ドル円見通し 日銀金融政策決定会合から乱高下したが、日足は下ヒゲの大陽線(週報7月五週)

日銀は大規模金融緩和策におけるYCCの運用を柔軟化するとし、長期金利の変動許容基準についてこれまでの上限0.5%を一定程度上回ることを容認した。

ドル円見通し 日銀金融政策決定会合から乱高下したが、日足は下ヒゲの大陽線(週報7月五週)

日銀金融政策決定会合から乱高下したが、日足は下ヒゲの大陽線

〇先週のドル円、週末日銀会合でのYCC柔軟化に141.03に急伸後138.06に急落する乱高下
〇海外時間は日銀の金融緩和策は継続中との見方から再度の円売りとなり141円台に戻して越週
〇日銀、長期金利の変動許容基準を一定程度上回ることを容認、指値オペの適用金利も1%に変更
〇植田総裁、許容上限の引き上げは「為替の変動も含めて考えた」と述べ、円安けん制を示唆
〇ドル円は乱高下の後、日銀会合を強気で通過、7/21高値141.94を超えれば上昇継続感高まるか
〇140円以上での推移のうちは上昇感継続、141.94超えからは143円台を目指す上昇を想定
〇139.50割れからは再度7/28安値138.06を試す下落、底割れの場合7/14安値137.24試しへ

【概況】

ドル円は6月30日に145.06円を付けて年初来高値としたところから下落に転じ、7月14日には137.24円の安値を付け、その後の持ち直しで7月21日高値で141.94円を付けた後は再び軟調な推移に入っていた。
6月30日からの下落は昨年9月の市場介入水準に近付いたことや日銀の金融緩和政策が出口へ向かうことへの警戒感が背景であり、7月14日からの21日への上昇は日銀の金融緩和政策維持姿勢を背景としたものだった。
先週はFOMC、日銀金融政策決定会合と重要イベントが続いたが、7月27日未明のFOMCが市場予想通りに0.25%利上げを決定した上で9月会合以上は指標次第で追加利上げも利上げ停止もあり得るとしたことを6月会合時点からタカ派色が薄まったと市場は受け止めてドル安反応となり、ドル円は7月27日午前安値で139.35円まで下げたが、27日夕刻には複数通信社が日銀現状維持見込みと報じたことで141.31円まで反騰した。

日経新聞電子版が日銀はYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)を柔軟化する見込みと報じたことで28日早朝には139円割れへ急落に転じ、日銀金融政策決定会合の結果発表から一時141.03円へ急伸し、直後に138.06円へ急落する乱高下に見舞われた。日銀はマイナス金利等による金融緩和政策を継続するとしたことが当初の円安を誘ったが、長期金利変動許容上限を引き上げたことを事実上の利上げ措置と受け止めて急激な円高となった。
日銀政策発表後の乱高下が落ち着いた後、28日夜の米PCEデフレーターが鈍化したことにより米長期債利回りが低下したが、ドル円はYCC修正による円買いが落ち着いた後は金融緩和政策はまだ継続中としてドル買いが再開、29日早朝には141円台まで戻した。

【日銀、長期金利変動許容上限を引き上げ】

日銀は7月28日に金融政策決定会合の結果を発表、日銀当座預金の一部にマイナス0.1%を適用する「マイナス金利政策」を維持したが、大規模金融緩和策におけるYCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)の運用を柔軟化するとし、長期金利の変動許容基準についてはこれまでの上限0.5%を一定程度上回ることを容認した。
指定した利回りで10年債を無制限に毎日買い入れる「指し値オペ」においては適用金利を従来の0.5%から1.0%に引き上げており、植田総裁は「長期金利が1.0%へ上昇することは想定していない。念のための上限」と述べたが、市場は「事実上の追加利上げ」と受け止めて政策発表後に新発10年債利回りは一時0.575%まで上昇した。

