ドル円見通し 116円手前の抵抗を突破した一段高、2016年12月天井への揺れ返し
〇ドル円先週末117.35まで急伸、日米金利差拡大、地政学リスクからの欧州通貨売りからのドル高が背景
〇米2月CPIの伸び率加速、前年比7.9%は約40年ぶり高水準、かつ数値はロシアのウクライナ侵攻前のもの
〇米10年債利回りは2%台乗せ、侵攻開始直後は安全資産の買いで利回り低下するも3/7以降反転
〇3/15-16開催の米FOMCで市場は0.25%の利上げを予想、インフレ高進と景気後退懸念の中難しい舵取り
〇ロシアの侵攻、地政学的に近いユーロを直撃、ユーロ圏の対露エネルギー・穀物依存度高く制裁は難航
〇ロシアとの地政学的近さや、原油、食料を輸入に頼る日本の円も弱い通貨と評価されかねない状況
〇ドル円、116円台序盤を下値支持線として、2016年12月高値119.65を目指す流れか
〇117円台を維持するか、割れても一時的な場合117.50越えから118円台を目指す動き
〇117円割れから続落の場合116円台半ばを試すが、116.30-70レベルは押し目買いされやすいとみる
〇118円-120円にかけてのゾーン、ドル円の1年を超える上昇に対する当面のピークとなる可能性に注意
【概況】
ドル円は3月12日早朝高値117.35円へ急伸した。ウクライナ戦争とロシア制裁によるリスク回避的な円高反応よりもインフレが一段と深刻化し始めたとの懸念を背景とした米長期債利回りの上昇が勢い付いて日米金利差からのドル買い円売りが優勢となった。加えて、地政学的リスクの近距離感からユーロやポンドが売られたことによるドル高感も重なったため、ドル円は2月後半からの116円手前を上値抵抗線、114円台中盤を下値支持線としたボックス型持ち合いから上放れに入り、ボックス型持ち合いレンジの二倍値に当たる117円台序盤に到達した。
【米長期債利回り上昇による円安が優勢】
3月10日に発表された2月の米消費者物価上昇率は全体の前年比が7.9%で1月の7.5%から伸び、コア指数の前年比も1月の6.0%から6.4%へと伸びが加速した。2月24日から本格化したロシアのウクライナ侵攻と欧米等によるロシア制裁による原油等国際商品の急騰をまだ反映していない段階での物価上昇率であるが1982年以来40年ぶりの高水準であり、第三次石油危機情勢との見方が強まる中で3月の米消費者物価上昇率はさらに上ブレする可能性が高まっている。
米10年債利回りはウクライナ情勢を懸念した株安時にいったんは安全資産買いによる債券高で利回りが低下したものの3月7日の1.66%から11日まで5連騰の上昇で2.01%を付けて2月16日の2.06%へ迫っている。2年債利回りは3月1日の1.26%から反騰入りとなり3月7日から11日までは5連騰で11日高値では1.74%へ上昇して2月23日の1.64%を超える一段高に入りパンデミック発生以降の最高値を更新した。
3月15-16日には米FOMCが開かれ、市場は0.25%の利上げを予想している。インフレ高進とウクライナ情勢による景気後退への影響も踏まえつつ米連銀としては難しいかじ取りになるが、3月からは会合毎に利上げが続く可能性も高い。
【地政学的リスク直撃のユーロ安、円も弱い】
ウクライナ情勢は地政学的に近く、ロシア制裁の返り血を最も受けるユーロ売りに直結している。ユーロドルは昨年1月6日の1.2349ドルと5月25日の1.2266ドルをダブル天井として下落してきたが、11月後半からは1.13ドルを挟んだ持ち合いで下げ渋っていたが、ロシア軍によるウクライナ侵攻が本格化したところから一段安に入った。3月7日安値で1.0804ドルまで下げたところから小反発したものの3月10日、11日と続落して安値更新への余裕が乏しくなっている。
