日本の政局の流動化をしり目に始まったトランプトレード
10月27日に行われた衆議院総選挙で与党が過半数割れした。
与党過半数割れは2009年8月末の衆議院総選挙で自民党が記録的な大敗を喫し、民主党への政権交代が確定して以来、約15年ぶりの出来事だ。
当時の民主党のスローガンは「コンクリートから人へ」で、多くの有権者の支持を得て民主党は衆院選を圧勝した。
失われた30年は日本企業がコストカット経営に重きを置き、人への投資を怠ったからという論調が最近目につくようになったが、当時の民主党や民主党を圧勝に導いた日本国民も15年前に既にそれを感じ取っていたからの結果だったとも言える。
しかし、「コンクリートから人へ」を具体化する政策の多くは実現されないまま民主党政権は短命に終わった。
日本はアメリカと違い、政権は変わっても公務員には大きな入れ替えは起こらない。政策をどうやって実現するかは霞が関の官僚に大きく依存しているが、そこをどう上手く機能させるかが志を具現化できるかどうかの要諦となる。
今回の衆院選で大躍進を果たした国民民主党だが、若者に刺さった「手取りを増やす」というスローガンをどうやって実現していくか期待を持って注目していきたい。
さて、15年前の政権交代時の市場推移を振り返っておくと、実は麻生内閣の発足は米国の投資銀行リーマンブラザーズの経営破綻(2008年9月15日)から約一週間後の2008年9月24日であり、政権を担ったタイミングが気の毒と言えば気の毒なタイミングでもあった。
リーマンブラザーズの経営破綻によってリスクオフの雰囲気が市場に蔓延し、世界の金融市場は信用収縮と資産価格の下落に苦しむこととなる。麻生政権時には90円台を中心に推移していたドル円相場はその後、ドル安・円高基調を強めることとなり2010年後半からは80円台が定着し、東日本大震災という不幸な出来事もあり、2011年の下半期は80円割れの水準が定着した。
株式市場も2009年から2012年12月の第二次安倍政権誕生まで日経平均株価は10000円±2000円の相場レンジを中心に低迷することとなった。
前回、2009年に政権与党が過半数割れした当時と現在を比べてみると、ドル円相場も日経平均株価も相場の水準が大きく異なっている。
ドル円相場は当時の水準に比べると80%以上円安が進行した。他の主要通貨に対しても大きく円安が進んでいる。この要因として挙げられるのが、円の突出した低金利に起因する主要国との金利差だが、2020年のコロナ禍の世界的な拡大によって、日本円と主要国通貨の金利差は、一時1%に満たない水準まで縮小したもののドル円相場が2009年の水準まで戻ることはもちろん、100円を割ることすらなかった。
2009年から15年が経過したが、ドル円相場について日米の金利差だけでこの長期に亘る円安トレンドが醸成されてきたと説明するには無理があるだろう。やはり、この間、日本が貿易で外貨を稼ぐ力を落としていることや個人レベルでも国際分散投資が進んできたことで円から外貨への新たなフローも生まれている。
国際分散投資の進捗に伴い、利息配当金の受け取り超による第一次所得収支の黒字が拡大したことで日本の経常収支の黒字は高水準を維持しているが、この黒字部分の多くは外貨のまま再投資に向かうので円転されにくい。
時間をかけて為替市場では円安が進みやすい構造的な変化が生じてきたと考えるのが自然だろう。
一方の日経平均株価だが、2009年に比べて約4倍の水準にまで上昇している。株価の理論値はEPS(Earnings Per Share X Price Earnings Ratio: 一株当たり利益 X 株価収益率)で計算されるが、この間、企業収益は順調に拡大してきた。長期に亘る日銀の超金融緩和策が個人部門から企業部門への所得移転をもたらしたことやESG(Environmental, Social and Governance)を重視する経営が日本企業にも浸透しガバナンス力をグローバルスタンダードに押し上げたことも日本企業の収益力を底上げし、株価には大きくプラスに働いたように思う。
しかし、ここにも長期に亘る超金融緩和の影響があったことは否めない。外国人投資家にとっては、ほぼ金利の付かない円を借りて株を買うという円キャリートレードが横行した。日本の資本市場に投資資金が大規模に流入したのに為替市場で円を買って日本株を買うという日本買いのフローが起こった訳ではない。
株価は上がっても個人は豊かにならなかったという不満が、政治資金問題と相まって爆発したのが、今回の衆院選挙の結果だったのではないだろうか。
さて、現在に目を転じると10月は自民党総裁選から総選挙に至るニュースが毎日、日本のメディアを賑わせた。しかし、この間にトランプ前大統領の支持率が僅かながらもハリス副大統領の支持率を上回る接戦州が増加する傾向が顕著になり世界の金融市場ではトランプ前大統領の再選を織り込むトランプトレードが大きく進行した。
米国長期金利は強い米国経済指標を受けて9月中旬から反騰に転じていたが、10月に入って騰勢を強めることとなった。
米国の外に目を転じて見ても、中国の上海総合指数や香港ハンセン株価指数も大幅に下落した。
米長期金利は米国財政赤字の拡大に対する懸念、中国からの輸入品には60%の追加関税の影響を先読みしたトランプトレードの一端と推察される。
そしてドル円相場は10月には月初の143円台から153円台まで10円もの急騰を見せた。今年に入って月間では最大の上昇幅であり、2016年11月の大統領選でトランプ氏が勝利して以来の上昇幅だ。
日本の政局の不透明感や米国の大統領選を控えて様子見ムードが強まると考えていたが、この動きには驚かされた。
市場はフライング気味にトランプ候補勝利に賭けているように思え、ハリス候補勝利の際の反動に、より注意しておく必要があると考えている。
次回に続く
オーダー/ポジション状況
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