植田総裁は2%物価目標については、「少し前進したがまだまだ距離感がある」とし、「粘り強く緩和を続ける」
とし、許容上限の引き上げについては「為替の変動も含めて考えた」と述べており、円安けん制の意味もあることを示唆した。
日銀は7月14日に大規模金融緩和政策の検証についてまとめを行う会合を12月と来年5月に行うとしている。日銀展望リポートでは、2023年度の生鮮食品を除く物価上昇率見通しを4月時点の1.8%から2.5%へ上方修正したが、2024年度を4月時点の2.0%から1.9%へ、2025年度は1.6%で据え置いており、世界的なインフレ鈍化傾向と主要国の利上げサイクルが終了プロセスに入り始めていることを踏まえれば、まだしばらくは小手先の軌道修正を入れながらも金融緩和政策は続くと思われる。

【米PCEの鈍化傾向続き、9月FOMCでの追加利上げ予想は低い】

米商務省による6月の個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率は前年同月比3.0%となり、5月の3.8%から2か月連続の鈍化で2021年3月以来の低水準となった。エネルギーと食品を除いたコア指数の上昇率は前年同月比4.1%で5月の4.6%から鈍化した。エネルギー関連は前年同月比18.9%の大幅低下だったがサービス価格は4.9%上昇となり、労働市場のタイト感と賃金上昇圧力をにじませた。
米労働省による4-6月期の雇用コスト指数は前期比1.0%上昇で1-3月期の1.2%から鈍化、前年同期比は4.5%で1-3月の4.8%から鈍化した。

米ミシガン大による7月消費者信頼感指数確報値は71.6となり、速報値の72.6から下方修正されて市場予想の72.6を下回ったが6月確報値の64.4からは上昇した。また市場が注目している1年先期待インフレ率は6月確報値の3.3%から7月確報値は3.4%へ上昇、5年先期待インフレ率は3.0%で6月と変わらなかった。
米FRBは7月25-26日開催のFOMCにおいて0.25%の利上げを決定し、9月以降については指標次第で利上げも見送りもあり得るとしたが、7月27日夜の米GDPが予想を上回ったことが追加利上げ感を若干高めたもののPCEデフレーターの鈍化傾向により利上げ見送り感が盛り返した印象だ。

【米長期債利回りは低下、ダウは13連騰一服から反騰】

7月28日の米長期債利回りは総じて低下した。長期金利指標の10年債利回りは7月19日に3.73%まで低下したところから上昇期に入り7月27日は米GDP速報値が予想を上回ったこと等から前日比0.13%高となり、28日も4.04%まで高値を伸ばしたが、米PCEデフレーターの鈍化により前日比0.05%低下して3.95%で週を終えた。
利上げに敏感な2年債利回りは7月13日に4.61%まで低下したところから上昇期に入り27日には4.95%まで高値を伸ばしてきたが、28日は0.05%低下の4.88%に終わり、7月6日に付けた昨年来ピークである5.12%には届かない範囲で上昇一服感が出ている印象だ。米金利先物市場における9月FOMCでの追加利上げ確率は2割程度のようだ。
一方でNYダウは前日比176.57ドル高と反発した。7月27日に反落したために連騰は13日で止まったが、13連騰は1987年1月以来36年ぶりであり、仮に14連騰となったなら1897年以来126年ぶりの快挙だったが、さすがに高値警戒感で反落を入れたものの、FOMCのタカ派姿勢がやや緩みつつあり、リセッションへの懸念が後退していることで先高期待は健在のようだ。ナスダック総合指数も266.55ポイント高と上昇した。

【1日の高安で3円を超える波乱だが、日足は大陽線】

【1日の高安で3円を超える波乱だが、日足は大陽線】

1日の値幅で3円を超える波乱だったが、日足チャートでは長い下ヒゲを付けた大陽線による上昇であり、結果論としては日銀金融政策決定会合を波乱しつつも強気で通過したということになる。
7月14日安値割れを回避して切り返したため、7月21日高値を超えれば上昇の継続感が強まると思われるが、今年1月16日安値を起点とした上昇を3月8日までを一段目とし、3月24日安値から6月30日高値までを二段目とし、7月14日安値から三段目の上昇へと発展する可能性も出てきたのではないかと考える。

