【概況】
6月26日安値109.36円から上昇してきたが、7月3日に111.13円を付けた後は伸びず、3日夜からの反落で110.27円まで下げた。4日は米国独立記念日の祝日、その後は6日未明のFOMC議事録、6日夜の米雇用統計と重要イベントが続き、6日からは米国による中国への大規模制裁関税が発動される予定という流れへ進んだが、いずれも決め手を欠いて、6日午後には110.78円まで戻したものの6日夜には110.37円まで失速、ただし4日安値を割り込まない程度で週を終えた。
ドル円が7月3日高値へ上昇したのはドル高人民元安と同調した動きであった。米中貿易戦争懸念を背景に上海株が急落に入り、ドル/人民元も6月15日から急騰(元安)モードに入り、7月3日には11か月振りとなる6.7元を超えたが、中国人民銀行総裁発言等をきっかけに急落(元高)となった。この人民元反発をきっかけにドル円も直前5日間の上昇から調整安に入って4日安値110.27円まで下げたという印象だ。その後はドル/人民元も横ばい、上海株は6日午前まで続落だったためにドル円の下落もストップし、やや戻し気味の動きとなっていた。
7月6日未明のFOMC議事録公開では特にサプライズ的な内容はなかったためにドル円はほとんど反応しなかった。米連銀の継続的な緩やかな利上げ姿勢は確認され、今後の経済指標が良好さを維持すれば年内後2回、来年も利上げペースを継続するが、2019年から2020年にかけては利上げも打ち止めになる見通しも示された。ただ、貿易戦争問題や米政権の財政拡大、欧州等のリスクについても懸念が示されていた。
7月6日午後1時、米国東部時間6日0時1分に米国が中国に対する制裁関税発動が報じられた。6日から発動する予定ではあったが、日付変わって早々の米国深夜に発動されたことで市場もやや虚を突かれた。中国が対抗姿勢を示したが、当初は中国国営メディアが同規模の「報復関税を発動した」と報じたものの報道内容を修正して「対抗措置をとる」とし、中国外務省も詳細を示さないなど、市場も中国側からの反撃が具体的にどうなっているのかの判断に時間がかかった。
報道が混乱したことも一因としてあるが、市場は想定されてきたことが始まったと冷静に受け止めたようで上海総合株価指数は午前に安値を更新していたが午後からは反発した。ドル円もややドル高円安の楽観反応を見せかけたが、長続きはせず、夜間の雇用統計を前後してやや下落して終了したという状況だった。
7月6日夜には米雇用統計の発表があった。非農業部門就業者数は21万3000人増で市場予想の19万5000人増を上回り、20万人を2か月連続で上回った。求職者増加のためか失業率は前月の3.8%から4.0%へ上昇した。また平均時給は予想の0.3%及び前月の0.3%を下回る0.2%に止まった。発表直後はユーロ高ドル安、ドル安円高反応がみられたが、動きは限定的なものだった。
【米中貿易戦争、いよいよ開戦だが市場は冷静】
トランプ米政権は中国の知的財産権侵害を理由として年間500億ドル相当の中国製品に対して25%の関税を賦課とし、その第一弾として7月6日から818品目、340憶ドル相当に関税を発動すると宣言してきたが、宣言通りに発動した。また大統領は「2週間以内に残りの160億ドル規模の追加関税を実行する」と述べるとともに、今後はさらに対中制裁の対象を貿易額の大半に相当する4500億ドルまで増やす可能性もあるとの姿勢を示した。
中国国営メディアはすぐに同規模の対抗措置を発動したといったん報じたが、その後にこの報道を訂正、対抗措置を講ずるに変更した。中国外務省は対抗措置の内容について詳細は説明しないとしたが、340億ドル規模の米国からの輸入品、特に大豆や鶏肉等の農産物に対抗措置を取り始めたと思われる。
