ドル円見通し 米雇用統計通過後に急伸、1995〜1998年型の上昇へ発展するか
〇先週のドル円、米雇用統計発表後144.44をつけるも、2日未明には146.29に2円近く急伸
〇8月米雇用統計失業率が予想外に7月の3.5%から3.8%へ大幅に悪化、ドル急落の引き金に
〇その後は米長期金利反発と、ISM製造業指数等の良化に雇用統計後の下落幅に対して倍の急伸
〇ドル円は年初来高値更新後の修正安が落ち着いて上昇再開を試す局面か
〇146.50超えからは8/29高値147.36を試し、高値更新の場合147.50から70台へ進む可能性
〇145.50割れからは9/1安値144.44試し、安値更新の場合144.00から143.70台を試すか
【概況】
ドル円は9月1日夜の米8月雇用統計発表直後の急落で144.44円を付けたが、売り一巡後の反騰で2日未明には146.29円まで2円近い急伸となり、その後も146円台を維持した。8月25日のジャクソンホール会合におけるパウエルFRB議長講演がややタカ派姿勢と受け止められて25日深夜に146.62円へ上昇、29日夜には147.36円を付けて年初来高値を更新したが、29日23時の米JOLTS急伸減数が3か月連続で悪化して8月CB消費者信頼感指数が予想外に大幅低下したことで下落に転じて30日未明安値145.64円へ急落した。その後も30日夜の米GDP改定値が予想外に下方修正され、31日夜の米7月PCE(個人消費支出)デフレーターも高止まり感を示しつつも予想通りだったことで戻り高値を切り下げて安値を更新する右肩下がりの展開となった。
9月1日の8月米雇用統計では就業者数が予想以上の増加だったものの失業率が予想外に7月の3.5%から3.8%へ大幅に悪化したこともあり発表直後にドル全面安となったために145円を割り込んで急落したが、9月4日の米国市場休場による連休前ということで当面のドル売り材料消化として米長期債利回りが反騰したため、ドル円も米雇用統計後の下落幅に対して倍返しの急伸となった。
ジャクソンホール会合、米雇用統計までの一連の重要指標発表を通過したことでひとまずドル円は年初来高値更新後の修正安が落ち着いて上昇再開を試す局面と思われる。
【米8月雇用統計、強弱まちまちの内容】
9月1日夜に発表された米8月雇用統計では、非農業部門就業者数が前月比18万7000人増となり、7月の15万7000人から伸びが加速して市場予想の17万人増を上回ったが、失業率は7月の3.5%から3.8%へと大幅に悪化して2022年2月以来の高水準となった。インフレ指標である平均時給の上昇率は前月比0.2%で市場予想と一致したが7月の0.4%から鈍化し、前年比は4.3%で予想および7月の4.4%を下回った。
失業率の大幅上昇は横ばいとみていた市場にとってはサプライズであり、求職者の増加による失業率悪化ならば労働市場のひっぱく感が緩んでいることを示すものだが、歴史的に見れば3%台はまだかなりの低水準であり、発表直後のドル売りはやや過剰反応だったとして早々にドル買い戻しへと風向きが変わったといえる。
平均時給についても前年比で4%以上というのは高止まり感があり、8月31日に発表された7月PCEのコア指数前年比が4.2%で6月の4.1%からわずかに上昇したことも踏まえてFRBによる追加利上げへの圧力となりかねないと市場は受け止めたようだ。
S&Pグローバルによる8月米製造業PMI確報値は47.9で7月確報の49.0から低下したものの速報の47.0から上方修正された。また米サプライ管理協会(ISM)による8月製造業景況指数も47.6となり、6月の46.4から上昇して市場予想の47.0を上回った。これらは米雇用統計通過後のドル高に寄与した。
【FRBによる利上げ打ち止め感は変わらず】
9月1日時点の米金利先物市場におけるFOMCにおける追加利上げ確率は、9月が1割程度でほぼ据え置きと見られており、11月と12月についても8月25日時点で5割を超えていたところから先週の経済指標発表を通過していずれも3割程度まで低下している。
FOMC内ではタカ派と見られているクリーブランド連銀のメスター総裁は、9月1日に「失業率が3.8%へ上昇したものの労働市場はなお強く依然として高過ぎる」と述べたが、9月FOMCで追加利上げすべきか据え置きとすべきかについては触れなかった。市場もしばらくはFOMCメンバーによる発言に注目しつつ、利上げ停止の可能性についてはやや優勢とのスタンスで推移するのではないかと思われる。
【米10年債利回りは乱高下後に急伸、ダウは反発】
9月1日の米長期債利回りは総じて上昇した。長期金利指標の10年債利回りは前日比0.07%上昇して4.18%となった。雇用統計発表後に乱高下して一時4.06%まで低下したところから反騰した。
30年債利回りは0.09%上昇の4.30%となったが、8月31日に4.18%まで低下したところから切り返している。