以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)中勢としては当面、7月28日安値138.06円を下値支持線、7月21日高値141.94円を上値抵抗線とする。
(2)140円以上での推移か一時的に140円を割り込んでも回復するうちは7月28日安値を起点とした上昇の継続感を優先し、7月21日高値141.94円超えからは143円台を目指す上昇を想定する。直前高値から1円前後規模の反落は押し目買い有利とみる。
(3)139.50円割れからはもう一度7月28日安値138.06円を試す下落と考える。底割れ回避ならその後に反落幅の半値以上を解消するところから上昇再開とみるが、底割れの場合は7月14日安値137.24円試しへ向かうとみる。
※ 7月28日の日足は長い下ヒゲの大陽線となった。7月31日の日足を高値切り上げを伴う陽線の連続とすれば上昇感が強まると思われるが、7月28日の大陽線の下ヒゲをつぶす下落発生からは上昇継続感が薄れると思われる。

【当面の主な予定】

7/31(月)
08:50 (日) 6月 小売業販売額 前年同月比 (5月5.7%、予想 5.4%)
08:50 (日) 6月 鉱工業生産・速報値 前月比 (5月 -2.2%、予想 2.4%)
08:50 (日) 6月 鉱工業生産・速報値 前年同月比 (5月 4.2%、予想 0.3%)
10:00 (NZ) 7月 ANZ企業信頼感 (6月 -18.0)
10:30 (中) 7月 国家統計局製造業PMI (6月 49.0、予想 48.9)
14:00 (日) 7月 消費者態度指数・一般世帯 (6月 36.2、予想 36.2)
14:00 (日) 6月 新設住宅着工戸数 前年同月比 (5月 3.5%、予想 -0.5%)
15:00 (独) 6月 輸入物価指数 前月比 (5月 -1.4%、予想 -0.8%)
15:00 (独) 6月 輸入物価指数 前年同月比 (5月 -9.1%、予想 -10.7%)
15:00 (独) 6月 小売売上高 前月比 (5月 0.4%、予想 -0.3%)
15:00 (独) 6月 小売売上高 前年同月比 (5月 -5.1%、予想 -0.4%)

18:00 (欧) 4-6月期 GDP・速報値 前期比 (1-3月 -0.1%、予想 0.2%)
18:00 (欧) 4-6月期 GDP・速報値 前年同期比 (1-3月 1.0%、予想 0.5%)
18:00 (欧) 7月 HICP(消費者物価指数)・速報値 前年同月比 (6月 5.5%、予想 5.3%)
18:00 (欧) 7月 HICPコア指数・速報値 前年同月比 (6月 5.5%、予想 5.4%)
22:45 (米) 7月 シカゴ購買部協会景況指数 (6月 41.5、予想 43.4)

8/1(火)
休場 スイス、タイ
07:45 (NZ) 6月 住宅建設許可件数 前月比 (5月 -2.2%)
08:30 (日) 6月 失業率 (5月 2.6%、予想 2.6%)
10:30 (豪) 6月 住宅建設許可件数 前月比 (5月 20.6%、予想 -8.0%)
10:45 (中) 7月 財新製造業PMI (6月 50.5、予想 50.1)
13:30 (豪) 豪中銀(RBA) 政策金利 (現行 4.10%、予想 4.35%)
15:00 (英) 7月 ネーションワイド住宅価格 前月比 (6月 0.1%、予想 -0.4%)
16:55 (独) 7月 製造業PMI・改定値 (速報 38.8、予想 38.8)
16:55 (独) 7月 失業者数 前月比 (6月 2.80万人、予想 2.50万人)
16:55 (独) 7月 失業率 (6月 5.7%、予想 5.8%)

