Monthly Market Insights(23/12)米国の逆イールドはどのように順イールドに転換していくのか

10月には相次いで市場の予想を上回る米国の経済の強さを表すデータが発表され米国の長期金利(10年債金利)も10月後半には、一時2007年7月以来の5%台まで上昇した。

Monthly Market Insights(23/12)米国の逆イールドはどのように順イールドに転換していくのか

米国の逆イールドはどのように順イールドに転換していくのか

10月には相次いで市場の予想を上回る米国の経済の強さを表すデータが発表され米国の長期金利(10年債利回り)も10月後半には、一時リーマンショック前年の2007年7月以来の5%台まで上昇した。
米国の長期国債は投資家にとっては最も魅力的な投資対象のひとつで、5%という水準は極めて魅力的だ。10月後半はまだ力強い米国の経済指標が発表されていたが、この5%という水準では足下の経済指標の強弱に拘わらず、年金基金などからの実需の旺盛な債券買い意欲があるということだろう。
その後発表される経済指標も更なる利上げの必要性を示唆するものではないものが続いており、利回りは、10月末をピークに低下傾向(価格は上昇)を続けている。

一方、米国の短期金利の指標となるFed Funds Rate(FFレート)誘導目標金利は2022年の3月に上昇を開始してから、この約1年半で5%も上昇した。この2つの代表的な長短金利が逆転してから既に一年近くが経過したこととなる。これは、金融機関が短期金融市場で資金を調達して、長期債で運用しても逆ザヤが発生するという状態がことを意味するが、日々、ニュースで目にする長短金利差以上に実態は深刻だろう。

債券ポートフォリオは短期間で造成するのではなく、時間をかけて、ポートフォリオを構成する債券の種類、格付け、残存期間などを考慮しながら、継続的に管理・運用していくものだ。従って、それぞれの運用機関が過去数年間に組み込んでいった債券の集合体がそれぞれの債券ポートフォリオとなる。
例えば、米国10年国債だけに継続的かつ平均的に投資していた投資家がいたとする。実際には、将来の金利環境を予想し、長期金利が上昇すると思えば、当面の購入金額を絞るなど、当然、相場観を持ってメリハリをつけた運用を行っているが、ここでは話を簡単にするため、平均的に10年国債だけを日々、買い続けて途中売却もしなかった投資家を想定する。

過去10年以上に渡り、毎日、米国の10年債を買ってきたということならば、債券ポートフォリオに残存している債券の利回りは、過去10年間の米国10年債利回りの平均となる。具体的な計数では2013年12月1日から2023年11月30日までの10年間において、米国債券市場営業日の10年物の米国債券利回りの終値の平均値は約2.30%であり、既存ポートフォリオの利回りもほぼ2.30%、ポートフォリオに残る債券は残存数日のものから10年のものまで、平均残存期間は5年となる。

このポートフォリオは過去1年間で、11年前から10年前(2012年12月1日から2013年11月30日の間)にかけて購入した10年債が償還を迎えたことになるが、その償還を迎えた債券の平均利回りは約2.26%だ。
一方、その代替として、この一年(2022年12月1日から2023年11月30日)に新規に組み入れられた10年物債券の利回りは3.90%で、ポートフォリオ全体の利回りを0.164%((3.90%-2.26%)/10)改善したこととなり、このポートフォリオ全体の稼ぐ利回りは、一年をかけて2.14%から2.30%へ上昇したことになる。
このように、長期債の利回りが一年間3.90%で推移しても、償還を待っていただけではポートフォリオ全体の利回り改善は限られる。利回りの改善を早めたければ低利回りの債券を売却する必要があるが、それには売却損の計上という痛みを伴う。このように運用サイドの利回り改善には限界があるし、一朝一夕にどうなるものでもない。

一方、調達サイドに目を転じれば、過去1年で米国の短期金利の指標であるFFレートは、その上限が4%から5.5%へ1.5%引き上げられている。
米ドルを預金などで安定的に低利で調達できる銀行と、多くを市場調達に頼らざるを得ない銀行の差が資金収益に大きな差をもたらすこととなる。
大手米銀のホームページを見るとSaving AccountやCD(Certificate of Deposits)といった日本でいう普通預金や定期預金の金利は、銀行側が指定する要件を満たし、かつ調達に興味のある特別の期間を除いては0.1%にも満たない金利が表示されている。一方で、一年物CDに5%以上の金利を提示している中小金融機関も少なくない。

米国の短期金利の超高速利上げは、金融機関の米ドル資金調達力の差が大きな収益格差を招いている。かつ、市場はFFレートが2024年に低下すると見ているが、一年で1%〜1.25%といった下げ幅では、引き続き4%台に乗ったままだ。
一方、米ドル建て債券ポートフォリオをこれまでどんなに上手く構築してきても信用リスクなど他のリスクを積極的に取り、大幅にポートフォリオを組み替えるなどしていなければ、調達金利を上回るポートフォリオとはなっていないだろう。資金調達コストの高い金融機関を中心に逆ザヤはボディブローのように日々、効いてくる。逆イールドとなって、もう一年が経過し、現状、順イールドに戻る道筋も見えていない。

過去、リーマンショック時やコロナ危機など深刻な金融危機に繋がりそうな状況では、高速利下げが行われた。しかし、今年の春の中堅米地銀3行の経営破綻時には、FFレートはその後も上昇を続けている。
通常は長くは続かない逆イールドという不健全な状態がどういうルートを辿って解消される方向に向かうのか。現時点で、道筋は見えていないし、見えてこない。
万が一、再び金融危機の発生ということになれは、様々な金融市場に大きな影響を与えることは避けられないだけに、米ドルの逆ザヤが定着して1年が経過した今、これまで以上にアンテナを高く張って注意しておく必要があるだろう。

次回に続く 

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