2024年米国大統領選挙 3
1. 選挙期間が短いことを背景に、政策論争に深入りせず、もっぱらフィーリング選挙で戦うというのが、ハリス陣営の基本ポリシーである。フィーリング頼りというのは人気投票のようなものなので、どうしても人気がフラクチュエイトする。その人気だけで持ってきた、ハリス人気が天井を打ち、少し下がり始めたのが先週の出来事である。
全国区でハリスリードの2%からトランプリードの1%への変化である。
このNYタイムスのポールの変化に、同紙は結構騒いで、ハリス陣営へ頑張るようにエールを送るとともに9月10日のディベートでのハリス陣営にしっかりした政策論争ができるように、新しい政策を打ち出すように示唆している。そうした動きの中で、ハリス陣営も、ミドルクラスの一部の減税や新しい持ち家へのタックス・クレディットなど政策らしきものを打ち出している。
もともと人気頼りのフィーリング選挙である限り、人気のちょっとした波動は相場と同じで必ず発生する。その1−2%の変動を大げさに取り上げて云々するのはやや滑稽であるが、それがメディアというものだろう。
そうこうするうちにフィーリング選挙の最大のイベントである大統領候補者のディベートがやってきた。このイベントではもちろんそれらしく政策論争はあるのだが、それよりも候補者の態度、表情、言葉遣い、大統領らしさ(PRESIDENTIAL)の程度などのフィーリング選挙の粋である。つまり中身より見場が大事で、片方が攻勢をかけるのに対しもう一方は守勢に回ったなど言うことが評価の対象になるのである。
2. 今回のディベートにあたってのハリス陣営の作戦は、トランプの弱みである自己規制の弱さを徹底的に洗い出し、いかに彼がPRESIDENTIALでない(大統領に相応しくない)人間であるかということを万民に見せつけることであった。そのためにトランプの嫌がる話題を出して、彼を怒らせるためのBAIT(釣り針につけるエサ)をいくつも用意してあり、それにトランプが食いつくように仕向けるのである。
例えば、ハリスにとってありがたくないこと(例えば移民政策)でトランプが攻撃を仕掛けてきた場合、その応答の中で、トランプの嫌がること(トランプの選挙演説は長すぎて聴衆が退屈して途中で帰ってしまうなどというエピソードを挿入)を含めると、何より聴衆の数を誇りに思っているトランプが、そんなことはない、聴衆は途中で帰らないと憤慨し、本来の移民政策の失敗を攻めることを忘れて、話が聴衆の数の問題に飛んでしまうこと。また怒り狂ったトランプがそこで口汚く罵ることでおよそ大統領的でない側面を露呈することなど、面白いようにトランプは引っかかるのである。そのあたりをさらにそんな簡単に引っかかるとロシアのプーチン大統領の昼飯(食べられる)になってしまうと揶揄するなど、自由自在である。要するにトランプは小人物だから、聴衆の数などどうでもよいことで、誇りを傷つけられ思わず反論してしまうのである。
この種のやり取りは大抵ハリスの苦手な話題が出たところで打ち出すと、トランプの攻撃は中途半端になり、逆に自己弁護する守勢に追い込まれることになる。バイデン政権の政策で、犯罪が大幅に増加しているとトランプが嘘の発言をすると、それは嘘だといわないで、それはあなたの34件の有罪判決の件も含めているのでしょうかと切り返すなどさすがに元検察官の当意即妙ぶりは素晴らしかった。筆者はあまりハリスを買っていなかった(演説が上手くない)がディベート力は一流である。
このBAIT 作戦は百発百中で、トランプは怒り狂って吠えまくるが、ハリスは笑いながらそれを見ているという形になる。このディベートの勝負はだれが見てもハリス圧勝であった。
その中でハリスは苦手な政策論はごまかしながら100分のディベートを大過なく乗り切った。ハリス陣営は次のディベートも受けるといい始めている。トランプははっきり返事していないが、側近はディベートではぼろ負けするからやめた方が良いという意見らしい。こうしてフィーリング選挙の粋であるディベートは、第1回6月27日はバイデン大敗、9月10日はハリス圧勝ということになり、ハリスはフィーリング選挙で反撃する足がかかりを得た形である。
3. このディベートでの勝利がどのようなポールの結果を招来するかはわからないが、少なくともハリスの支持率が落ちることは考えにくい。どちらがPRESIDENTIAL かという点で中間層を印象付けることが出来るかが重要になる。とにかく今の状況は全国的にNECK AND NECK(大接戦)であり、上げられている7州のスウイング・ステートまで全部5分5分である。一旦止まったハリス人気がここで持ち直すかどうか。
また1944年以降の16年ごとの大統領選挙はいずれも民主党が制しており、今回2024年も2008年のオバマ勝利から16年目の民主党が制する順番である。筆者はいろいろな分析よりもこの動物的な、宇宙の循環の図式から見てハリス勝利は動かないと見ている。
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