ドル円見通し米朝緊張、利上げ先送り感(8月第二週)

現実問題として、米国が先制攻撃をする可能性は極めて低いとされる。

ドル円見通し米朝緊張、利上げ先送り感(8月第二週)

【概況】

米朝関係が再び緊張し始めたことで円高が一段と進んだ。それに米物価統計が弱く、米連銀のハト派姿勢は続くとの見通しも重石となってきた。現状は有事リスクによる円高、米連銀の利上げ先送り感によるドル安の両面でドル円が下落しているという印象だ。

8月4日の米雇用統計が予想より強かったことでドルが反発、さらに8日夜の米求人離職統計(JOLT)も良好だったことで米連銀のハト派姿勢がややタカ派へシフトするのではないかと見られてドル円はいったん反発期に入りかけた。しかし、8日深夜のトランプ大統領発言から米朝有事リスクが一挙に高まり、金融市場はリスク回避行動へ走り、ドル円は下落に転じた。
米朝首脳双方の非難合戦は続き、北朝鮮はグァム近海へのミサイル発射計画を掲げ、トランプ大統領は核戦力に言及するなどエスカレートした。11日には「北朝鮮の指導者がグアムや他の米領、同盟国に対して何かすれば、彼は心から、そして直ちに後悔することになる」と記者団に述べ、攻撃には即時反撃を警告した。こうした有事リスクを背景に11日夜には108.727円まで下落、その後も109円を挟んだ安値圏持合いにとどまっている。

【有事リスクを主テーマとした展開続く】

現実問題として、米国が先制攻撃をする可能性は極めて低いとされる。北朝鮮による反撃からの災禍を踏まえれば軍事オプションを選択することはなく、外交的な駆け引きに終わると識者達は解説している。
北朝鮮のICBM発射能力がまだ不確実だった段階で米国が空母カールビンソンを日本海へ展開した時は、あくまでも中国の外交努力を促すものとしての軍事的挑発であった。空母群が撤退すると有事リスクは後退した。
しかし北朝鮮はICBM発射実験を繰り返し、遂には米国本土へ到達する可能性が否定できなくなった。ワシントンポスト紙が米軍の分析として北朝鮮が核弾頭搭載技術を持つに至った可能性を報じ、トランプ大統領発言が一段と攻撃的になる中で緊張感がかなり高まってきた。

リスクがあり、そのリスク度合いが高まる可能性がある中では、金融市場はリスクオフ型の逃避行動を採る。今、買われているのは円、スイスフラン、米国債、VIX恐怖指数等だ。
仮に、米朝軍事衝突の現実的可能性が高まるなら、日本の資産家は円を売り、ドルやユーロを買って日本から脱出するだろう。その時は日本売り、円の暴落だろう。しかし今は、金融市場の混乱からの逃避、投資家によるリスクポジションの手仕舞売り=円の買い戻しであり、開戦リスクにまでは至っていない。むしろマネーゲームとして「リスクオフ」に乗って円高を思惑している段階といえるのではないか。

北朝鮮問題の専門家はグァム近海へのミサイル発射可能性は低くないとの見方を示している。北朝鮮建国記念日等、8月後半から9月にかけて、実際にミサイル発射が行われるリスク、それをテーマとしたリスクオフ相場も続くと思われる。また、ミサイル発射が回避される場合のトーンダウンもあり得るが、仮にミサイル発射が現実となった際、それに対する米国の反応、報復行動がどうなるのかがはっきりするまでは、このテーマが一段とエスカレートする可能性も懸念される。

【米連銀の利上げ先送り感】

ドル円にとって、もうひとつの下落要因は米連銀の利上げ先送り感だ。10日、11日に発表された米生産者物価、消費者物価はいずれも市場予想を下回り、米連銀の利上げ先送り感が拡大している印象だ。
7月の米生産者物価指数は前月比がマイナス0.1%で、ほぼ1年ぶりのマイナスとなった。前年比はプラス1.9%上昇で前月のプラス2.0%から減速した。食品とエネルギーを除くコア指数の前年比もプラス1.8%にとどまった。
7月の米消費者物価指数は前年同月比プラス1.7%となり市場予想のプラス1.8%を下回った。 コア指数の前年同月比もプラス1.7%にとどまった。

ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁はインフレ率は目標を下回り続けているため、当局には利上げを待つ余裕があるとの見方を示した。またダラス連銀のカプラン総裁は利上げについて、インフレの動向を見ながら辛抱強く待つべきとの姿勢を示した。
7月12日のイエレン議長議会証言、7月27日の前回FOMC声明文はいずれもハト派的=利上げを急がない姿勢を示すものとしてドル安円高要因となり、7月11日高値からの下落基調はこれらハト派姿勢を背景としてきた。そこに米朝有事リスクが加わったということだ。この2つのドル安円高要因に変化がなければドル円の下落基調も継続してゆくと思われる。

【2ヶ月周期と中段持ち合い】

今年は年初からドル安円高となったが、3月10日、5月11日、7月11日と2ヶ月周期で115円前後まで戻りを入れた。その間、4月17日、6月14日とこれも2ヶ月周期で110円割れとなる安値を付けてきた。
4月から6月にかけては安値がやや切り上がっていたが、8月11日への下落で両安値を結んだ支持線を割り込んできた。6月14日安値も割り込んだが、まだ4月17日安値108.13円割れには至っていない。
4月17日安値をわずか割り込んでもその後に反騰するなら、2ヶ月周期の往来相場の継続となる可能性はあるだろう。しかし4月安値を割り込み、その後もさらに続落するなら、中段持ち合いとしての往来相場から転落することになり、ドル安円高が加速してゆく可能性を懸念すべきだろう。

