米国格下げと株安で下落するもADP統計発表後のドル全面高で切り返す
〇ドル円、8/2早朝フィッチの米国債格下げを受けて143円を割り込む
〇その後いったん戻してから日経平均の大幅下落等により夕刻安値142.21まで一段安
〇米ADP統計の予想大幅に超える就業者増に2日深夜143.40円台へ上昇、その後も143円台前半を維持
〇フィッチは、今後一時的なデフォルトリスクが発生しても追加の米国債格下げせずと明言
〇米長期債利回りは2年債低下、10年債上昇、ダウは4営業日ぶり反落
〇142.70以上での推移中は一段高余地ありとし、143.54超えからは144円を目指す上昇を想定
〇142.70割れからは2日夕安値142.21試しとし、底割れ回避なら143円を挟んだ持ち合いへ進むとみる
【概況】
ドル円は8月2日未明に143.54円へ上昇して7月28日の日銀金融政策決定会合を前後した乱高下で付けた安値138.06円以降の高値を更新したが、2日早朝に格付け大手のフィッチが米国債を格下げしたことをきっかけに143円を割り込み、いったん戻したところから日経平均の大幅下落や新発10年債利回りの上昇により夕刻安値142.21円まで一段安した。
しかし、米長期債利回りの上昇に支えられて142円台序盤から持ち直しに入り、夜の米ADP民間雇用で予想を大幅に超える就業者増となったことによるドル全面高により2日深夜には143.40円台へ上昇し、その後も143円台前半を維持している。
【フィッチは追加の米国債格下げせずと明言】
格付け大手のフィッチ・レーティングスは8月2日早朝に米国債の格付けを最上級の「トリプルA」から「ダブルAプラス」に1段階引き下げた。米議会における与野党協議がこじれて2年毎に債務上限問題がクローズアップされ、今後3年間で財政状況がさらに悪化する見通しであることを格下げの根拠としたが、その後には今後も想定される一時的なデフォルトリスクが発生したとしても追加の格下げは行わず、米経済の堅調さは保たれるとした。
米国債格下げにより米長期債利回りが上昇、NYダウが下落するなど影響も大きくイエレン米財務長官による批判もあったために市場反応を考慮して補足説明を行った印象だ。
フィッチの格下げにより米国債売り・債券利回り上昇というネガティブな長期債利回り上昇がみられたことでドル円はいったん下げ、円高と米国債格下げを嫌って日経平均が一時800円安を超える急落となった。
7月28日に日銀がYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)における長期金利変動許容基準を従来の0.50%から事実上1.0%まで引き上げたことにより8月2日の新発10年債利回りは前日から0.035%上昇の0.625%となり2014年4月以来9年ぶりの高水準へ上昇したことも円高要因となったが、すでに市場は0.60%から0.70%程度への上昇を織り込み済としてドル円は7月28日の乱高下から急伸していることと、米長期債利回りが上昇していることで日米金利差面での円高圧力もさほど大きくならないとの認識が優勢となり円高反応も限定的だったといえる。
内田日銀副総裁は8月2日に今回のYCC修正は国債市場の機能不全解消と為替市場を意識したものとした上で「デフレマインドが変わりつつあるがまだ達成を見通せず、粘り強く緩和を続ける局面」と述べて金融緩和政策の継続姿勢を示している。
【ADP民間雇用、予想を大幅に超える就業者増加】
8月2日夜に発表された米民間雇用サービス会社ADPによる7月全米雇用報告では、非農業部門民間就業者数が前月比32.4万人増となり6月に45.5万人の大幅増となったところからは低下したものの市場予想の18.9万人増を大きく上回った。内訳では製造業が6月の4.2万人減から7月も3.6万人減となり、金融が6月の3.0万人減から7月も0.5万人減となったものの、それ以外の物流、建設、情報、専門ビジネス、教育、医療、レジャー、接客等が総じて増加しており、労働市場のタイトさが再認識された。
発表後に8月4日発表予定の労働省による米7月雇用統計における非農業部門就業者数についての事前予想は19.0万人増から20.0万人増へ引き上げられており、労働省雇用統計も堅調な場合はドル高反応を招きやすくなると思われる。ただし、ADPと労働省雇用統計は必ずしも同期せずにADPが好調でも労働省統計が予想外に低調というケースもある
【米長期債利回りは2年債低下、10年債上昇、ダウは4営業日ぶり反落】
8月2日の米長期債利回りはまちまち。長期金利指標の10年債利回りは前日比0.05%上昇の4.08%、30年債利回りは0.08%上昇の4.18%、2年債利回りは0.03%低下の4.88%となった。
10年債利回りは一時4.13%を付けて3月2日および7月7日の4.09%を超えて4月の3.25%以降の最高水準に達した。30年債利回りも2022年12月の3.41%以降の最高水準とした。ただし2年債利回りは7月27日に4.95%まで上昇した後は高止まりの横ばい推移となっている。
米国債の格下げによる債券売り・利回り上昇に加えてADP統計後は追加利上げの可能性が高まるとして利回り上昇が続いた印象だ。
一方でNYダウは前日比348.16ドル安と4営業日ぶりの反落で格下げと長期債利回り上昇に圧迫された。ナスダック総合指数も310.46ポイント安と大幅下落した。
【60分足一目均衡表・サイクル分析】
