「日銀、長短金利操作修正に向けた頭の体操」
縁あって月に一度のペースで当該コラムを執筆させていただくこととなった。
様々なアングルから為替相場を中心に、マーケット動向を少し中長期的なスパンで事象の背景にある本質について考察してみることで、皆さんの相場観の醸成に参考になるコラムを目指したいと考えている。
さて、6月第3週に開催された日米欧の金融政策は、ほぼ大方の市場参加者の予想通りの結果となり、市場は注目された中央銀行ウィークを大きな波乱なくこなした。若干の目新しさがあったとすれば、米国の政策金利(Fed Funds Rateの誘導目標金利)の到達点(Terminal Rate)が、年内に5.5%〜5.75%の水準まで上昇する可能性が示唆されたことと、日銀が大規模緩和を維持しつつも、長短金利操作(以下、YCC)修正についてはある程度のサプライズが発生することもやむを得ない、と植田総裁が記者会見で言及したことだろうか。
米国の政策金利の誘導目標が上振れする可能性と、日本のYCC修正にサプライズが生じ得るという二つの材料の金融・為替市場全体へ与えるマグニチュードの大きさという観点では、字面の面からは、後者の方が、遥かにインパクトが大きい。
日銀は、4月の金融政策決定会合後に、過去25年間の金融政策についての多角的レビューを1年から1年半程度の時間をかけて行うということを発表している。円の短期金利をゼロ近辺に誘導することを修正するには、この大掛かりなレビューを終えてからと考えるのが自然であり、マイナス金利政策は相当期間継続すると考えておくのが自然だ。
一方、YCCについては、副作用の弊害も折に触れて指摘されることから、レビューの終了を待たずに修正が行われることも想定しておかねばならないだろう。ここでは、YCCが修正された際に、為替相場にどういった影響を与えるのか、ドル円相場をベースに頭の体操をしておきたい。
上述のとおり円の短期金利については相当の期間、ゼロ金利近辺で推移することが見込まれる一方、米ドルは短期金利が5%台、10年金利も4%に近い金利水準で推移している。現在の米ドルと円の金利環境では、円を対価に米ドルのショート(Short position)を保持(carry)し続けることはコスト(carrying cost)の観点から難しい。為替市場では実需筋の為替予約は輸出予約(ドル売り予約)が短期化し、投機筋はドル売りポジションを造成しても短期勝負とならざるを得ない。
また、米ドルの逆イールドも、米ドルの為替相場のサポート要因となっている。投資家や投機筋が短期金融市場から米ドル市場金利で資金調達をして米ドル建て債券で運用したのでは、逆ザヤとなってしまう。米国の非居住者が米ドル建ての債券投資を行おうとすれば、為替リスクを取って(自国通貨を対価に米ドルを買って)米ドル建て債券を購入するのがリスクテイクの手法としてあり得る選択肢だ。特に評価損益を気にしなくて良い個人投資家には、為替ヘッジなしの米ドル債投資は魅力的だ。
一方、円は米ドルと違って、イールドカーブが僅かではあるが立っている(順イールドである)。YCCの修正で長期金利が上昇すれば、現在、短期金融市場で円を調達して、円建ての債券で運用している投資家にとっては既存のポートフォリオは評価損が膨らむが、新規の債券投資は利ザヤが拡大するので朗報となる。しかし、米ドルを運用原資としている外国人投資家にとっては、為替市場で米ドルを売って円転してまで円建て債券を購入するには、長期金利がよほど上昇するか、円相場の先高観が醸成されるまでは難しいだろう。
頭を整理すると、YCCが修正された際に、そのニュースの字面のインパクトは極めて大きい。為替ディーラーは条件反射的に米ドル売り・円買いのポジション造成を行うだろうが、YCCの修正だけで中長期的なドル高・円安トレンドが反転するのは難しいのではないか。現在のドル高・円安トレンドは、@米ドルと円との圧倒的な金利差、Aイールドカーブが、円は順イールド、米ドルは逆イールド、という日米の金利構造の要因が主因であり、YCCの修正だけでこの環境が覆るまでには至らないと考えられるからだ。
YCCについては、その副作用も少なくないことから、修正しやすい環境にあるタイミングで修正しておくのが得策ではないだろうか。為替市場での円安の加速、日本の株式市場の過熱感、日米の選挙日程などを考えれば、欧米の主要プレイヤーが夏休み入りしている次回7月の金融政策決定会合こそが、そのタイミングとしては、絶妙と思えるのだが・・・。
ドル円月足
オーダー/ポジション状況
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