特に影響が大きいと思われるのが米国の大豆農家であり、米大豆協会(ASA)は中国が米国の制裁関税に対抗して米国産大豆などに25%の報復関税を発動したことは米国の農家に深刻な打撃を与えるとの懸念を表明した。中国は2017年に米国産大豆生産高の約3分の1を輸入しており、米国にとっては輸出総量の約6割が中国向けだった。ところが、シカゴの大豆先物市場では新穀(今秋収穫予定)の11月限がいったん下落したものの早々に反騰に転じ、前日比では4.5%高と大幅上昇している。中国向けへの懸念があるものの輸出は好調とし、この問題も含めてで5月後半から大幅下落してきたことで織り込み済による買い戻しの動きとなったのだろうと思われる。
米中貿易戦争開戦の第一報は市場も受け止め、すでに下げてきたものはさらなる悲観的反応を見せなかったというところだろう。しかし問題はこれからだ。具体的な影響がどのような形で噴出し、金融市場へ影響を与えてゆくのかを見定める必要がある。世界の工場として低賃金の中国労働力をあてに中国で生産して米国などへ輸出してきた米国企業をはじめとする諸外国企業への影響がどうなってゆくのかは、具体的な貿易量の変化、価格転嫁、輸入先変更、適用除外の動向、あるいは最初に殴り合いをした上での妥協を探る協議の動向等により、先行き悲観が強まるか、冷静さを維持するか、やや楽観したものになるのかが定まってくるのだろうが、評価が定まるにはもう少し時間がかかるかもしれない。
トランプ政権の対北朝鮮外交においても、当初は強硬姿勢をエスカレートし、一挙に妥協へ進むという強圧的駆け引きが見られた。今回の米中貿易戦争問題も同様の展開になるかもしれないが、まだ撃ち合いが続けば市場もそう簡単に楽観主義へ舵を切れないのではないかと思う。
【5月21日高値からの三角持ち合い、終盤入り】
5月21日高値111.39円から5月29日安値108.11円まで下落した後はジリ高推移となり、6月15日高値から6月26日へいったん小反落したものの再び切り返し、7月3日には111.13円を付けて6月15日高値を上抜いた。しかし5月21日高値越えには至っていない。このため現状は5月21日高値を抵抗線とし、5月29日安値と6月26日安値を結ぶラインを支持線とした三角持ち合いの範囲にある。
3月26日安値からの反騰については概ね5か月から6か月周期の底打ちサイクルによる上昇とし、同サイクルの前回上昇期であった昨年9月から11月への上昇時に近い動きと想定してきた。また5月21日からの三角持ち合いも昨年11月6日天井から1月序盤までの三角持ち合いと類似した位置づけとなり、三角持ち合い下放れからはこのサイクルによる下落期に入るのではないかとの見立てをしてきた。既に三角持ち合いも1か月半を経過しているので、持ち合い放れがいつ始まってもおかしくない。また「持ち合いは持ち合い放れにつけ」が鉄則のため、中勢レベルのサイクル分析では下放れの可能性を警戒するが、上放れにより3月26日底からのサイクル的な上昇が延長戦に入る可能性もあると注意する。
以上を踏まえて当面の強弱ポイントを示す。
(1)7月4日安値110.27円割れからは7月3日高値からの下落が二段目に入るため、三角持ち合い下放れへ進む可能性が高まるとみる。110円割れからは5月29日安値と6月26日安値を結ぶ支持線を割り込んでくるが、持ち合い下放れの判断目安としては6月26日安値109.36円割れからとする。仮に6月26日安値を割り込む場合は概ね5か月から6か月周期のサイクルによる下落期入りとして8月から9月にかけての間への下落へ進む可能性も高まると思われる。
(2) 110円台を維持するか、一時的に割り込んでも6月26日安値割れを回避するうちは7月3日高値越えから上昇継続となり、111.50円から112円を目指す可能性が出てくるとみる。5月21日を上抜く場合2016年12月天井と2017年11月戻り天井を結ぶこの1年半の抵抗線を試すとみるが、この抵抗線は111.50円から112円手前ににかけての水準に来ているので、111.50円以上は反落警戒とみる。(了)<8日22:50執筆>
【当面の主な予定】
7/9(月)
未 定 (日) 黒田東彦日銀総裁、発言 日銀地域経済報告(さくらレポート)
08:50 (日) 5月 国際収支・経常収支 (4月 1兆8451億円、予想 1兆2402億円)
08:50 (日) 5月 国際収支・貿易収支 (4月 5738億円、予想 -4831億円)