ロシアとの通商依存度が低くエネルギーや穀物の輸出国でもある米国はロシア制裁のエスカレートに積極的でシェア拡大の好機としているが、ユーロ圏はエネルギー価格高騰によるインフレが域内景気を直撃するため、ロシア産原油禁輸についても米国による即時開始に対してロシアとの通商依存度の大きいEUは2030年までに実行期限を先送りしている。ロシア産からの依存度を低下させるためには代替輸入先を求めるしかなく欧米以外との資源エネルギーや穀物・飼料の争奪戦にもなりかねない状況だ。
EUとは若干距離のあるポンドも3月11日への下落で12月安値を割り込み昨年6月以降の最安値を更新している。豪ドル等は地政学的距離があることと資源通貨として買われてきたが、豪ドルやメキシコペソは週末に下落しており、ロシア制裁で最もメリットを享受すると思われる米国の相対的な強さに米長期債利回りの上昇も重なってドル高感が強まり始めている。
これに対して円はかつてのような安全資産としての円買いはかつての強さを見せられない。ロシアとの北方領土を挟んで近接していることは潜在的な地政学的リスクによる圧迫感を受け、日露通商面での打撃もあるところだ。世界的なインフレは原油を輸入に頼り食糧自給率の低い日本円は弱い通貨との評価になりかねないところだ。
【2016年12月天井試し】
ドル円は3月11日に117円台へ到達して2021年1月6日底を起点とした上昇は62週を経過した。
2016年12月15日高値118.65円から2021年半ばまでは、凡そ10円幅の騰落レンジで戻り高値ラインと安値ラインがいずれも1直線で平行に走る下降チャンネルを形成してきたが、2021年7月2日高値111.65円への上昇で下降チャンネルの高値ライン=上値抵抗線に達し、9月15日までを速度調整的な上げ渋りとしたが、9月後半からの上昇で7月2日高値を超えたところからは2016年12月以降の下降チャンネルからの脱却となり、この間の凡そ10円幅での騰落を超える上昇規模へと発展してきた。
2017年5月以降は115円手前が壁となっていたが、115円を超えてこの壁を破ってからはチャート上の上値目途とすべき高値は2016年12月15日高値118.65円へ切り上がった。その上は日銀の異次元金融緩和による円安誘導のピークである2015年6月5日高値125.84円まで切り上がる。
2016年12月以降の下降チャンネルにおける上昇期は概ね26週前後の規模だったが、今回は昨年1月6日から7月2日高値まで26週の上昇を実現し、8月4日と9月15日のダブルボトムを起点として二度目の26週前後規模の上昇期に入ったといえるが、9月15日安値から3月第2週までで26週を経過しているため、そろそろ二度目の26週規模の上昇期もピークを付けて良いところには来ているという点は押さえておきたい。2021年1月6日から現在までの上昇が62週目であるが、2016年12月高値から2018年3月底までの下落期が68週であり、その揺れ返しの上昇とすればあと6週程度の上昇余地があるとの計算も可能だが、118円から120円にかけてのゾーンは1年を超える上昇に対する当面のピークとなる可能性があると注意したい。
以上を踏まえて当面のポイントを示す。
(1)中勢としては、116円手前の上値抵抗線を突破して一段高した状況にあるため、116円台序盤(116.30円から116.00円)を下値支持帯として2016年12月高値118.65円を目指す流れとみる。
(2)117円台を維持するか一時的に割り込んでも回復するうちは117.50円超えから118円台序盤、次いで2016年12月高値を目指すとみる。
(3)117円割れから続落の場合は116円台中盤(116.70円から116.30円)を試すとみるがそこは押し目買いされやすい水準とみる。円高が勢い付く場合は、116円台序盤、次いで116円前後へ下値目途を引き下げるがそこは買い拾われやすい水準とみる。
【当面の主な予定】
3/13(日)から北米は夏時間開始
3/14(月)
ユーロ圏財務相会合
