『米金利上昇・米ドル高トレンドの終わりの始まり』
〇ドル円、週初英トリプル安、米長期金利急上昇、FRB関係者のタカ派発言に144.92まで上昇
〇その後は政府・日銀による介入警戒感、英中銀の緊急安定化措置と米金利低下に小緩む
〇ユーロドル、週央にかけて、2002年6月以来、約20年3ヵ月ぶり安値となる0.9535まで急落
〇英新政権の巨額財政支出からの英トリプル安、米金利の上昇、ノルドストリームのガス漏れ等が背景
〇売り一巡後はECB関係者のタカ派発言、英中銀の国債買い入れ発表等に0.9853まで急伸
〇ドル円、介入警戒感と、ドル独歩高、円独歩安の流れの後退等短期的反落材料増える
〇短期的なドル円下落をメインシナリオとして予想
〇来週の予想レンジ(USDJPY):142.50ー145.50、(EURUSD):0.9600−0.9900
今週のレビュー(9/26−9/30)
<ドル円相場>
今週のドル円相場(USDJPY)は、週初143.40で寄り付いた後、早々に週間安値143.27まで下落しました。しかし、一目均衡表転換線をバックに下げ渋ると、@英国のトリプル安進行と金融市場の不安定化(英中銀による国債増発に伴う財政およびインフレ悪化懸念→英ポンド急落→リスク回避のドル買い圧力)や、A米長期金利の急上昇(日米名目金利差拡大に伴うドル買い・円売り→米ドル指数は2002年5月以来の高値圏へ急上昇)、Bクリーブランド連銀メスター総裁による「追加利上げが必要になるだろう」とのタカ派的な発言、Cシカゴ連銀エバンズ総裁による「年末時点のFF金利コンセンサスは4.25-4.50%」とのタカ派的な発言、Dミネアポリス連銀カシュカリ総裁による「FRBは非常に積極的に動いており、政策は遅れを取っている」とのタカ派的な発言、E米経済指標の力強い結果(米8月製造業受注、米8月耐久財受注、米9月コンファレンスボード消費者信頼感指数、米8月新築住宅販売件数、米9月リッチモンド連銀製造業景況指数など)が支援材料となり、翌9/27にかけて、週間高値144.92まで急伸しました。
もっとも、心理的節目145.00をバックに伸び悩むと、F政府・日銀による介入警戒感(145.00到達後に政府・日銀が円買い介入を決断するのではないかとの思惑)や、G上記Fを背景とした短期筋のポジション調整、H英中銀によるサプライズ的な緊急安定化措置発表(長期国債の買い入れ再開とQT開始期限の延期)、I上記Hを背景とした米長期金利の急低下(米10年債利回りは9/28に記録した2010年4月以来の高水準となる4.01%から3.68%へ急低下)、J資産現金化需要のドル買い後退、K政府・日銀による相次ぐ円安牽制発言(防衛ライン145.00を前に鈴木財務相は「為替、必要があれば必要な措置を今後とる」「為替、急激で一方的なものは望ましくない」と発言)が重石となり、本稿執筆時点(日本時間10/1午前2時30分現在)では、144.75前後まで小緩む展開となっております。
<ユーロドル相場>
今週のユーロドル相場(EURUSD)は、週初0.9679で寄り付いた後、@トラス新政権による大規模財政支出計画の発表(9/23)や、Aクワーテング財務相による「まだ追加的な措置がある」とのサプライズ発言(9/25)、B上記@Aを背景とした英国のトリプル安進行と金融市場のリスクオフ再開(国債増発に伴う財政およびインフレ悪化懸念→英ポンド急落→リスク回避のドル買い圧力→ユーロドル連れ安)、C米金利上昇に伴うドル買い圧力、Dロシア・ウクライナ情勢の緊迫化、Eドイツ9月IFO景況感指数(結果84.3、予想87.1、結果88.6)の冴えない結果、Fイタリアを巡る政局不透明感(9/25に投開票されたイタリア総選挙で右派連合が上下両院で過半数の議席を獲得→EUとの対立先鋭化懸念)、
