になってくるという期待は乏しく、どこかで円高を加速させる要因となってくるのではないかと懸念されるところだ。

(ユーロ安)
ユーロドルが5月後半から維持されてきた1.150ドルの支持線から転落した。直接的なきっかけはトルコリラ暴落の波及だが、イタリアの放漫財政への懸念、EU離脱交渉が難航する英ポンドの下落も背景にある。1月末から4月半ばまで1.200ドル台前半での持ち合いを3か月近く続けた後に4月後半から持ち合い下放れとなった。5月末からの持ち合いも2か月半に及び、そこから転落している様は二度目の持ち合い下放れとして4月後半から5月末にかけて大幅下落した時の再現となる可能性もある。2月16日高値からの下落を月足で見れば2014年5月からの大幅下落開始時を惹起させる。
英ポンドの下落も続いているが、これも月足で見れば4月高値からの下落規模は2014年7月からの長期大幅下落開始時にも近い姿という印象がある。ユーロ安、ポンド安は通常ならばドル高材料としてドル円の円安に寄与すべきものだが、ユーロ、ポンドともに自身へのリスクにより下落しているためにユーロ円、ポンド円の下落による円高要因として警戒すべき事象と思われる。

【7月26日安値割れによる二段下げへの発展】

【7月26日安値割れによる二段下げへの発展】

7月26日安値から上昇に入り、7月31日の日銀金融政策反応から大幅上昇した時には、5月29日安値から上昇再開に入った時に近い印象があったが、8月1日高値からの反落により10日には7月26日安値割れまで崩れたことで、5月29日からの上昇再開時との類似性が崩れた。逆に7月26日安値を割り込んだことにより7月19日高値からの下落が7月26日までを一段目、8月1日高値からは二段目に入ってきたという印象に変わりつつある。

8月10日安値110.51円は7月26日安値110.59円と大差なく、その後はやや戻しているので111.50円越えからさらに戻してゆけば「若干安値を割り込んだもののダブル底」に留まる可能性は残っている。しかし8月10日深夜安値をさらに割り込めば二段下げの追認となり、市場心理も弱気へ傾斜してゆきやすくなる。
3月26日底以降の上昇では、5月29日安値、6月26日安値、7月26日安値ともに52日移動平均で支えられてきたが、8月10日安値では同線を割り込んでいる。8月10日安値をさらに割り込めば支持線としての52日移動平均割れの追認として先安感も強まると思われる。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、8月10日深夜安値110.51円を下値支持線、8月9日の戻り高値111.18円を上値抵抗線とみておく。
(2)110.51円割れ回避のうちは111.18円越えから111.50円前後試しへ向かう可能性があるが、111円を超えても維持できずに110.70円割れとなるところからは下げ再開と考える。
(3)111.50円乗せ、維持へと戻す場合は8月1日からの下落一服、7月26日安値とのダブル底形成によるリバウンド入りとして112円試しへ向かう可能性も出てくるかもしれないが、111.50円以上は戻り売りに崩されやすく、直前高値から0.50円以上の下落となる場合は下げ再開を疑う。
(4)110.51円割れからは3月26日以降の上昇トレンドからの転落追認としてまず6月26日安値109.37円試しへ向かうとみる。110円割れからは先行きで5月29日安値108.11円等を中間的な下値目標とした中勢レベルの下落期に入ると考えるが、昨年11月から今年3月への下落波動の揺れ返しが一巡したとすれば、下落角度、規模が今年1月からの下落時並みに発展する可能性も考える必要が出てくると注意する。(了)<12日17:40執筆>

【当面の主な予定】

8/13(月)
休 場 タイ
09:00 (シ) 4-6月期 四半期GDP確定値 前期比年率 (前期 1.0%、予想 1.3%)

