2024年米国大統領選挙 2
7月21日に大統領選出馬を断念したバイデン大統領の事件からほぼ一カ月、2024年大統領選挙は、シカゴで民主党全国大会がたけなわである。
バイデン大統領の後釜にカマラ・ハリス副大統領を指名する代議員の投票も全国大会2日目に終了、ハリス候補が正式の後任となった。
全国大会最終日8月22日にハリスが指名受託演説を行って全日程が終了し11月5日の投票日に向けて75日間の熱戦が繰り広げられる。
この一カ月間で起きた出来事は、かねてそれを予想していた筆者も驚くほどの民主党の躍進である。
バイデンに後任指名されたハリス候補の人気が爆発したのである。7月下旬まで36−7%で低迷していた、ハリスに対する好感度が45%まで上昇、53%だった非好感度は
47%まで急落し、その差は2%となった。17%から2%へ劇的な改善である。その間トランプに対する好感度は41%から43%に上昇している。トランプに対する非好感度53%から52%へとわずか1%の変動であり、好感−非好感は−9%とほとんど変わらない。トランプの人気が激変したのではなく、ハリスの人気が爆発したのである。
その結果全国ポールで、ハリス46.7%に対しトランプ43.8%と一気にハリス有利の状況になった。
バイデンが出馬の想定時はトランプ48%、バイデン46%と全国区でトランプがリードしていた。この驚くべき劇的な変化が1カ月間で達成されたことは誠に不思議なことであり、これをまともに説明するはできない。
いかに老衰したバイデンが人々の希望を押し下げていたかということだろう。
もう一つは、2024年はもともと民主党が勝利で決まっていたものが、バイデンのパーフォマンスで絶望的になっていた。その絶望から解放されたエネルギーが一気にハリス人気に繋がったということだろう。
民主党勝利の図式は過去の黄金律16年ごとの大統領選を見ると、見事に16年ごとに民主党が大統領選を制しており、この2024年はこれにあたる年である。
1944年ハリー・トルーマン、1960年 ジョンFケネディー、1976年ジミー・カーター、1992年 ビル・クリントン、 2008年バラク・オバマと来て、2024年はバラク・オバマからの16年目で本来民主党が制するのがあるべき姿であったのが、バイデンの老衰で妨げられそうになっていた。それがバイデン出馬辞退で、呪縛が解け本来の16年サイクルの民主党勝利の形に入り始めたというのが、このハリス人気の背景にある運命論だろう。
もちろんトランプ人気が異常に強ければ、16年サイクルが壊れることも可能性としてあるが、トランプ人気もやや下り坂、この民主党の勢いはあと11週間程度は継続するだろう。
民主党の副大統領候補には、ミネソタ州知事のティム・ウォルズが指名された。ネブラスカ州に生まれた彼はその後ミネソタ州といずれも中西部で育ち、典型的なミッド・ウェスタナ―(中西部人間)である。17歳で、ナショナル・ガード(州兵)に入隊、その後24年間軍役をこなし41歳で除隊し、ミネソタの高校の社会科の教師としてキャリアーを積んだ。彼はGIビル(兵隊を大学に通わせる特典)で地元の大学を卒業して、教師の資格を持っていた。その高校でフットボールのコーチとして州チャンピオンまでフットボールティームを育て上げ、人気を博した。その後政治にキャリアーを求めて、ミネソタ州出身の連邦下院議員に当選する。議員を12年やって州知事に立候補、当選して2期目が現在の姿である。典型的な田舎の中流の人間で、田舎の人間の温かさが感じられるおじさんである。60歳の白人男性である。
共和党の副大統領候補J D ヴァンスは、やはりオハイオという中西部の出であるが、ラストベルト(さび付いた工場地帯)で人々が職を失う中で、一生懸命勉強をして名門イェール大学を卒業して弁護士になり、はじめはトランプ批判の先鋒であったが、途中で宗旨替え、トランプにすり寄って、オハイオ州選出の上院議員に当選して1期目である。アラスカン・ハスキーのような青い目が特徴的な39歳の白人男性である。青い目はやや冷たさを感じさせるが、彼は保守派の論客として、数々の著作があり、その中で、女性蔑視的発言が批判されている。ヴァンスを副大統領候補に選んだのはトランプの失敗という声が高い。女性の反感を買っている点と、オハイオという元々共和党の地盤の出身者である彼は、地元票の獲得という利点がないからである。
民主党は、この副大統領対決を、温かみのある田舎の親父vs冷たいエリートの対決という図式で勝負しようとしている。
民主党の選挙作戦は基本的にフィーリングに訴える選挙で、時間が足りないのを理由に、本格的な政策論争には入らないことを決めているようだ。
共和党は、トランプは政策人間ではないので、これも基本はフィーリング選挙である。ただ共和党の場合は、共和党系の保守系シンクタンクが発表したプロジェクト2025という政策綱領がありその900ページにわたる論文がトランプの政策とみなされて、民主党から総批判を浴びている。その中でも大きい論点は社会保障年金の打ち切りや、老人医療保険の廃止などの極端な保守政策が大きな批判を受けている。
トランプはもともと政策などどうでもよい人間なので、このプロジェクト2025は選挙綱領ではないと否定するのに必死である。
民主党がバイデン退陣で打ち出した新しい戦略は面白い。
バイデン、トランプの老老対決だったのが、共和党は相変わらず老、民主党は若に変わり、政権は旧政権(ハリスは旧政権を引き継いだ)なのに、あたかも新しい夜明けが始まるという印象を与えようとしている。カマラ・ハリスの写真にFORWARD(前進)という標語を付けた選挙ポスターを多用するなど、まったく新しい政治が始まるという印象を与えるのに成功している。片や、共和党は78歳の老人の3度目の大統領選挙で全く代わり映えしない。老老対決に飽き飽きしてきた投票者が、新しい夜明けに惹かれるのは大いに期待できそうだ。
面倒な政策綱領は時間不足で到底制定できるはずもなく、選挙はもっぱらフィーリングで戦われる形である。
大会2日目に行われた、人々の演説の中で圧倒的な存在感を見せたのがオバマ夫妻による演説である。
このミシェル・オバマという人は稀代の名演説を打つ名人で、数々の慣用句を生み出している。”WHEN THEY GO LOW , WE GO HIGH " (彼ら―共和党が下品な攻め方をしてきたら我々民主党は上品に対応する)などはその典型である。その演説はトランプの下品な個人攻撃と180度の対称を見せるもので、知性と教養にあふれながらかつ、トランプの批判もするというまさに、“WE GO HIGH” の名調子なのだ。
その後に登場した44代大統領バラク・オバマはまた近世の政治家の中で、最も優れたオラトリー(雄弁家)といわれている。
実際、彼の演説に感動して涙を流す人は多い。今回も圧倒的な演説で、涙を流す聴衆が続出した。
そのオバマ大統領が、ミシェル夫人の後で演説することは滅多にない。ミシェルに負けるからである。
まさにフィーリング選挙の粋たるこれ等の演説は、多くの人特に中間層の人たちを魅了せずにはおかないだろう。
一部の選挙評論家からはハリス陣営の政策の発表が弱いという批評がある。
しかしハリス陣営は時間のなさを武器に、政策論争に踏み込まない、フィーリング選挙であと75日を突っ走る方針である。
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