利上げに敏感な2年債利回りは前日比0.01%上昇の4.88%だったが、一時4.76%まで急低下してから大幅な切り返しとなった。米長期債利回りが揃って上昇したものの追加利上げを期待しての上昇というよりも3連休を控えて債券買い一巡により売られたことで債券安・利回り上昇となったのではないかと解釈されているようだ。
一方でNYダウは115.80ドル高と反発、ナスダック総合指数は3.16ポイント安と小幅安に終わった。
NYダウは8月1日に35679.13ドルを付けて年初来高値としてから下落してきたが、8月25日安値34029.22ドルから反騰入りしており、25日から30日まで4連騰したところから31日に168.33ドル安と反落したが、9月1日は115.80ドル高と反発した。ナスダック総合指数は7月19日に14446.55ポイントを付けて年初来高値としてから下落に転じたが、8月18日安値13161.77ポイントから反騰入りしており、25日から31日まで5連騰した後の1日は連騰一服と長期債利回り上昇に圧迫されて3.16ポイント安と小反落した。
【1995〜1998年型の上昇へ発展するか?】
ドル円は2021年1月6日安値102.56円から2022年10月21日高値151.94円まで49.38円の上昇後、今年1月16日安値127.22円まで24.72円の下落幅となったが、8月29日高値で147.36円まで切り返してきた。9月1日夜の急落から急反騰したことによりさらに高値を更新してゆく可能性も示した。
1995年4月19日安値79.70円から1998年8月11日高値147.63円まで67.93円の上昇幅となった時には、1997年5月1日高値127.46円まで47.76円の上昇幅となったところから同年8月11日安値110.52円まで16.94円の大幅下落が入ったが、そこからの切り返しで一段高している。
今年1月16日安値からの切り返し具合も月足で見れば1997年の反落とその後に一段高へ進んだ時に近い印象がある。
日銀が年内は金融緩和継続とし、米FRBが利上げ打ち止め感をより強める場合には日米金利差がこれ以上は拡大せずにいずれば日銀の長期金利上昇抑制が緩んだりマイナス金利からの脱却へ進んで円高が再開すると思われ、昨年10月高値とのダブル天井形成に終わる可能性が考えられるが、日銀の金融緩和が年明け以降も続くとの見方が強まり、米FRBの利上げ継続期間が長引いてまだしばらくは利下げの検討へ進めないという状況になれば、昨年10月高値を超えて1998年型の一段高へと進むこともあり得なくはないと思われる。
【当面のポイント】
中長期的な流れとしては昨年10月天井を試す、あるいは超える可能性も抱えている状況だが、当面は方向感を探る展開で推移してゆくと思われる。8月17日高値146.54円から8月29日高値147.36円へと年初来高値を切り上げる一方で、8月19日未明安値144.93円、24日未明安値144.54円、9月1日夜安値144.44円と安値ラインが切り下がっているため、現状はレンジ拡張型の持ち合いで騰落を繰り返しているところと思われる。
(1)当初、145.50円を下値支持線、146.50円を上値抵抗線とする。
(2)9月1日夜安値を起点として戻りを試しているところとみて、146.50円超えからは8月29日高値147.36円を試し、高値更新の場合は147.50円から147.70円台へ進む可能性があるとみるが、147.70円以上は反落注意とする。また9月4日の日中から5日夜にかけての間は目先の高値を付けて反落しやすい時間帯と注意する。
(3)145.50円割れからはいったん下げに入るとみて9月1日安値144.44円を試し、安値更新の場合は144.00円から143.70円台を試すとみる。143.70円以下は反騰注意とするが、145.50円以下で軟調推移の場合は9月1日夜安値を割り込む場合は8日夜にかけて安値試しを続けやすいとみる。
【当面の予定】
9/4(月)
休場 米国、カナダ、ベトナム
ASEAN首脳会議・関連会合(9/7まで、ジャカルタ)
08:50 (日) 8月 マネタリーベース 前年同月比 (7月 -1.3%)
15:00 (独) 7月 貿易収支 (6月 187億ユーロ、予想 180億ユーロ)
9/5(火)
08:30 (日) 7月 全世帯消費支出 前年同月比 (6月 -4.2%、予想 -2.5%)
10:30 (豪) 4-6月期 経常収支 (1-3月 123億豪ドル、予想 80億豪ドル)
10:45 (中) 8月 財新サービス業PMI (7月 54.1、予想 53.9)
13:30 (豪) RBA(豪中銀) 政策金利 (現行 4.10%、予想 4.10%)
16:55 (独) 8月 サービス業PMI・改定値 (速報 47.3、予想 47.3)
17:00 (欧) 8月 サービス業PMI・改定値 (速報 48.3、予想 48.3)
17:30 (英) 8月 サービス業PMI・改定値 (速報 48.7、予想 48.7)
18:00 (欧) 7月 PPI(生産者物価指数) 前月比 (6月 -0.4%、予想 -0.5%)
18:00 (欧) 7月 PPI(生産者物価指数) 前年同月比 (6月 -3.4%、予想 -7.6%)