GOECDによる2023年のユーロ圏成長率の下方修正(結果+0.3%、前回+1.6%)、H北大西洋条約機構ストルテンベルグ事務総長による「ノルドストリーム1」および「ノルドストリーム2」で見つかったガス漏れはロシアによる破壊行為が原因とのネガティブ発言、I上記Hを背景としたオランダTTF天然ガス先物価格の急上昇が重石となり、週央にかけて、2002年6月以来、約20年3ヵ月ぶり安値となる0.9535まで急落しました。
しかし、売り一巡後に下げ渋ると、JラガルドECB総裁による「インフレ期待を抑制できない状況を許さないという強いシグナルを出す必要がある」「今後数カ月は利上げを継続するだろう」とのタカ派的な発言や、KレーンECB専務理事兼チーフ・エコノミストによる「ECBは10月会合で0.50%か0.75%の利上げを実施する可能性」とのタカ派的な発言、L英中銀によるサプライズ的な緊急安定化措置発表(長期国債の買い入れ再開とQT開始期限の延期)、M上記Lを背景とした世界的な長期金利急低下(英国債利回り急低下→米国債利回り急低下→米ドル売り)、Nドイツによるガス価格の上限設定「合意」報道、Oノルドストリーム1のガス漏れが週明け10/3に止まる公算が大きいとの楽観報道、
P欧州当局者による相次ぐタカ派発言(リトアニア中銀シムカス総裁、スロベニア中銀バスレ総裁、エストニア中銀ミュラー総裁、フィンランド中銀レーン総裁、デギンドスECB副総裁、レーンECB専務理事兼チーフ・エコノミストなど)、Qユーロ圏9月消費者物価指数(結果10.0%、予想9.7%、※前年比)の伸び率加速が支援材料となり、週末にかけて、週間高値0.9853まで急伸しました。もっとも、ショートカバー一巡後に伸び悩むと、R英国財政を巡る先行き不透明感(英政府による緊急安定化措置の賞味期限切れへの警戒感)や、S欧州経済の先行き不透明感が重石となり、本稿執筆時点(日本時間10/1午前2時30分現在)では、0.9790前後で推移しております。
来週の見通し(10/3−10/7)
<ドル円相場>
ドル円(USDJPY)は9/23に記録した約24年1ヵ月ぶり高値145.90(1998年8月以来の高値圏)をトップに反落に転じると、政府・日銀による実弾介入を経て一時140.35まで暴落しましたが、今週は買い戻しが優勢となり、9/28に144.92まで持ち直す動きとなりました(ローソク足が全ての主要レジスタンスポイントを上抜けした他、強い買いシグナルを示唆する「一目均衡表三役好転」や「強気のパーフェクトオーダー」も成立)。但し、145.00付近に位置する見えないレジスタンス(政府・日銀による介入警戒感)が残存するため、ドル円の上値余地は乏しいと判断できます。
ファンダメンタルズ的に見ても、@米FRBによるタカ派傾斜観測や、A日銀による金融緩和の継続方針、B上記@Aを背景とした日米金融政策の方向性の違い、C日本とその他先進国との金融政策格差、D本邦貿易赤字拡大に伴う構造的な円売り圧力など、ドル円相場上昇を連想させる従来からの材料が残る一方、足元では、E円独歩安の流れの後退(これまでは日本円のみが急激に売られる「円独歩安」状態が続いてきましたが、今週に入ってからは日本円以外の通貨にも下落圧力が強まる展開)や、Fドル独歩高の流れの後退(英国による緊急措置発動を経て米長期金利が急低下)など、短期的なドル円下落を意識させる材料が増えつつあります。
こうした中、来週は日銀短観や英国保守党大会、米9月ISM製造業景況指数、米9月ISM非製造業景況指数、米9月雇用統計、米当局者発言(アトランタ連銀ボスティック総裁、ニューヨーク連銀ウィリアムズ総裁、ダラス連銀ローガン総裁、クリーブランド連銀メスター総裁、サンフランシスコ連銀デイリー総裁、シカゴ連銀エバンズ総裁など)など重要イベントが目白押しとなります。但し、この中で特に市場参加者の関心が大きい米9月雇用統計については、年末に向けての米経済の冷え込みを見越して、労働市場に悪化の兆し(採用凍結など)が見られる恐れがあるため、今回は市場予想を下回るネガティブサプライズに注意が必要と考えられます。
