ドル円 北朝鮮核実験への反応如何?(週報9月第一週)

米労働省が発表した8月の雇用統計では、非農業部門就業者数は季節調整済みで前月比15万6000人増となり、市場予想の18.0万人増を下回った。

ドル円 北朝鮮核実験への反応如何?(週報9月第一週)

<概要>

8月25日夜のジャクソンホール会合におけるイエレン議長講演で金融政策姿勢への具体的な言及がなかったことを米連銀のハト派姿勢継続として市場はドル安反応を見せた。ドル円は直前高値109.84円から109.11円まで下落した。28日は109円台前半での持合いだったが、29日、北朝鮮が日本列島超えの弾道ミサイル3発を発射したことで有事緊張が高まって109円割れとなり、29日夕刻には108.265円の安値を付けた。
しかし4月17日安値108.13円割れには至らなかったこと、米国市場では北朝鮮に対する緊張感がアジア市場ほどには拡大しなかったことで材料消化となり、米経済指標が強い内容のものが続いたこともあってその後は切り返しに入り31日夜には110.67円まで戻した。

31日夜は米個人消費統計が予想よりも悪かったことで米連銀のハト派姿勢継続感が再認識されて反落した。9月1日は安値で110円を割り込んだが、米雇用統計を控えて様子見の持合いが続いていた。
米雇用統計が予想よりも悪かったことでいったん売られ、109.56円まで下げたものの、初期的な売り物一巡から戻し、さらにECBの量的緩和終了決定が年末までずれ込むのではないかとの報道からユーロが下落、その反動でドル円は上昇、110円台を回復して終了した。

【米雇用統計反応】

米労働省が発表した8月の雇用統計では、非農業部門就業者数は季節調整済みで前月比15万6000人増となり、市場予想の18.0万人増を下回った。また前月は速報の20.9満人増から18万9000人増へ下方修正された。
失業率は4.4%となり、前月の4.3%から悪化した。
平均時給伸び率は前月比0.1%増となり、市場予想の0.2%増を下回った。前月は速報値の0.3%増から0.1%増へ下方修正された。
総じて予想よりも悪く、前月から減速した印象であるが、すでに完全雇用に近い状況の中では7万5000人から12万5000人増でも十分な数字とする米連銀にとっては悪い水準ではないといえる。しかし、7月FOMC議事録を踏まえれば、米連銀がインフレ目標へ届かない現状を不満足としていること、目標実現へ向けて重要視されている賃金上昇が平均時給の伸び鈍化で期待が薄い状況にあることから、米連銀のハト派姿勢=追加利上げへの慎重姿勢が継続するのではないかと考えられる。

米短期金利先物市場動向から逆算される利上げ確率は来年の6月会合で五分五分とされる。12月の利上げ確率は五割に満たない。その点では市場が米連銀利上げ決定において、かなり慎重になり、越年されるのではないかとの見方が根強い印象だ。しかし、9月会合でバランスシート縮小が開始される可能性もまた高い。これまではバランスシート縮小開始によるドル高助長という見方は薄かったが、今回の雇用統計反応を見ると、バランスシート縮小開始がドル高に寄与する可能性も考えておく必要がありそうだ。

【ユーロ安】

米雇用統計発表直後には上昇したユーロドルだが、1.1978ドルまで戻してからは反落、1.1858ドルで終了した。31日安値1.1822ドルに対して底割れへの余裕が薄くなっている。ECBは金融緩和政策の出口戦略を模索しており、量的緩和政策は年内いっぱいで、その後は縮小に入るとみられてきた。しかし最近インフレ指標で弱い数字が続いているため、インフレ目標実現の困難さから量的緩和終了への決定が延びるのではないかとの観測が強まっている。
ECBのコンスタンシオ副総裁は1日の講演で「インフレ率押し上げは従来予想以上に困難だ」「米国を中心とした世界経済の回復力をめぐる不透明感の高まりを背景にユーロ圏のインフレ率、失業水準の正常化が一段と困難になっている」と指摘した。
米国を中心とした世界経済の回復力に対する不透明感とはドル安ユーロ高を示しユーロ高がインフレを抑制していることを示唆するものと思われる。
ユーロが31日安値を割り込んでくるようだと、29日高値からの下落が二段目に入り、年初から続いてきたユーロ高ドル安基調に変化をもたらす可能性も警戒される。