ドル円は7月28日の乱高下で付けた安値138.06円を起点とした上昇が8月2日未明高値143.54円で一巡となり2日夕刻へ下げたが、2日深夜には143.40円台まで戻して下げ幅の大半を解消しているため、8月2日夕安値で目先の底を付けて新たな上昇期に入ったと思われる。高値形成期は5日未明から9日未明にかけての間と想定されるので8月2日未明高値超えからは上昇が勢い付く可能性があるとみるが、ダブルトップに終わる可能性もあると注意し、2日夕安値割れからは7日午後から9日夕にかけての間への下落を想定する。
60分足の一目均衡表で8月2日夕刻への下落で先行スパンへ一時的に潜り込んだところから上放れしており、遅行スパンもいったん悪化してから好転し始めているので、遅行スパン好転中は高値試し優先とする。ただし、上値が伸びずに先行スパンへ再び潜り込むところからは弱気転換注意とし、先行スパンから転落する場合は遅行スパン悪化中の安値試しが続きやすくなるとみる。
60分足の相対力指数は8月2日夕刻への下落で30ポイント台へ低下してから60ポイント到達へ戻し、その後も50ポイント以上を維持しているので65ポイント超えからは70ポイント台中盤への上昇を想定する。ただし、50ポイント割れからは反落警戒とし45ポイント割れからは下落再開とみて30ポイント台への低下へ向かうとみる。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)当初、142.70円を下値支持線、8月2日未明高値143.54円を上値抵抗線とする。
(2)142.70円以上での推移中は一段高余地ありとし、143.54円超えからは144円を目指す上昇を想定する。144円到達では売られやすいとみるが、143.25円以上での推移なら4日午前も高値試しへ向かいやすいとみる。
(3)142.70円割れからは2日夕安値142.21円試しとし、底割れ回避なら143円を挟んだ持ち合いへ進むとみるが、底割れからは141円前後を目指す下落期入りと考える。また142.21円を割り込んでの推移なら4日午前も安値試しへ向かいやすいとみる。
【当面の主な予定】
8/3(木)
10:30 (豪) 6月 貿易収支 (5月 117.91億豪ドル、予想 105.00億豪ドル)
10:45 (中) 7月 財新サービス業PMI (6月 53.9、予想 52.4)
15:00 (独) 6月 貿易収支 (5月 144億ユーロ、予想 150億ユーロ)
16:55 (独) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 52.0、予想 52.0)
17:00 (欧) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 51.1、予想 51.1)
17:30 (英) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 51.5、予想 51.5)
18:00 (欧) 6月 PPI(生産者物価指数) 前月比 (5月 -1.9%、予想 -0.3%)
18:00 (欧) 6月 PPI(生産者物価指数) 前年同月比 (5月 -1.5%、予想 -3.2%)
20:00 (英) 英中銀(BOE) 政策金利 (現行 5.00%、予想 5.25%)
20:30 (英) ベイリー英中銀(BOE)総裁、会見
21:30 (米) 4-6月期 非農業部門労働生産性・速報値 前期比 (1-3月 -2.1%、予想 2.3%)
21:30 (米) 4-6月期 単位労働コスト・速報値 前期比年率 (1-3月 4.2%、予想 2.5%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 22.1万件、予想 22.5万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 169.0万人、予想 170.0万人)
21:30 バーキン・リッチモンド連銀総裁、講演
22:45 (米) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 52.4、予想 52.4)
23:00 (米) 7月 ISM非製造業景況指数 (6月 53.9、予想 53.0)
23:00 (米) 6月 製造業新規受注 前月比 (5月 0.3%、予想 2.0%)
8/4(金)
10:30 (豪) 豪中銀(RBA) 四半期金融政策報告
15:00 (独) 6月 製造業新規受注 前月比 (5月 6.4%、予想 -2.0%)
15:00 (独) 6月 製造業新規受注 前年同月比 (5月 -4.3%、予想 -5.3%)
18:00 (欧) 6月 小売売上高 前月比 (5月 0.0%、予想 0.3%)
18:00 (欧) 6月 小売売上高 前年同月比 (5月 -2.9%、予想 -1.7%)
20:15 (英) ピル英中銀理事、英中銀金利決定についてブリーフィング
21:30 (米) 7月 非農業部門就業者数 前月比 (6月 20.9万人、予想 20.0万人)
21:30 (米) 7月 失業率 (6月 3.6%、予想 3.6%)
21:30 (米) 7月 平均時給 前月比 (6月 0.4%、予想 0.3%)
21:30 (米) 7月 平均時給 前年同月比 (6月 4.4%、予想 4.2%)
注:ポイント要約は編集部
オーダー/ポジション状況
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