ドル円見通し 1月16日を起点とした三段上げの継続、当局の市場介入姿勢を試す
〇先週のドル円、25日のパウエル議長の追加利上げ示唆で146.62へ上昇、8/17高値を上抜け
〇パウエルFRB議長7月利上げ時点より時間経過によりややタカ派的なスタンスに変化か
〇円の独歩安ではなく全般のドル高と歩調を合わせた上昇は政府・日銀も市場介入根拠をつかめず
〇市場は円安許容水準を試すように高値更新を続けやすい局面か
〇146円台を維持するうちは上昇余地あり、146.62超えからは147円台序盤を目指す上昇を想定
〇145.72割れからは145円台前半を試す。145.72以下での推移なら29日も安値試しへ
〇米PCEデフレーター、米雇用統計後一段高へ進む場合、週末にかけ148円台へ向かう可能性も
【概況】
ドル円は8月17日午前に146.54円へ上昇して年初来高値を更新、8月19日未明値144.93円へ反落したところを買われて21日深夜と22日午前に146.39円まで戻したものの高値更新へ進めず、23日の欧米総合PMIが軒並み予想を下回る悪化となり米長期債利回りが急低下したために8月24日未明には144.54円を付けて19日未明安値を割り込んだ。しかしドル円の上昇基調継続感は変わらずとみて144円台を押し目買いされて24日夜には146円へ迫り、25日深夜のジャクソンホール会合においてパウエルFRB議長が追加利上げの可能性を示唆したことで146.62円へ上昇して8月17日高値を上抜いた。
【パウエルFRB議長、7月FOMC時点よりも若干タカ派的】
FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は8月25日のジャクソンホール会合における講演で、米国のインフレは鈍化しているものの依然として高すぎる、必要ならさらに利上げする用意があるとの姿勢を示した。
パウエル議長はインフレがFRBの目標である2%に向けて持続的に下がると確信するまでは引き締め的な金融政策を続けるとし、今後の会合では「経済指標を踏まえて慎重に追加引き締めか、金利を据え置くか決める」とした。議長は「昨年3月からインフレ抑制を目指して急ピッチの利上げを進めてきたが、景気は予想ほど冷え込んでいない」とし、「金利上昇により悪化していた住宅市況も盛り返しの兆しが見られる」とし、「物価の上ぶれリスクにより一段の金融引き締めが妥当となる可能性がある」と強調した。
FOMCは6月に利上げをいったん停止したが、7月会合(7/25-26開催)では0.25%利上げを決定して今後は指標次第で利上げも利上げ停止もあり得るとした。8月25日のパウエル議長講演も7月FOMCの基本姿勢と変わらないものだが、1か月を経過したところで追加利上げの可能性を示したことで、7月時点よりは時間経過によりややタカ派的なスタンスとなったのではないかと市場は受け止めている。
短期金利市場では9月FOMCでの利上げ確率はかなり低いが、11月会合等で追加利上げされる可能性や、利上げ状態の長期化により利下げ開始時期が先送りされる可能性が高まった印象だ。
8月31日にFRBが重視するインフレ指標であるPCE(個人消費支出)デフレーターの発表があるが、パウエル議長は7月のPCEを前年同月比3.3%上昇、コア指数で4.3%上昇になると予想しているとしたが、発表数字がこの予想を上回るか下回るか注目される。
【昨年10月からの下落時とは逆の背景】
ドル円は昨年10月21日高値151.94円からの下落が今年1月16日安値127.22円まで24.73円の下落幅となったところで一巡となり上昇再開に入った。
昨年10月21日高値からの下落は政府・日銀の9月22日、10月21日、10月24日における市場介入による円安抑制と、11月10日の米10月CPIが予想を大幅に下回ったことによる「逆CPIショック」、日銀が長短金利操作における長期金利変動許容上限を引き上げたことによる黒田総裁退任後の金融緩和政策修正への警戒感が背景だった。
しかし植田新総裁が金融緩和継続姿勢を示したこと、米国のインフレが高止まりの様相で引き締めが長期化して利下げ時期が先送りされる可能性が徐々に高まったことによりドル円は昨年9月22日の市場介入時高値145.89円を超えて146円台に到達してきた。7月28日の日銀金融政策決定会合で長期金利許容上限が引き上げられたものの金融緩和政策の基本は変わらないとして一時的な乱高下から上昇基調を継続してきた。
8月25日のパウエル議長講演を通過して1月16日安値以降の高値を更新したことにより、市場介入を警戒しつつも円の独歩安ではなく全般のドル高と歩調を合わせた上昇ならば政府・日銀も市場介入の根拠をつかめず、市場は円安許容水準を試すように高値更新を続けやすい局面に入っていると思われる。
【1月16日安値を起点とした三段上げの三段目】
1月16日安値からの上昇は3月8日高値137.91円までを一段目とし、3月24日安値129.63円から6月30日高値145.06円までを二段目とし、6月30日高値を超えたことで7月14日安値を起点として三段上げの三段目に入っている。