【北朝鮮の核実験】

9月3日午後0時29分頃、北朝鮮付近を震源とするマグニチュード6.1の地震が観測された。気象庁はこれを自然地震ではないとの見解を示し、政府も北朝鮮が核実験を行ったとの見方を示した。北朝鮮も「ICBM用の水爆実験に成功した」と聯合ニュースで報じた。
気象庁が過去に観測した北朝鮮の核実験に伴う地震の規模はマグニチュード4.9〜5.3であり、昨年9月9日の前回核実験では5.3だったが、今回はこれを大幅に上回っている。
8月29日に日本列島を超える弾道ミサイル3発を発射、北太平洋に着弾させた。その際にミサイル弾頭が大気圏再突入に成功し、爆発力を維持して着弾したのかどうかは不明だ。グアム方向への発射ではなかったために米国の反応は緩いものであったが、9月3日の核実験成功を受けて米国政府がどのような反応を見せるのかどうかが注目される。
9月9日には北朝鮮の建国記念日があるが、それに向けてさらに軍事的実験をエスカレートさせるのかどうか、それに対する米国の反応がどうなるのか、市場のリスク回避感の高まり具合はどうなるのか、まずは月曜朝からの市場反応が注目されるところだ。

【4月17日安値割れ回避のうちは3月からの往来相場の範囲】

8月29日への下落で付けた安値は108.26円で、4月17日安値108.13円割れには至らなかった。
3月以降、高値は3月10日、5月11日、7月11日と二か月周期で付けてきた。その間の安値もまた4月17日、6月14日と二か月毎であったが、今回の下落は8月29日まで伸びており、この周期的な往来相場のリズムが崩れてきた印象がある。
4月17日安値割れ回避か、一時的に割り込んでも反騰する場合はまだ往来相場の範囲として2か月周期で付けてきた戻り高値形成への上昇を今回も見せる可能性がある。8月16日高値110.95円を超えて111円台序盤へ上昇し、その後も111円台を維持して高値を試し始める場合は周期的な高値を形成する上昇へ進む可能性が出てくると思われる。
しかし、110円台を維持できずに失速して8月29日安値を割り込む場合はそのまま4月17日安値割れへ進む可能性が高まり、底割れから続落し始める場合は往来相場圏からの転落として円高が一段と進む可能性が警戒される。特に北朝鮮有事リスクを背景とした円高株安が進む場合は107円、さらに105円を目指す下落期入りも懸念される。

【60分足 一目均衡表分析】

【60分足 一目均衡表分析】

60分足の一目均衡表では、31日夜からの下落で遅行スパンが悪化、先行スパンへ潜り込む下落となった。1日夜の米雇用統計直後の下落では先行スパンの下限を試したが転落を回避し、その後の反発により遅行スパンは好転、先行スパンを上抜きかけるところまで戻した。
110.25円を上回る状況で推移すれば先行スパンを上抜いてくるため31日高値試し、さらに一段高へ向かう可能性が出てくるが、先行スパンの厚みがかなり薄くなっており、110円割れの状況へ進めば再び転落となるため、1日夜安値試し、さらに底割れからの一段安へ進みやすくなると思われる。

60分足の相対力指数は30日から31日への高値更新時では弱気逆行となり31日夜の急落を示唆した。1日午前安値と米雇用統計直後の安値との間では指数が切り上がっており、強気逆行の気配がみられる。60ポイントを超えて推移する場合は強気逆行からの上昇継続となる可能性が考えられるが、40ポイント割れへと反落する場合は逆行形成失敗による下落継続感が強まるとみる。

概ね3日から5日周期のサイクルでは、29日夜安値から3日目となる1日夜安値で底を付けた可能性がある。このため、1日夜安値割れ回避のうちは31日夜高値試しの可能性が維持され、高値更新なら新たな強気サイクル入りとして5日夜から7日への上昇へ進む可能性が考えられる。
しかし、1日夜安値割れからは底割れによる新たな下落期入りとなり、次の安値形成期となる6日から8日にかけての下落へ向かいやすくなると注意する。

以上を踏まえ、当面のポイントを示す。
(1) 1日夜安値109.56円割れ回避のうちは上昇余地ありとし、110.25円以上で推移中は31日高値110.67円試しを想定する。高値更新の場合は111円台前半への上昇を想定する。
(2) 110円割れの状況が続き始める場合は1日夜安値試しとし、底割れからは新たな下落期入りとして109円から108.50円にかけての下落を想定する。北朝鮮問題に対する有事リスク拡大感が強まる場合は29日安値108.26円試し、あるいは4月17日安値108.13円割れから円高が加速する可能性にも注意する。その場合は107円、105円台への下落へ向かい始める可能性も警戒する。(了)<3日20:00執筆>

