「決まり」から「接戦」に向かい始めたアメリカ大統領選が招く不透明感
真っ青な空にはためく星条旗。頬を伝って流れる血を拭おうともせず拳を振り上げるトランプ前大統領。人工知能を使ってもこれ以上の構図は描きにくいと思える写真がネットを通じて世界を駆け巡った。7月13日に米ペンシルベニア州で起きた衝撃的な事件は共和党のトランプ候補に圧倒的に有利に働くと多くの人が思ったはずだ。
2日後に始まった共和党全国大会では最終日にトランプ候補が大統領候補としての指名受諾演説を行なったが、出だしこそ神妙な面持ちで「米国民半分のための大統領ではなく全体のための大統領になる」と語ったものの、途中からは従来のトランプ節に戻ってしまった。
それよりも、驚いたのはこの大会で明らかになった副大統領候補だ。共和党の副大統領候補としてオハイオ州選出のJ.D.バンス上院議員が指名受諾演説を行ったが、演説を聞く限りMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大に)やAmerica First(米国第一主義)に対する思い入れが非常に強い人物だということだ。
バンス氏の受諾演説では、バイデン大統領に対する口撃を繰り返しつつも、反移民労働者、反中国共産党、グローバル貿易の制限、世界秩序維持への同盟国の応分の負担、エネルギーの国内調達などトランプ氏の掲げるMAGA実現に向けての理念も具体的に述べている。ウォール街や多国籍企業とも一線を画し、製造業に焦点を当て、中国に奪い取られた中間層を再構築すると力説した。
一般的に副大統領候補は大統領の足りないところを補完する人物が選任されるのが常道と言われているが、トランプ氏がバンス氏を副大統領候補に指名したことで、米国第一主義実現党の色合いが鮮明になった。
この国際分業に否定的な政権が誕生するとなると株式市場も為替市場もこれまでの前提が大きく変わってしまう。経済のグローバル化によって潤ってきたビッグ・テックやウォール・ストリートにとっては厳しくなりそうだと考える投資家が、一旦、利益を確定しておきたいという動きに出たのも納得がいく。年初から7月前半まで快調に上昇を続けてきた日米の株式市場は一気に変調をきたすこととなった。
為替市場も同様だ。年初から上昇を続け、6月後半から騰勢を一段と強めていたドル円相場も、2週間以上に渡って160円を超える水準を継続したものの、米国大統領選後のアメリカの為替政策への不安感が急速に台頭したことで円は急速に買い戻された。年初から主要通貨の中で最弱通貨であった日本円は7月中旬からは最強通貨に転じることとなった。ドル円の需給の側面からも、これまでの大量の為替介入がボディーブローのように効いてきたことや162円の壁が厚かったのも円高地合いへの転換を促した要因のひとつと言えるだろう。
しかし、米国政治に話を戻せばサプライズはこれだけでは終わらなかった。
民主党のバイデン大統領が7月21日に自身のSNSを通じて大統領選からの撤退を表明した。トランプ氏が九死に一生を得たのも運命なら、銃撃事件があった時にバイデン大統領がコロナに罹患して自宅療養中だったのも運命のいたずらと言えるだろう。
世の中、何が幸運を招き、何が不運をもたらすのか分からない。
今後の米国の政治日程を考えれば民主党が大統領候補を変更するにはタイムリミット直前であったことが却って民主党を一枚岩にするのに奏功した。
今後、8月19日から22日の日程で、シカゴで開催される民主党全国大会でハリス氏の正式指名に向かうこととなる。米国の各種調査機関の世論調査ではハリス氏がトランプ氏を急速に追い上げている。冒頭に述べた「奇跡の一枚」の写真からは想像のできない展開だ。
さて、7月は米国の大統領選に向けての政治情勢が市場を大きく揺さぶった一か月となったが、一時は「決まり」と思えた情勢も「接戦」の度合いは高まった状況だ。
米国第一主義の実現に向けては大統領選のみならず、共和党が上院下院も含めてトリプル・レッドが実現するかどうかも大きな要因となる。市場が嫌う不透明感が拭い切れない状況は今後、数か月続きそうな気配だ。
ドル円相場については、7月前半まで為替介入の有無や日米金利差の見通しが主に材料視されていたが、相場のテーマは米国政治に移り、ドル円相場が再び上値を追っていくのは米国の選挙の帰趨が明らかになってからになるのではないだろうか。
次回に続く
オーダー/ポジション状況
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