7月14日安値からの上昇をより細かくみれば、7月21日高値141.94円までを一段目、7月28日の日銀金融政策決定会合による乱高下時安値138.06円から二段目の上昇に入っており、この二段目の上昇が8月3日高値までを一段目、8月17日高値までを二段目とし、8月24日安値からは三段目の上昇期に入っていると解釈される。つまり現状は1月16日安値からの三段上げにおける三段目にあり、その三段目の上昇も三段上げ型で推移する中での二段目の途中であり、先高感が継続しやすい上昇波動を形成していると思われる。
当面は8月17日高値146.54円から8月24日未明安値144.54円までの下げ幅2.00円の倍返しで148.54円を目指し、先行きは昨年10月21日高値151.94円、今年6月30日高値から7月14日安値までの下げ幅7.82円の倍返しとなる152.88円等を目指して行く可能性も考えられる。
もちろん、円安によるインフレが国内10年債利回り上昇を招いたり、過度の円安を抑制するために口先介入やレートチェックによるけん制、実弾での市場介入と介入姿勢が段階的に強まってゆく可能性もあるため、口先介入のトーンが上がったと市場が受け止めれば乱調な展開に陥る可能性もあり、やや変動率の大きな展開へ進んで行くことも考えられる。
【当面のポイント】
(1)当初、8月25日深夜反落時安値145.72円を下値支持線、25日深夜高値146.62円を上値抵抗線とする。
(2)146円台を維持するか一時的に割り込んでも回復するうちは上昇余地ありとし、146.62円超えからは147円台序盤を目指す上昇を想定する。147円前後では売られやすいとみるが146円台維持で推移するなら29日も高値試しへ向かいやすいとみる。
(3)145.72円割れからは145円台前半(145.35円から145.00円)を試すとみる。145円台序盤は値頃買いされやすいとみるが、145.72円以下での推移なら29日も安値試しへ向かいやすいとみる。
(4)146円台後半で上値が重くなり145円前後へ下げる場合、その後の反騰で146円台を回復すれば、8月24日未明安値を中心として60分足レベルの逆三尊パターンを形成しての上昇期に入るとみる。8月31日の米PCEデフレーターや9月1日の米雇用統計をきっかけとして一段高へ進む場合は週末にかけて148円台へ向かう可能性もあるとみる。
【当面の予定】
8/28(月)
休場、英国、フィリピン
10:30 (豪) 7月 小売売上高 前月比 (6月 -0.8%、予想 0.2%)
14:00 (日) 6月 景気一致指数CI・改定値 (速報 115.2)
14:00 (日) 6月 景気先行指数CI・改定値 (速報 108.9)
21:00 (独) ナーゲル独連銀総裁、講演
24:30 (米) 財務省2年債入札
25:30 (米) バーFRB副議長、銀行サービス関連会合で講演
26:00 (米) 財務省5年債入札
8/29(火)
08:30 (日) 7月 失業率 (6月 2.5%、予想 2.5%)
08:30 (日) 7月 有効求人倍率 (6月 1.30、予想 1.30)
15:00 (独) 9月 GFK消費者信頼感 (8月 -24.4、予想 -24.5)
22:00 (米) 6月 連邦住宅金融局住宅価格指数 前月比 (5月 0.7%、予想 0.6%)
22:00 (米) 6月 ケース・シラー米住宅価格指数 前年同月比 (5月 -1.7%、予想 -1.7%)
23:00 (米) 7月 雇用動態調査(JOLTS)求人件数 (6月 958.2万件)
23:00 (米) 8月 コンファレンス・ボード消費者信頼感指数 (7月 117.0、予想 116.4)
26:00 (米) 財務省7年債入札
8/30(水)
休場、トルコ
07:45 (NZ) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 3.5%)
10:30 (豪) 7月 住宅建設許可件数 前月比 (6月 -7.7%、予想 -0.5%)
10:30 (豪) 7月 CPI(消費者物価指数) 前年同月比 (6月 5.4%、予想 5.2%)
14:00 (日) 8月 消費者態度指数・一般世帯 (7月 37.1 予想 37.4)
15:00 (独) 7月 輸入物価指数 前月比 (6月 -1.6%、予想 -0.2%)
15:00 (独) 7月 輸入物価指数 前年同月比 (6月 -11.4%、予想 -12.9%)
18:00 (欧) 8月 消費者信頼感・確定値 (速報 -16.0)
18:00 (欧) 8月 経済信頼感 (7月 94.5、予想 93.5)
21:00 (独) 8月CPI( 消費者物価指数)・速報値 前月比 (7月 0.3%、予想 0.3%)
21:00 (独) 8月 CPI(消費者物価指数)・速報値 前年同月比 (7月 6.2%、予想 6.0%)