15:00 (独) 5月 貿易収支 204億ユーロ (4月 201億ユーロ、予想 202億ユーロ)
16:50 (英) ブロードベント・イングランド銀行(BOE)副総裁、講演
22:00 (欧) ドラギECB総裁、発言
28:00 (米) 5月 消費者信用残 前月比 (4月 93億ドル、予想 125億ドル)
7/10(火)
10:30 (中) 6月 消費者物価指数 前年比 (5月 1.8%、予想 139%)
10:30 (中) 6月 生産者物価指数 前年比 (5月 4.1%、予想 4.5%)
10:30 (豪) 6月 NAB企業景況感指数 (5月 15
17:30 (英) 5月 貿易収支 (4月 -140.35億ポンド、予想 -120億ポンド)
17:30 (英) 5月 鉱工業生産 前月比 (4月 -0.8%、予想 0.5%)
17:30 (英) 5月 製造業生産 前月比 (4月 -1.4%、予想 0.8%)
18:00 (独) 7月 ZEW景況期待指数 (6月 -16.1、予想 -18.5)
7/11(水)
北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(ブリュッセル、12日まで)
08:50 (日) 6月 国内企業物価指数 前年比 (5月 2.7%、予想 2.8%)
08:50 (日) 5月 機械受注 前年比 (4月 9.6%、予想 10.2%)
21:30 (米) 6月 生産者物価指数 前月比 (5月 0.5%、予想 0.2%)
21:30 (米) 6月 生産者物価指数 前年比 (5月 3.1%、予想 3.1%)
21:30 (米) 6月 生産者物価コア指数 前月比 (5月 0.3%、予想 0.2%)
21:30 (米) 6月 生産者物価コア指数 前年比 (5月 2.4%、予想 2.6%)
23:00 (加) カナダ銀行 政策金利 (現行 1.25%、予想 1.50%へ引き上げ)
23:00 (米) 5月 卸売在庫 前月比 (4月 0.5%、予想 0.4%)
24:35 (英) カーニー英中銀(BOE)総裁、発言
7/12(木)
05:30 (米) ウィリアムズ米ニューヨーク連銀総裁、講演
15:00 (独) 6月 消費者物価指数改定値 前月比 (速報 0.1%、予想 0.1%)
18:00 (欧) 5月 鉱工業生産 前月比 (4月 -0.9%、予想 1.2%)
21:30 (米) カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁、講演
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 23.1万件、予想 22.6万件)
21:30 (米) 6月 消費者物価指数 前月比 (5月 0.2%、予想 0.2%)
21:30 (米) 6月 消費者物価指数 前年比 (5月 2.8%、予想 2.9%)
21:30 (米) 6月 消費者物価コア指数 前月比 (5月 0.2%、予想 0.2%)
21:30 (米) 6月 消費者物価コア指数 前年比 (5月 2.2%、予想 2.3%)
25:15 (米) ハーカー米フィラデルフィア連銀総裁、講演
27:00 (米) 6月 月次財政収支 (5月 -1468億ドル、予想 -800億ドル)
7/13(金)
未 定 (中) 6月 貿易収支(米ドル)(5月 249.2億ドル、予想 272.2億ドル)
未 定 (中) 6月 貿易収支(人民元) (5月 1565.1億元、予想 1825.0億元)
13:30 (日) 5月 鉱工業生産・確報 前月比 (速報 -0.2%
21:30 (米) 6月 輸入物価指数 前月比 (5月 0.6%、予想 0.1%)
20:00 (英) カンリフBOE副総裁、講演
23:00 (米) 7月 ミシガン大学消費者信頼感指数 速報 (6月 98.2、予想 98.0)
オーダー/ポジション状況
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