8/14(火)
10:30 (豪) 7月 NAB企業景況感指数 (6月 15 )
11:00 (中) 7月 小売売上高 前年同月比 (6月 9.0%、予想 9.1%)
11:00 (中) 7月 鉱工業生産 前年同月比 (6月 6.0%、予想 6.3%)
15:00 (独) 4-6月期GDP、速報値 前期比 (前期 0.3%、予想 0.3%)
15:00 (独) 4-6月期GDP、速報値 前年同期比 (前期 2.3%、予想 2.1%)
15:00 (独) 7月 消費者物価指数(CPI、改定値) 前月比 (6月 0.3%、予想 0.3%)

17:30 (英) 6月 失業率(ILO方式) (5月 4.2%、予想 4.2%)
18:00 (欧) 6月 鉱工業生産 前月比 (5月 1.3%、予想 -0.4%)
18:00 (欧) 4-6月期 四半期GDP、改定値 前期比 (速報 0.3%、予想 0.3%)
18:00 (欧) 4-6月期 四半期GDP、改定値 前年同期比 (速報 2.1%、予想 2.1%)
18:00 (独) 8月 ZEW景況指数 (7月 -24.7、予想 -21.2)
21:30 (米) 7月 輸入物価指数 前月比 (6月 -0.4%、予想 0.1%)
21:30 (米) 7月 輸出物価指数 前月比 (6月 0.3%、予想 0.2%)

8/15(水)
17:30 (英) 7月 消費者物価指数 前月比 (6月 0.0%、予想 0.0%)
17:30 (英) 7月 消費者物価指数 前年同月比 (6月 2.4%、予想 2.5%)
17:30 (英) 7月 小売物価指数 前月比 (6月 0.3%、予想 0.2%)
17:30 (英) 7月 小売物価指数 前年同月比 (6月 3.4%、予 3.4%)
17:30 (英) 7月 卸売物価コア指数 前年同月比 (6月 2.1%、予想 2.1%)
21:30 (米) 7月 小売売上高 前月比 (6月 0.5%、予想 0.1%)
21:30 (米) 7月 小売売上高(除自動車) 前月比 (6月 0.4%、予想 0.3%)
21:30 (米) 8月 ニューヨーク連銀製造業景況指数 (7月 22.6、予想 20.0)
21:30 (米) 4-6月期 四半期非農業部門労働生産性・速報値 前期比 (前期 0.4%、予想 2.4%)
21:30 (米) 4-6月期 四半期単位労働コスト・速報値 前期比年率 (前期 2.9%、予想 0.2%)
22:15 (米) 7月 鉱工業生産 前月比 (6月 0.6%、予想 0.3%)
22:15 (米) 7月 設備稼働率 (6月 78.0%、予想 78.2%)
23:00 (米) 8月 NAHB住宅市場指数 (7月 68、予想 67)

8/16(木)
08:50 (日) 7月 貿易統計(通関ベース) (6月 7214億円、予想 -412億ドル)
10:30 (豪) 7月 新規雇用者数 (6月 5.09万人、予想 1.50万人)
10:30 (豪) 7月 失業率 (6月 5.4%、予想 5.4%)
17:30 (英) 7月 小売売上高指数 前月比 (6月 -0.5%、予想 0.2%)
18:00 (欧) 6月 貿易収支 (5月 165億ユーロ )
21:30 (米) 7月 住宅着工件数 年率換算件数 (6月 117.3万件、予想 126.0万件)
21:30 (米) 7月 建設許可件数 年率換算件数 (6月 127.3万件、予想 131.0万件)
21:30 (米) 8月 フィラデルフィア連銀製造業景況指数 (7月 25.7、予想 22.0)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 21.3万件 )

8/17(金)
07:45 (NZ) 4-6月期 四半期卸売物価指数(PPI) 前期比 (前期 0.2% )
08:30 (豪) ロウ豪中銀(RBA)総裁、半期議会証言
17:00 (欧) 6月 経常収支 (5月 224億ユーロ )
18:00 (欧) 7月 消費者物価指数(HICP、改定値) 前年同月比 (6月 2.1%、予想 2.1%)
23:00 (米) 7月 景気先行指数 前月比 (6月 0.5%、予想 0.4%)
23:00 (米) 8月 ミシガン大学消費者信頼感指数 速報値 (7月 97.9、予想 98.0)

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