16:00 (独) 2月 卸売物価指数 前月比 (1月 2.3%)
3/15(火)
米連銀、連邦公開市場委員会(FOMC)初日
09:30 (豪) 10-12月期 住宅価格指数 前期比 (7-9月 5.0%、予想 3.5%)
09:30 (豪) 10-12月期 住宅価格指数 前年同期比 (7-9月 21.7%、予想 21.9%)
11:00 (中) 2月 小売売上高 年初来前年比 (12月 12.5%、予想 3.0%)
11:00 (中) 2月 鉱工業生産 年初来前年比 (12月 9.6%、予想 4.0%)
16:00 (英) 2月 失業保険申請件数 (1月 -3.19万件)
16:00 (英) 2月 失業率 (1月 4.6%)
16:00 (英) 1月 失業率・ILO方式 (12月 4.1%、予想 4.0%)
19:00 (欧) 1月 鉱工業生産 前月比 (12月 1.2%、予想 0.1%)
19:00 (欧) 1月 鉱工業生産 前年同月比 (12月 1.6%、予想 -0.5%)
19:00 (独) 3月 ZEW景況感 (2月 54.3、予想 5.0)
19:00 (欧) 3月 ZEW景況感 (2月 48.6)
21:30 (米) 3月 ニューヨーク連銀製造業景況指数 (2月 3.1、予想 7.0)
21:30 (米) 2月 生産者物価指数 前月比 (1月 1.0%、予想 0.9%)
21:30 (米) 2月 生産者物価指数 前年同月比 (1月 9.7%、予想 10.0%)
21:30 (米) 2月 生産者物価コア指数 前月比 (1月 0.8%、予想 0.6%)
21:30 (米) 2月 生産者物価コア指数 前年同月比 (1月 8.3%、予想 8.7%)
3/16(水)
北大西洋条約機構(NATO)臨時国防相会合
06:45 (NZ) 10-12月期 経常収支 (7-9月 -83.00億NZドル、予想 -63.50億NZドル)
08:50 (日) 2月 通関貿易収支・季調前 (1月 -2兆1911億円、予想 -1241億円)
08:50 (日) 2月 通関貿易収支・季調済 (1月 -9326億円、予想 -3909億円)
13:30 (日) 1月 鉱工業生産確報値 前月比 (速報 -1.3%)
13:30 (日) 1月 鉱工業生産確報値 前年同月比 (速報 -0.9%)
13:30 (日) 1月 設備稼働率 前月比 (12月 -0.4%)
21:30 (米) 2月 小売売上高 前月比 (1月 3.8%、予想 0.4%)
21:30 (米) 2月 小売売上高・除自動車 前月比 (1月 3.3%、予想 0.9%)
21:30 (米) 2月 輸入物価指数 前月比 (1月 2.0%、予想 1.6%)
21:30 (米) 2月 輸出物価指数 前月比 (1月 2.9%、予想 1.2%)
23:00 (米) 1月 企業在庫 前月比 (12月 2.1%、予想 1.1%)
23:00 (米) 3月 NAHB住宅市場指数 (2月 82、予想 81)
23:30 (米) エネルギー省週間石油在庫統計
27:00 (米) 米連邦公開市場委員会(FOMC)、政策金利 (現行 0.00-0.25%、予想 0.25-0.50%)
27:30 (米) パウエル米銀議長、定例記者会見
3/17(木)
日銀・金融政策決定会合(初日)
ブラジル中銀、台湾中銀、インドネシア中銀の政策金利発表
06:45 (NZ) 10-12月期 GDP 前期比 (7-9月 -3.7%、予想 3.2%)
06:45 (NZ) 10-12月期 GDP 前年同期比 (7-9月 -0.3%、予想 3.2%)
08:50 (日) 1月 機械受注 前月比 (12月 3.6%、予想 -2.0%)
08:50 (日) 1月 機械受注 前年同月比 (12月 5.1%、予想 8.7%)
09:30 (豪) 2月 新規雇用者数 (1月 1.29万人、予想 4.00万人)