21:15 (米) 8月 ADP非農業部門民間雇用者数 前月比 (7月 32.4万人、予想 19.8万人)
21:30 (米) 7月 卸売在庫 前月比 (6月 -0.3%)
21:30 (米) 4-6月期 GDP・改定値 前期比年率 (速報 2.4%、予想 2.4%)
21:30 (米) 4-6月期 GDP個人消費・改定値 前期比年率 (速報 1.6%、予想 1.8%)
21:30 (米) 4-6月期 コアPCE・改定値 前期比年率 (速報 3.8%、予想 3.8%)
23:00 (米) 7月 住宅販売保留指数 前月比 (6月 0.3%、予想 -1.0%)
23:00 (米) 7月 住宅販売保留指数 前年同月比 (6月 -14.8%)
23:30 (米) EIA週間石油在庫統計
8/31(木)
休場 マレーシア
08:50 (日) 7月 小売業販売額 前年同月比 (6月 5.9%、予想 5.5%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産・速報値 前月比 (6月 2.4%、予想 -1.3%)
08:50 (日) 7月 鉱工業生産・速報値 前年同月比 (6月 0.0%、予想 -1.4%)
10:00 (NZ) 8月 ANZ企業信頼感 (7月 -13.1)
10:30 (中) 8月 国家統計局製造業PMI (7月 49.3、予想 49.1)
10:30 (豪) 4-6月期 民間設備投資 前期比 (1-3月 2.4%、予想 1.0%)
14:00 (日) 7月 新設住宅着工戸数 前年同月比 (6月 -4.8%、予想 -1.3%)
16:15 ボスティック・アトランタ連銀総裁、南ア中銀主催のイベントで講演[南アフリカ・ケープタウン]
16:15 ピル英中銀理事、講演
16:55 (独) 8月 失業者数 前月比 (7月 -0.40万人、予想 1.00万人)
16:55 (独) 8月 失業率 (7月 5.6%、予想 5.7%)
18:00 (欧) 7月 失業率 (6月 6.4%、予想 6.4%)
18:00 (欧) 8月 HICP(消費者物価指数)・速報値 前年同月比 (7月 5.3%、予想 5.1%)
18:00 (欧) 8月 HICPコア指数・速報値 前年同月比 (7月 5.5%、予想 5.3%)
20:30 シュナーベルECB理事、講演
20:30 (欧) ECB(欧州中銀)理事会議事要旨
21:30 (米) 7月 個人所得 前月比 (6月 0.3%、予想 0.3%)
21:30 (米) 7月 PCE(個人消費支出) 前月比 (6月 0.5%、予想 0.7%)
21:30 (米) 7月 PCEデフレーター 前年同月比 (6月 3.0%、予想 3.3%)
21:30 (米) 7月 PCEコア・デフレーター 前月比 (6月 0.2%、予想 0.2%)
21:30 (米) 7月 PCEコア・デフレーター 前年同月比 (6月 4.1%、予想 4.2%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 23.0万件、予想 23.5万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 170.2万人、予想 171.0万人)
22:00 コリンズ・ボストン連銀総裁、コミュニティーカレッジについて講演[バーチャル形式]
22:45 (米) 8月 シカゴ購買部協会景況指数 (7月 42.8、予想 44.1)
25:00 デギンドスECB副総裁、講演
9/1(金)
08:50 (日) 4-6月期 全産業設備投資額 前年同期比 (1-3月 11.0%)
10:45 (中) 8月 財新製造業PMI (7月 49.2)
16:55 (独) 8月 製造業PMI・改定値 (速報 39.1)
17:00 (欧) 8月 製造業PMI・改定値 (速報 43.7)
17:30 (英) 8月 製造業PMI・改定値 (速報 42.5)
19:00 (米) ボスティック・アトランタ連銀総裁、イベント参加
21:30 (米) 8月 非農業部門就業者数 前月比 (7月 18.7万人、予想 16.0万人)
21:30 (米) 8月 失業率 (7月 3.5%、予想 3.6%)
21:30 (米) 8月 平均時給 前月比 (7月 0.4%、予想 0.3%)
21:30 (米) 8月 平均時給 前年同月比 (7月 4.4%、予想 4.3%)
22:45 (米) 8月 製造業PMI・改定値 (速報 47.0)
22:45 (米) メスター・クリーブランド連銀総裁、講演
23:00 (米) 8月 ISM製造業景況指数 (7月 46.4、予想 47.0)
23:00 (米) 7月 建設支出 前月比 (6月 0.5%、予想 0.5%)
注:ポイント要約は編集部
オーダー/ポジション状況
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