中銀総裁と財務相交代をきっかけとした急騰で前週比12.6%高
〇先週のトルコリラ円、9日に13円台を回復も10日に12.46へ下げ、13日には13.82まで高値を切り上げた
〇トルコ国内の景気回復は進んでいるが、観光収入や輸出は難航気味に
〇ファイザー社の新型コロナワクチン開発にトルコ移民科学者が貢献
〇13.82超えで14円を試す流れも19日の中銀金融政策発表を見定める必要あり
〇13.30を割り込めば調整安に入るとみて13.00、12.46を段階的に試すか
【概況】
トルコリラ円は11月6日深夜に11.99円の史上最安値を付けたものの、週明けの11月9日に13円台を回復するところまで急騰となり、10日に急騰一服の反動安で12.46円へいったん下げたところから11日には一段高に入り、13日には13.82円まで高値を大幅に切り上げてきた。週末終値ベースでは前週比12.6%高の上昇率となった。
11月7日にトルコ中銀総裁が突然更迭され、8日のアルバイラク財務相が辞任表明するなどの報道が相次ぎ、週明けに入る前の市場の論調はリラ安に歯止めがかからずに混乱が増すのではないかとの悲観的反応が主だったが、週明けからは市場の不安とは裏腹にリラは急騰した。リラ暴落とインフレ進行が収まらない中でエルドアン大統領による人事刷新での政策転換となる可能性が意識され、とくに娘婿の財務相を更迭して副首相を任命したことが市場には評価されたようだ。
万人総弱気の中で予想外に反騰開始となったことから弱気筋の狼狽的な買い戻しや新規の飛びつき買いも交錯して急騰商状に入ったと思われる。
【11月19日にトルコ中銀は大幅利上げを決断できるか】
11月19日に次回のトルコ中銀金融政策決定会合がある。11月6日時点では市場の予想は現行の10.25%から12.0%程度へ利上げされるのではないかとの見方だったが、9日以降は15.0%前後へ大幅に引き上げるのではないかとの見方がコンセンサスとなってきている。政策金利とインフレの一桁にこだわって2019年7月に中銀の前々総裁を更迭したエルドアン政権だけに、果たして大胆な利上げを決断できるのかどうか、懐疑的な見方もあるところだ。ここで市場の期待を裏切るようなアリバイ的利上げに留まる場合や利上げ見送りの場合は市場のリラ売りも一挙に再開する可能性もあるが、期待に応えるようならさらに一段高へとリラ高も進む可能性もあるところであり、年末年始へのリラ動向を決める上で極めて重要なイベントとなりそうだ。
先週のトルコ経済指標は概ね良好だった。
11月10日に発表された8月の失業率は13.2%で7月の13.4%からわずかに低下して市場予想(13.8%)のような悪化は回避された。
11月13日に発表された10月の鉱工業生産は前月比1.7%増で8月の3.4%増から低下したが、前年同月比は8.1%増で8月の10.6%増から悪化したものの市場予想の7.2%増を上回った。製造業の改善傾向は続いている。
11月13日に発表された10月の小売売上高は前月比2.8%増となり9月の0.9%増から上昇、市場予想の0.6%増を大幅に上回った。前年同月比は7.8%増で9月の6.0%増から大幅に改善、市場予想の3.6%増の倍以上となった。
国内景気回復へは着実に進んでいる印象があるが、それでも最重要な観光収入、輸出による外貨稼ぎは難航している状況であり、欧州とロシアの感染拡大が止まないことがそれらの回復を大きく遅らせている。またトルコ国内の感染拡大も第二波に入っており、医療崩壊的な懸念には至らないものの、65歳以上の外出制限が始まる等規制の強化も景気回復への足かせとなる印象だ。
【ファイザー社のワクチン開発にドイツのトルコ移民科学者が貢献】
米製薬大手のファイザー社による新型コロナウイルス・ワクチンの開発において有効な治験成績が発表されたが、この開発にはドイツのバイオ医薬品企業ビオンテックが開発に加わっている。同社は創業12年のベンチャー企業だが、創業者はトルコ系の科学者夫婦であり、米ナスダック市場での同社株価昨年10月上場から1年余りで7倍超に急騰している。独紙も夫妻を称賛して何かと差別的扱いを受けている移民問題への癒しとなっているようだ。またトルコのコジャ保健相も電話会談しているという。トルコへの供給等は不明だが、トルコにとっては良いニュースだろう。
【5月以降の下降チャンネルの上限を試す】
11月6日安値からの反騰で日足では一目均衡表の先行スパンに到達した。
5月7日安値14.61円から6月3日高値16.23円まで上昇してから下落期に入り、11月6日安値まで安値更新を続けてきた。
5月7日安値と11月6日安値を結ぶラインを下値支持線として、その平行線となる上値抵抗線を6月3日高値から描けば現時点の上値抵抗線は14円前後に来ている。
5月7日から6月3日への上昇幅は1.62円であり、11月6日安値11.99円から11月13日高値13.82円までは1.83円で6月3日への上昇幅を超えているが、角度が急なために上記の下降チャンネルの抵抗線には届いていない。
6月3日への反騰時には日足の一目均衡表で先行スパンへ潜り込んだが、先行スパン突破には至らずにその後の下落へ向かっている。11月13日高値では先行スパンの下限に到達して潜り込みつつあるところだが、上記の下降チャンネルの抵抗線突破と先行スパン突破の課題はほぼ重なっている。14円を超えて続伸に入れば反騰のスケールが一段と大きくなるが、抵抗線及び先行スパン突破に失敗すれば、6月からの下落再開時と同様に戻り一巡から史上最安値更新を目指す流れへ進みかねないと思われる。いずれへ向かうのか、11月19日のトルコ中銀の利上げ姿勢にかかっているか。
【当面のポイント】
(1)1月6日夜安値からの反騰は、高値切り上げ後の調整安でも安値を底上げして一段高へ進む強気パターンが繰り返されている。このパターンを維持する=現時点では11月12日夕安値13.30円を割り込まないうちは高値更新を継続する可能性があると思われる。
(2)11月9日に13円台へ到達後、12日未明に13.50円台へ到達し、13日夜に13.82円を付けてからの反落でも13.50円割れを買い戻されているので、0.50円ずつの高値水準切り上げとみれば13日高値13.82円を超えれば14円を試す流れとみる。ただし14円を超えてさらに続伸する流れまで進むには11月19日の中銀金融政策発表を見定める必要があり、直前には反騰に対する修正的な下落を入れやすいのではないかと注意する。
(3)12日夕安値13.30円を割り込む場合は急騰一服での調整安に入るとみて13.00円、次いで10日午後安値12.46円を段階的に試すとみるが、中銀が市場予想に応えて大幅利上げに踏み切り、さらに経済政策での新たな強気材料を提供する可能性もあるので、13円から12.50円前後までのゾーンは押し目買いも入りやすいとみる。ただし、中銀が市場の期待を裏切れば11月6日からの反騰を解消する動きに入って12円を目指す急落型の下落も警戒しておく。
【当面の主な経済指標等の予定】
11月19日
20:00 トルコ中銀金融政策決定会合 政策金利 (現行 10.25%、予想 12.0%)
20:30 週次外貨準備高 11/13時点
11月20日
16:00 11月消費者信頼感 (10月 81.9)
11月23日
17:00 10月観光客数 前年比 (9月 -59.4%)
11月24日
16:00 11月製造業景況感 (10月 108.1)
16:00 11月設備稼働率 (10月 75.4%)
注:ポイント要約は編集部
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