【60分足 一目均衡表分析】

【60分足 一目均衡表分析】

60分足の一目均衡表では8月8日に遅行スパンが悪化、9日に先行スパンから転落と続き、その後は一段安してきた。11日夜に108.74円の安値を付けたが、その前後は109円を挟んだ安値圏持合いとなっているため、遅行スパンは実線と交錯しているが、109円台前半には先行スパンが抵抗帯としての壁を作っているので、強気転換には109.50円超えからさらに続伸してゆく必要があり、109.50円を超えられないうちは一段安警戒が優先されると思われる。仮に109.50円超えの場合は110円手前を試し、その後には再び下落へ向かうとみる。

60分足の14本相対力指数は11日に21ポイント台まで低下、その後は50ポイントまで戻しているが、9日から11日への相場一段安に対して指数の強気逆行は見られていないので、40ポイント割れからの下げ再開が警戒される。50ポイントを超えてくる場合は60ポイント手前への上昇とその後の反落を警戒する。

概ね3日から5日周期の短期サイクルでは、8月4日安値から3日目となる8月9日夜安値でいったん底を付け、10日夜の底割れから新たな弱気サイクルに入っている可能性が考えられる。このため、10日高値を上抜けないうちは一段安警戒とし、次の安値形成期となる14日夜から16日夜へ一段安しやすいとみる。また、8月4日安値から4日目となる11日夜安値で直近の底を付け、14日に戻りを入れるか下げ渋り持合いを形成してから次の下落へ進む可能性も考えられるが、その場合は次の安値形成期は16日から18日にかけて伸びると考えられる。

以上を踏まえ、当面のポイントを示す。
(1)110円以下での推移中は、4月17日安値と6月14日安値を結ぶ支持線割れとして、4月17日安値108.13円試しを想定する。さらに4月安値割れから続落の場合は4月以降の中段持合いからの転落として、先行きは中勢レベルの下落基調が継続しやすいとみる。
(2)短期的には、109.20円から109.50円までを戻り抵抗とし、109.50円超えから続伸できないうちは一段安警戒とみる。109円前後で横ばい型の持合いとなる場合は持合い下放れ注意とし、また持合いというほどに下げ渋れずに安値更新へ進む場合は、14日夜から16日への下落へ向かうと仮定し、108円、107.50円等を段階的に試しやすいとみる。
(3)朝鮮半島有事リスクをテーマとしたリスク回避的な相場展開はしばらく続くとみる。(了)<9:00執筆>

【今週の主な予定】

8月14日
08:50 (日) 4-6月期GDP・1次速報値 前期比 (前期 +0.3%、予想 +0.6%)
08:50 (日) 4-6月期GDP・1次速報値 前期比年率 (前期 +1.0%、予想 +2.5%)
11:00 (中) 中国7月小売売上高 前年比 (6月 +11.0%、予想 +10.8%)
11:00 (中) 中国7月鉱工業生産 前年比 (6月 +7.6%、予想 +7.1%)
11:00 (中) 中国7月固定資産投資 年初来・前年比

8月15日
10:30 (豪) 豪準備銀行(RBA)金融政策決定理事会議事録公表(8月1日開催分)
13:30 (日) 6月鉱工業生産・確報値
15:00 (独) 独4-6月期GDP・速報値 前期比 (前期 +0.6%、予想 +0.7%)
15:00 (独) 独4-6月期GDP・速報値 前年比 (前期 +2.9%、予想 +0.6%)
21:30 (米) 米7月小売売上高 (6月 -0.2%、予想 +0.4%)
21:30 (米) 米7月小売売上高 除自動車 (6月 -0.2%、予想 +0.4%)
21:30 (米) 米8月NY連銀製造業景況指数 (7月 9.8 予想 10.0)
23:00 (米) 米8月NAHB住宅市場指数 (7月 64、予想 65)

8月16日
北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、第1回会合(ワシントン、20日まで)
18:00 (欧) ユーロ圏4-6月期GDP・改定値 前期比 (速報 +0.6%、予想 +0.6%)
18:00 (欧) ユーロ圏4-6月期GDP・改定値 前年比 (速報 +2.1%、予想 +2.1%
21:30 (米) 米7月住宅着工件数 (6月 121.5万件、予想 122.5万件)
21:30 (米) 米7月建設許可件数 (6月 125.4万件、予想 124.0万件)

8月17日
03:00 (米) 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録公表(7月25、26日開催分)
08:50 (日) 7月貿易収支 (6月 4399憶円、予想 3536憶円)
20:30 (欧) 欧州中央銀行(ECB)理事会、議事要旨公表(7月20日開催分)
21:30 (米) 米新規失業保険申請件数 (前週 24.4万件)
21:30 (米) 米8月フィラデルフィア連銀製造業指数 (7月 19.5、予想 19.0)
22:15 (米) 米7月鉱工業生産 前月比 (6月 +0.4%、予想 +0.3%)
22:15 (米) 米7月設備稼働率 (6月 76.6%、予想 76.7%)
23:00 (米) 米7月景気先行指数 

8月18日
02:00 (米) カプラン米ダラス連銀総裁講演
23:00 (米) 米8月ミシガン大学消費者信頼感指数 速報値 (7月 93.4、予想 94.0)
23:15 (米) カプラン米ダラス連銀総裁講演


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