09:30 (豪) 2月 失業率 (1月 4.2%、予想 4.1%)
19:00 (欧) 2月 消費者物価指数・HICP改定値 前年同月比 (速報 5.8%、予想 5.8%)
19:00 (欧) 2月 消費者物価指数・HICPコア指数改定値 前年同月比 (速報 2.7%、予想 2.7%)
20:00 (ト) トルコ中銀、政策金利 (現行 14.00%、予想 14.00%)
21:00 (英) 英中銀 政策金利 (現行 0.50%、予想 0.75%)
21:30 (米) 2月 住宅着工件数・年率換算件数 (1月 163.8万件、予想 170.0万件)
21:30 (米) 2月 住宅着工件数 前月比 (1月 -4.1%、予想 3.8%)
21:30 (米) 2月 建設許可件数・年率換算件数 (1月 189.9万件、予想 185.0万件)
21:30 (米) 2月 建設許可件数・前月比 (1月 0.7%、予想 -2.4%)
21:30 (米) 新規失業保険申請件数 (前週 22.7万件、予想 22.1万件)
21:30 (米) 失業保険継続受給者数 (前週 149.4万人)
21:30 (米) 3月 フィラデルフィア連銀製造業景況指数 (2月 16.0、予想 15.0)
21:45 (欧) シュナーベルECB理事、討論会参加
22:15 (米) 2月 鉱工業生産 前月比 (1月 1.4%、予想 0.5%)
22:15 (米) 2月 設備稼働率 (1月 77.6%、予想 77.8%)
3/18(金)
未 定 (日) 日銀金融政策決定会合、政策金利 (現行 -0.10%、予想 -0.10%)
08:30 (日) 2月 全国消費者物価指数 前年同月比 (1月 0.5%、予想 0.9%)
08:30 (日) 2月 全国消費者物価指数・生鮮食品除く 前年同月比 (1月 0.2%、予想 0.6%)
08:30 (日) 2月 全国消費者物価指数・生鮮食品エネルギー除く 前年同月比 (1月 -1.1%、予想 -1.0%)
13:30 (日) 1月 第三次産業活動指数 前月比 (12月 0.4%、予想 -1.0%)
15:30 (日) 黒田東彦日銀総裁、定例記者会見
19:00 (欧) 1月 貿易収支・季調済 (12月 -97億ユーロ、予想 -90億ユーロ)
19:00 (欧) 1月 貿易収支・季調前 (12月 -46億ユーロ)
19:30 (露) ロシア中銀、政策金利発表
23:00 (米) 2月 中古住宅販売件数・年率換算件数 (1月 650万件、予想 610万件)
23:00 (米) 2月 中古住宅販売件数・前月比 (1月 6.7%、予想 -6.1%)
23:00 (米) 2月 コンファレンスボード景気先行指数 前月比 (1月 -0.3%、予想 0.3%)
26:20 (米) バーキン・リッチモンド連銀総裁、講演
27:00 (米) ボウマン連銀理事、講演
27:00 (米) エバンズ・シカゴ連銀総裁、討論会参加
注:ポイント要約は編集部
オーダー/ポジション状況
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先週のドル/円相場は、ドルが一段高。年初来高値を大幅に更新、2017年1月以来の高値圏へと達し、そのままのレベルを維持したまま越週している。
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Edited by:照葉 栗太
2022.03.12
来週の為替相場見通し:『日米金融政策イベントに注目。ドル円は続伸リスクに要警戒』(3/12朝)
ドル円は1/24に記録した年初来安値113.47をボトムに反発に転じると、今週末にかけて、約5年2ヵ月ぶり高値となる117.36まで急伸しました。
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