相場予想はシンプルに、時間軸を排除すればイメージし易い
すでにご案内の通りFX羅針盤のサービスが12月に終了するのに伴い、同プラットフォーム上で約1年半に亘ってお読みいただいて参りましたMonthly Market Insightsへの寄稿は今回が最終回となります。
最終回の今回は筆者の為替相場へのアプローチの仕方を披露したいと思います。
毎年、この時期になると来年の経済やマーケットに対する予測を様々なメディア媒体を通じて目にすることが多くなるが、この時期になされる来年の為替相場予想を後に振り返ってみて大方の予想通りに動いたという経験は滅多にない。
例えば、今年(2024年)は日米金融政策の方向性の違いからドル安・円高を見込む向きが多かったが、金利は大方の予想通りに動いてもドル円相場は年初からドル高が進行した。7月から8月にかけては、大した理由もなく、円キャリードレードの巻き戻しで、一か月弱で10%を超えるドル円相場の急落が発生したが、その後、ドルは大きく値を戻した。
一年終わってみればドル高・円安ということを当てることは出来た人がいても、途中経過まで当てたという人はほとんどいなかっただろう。
しかし、生業として金融市場に身を置く業界人ならともかく、普通の個人にとっては自分が保有する外貨建ての資産が最終的にどういった実現損益を計上するかは重要であっても、途中の相場の上げ下げや、今月末や年度末の評価がどうなろうとあまり関係はない人がほとんどだろう。
筆者が長期の相場展開を考えるときには半年や一年といった時間の概念は排除し、もっと長い目で相場を考えることにしている。最終的にドル円相場は上がりそうか、下がりそうか、この二択の答えだけを考えることで相場はシンプルになる。
時間の概念を排除するというのは、具体的には、今が1ドル=150円だとして、いつ、どういった曲折を経てなどは考えず、この先120円になるのが先か180円になるのが先か、だけを考えることにすれば、自分の相場観の論拠は明確になり、相場は遥かにイメージし易くなる。
ちなみに、筆者は、長期の相場展開を考える際には、現在の相場水準から20%程度上下に到達点を設定して考えるようにしている。為替相場は10%程度は意味もなく簡単に動くこともある。かといって30%はあまりに遠くて逆にイメージが湧きにくい。ターゲットは各自が最も自身の相場観を醸成しやすい水準に設定するのが良いと思う。
さて、時間軸を考えないとして今後のドル円相場をどう観るかだが、筆者は為替相場にはその二国間の国力の差が反映されると考えている。
国力には両国の経済成長力や自然利子率の差から生じる金利水準、国際収支がもたらす通貨需給、金融・資本市場の健全性への信用度などだが、突き詰めれば最後は、為替相場は、その国と国民が生み出す富を、通貨という価値に置き換えた際に二国間の通貨の交換に用いられる交換レートだ。富(付加価値)を通貨という価値に置き換えるにあたって中央銀行が適切な量の通貨を市場に供給しているかどうかは大きな要素になる。異次元緩和は日本円という通貨の価値を相対的に大きく引き下げていた感が強い。その異次元緩和からの脱却は円にとっては円高材料だ。
しかし、異次元緩和からは転換が図れても日本には問題が山積している。
その国土の広さや埋蔵する鉱物資源やエネルギー資源に恵まれない日本で、国を支えるのは国民の力に因るところが相対的に他の国や地域に比べて大きくなるが、今後、日本はその成長の拠り所となる人口が大幅に減少することが予測されている。
厚労省「国立社会保障・人口問題研究所」は今年の始めに日本の人口は、出生率が1.36で推移するシナリオで、2100年にはおよそ6300万人に約半減するという推計を纏めている。国連の世界人口推計2024年版でも日本は現在の1億2千万人から、2100年には8千万人を割ってくるとの予想だ。
一方、その国連のレポートでアメリカの人口は現在の3億5千万人弱から2050年には3億8千万人程度まで増加することが予想されており、2100年に至っては4億3千万人を上回る予測となっている。
2100年は遠い未来の話ではない。今の小学生や中学生が80代・90代となって現実に生きて経験する時代だ。人口増が予想されているアメリカに比べて人口が半減する日本。日本人の移民受け入れに対する寛容度が劇的にでも変化したとしても、半減が予想される人口予想を大幅に上方修正し、今の経済規模を維持していく見込みはなかなか立てにくい。
為替相場は二国間の国力の差を反映した通貨の交換比率だ。日本の国としての活力、経済活動の体温が低下していく中、長い目で見て、日本円が対米ドルで上昇するというイメージが筆者にはどうにも湧いてこない。
問題は人口だけではない。アメリカは常に自分たちが覇権国であり続けることに戦略的に取り組んでいるように思える。1980年代に日本やドイツが輸出を牽引力に経済的に台頭してくるとプラザ合意でドルの価値を大幅に減価させて勢いを削いだ。中国が2015年に「中国製造2025」を発表し、2030年代には米国のGDPを抜くのではないかと囁かれ始めると徹底的に中国の力を削ぐ政策の導入に動いている。米国の政策はその時々の政権に拘わらず、いつも戦略的であるように思える。
戦後、ドル円相場は1ドル=360円から始まり、2011年に名目のドル円相場は75円台まで下落して、今の150円といった水準にある。1ドル120円も180円もいつか通った道だが、次は120円が先か、180円が先かという議論だと、途中、当然、紆余曲折はあるだろうが、筆者はどうしても後者に与してしまう。
さて、約一年半に亘って掲載してきた本シリーズも今回が最後となります。
読者の皆さまがマーケットに接していくのに少しでも参考になったようでしたら筆者としては嬉しい限りです。
ご愛読ありがとうございました。
読者の皆様の益々のご発展を祈念申し上げ、連載を終えたいと思います。
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