米9月非農業部門雇用者数が市場予想を下回る冴えない結果を示す場合には、「米長期金利急低下→米ドル売り」の経路と、「米景況感悪化→リスク回避の円買い(リスク回避のドル買い以上にリスク回避の円買いが強まる展開)」の経路が見込まれることから、ドル円には強い下押し圧力が加わるものと推察されます。以上を踏まえ、当方では引き続き、短期的なドル円下落をメインシナリオとして予想いたします。
来週の予想レンジ(USDJPY):142.50ー145.50
<ユーロドル相場>
ユーロドル相場(EURUSD)は、週央にかけて、約20年3ヵ月ぶり安値0.9535(2002年6月以来の安値圏)まで下げ幅を広げるも、週末にかけて急速に持ち直す動きとなりました。但し、上方に複数のレジスタンスポイント(一目均衡表転換線や基準線、21日移動平均線や心理的節目1.0000)を控えている点や、強い売りシグナルを示唆する「一目均衡表三役逆転」「弱気のパーフェクトオーダー」「ダウ理論の下落トレンド」が成立している点などを踏まえると、テクニカル的に見て、地合いは弱い(足元の状況は下落トレンドの過程で見られる一時的な戻り局面)と判断できます。
ファンダメンタルズ的に見ても、@欧州経済の先行き不透明感(スタグフレーション懸念が燻る中でのECBによる金融引き締め強化は欧州経済の逆風)や、Aロシア・ウクライナ情勢の緊迫化(ロシアによる天然ガスの海底パイプライン「ノルドストリーム」を用いた政治的揺さぶり→天然ガス供給懸念の再開)、B欧米名目金利差拡大に伴うユーロ売り・ドル買い圧力、Cイタリアを巡る政局不透明感(右派連合誕生に伴う政策運営→EUとの対立先鋭化懸念)、D英国による緊急安定化措置の賞味期限切れリスク(9/28に発表された英中銀による緊急安定化措置を受けて市場はひとまず落ち着きを取り戻したものの、本件は共に時限付き措置であるため、国債買い入れ期限である10/14やQT延期期限である10/31に向けて再び金融市場が不安定化する恐れあり)など、ユーロドル相場の下落を連想させる材料が揃っています。
以上を踏まえ、当方では引き続き、ユーロ安・ドル高トレンドの継続をメインシナリオとして予想いたします。尚、来週は欧州圏の経済イベントに乏しいことから、英国に関するヘッドラインや、ロシア・ウクライナ情勢に関する続報を睨みながらの神経質な展開が予想されます。10/2から10/5の日程で開催される英国保守党大会を経て英財政・インフレ悪化懸念が再燃する場合や、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫化を経て天然ガス先物価格がもう一段上昇する場合には、ユーロドルに強い下押し圧力が加わる恐れがあるため、来週は週明け早々よりユーロドルの下落リスクに警戒が必要でしょう。但し、当方は米ドル高の流れが来週以降和らぐと見ているため、米金利低下→米ドル売りの波及経路がユーロドルを一定程度下支えるシナリオを想定しています。このため、ユーロドルの下落をメインシナリオに据えつつも、今週記録した約20年3ヵ月ぶり安値0.9535を下抜けるほどの下落には至らず、下落速度は緩やかなものに留まると予想いたします。
来週の予想レンジ(EURUSD):0.9600−0.9900
注:ポイント要約は編集部
ドル円日足
オーダー/ポジション状況
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