17:00 (欧) 7月 製造業PMI・改定値 (速報 42.7、予想 42.7)
17:30 (英) 7月 製造業PMI・改定値 (速報 45.0、予想 45.0)
18:00 (欧) 6月 失業率 (5月 6.5%、予想 6.5%)
22:45 (米) 7月 製造業PMI・改定値 (6月 49.0、予想 49.0)
23:00 (米) 7月 ISM製造業景況指数 (6月 46.0、予想 47.0)
23:00 (米) 6月 建設支出 前月比 (5月 0.9%、予想 0.6%)
23:00 (米) 6月 JOLTS(雇用動態調査)求人件数 (5月 982.4万件)

8/2(水)
英中銀金融政策委員会(MPC)初日
07:45 (NZ) 4-6月期 就業者数 前期比 (1-3月 0.8%)
07:45 (NZ) 4-6月期 就業者数 前年同期比 (1-3月 2.5%)
07:45 (NZ) 4-6月期 失業率 (1-3月 3.4%)
08:50 (日) 7月 マネタリーベース 前年同月比 (6月 -1.0%)
08:50 (日) 日銀・金融政策決定会合議事要旨
21:15 (米) 7月 ADP非農業部門民間就業者数 前月比 (6月  49.7万人、予想 18.5万人)
23:30 (米) EIA週間石油在庫統計

8/3(木)
08:50 日銀金融政策決定会合議事要旨(6月15-16日開催分)
10:30 (豪) 6月 貿易収支 (5月 117.91億豪ドル)
10:45 (中) 7月 財新サービス業PMI (6月 53.9、予想 52.7)
15:00 (独) 6月 貿易収支 (5月 144億ユーロ)
16:55 (独) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 52.0、予想 52.0)
17:00 (欧) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 51.1、予想 51.1)
17:30 (英) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 51.5、予想 51.5)
18:00 (欧) 6月 PPI(卸売物価指数) 前月比 (5月 -1.9%)
18:00 (欧) 6月 PPI(卸売物価指数) 前年同月比 (5月 -1.5%)

20:00 (英) 英中銀(BOE) 政策金利 (現行 5.00%、予想 5.25%)
20:30 (英) ベイリー英中銀(BOE)総裁、会見
21:30 (米) 4-6月期 非農業部門労働生産性・速報値 前期比 (1-3月 -2.1%、予想 1.2%)
21:30 (米) 4-6月期 単位労働コスト・速報値 前期比年率 (1-3月 4.2%、予想 2.6%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 22.1万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 169.0万人)
21:30 バーキン・リッチモンド連銀総裁、講演
22:45 (米) 7月 サービス業PMI・改定値 (速報 52.4、予想 52.4)
23:00 (米) 7月 ISM非製造業景況指数 (6月 53.9、予想 53.0)
23:00 (米) 6月 製造業新規受注 前月比 (5月 0.3%、予想 0.1%)

8/4(金)
10:30 (豪) 豪中銀(RBA) 四半期金融政策報告
15:00 (独) 6月 製造業新規受注 前月比 (5月 6.4%、予想 -2.4%)
15:00 (独) 6月 製造業新規受注 前年同月比 (5月 -4.3%、予想 -5.7%)
18:00 (欧) 6月 小売売上高 前月比 (5月 0.0%、予想 0.0%)
18:00 (欧) 6月 小売売上高 前年同月比 (5月 -2.9%、予想 -1.9%)
20:15 (英) ピル英中銀理事、英中銀金利決定についてブリーフィング
21:30 (米) 7月 非農業部門就業者数 前月比 (6月 20.9万人、予想 19.0万人)
21:30 (米) 7月 失業率 (6月 3.6%、予想 3.6%)
21:30 (米) 7月 平均時給 前月比 (6月 0.4%、予想 0.3%)
21:30 (米) 7月 平均時給 前年同月比 (6月 4.4%、予想 4.2%)

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