【今週の主な予定】

9月4日
レーバーデー休場 カナダ、米国
08:50 (日) 8月 マネタリーベース前年同月比 

9月5日
10:45 (中) 8月 財新サービス部門PMI (7月 51.5)
13:30 (豪) 豪準備銀行(中銀)政策金利発表 (現状 1.50%、予想 1.50%)

21:00 (米)ブレイナード米FRB理事、講演
23:00 (米) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 3.0%、予想 -3.2%)

9月6日
02:10 (米)カシュカリ米ミネアポリス連銀総裁、講演
08:00 (米)カプラン米ダラス連銀総裁、講演(豪にて)
21:30 (米) 7月 貿易収支 (6月 -436億ドル、予想 -441億ドル)
23:00 (加) カナダ銀行 政策金利 (現状 0.75%、予想 0.75%)
23:00 (米) 8月 ISM非製造業景況指数 (7月 53.9、予想 55)
27:00 (米) 米地区連銀経済報告(ベージュブック)

9月7日
08:50 (日) 対外対内証券売買契約等状況
14:00 (日) 7月 景気先行指数 速報値
18:00 ユーロ圏4〜6月期GDP確報値
20:45 (欧) 欧州中央銀行(ECB)金融政策発表
21:30 (欧) ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁、定例記者会見
21:30 (米) 前週分 新規失業保険申請件数
21:30 (米) 4-6月期 四半期非農業部門労働生産性 改定値 前期比 (速報 0.9%、予想 0.9%)

9月8日
01:15 (米)メスター米クリーブランド連銀総裁、講演
09:15 (米)ジョージ米カンザスティ連銀総裁、講演
未定 (中) 8月 貿易収支 米ドル建て (7月 467.4億ドル)
未定 (中) 8月 貿易収支 人民元建て (7月 3212億元)
未定 (日) 8月 景気ウオッチャー調査-現状判断DI
08:50 (日) 7月 国際収支・経常収支 (6月 9346億円)
08:50 (日) 7月 国際収支・貿易収支 (6月 5185億円)
08:50 (日) 4-6月期 四半期実質GDP改定値 前期比 (速報 1.0%)
08:50 (日) 4-6月期 四半期実質GDP改定値 年率換算 (速報 4.0%)
21:45 (米)ハーカー米フィラデルフィア連銀総裁、講演
23:00 (米) 7月 卸売在庫 前月比 

9月9日
北朝鮮建国記念日
10:30 (中) 8月消費者物価指数 前年比
10:30 (中) 8月生産者物価指数 前年比


オーダー/ポジション状況

関連記事

「FX羅針盤」 ご利用上の注意
掲載している情報の正確性については万全を期しておりますが、その内容を保証するものではありません。
掲載している商品やサービス等の情報は、各事業者から提供を受けた情報または各事業者のウェブサイト等にて公開されている特定時点の情報をもとに作成したものです。
当サイトはFXに関する情報の提供を目的としています。当サイトは、特定の金融商品の売買等の勧誘を目的としたものではありません。
FXに関する取引口座開設、取引の実行並びに取引条件の詳細についてのお問合せ及びご確認は、利用者ご自身が各FX取扱事業者に対し直接行っていただくものとします。また、投資の最終判断は、利用者ご自身が行っていただくものとします。
当社はFX取引に関し何ら当事者または代理人となるものではなく、利用者及び各FX取扱事業者のいずれに対しても、契約締結の代理、媒介、斡旋等を行いません。したがって、利用者と各FX取扱事業者との契約の成否、内容または履行等に関し、当社は一切責任を負わないものとし、FX取引に伴うトラブル等の利用者・各FX取扱事業者間の紛争については両当事者間で解決するものとします。
当社は、当サイトにおいて提供する情報の内容の正確性・妥当性・適法性・目的適合性その他のあらゆる事項について保証せず、利用者がこれらの情報に関連し損害を被った場合にも一切の責任を負わないものとします。
当サイトにおいて提供する情報の全部または一部は、利用者に対して予告なく、変更、中断、または停止される場合があります。
当サイトには、他社・他の機関のサイトへのリンクが設置される場合がありますが、当社はこれらリンク先サイトの内容について一切関知せず、何らの責任を負わないものとします。
当サイト上のコンテンツに関する著作権は、当社もしくは当該コンテンツを創作した著作者または著作権者に帰属しています。
当社は、当社の事前の許諾なく、当サイト上のコンテンツの全部または一部を、複製、改変、転載等により利用することを禁じます。
当サイトのご利用に当たっては上記注意事項をご了承いただくほか、FX羅針盤利用規約にご同意いただいたものとします。

ページトップへ戻る