米国大統領選挙について(6)(2020年9月2日)

民主、共和両党の党大会が終了、選挙戦は最後の2か月の追い込みに入った。

米国大統領選挙について(6)(2020年9月2日)

米国大統領選挙について(6)

民主、共和両党の党大会が終了、選挙戦は最後の2か月の追い込みに入った。
9月中旬までには、党大会の影響が、事前調査の数字にあらわれてくる。
一般的には2%ポイント程度のConvention bounce (党大会による人気上昇)があることが多いがどうか。
今回はもともとバイデンリードできていたので、トランプが2%程度盛り返すことは十分にあり得る。
時あたかもコロナウィルスの死者も毎日1000人以上から、8月末には400人台まで減少しつつある。
もっぱらウィルス対応の失敗をトランプの最悪の治政の象徴としてきた民主党もやや、勢いをなくし、一方では連日の株価上昇で、共和党側がますます勢いを回復しそうになっている。

元トランプ政権のコミュニケーション・ディレクターだったスカラムッチ氏は、8月末のインタビューで、これだけトランプが劣勢だと、トランプ陣営ができることは、ベース『トランプ・ファン』の投票率を最大限に上げること、あらゆる方法で選挙抑圧をすることで勝機を見出すしかないとしている。

恥知らずのトランプ

しかし共和党大会でトランプが見せた変身は、恥知らずではあるがそれなりに効果的であった。
本来の冷血を放擲して、優しいオジサンを演じたのだ。
トランプ一家の女性たち、ファースト・レディー、イヴァンカ(長女)、ティファニー(次女2番目の奥さんの娘)、ララ(次男の嫁)などほとんどブロンドのピカピカの女たちが、大会の演壇に立ち、トランプに賛辞を浴びせたのだ。
トランプを嫌っている白人女性を呼び戻す作戦である。
さらには2016年から散々迫害してきた、移民の代表を5人舞台に出してきて、彼らに正式に米国民の資格を与える儀式をやって見せたのだ。
これも、少しでも移民グループの票を当てにするのではなく、中間モデレート層のイメージチェンジを狙った演出である。

トランプが優秀なのではなく、新しいキャンペイン・マネジャーが有能であったのだ。
さてそれでConvention bounce が何%あるか。
少々のbounce では人気投票で12%、投票予定者で9%のバイデン有利を覆すのは容易ではない。

しかし1988年の選挙ではブッシュ(父)が党大会前の17%のマイナスを克服して、民主党候補のデュカキスを破って当選したことがある。
その時の共和党の反撃は、選挙参謀リー・アットウォーターが有能で、マサチューセッツ州知事だったデュカキスの殺人犯(黒人)釈放を徹底的に攻撃して、『法と秩序』に弱い民主党というイメージを徹底的に国民に浸透させて、3カ月間で大逆転に持ち込んだのである。

トランプ陣営の作戦も1988年になぞらえて、バイデンは『法と秩序』に弱いと攻撃している。
全米各地でのデモ行為『ブラック・ライブス・マター(黒人の命を守ろう)』運動に対し、トランプはTwitterで白人の反デモ勢力を扇動し、トランプ・ファンの白人至上主義者などが、ピックアップトラックに乗って、抗議運動のデモに突っ込むなど、過激な人種対立を更に掻き立て、抗議運動を暴動に仕立て上げようとしている。
『法と秩序』を守っていないのはトランプ政権なのに、バイデンの下では、人種対立はさらに激化すると、白人支持層並びにモデレートを脅迫しているのである。

このトランプの無法な選挙戦に対しバイデン陣営は、反撃しているが、どうしてもお行儀よくなるのは、ごろつき対一般市民的な感じで迫力に欠ける。

1933年にナチスが合法的に選挙で多数をとり(選挙妨害をさんざんやった)、その後、ファシスト独裁に持って行ったヒットラーと同じようなことをトランプがやろうとしているのではないかと恐れる人もいる。
コロナウィルスの関係で、投票所に行けない人のために郵便で選挙する体制が各州で整えられているが、この場合トランプ陣営では、投票率が上がってトランプ不利になるというので、郵便による投票をディスクレディットする発言をさんざん繰り返している。
2016年の選挙の時も投票前この選挙はRigged(不正選挙)であるとトランプは言い続けていた。それは彼が自分で選挙に勝てるとは思っていなかったからである。負けた時の口実に不正選挙を言い張った。当然のことながら当選した後不正選挙の発言は一切ない。

いまからすでにトランプが不正選挙を言い出していること自体、トランプがこの選挙は勝てないとみているのではないかと考えている。
注目に値するのはホワイトハウスのスペシャル・アドバイサー(上級顧問)のケリアン・コンウェイ(Kellyanne Conway )が共和党大会を機に辞任を発表している。
彼女は有能な選挙のプロであり、2016年トランプ当選に功績大としてホワイトハウス入りを果たし、その後もトランプを擁護するテレビ出演のサロゲート(代理)として、全米に名を売ったエースである。
その選挙のプロの彼女が、15歳の長女のTwitter での母親批判を公表し、これからは家族の為に(3人子供がいる)時間を費やしたいとして、ホワイトハウスから辞任したのである。

彼女はどんなトランプの汚い所も受け入れて、有名なAlternative Factの造語『トランプの事実と異なる嘘の発言に対して(ほかに取るべき事実−オルタナティブファクトという意味不明の反論をした)』も生み出したほどのマスコミの寵児であった。
その彼女が辞めるというのは、沈みゆく船からネズミが逃げ出す現象ではないかと筆者はみている。
プロ中のプロである彼女が15歳の娘の批判を真に受けて引退するというのはやや考えにくい。彼女はトランプを見限ったのだろう。
最終的に11月3日の選挙結果で彼女の嗅覚の鋭さが証明されるだろう。
選挙後彼女は読みの正しさにより、再びマスコミの寵児となり、巨万の富が約束されることになろう。

さえない民主党−それでも勝つバイデン

77歳のバイデンは、三流人材である。黒人票を狙ったカマラ・ハリス副大統領候補は、それなりに、力を発揮するかもしれないが、人々を圧倒的に惹きつけて選挙を盛り上げることはできない。
この選挙は最終的には、トランプ対バイデンという三流人材からの選択で米国民にとってはろくでもない選択肢を提示されているということだ。
トランプは人間としておそらく間違いなく最低の大統領だろう。おまけに無能だ。
バイデンは、人柄はいいが、好人物のおじいちゃんで、今までの上院議員としての立法のレジュメを見ても特筆するような活躍はしていない。無難なモデレートで、大統領になって何をするのかははっきりしない。
従ってどちらが勝ってもいいのだが、あえて言えば、世の中の流れが民主党に勝たせようとしていると考えている。

40年ごとの米国政治経済思潮の変化から見て、1980年のレーガン当選に始まる保守、新自由主義思想の賞味期限は40年後の2020年までであり、1976年当選のカーター大統領がケインズ主義の最後の大統領として1期限りで消えたのと同じく、トランプは最後のレーガノミクス大統領として、4年で任期を終える運命にある。
88年の大逆転はまさにレーガノミクスの最盛期の力で押し切ったもので、今回はレーガノミクスの力が落ち、世の中は人種問題は別として、圧倒的にリベラル、プログレッシブに流れている。ここで88年と同じタクティックスで勝利を得るのは難しいだろう。
全く頼りにならないバイデン、また無能の民主党全国本部をもってしても、トランプ再選はないのが、世の中の流れである。

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