23:00 (米) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 2.3%、予想 -2.5%)
9/6(水)
10:30 (豪) 4-6月期 GDP 前期比 (1-3月 0.2%、予想 0.3%)
10:30 (豪) 4-6月期 GDP 前年同期比 (1-3月 2.3%、予想 1.8%)
14:00 高田日銀審議委員、記者会見
15:00 (独) 7月 製造業新規受注 前月比 (6月 7.0%、予想 -4.0%)
15:00 (独) 7月 製造業新規受注 前年同月比 (6月 3.0%、予想 -3.9%)
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前月比 (6月 -0.3%、予想 -0.1%
18:00 (欧) 7月 小売売上高 前年同月比 (6月 -1.4%、予想 -1.2%)
21:30 (米) コリンズ・ボストン連銀総裁、講演
21:30 (米) 7月 貿易収支 (6月 -655億ドル、予想 -680億ドル)
22:15 (英) ベイリー英中銀総裁、議会証言
22:45 (米) 8月 サービス業PMI・改定値 (速報 51.0)
22:45 (米) 8月 総合PMI・改定値 (速報 50.4)
23:00 (加) BOC(カナダ中銀) 政策金利 (現行 5.00%、予想 5.00%)
23:00 (米) 8月 ISM非製造業景況指数 (7月 52.7、予想 52.4)
27:00 (米) 米地区連銀経済報告(ベージュブック)
28:00 ローガン・ダラス連銀総裁、コミュニティリスニングセッションに参加
9/7(木)
休場 ブラジル
未 定 (中) 8月 貿易収支・米ドル建て (7月 806.0億ドル、予想 676.8億ドル)
未 定 (中) 8月 貿易収支・人民元建て (7月 5757.0億元)
07:45 (NZ) 4-6月期 製造業売上高 前期比 (1-3月 -2.8%)
10:30 (豪) 7月 貿易収支 (6月 113.21億豪ドル、予想 97.00億豪ドル)
14:00 (日) 7月 景気先行指数CI・速報値 (6月 108.9、予想 107.8)
14:00 (日) 7月 景気一致指数CI・速報値 (6月 115.1、予想 114.2)
15:00 (独) 7月 鉱工業生産 前月比 (6月 -1.5%、予想 -0.4%)
15:00 (独) 7月 鉱工業生産 前年同月比 (6月 -1.7%、予想 -2.1%)
17:30 (欧) エルダーソンECB理事、講演
18:00 (欧) 4-6月期 GDP・確定値 前期比 (改定値 0.3%、予想 0.3%)
18:00 (欧) 4-6月期 GDP・確定値 前年同期比 (改定値 0.6%、予想 0.6%)
21:30 (米) 4-6月期 非農業部門労働生産性・改定値 前期比 (速報 3.7%、予想 3.6%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 22.8万件、予想 23.4万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 172.5万人)
23:00 (米) ハーカー・フィラデルフィア連銀総裁、講演
24:00 (米) EIA週間石油在庫統計
28:30 (米) ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁、イベント参加
28:45 (米) ボスティック・アトランタ連銀総裁、講演
9/8(金)
08:50 (日) 4-6月期 GDP・改定値 前期比 (速報 1.5%、予想 1.4%)
08:50 (日) 4-6月期 GDP・改定値 年率換算 (速報 6.0%、予想 5.6%)
08:50 (日) 7月 経常収支・季調前 (6月 1兆5088億円、予想 2兆2628億円)
08:50 (日) 7月 経常収支・季調済 (6月 2兆3459億円、予想 2兆1825億円)
08:50 (日) 7月 貿易収支・国際収支ベース (6月 3287億円、予想 1654億円)
14:00 (日) 8月 景気ウオッチャー現状判断DI (7月 54.4、予想 54.4)
14:00 (日) 8月 景気ウオッチャー先行判断DI (7月 54.1、予想 53.4)
15:00 (独) 8月 CPI(消費者物価指数)・改定値 前月比 (速報 0.3%、予想 0.3%)
15:00 (独) 8月 CPI(消費者物価指数)・改定値 前年同月比 (速報 6.1%、予想 6.1%)
23:00 (米) 7月 卸売売上高 前月比 (6月 -0.7%)
28:00 (米) 7月 消費者信用残高 前月比 (6月 178.5億ドル、予想 160.0億ドル)
注:ポイント要約は編集部
オーダー/ポジション状況
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